風景18
寺の境内から道路に下る階段に、彼岸花の赤が彩りを添えている。そこを二人の男が降りている。一人は、普段見せる“おじ様”と呼ばれる程の柔和な笑顔を今は消し、無表情を貫いていた。その横をイタリア製のピンストライプの入ったスーツで固めた金髪の二十代後半と思われる男が歩く。
「不満そうだな。鳥山。」
無造作に高田は言う。
「そんなことはないです。」
鳥山と呼ばれるこの男も無表情に答える。
「これから大変な時なんだ、親父の気持ちもわかってくれ。間違っても親父はお前を本家から追い出したいわけじゃないんだ。」
「わかってますって。オレがいると親父に迷惑かけちゃうってことくらい。」
「そうは言ってないが。・・・まあ苦労をかける。」
「で、俺はこの町で何をすれば?」
「じっとしてろ。」
「はい?」
「表向きは分家一家の用心棒ってことで、各所話を通してる。」
「ってことは、あの息子さん。京一さんとこに出入りするんですか。いやまさか、この年でもっかい部屋住みとか勘弁してくださいよ。」
「それは無い。あの家に顔を出すのは引き続き俺がやる。」
「ですよね。俺なんかいったら目立っちまう。」
「ただ、京一坊っちゃんの娘さん。お嬢さんが遠くに出かける、あるいは夜に出かけてる時に隠れて見守っててやって欲しい。」
「お嬢さん。今いくつでしたっけ。」
「今年で11だったと思う。」
「大きくなりましたね。」
「お前が来た時はまだ2、3歳だったか。」
「親父の使いで京一さんちに使いに行ってたのが、俺が厄介になりだして2年くらいだったんで、お嬢さんと会ったの4歳くらいじゃねぇかな。」
「まぁ本人は覚えてないだろ。」
「そんなお嬢さんにお守りって、もうそんなやんちゃな感じなんすか?」
「いや、実におとなしくていい子だよ。奥さんに日に日に似てきている。」
「なんなら俺なんか別に・・・。」
「いやそれがな、近所にお友達がいてね。これが非常に活発なお嬢ちゃんなんだ。ここのところ毎日のように外にお嬢さんを連れだすんだ。」
「・・そりゃいいことなんじゃないっすか?」
「良いことだ。実に良いことだ。いよいよ最近じゃ俺がついていくのを嫌がるようになったんだぞ。“もう子供じゃないんだから、叔父様はレディーのお出かけについて来てはだめなのですのよ”だとさ。」
「へぇ。あんな小っちゃかった子がねぇ。で、それでハートが傷ついちゃったと。百人殺しの高龍が。」
「馬鹿言いやがれ。そんなんじゃねえ。いやあ、実を言うと俺はほんとに嬉しいのよ。」
鳥山は高田の笑う横顔を久しぶりに見たような気がした。
「俺は嬉しくてねえ、だから放っておきたいんだ。もうこの家に俺らみたいなもんは出入りしちゃいけねぇ。京一坊ちゃんの家は親子とはいえ堅気の家だ。親父も含め俺らとは何の関係もない。それは当の親父が一番よく分かっている。だからきっぱり手を切ろうと。しかしほっとけねえんだ。だから坊ちゃんがどんなに嫌がっても、親父は俺をここに出入りさせてる。これが親心なんだな。それがね、最近俺にもようやくわかってきた。そしてまた今度、親父の周りが揉めている。今まで大人しくしてた孝道会が独立して、他の直系の組を攻撃したって話も聞いてる。次は本家、親父の周りが危ないだろう。恐らく、遅かれ早かれまた血が流れる。そんな時、京一坊ちゃんは仕事で海外だ。で、ふと見るとここに小さなお嬢さんが残ってる。」
「・・・奥さんの時みたいなことがまたあったら、ってことですかい?」
「・・・言うな。だが、内心怖いのはそれだ。あの時のことは事故だったって、今じゃ自分の中で片が付いてる。だけど、お嬢さんを見てるとどういうわけか不安で不安でしょうがない。」
「でもお嬢さんの邪魔はしたくない。」
そう言う鳥山に、高田は黙っているが、目ははっきりと頷いている。
「分かりましたよ。何、昔に比べて警察が煩くなったんだ、孝道会も今さら、しかも組長の息子とは言え、堅気の京一さんに手ぇだすことなんかしませんよ。叔父貴はもっと・・気楽になってもいいんじゃねぇすか?・・・いや気楽になれよ。俺が・・・俺がやるから。」
「苦労をかける。すまんな。」
階段を下りきったところで会話は終わり、二人は別れた。




