風景20
すると、その時隣でニコニコ笑っていた男にブッチョが気づき、半泣きになりながら食ってかかりだした。「んだ、コラおっさん。さっきからニヤニヤ笑いやがって。」この二足歩行の珍獣を面白がって見ていたその男は、スーツ姿で、非常に落ち着いた性格のようであった。食ってかかるブッチョにも怯むことなく、実に穏やかに答える。「いやぁ、申し訳ない。余りにもあなたの話が興味深くてつい笑ってしまった。こちらの悩み事もどこかにいってしまったよ。愉快だよ。いや、ホントあなたにとっては災難なんだろうが。」「何だ、あんたにも悩み事の一つでも有るんかい?」
「大したことじゃないんですがね。私、仕事でこの町まで来たんですけど、どうも気が乗らなかったんですこの仕事。辞めたいと思って悩んでて、それでもやらなきゃな、とも思ってて、それでしょうがないから、一杯呑んでから仕事しようかなと。そしたら、私より大層悩んでそうなあなたがいてね。私の悩みなんか大したことじゃないって思って、悩んでるのが馬鹿らしくなってきたんです。」
「うんうん。」
「でも、よくよく話を聞いてみると、実に下らないことで騒いでるんだなと。今度は急にあなたの悩みが小さくて見えて、悩んでるあなたが実に馬鹿らしく思えてきたんです。」
「んあっ!?」
「でも、その後よくよく考えたら私の、そしてあなたの悩み事も実は大したことじゃないんじゃないのか?と思えてきてね。だから・・・決めましたよ!今の仕事を降りようと思います!大将ごちそうさん。気が変わらない内に帰ります。兄さんホントありがとう。」
そう言って男は屋台を出ていった。
「お、おう。頑張れよ!おっさん!」
感謝されてんだが、ディスられてんだか分からないながらも、ブッチョはこの男を見送った。
「そもそもだぁ、菓子を寄越さないならイタズラするっていうね、そんなタチの悪い物乞いみたいな発想がねぇ、日本を悪くしてると思うわけですよぉ。人としてねぇ、与える側に立つべきでしょうがよ!トリックオアトリートぉ?イタズラか菓子だとぉ?何をぬかしてんだ!こっちはイタズラするために一体いくら払ってると思ってるんだ!散々使うだけ使わせて、バックやら時計、言っちゃえばこれもお菓子だよ!そこまでくれてやってだ!ようやくトリック出来るかと思ったら、ハイさようならって、っふざけんなっ!結局、サオリ!てめぇも同じ物乞い、いや、泥棒じゃねえかぁ!」迷いを絶った男が去った後、ガード下の屋台では未だに迷い続ける漢田渕が七本目のビールを空けていた。するとさすがに尿意を催してきたので、会計を済ませトイレに向かうことにした。「便所は公園の使って。」素っ気ない屋台の親父。ハイハイと立ち上がろうとしたその時、ブッチョはふと、先程の男が座っていた席に置いてあるハンドバックに目が止まった。忘れものであろうか。しかし、よくよく見ると・・・高そうなハンドバックである。ということは恐らく高そうな財布も入っている。ということは財布の中身もかなり入っている。幸いにも屋台の親父は今こっちを見てない。明らかに怪しいのだが、ブッチョはそのバックを腰の位置に隠して、平静を装いながら屋台を後にした。家路を急ぐブッチョは誰とも目を合わせまいと下を向きながら、駅前の公園を抜き足差し足で通りすぎようとした。
その時である、何処からともなく長い棒のようなものが、ブッチョをめがけて凄い速さで飛んできた。最初それは先程くすねたバックをめがけて飛んできた様で、腰の辺りに命中するかと思われたが、この男が前述の通り変な体勢&リズムで歩いているため、最後の最後で目標のやや下の辺りに命中した。つまり、
「ブス!!!」
「ンアーッ!!!」
けつに刺さった。




