男の名前は来全鏡
男の名前は来全鏡。仕事はシステムエンジニアだった。60で引退後、東北の田舎に移住。一人で暮らしてきた。もともと、極端に友達が少なく、妻帯者でもなかった鏡は完全に独りぼっちになった。
しかし、鏡の最も大きなコンプレックス。それは・・・・
童貞だということである。
「やかましいわ!」
独り言が部屋に消えた。男は静かにため息をつき、立ち上がった。
ゆっくりと部屋の片隅に向かい、杖を取る。
「今日こそは・・・・やってやろう」
決死の眼をした彼は杖をしっかり握り、部屋を出た。
「くそそおおおおおおおおおおおおお」
川辺で叫んでいるのは行き場のない悩みを抱えた男でもなければ、ましてや人生の岐路に悩む十代でもない、そう、90歳の童貞くそ野郎である。
何があったのだろうか・・・・。
一応、一部始終を・・・いや、一部始終が終わった後の一幕を。
「・・・・」
「・・・・」
「今日もヤれなかった、やってやる、やるしかない、そう決めたのに!」
「そう悩むことないよ、おじいさ・・・・お兄さん。がんばろうよ、ね?死ぬ前に童貞卒業するんでしょ、ちゃんと大きくなるんだし、自分磨きはいまだにできるんでしょ?」
「ああ、自分磨きに関してはプロだな。世界中を探しても俺ほどうまく俺を磨けるものもいないだろうな」
「あははは、うける。また、来てよ」
「気力が回復すればな。もう、生きる気力がなくなりつつあるからな」
自分磨きとは言わずもがなPPPPPPPPPPPPPのことであるが、まぁ、それはどうでもいい。とにかく、彼は落ち込み、河川敷にやってきたわけである。
「もう、死のうかな」
水面に移る年老いた自分・・・・・。このようなものが生きていても世界に何の得もない。迷惑なだけだ。ちょうどその時、遠くからジャバジャバと水の音が聞こえた。
「何の音だ?・・・・あれは!人間????」
川の中から一瞬飛び出した肌色のなにか。おそらく人間だ。
「だれか!!!!!!ここにひとがおぼれて・・・・・。119番しなきゃ」
音はどんどん小さくなっていく。119番しても、間に合わないだろう。
そう考えたとき、鏡は杖を投げ捨て、川に向かって身を投じた。