風景13
「ハッシュ、この試験管とフラスコだっけ?どうする?」「実験器具は軽トラに積んでくれ。トランクにガソリンが積んであるはずだ。緒方、悪いんだけどガソリン下ろすの頼む。」「うぇい。」何か大事な選挙が近いとかで、町中を選挙カーが爆音とともにぐるぐる走っていたその日、俺たちは同じクラスのハッシュという奴の部室の引越の手伝いをしていた。ハッシュは中学からの付き合いで高校も同じなんだけど、研究が忙しいとやらで一学期は二、三回位しか学校に来てない。俺が思うにたぶんルール上はもう、うちの生徒じゃないのかもな。でも、熱心なこいつは科学部を一人で立ち上げ、いまだに山の中で一人研究を続けている。そのハッシュ、このたび凄い発見をしたと言い出した。それは凄い、おめでたいと俺たちは舞い上がったが、当のハッシュはエラく冷めていた。というのも凄い発見をした科学者というものは、いつの時代も政府から狙われてしまうのが世の常で、つまり研究の成果を国が横取りして、悪いことに使ってしまう可能性があると言うのだ。困ったことにその凄い発見が世の中に与える衝撃ってのがこれまた凄すぎるので、こちらはうかつに目立って反対するような真似も出来ない。だから、一時撤退ってことらしい。まったく、酷い話だ。しかしそう考えると、世の中大した考えも無く、単に反対と吠えるしか脳の無い様に見える連中も、実は俺たちみたいに表だって言えない複雑な理由があって、それでも何とか社会を良くしようと反対とだけ叫んでいるのかも知れない。恐らく、今朝から大音量で何かに反対している人たちもそういうことなんだろう。
「わかった、了解。引き続きよろしく頼む。お~いハッシュ、偵察係からポリのお知らせ。やつらここに来るのは明後日の朝早くらしい。」そう言って源内が、仲間の偵察係が送ってきた、警察署の中の会議室と思われる部屋の画像を見せた。写し出された画像にホワイトボードが写っていて、確かに明後日の5時と書いてあり、その他にも情報がテンコ盛りである。それを見たハッシュ「四十人に犬が五匹。前回のほぼ倍だな。こりゃ徹底的にやらねぇと。源内すまないんだが、緒方にガソリンをさっきの倍は持って来るように頼んでくれ。」「ラジャ」やはり慣れているだけあってハッシュの指示は適格だ。




