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自由と恐怖  作者: 詭弁
僕と柊の始まりの話
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欧州と中央大陸

何時ものように柊と昼食をとっていた時の事だ。

「君は最近私達が噂されているのを知っているか」

と唐突に話始めた。

「噂と聞かれてもな。学内でも話し相手はお前くらいしかいないのに、どこで聞くというんだ」

こくりと頷くといつになく真剣な声色でゆっくりと噂の内容を柊は話始める。

「どうも噂では、私と君が恋仲だということになっているらしい」

わざわざ真剣な面持ちで話始めたと思えばこいつはなんという馬鹿げた事だろうか。

「勘弁してくれ。僕に男色の気はない」

「私に言われても困る。噂を流した奴にでも言ってくれ」

「だいたい、お前が女みたいだからこんなことが起きる。もう少し逞しく男らしくなったらどうだ。お前に変な色目向けてる奴をたまに見るんだぞ、自衛のためにも変な噂を無くすにもそうしてくれた方が僕の精神衛生上ありがたい」

「そうは言ってもだな。私とて不本意ではあるが筋骨粒々な自分の姿を想像すると似合わなさに身の毛がよだつ」

「それはわかるけどな。男色家に襲われても僕は知らんぞ」

柊はぞっとしたような顔をして頭を抱えた。

「産まれ持ったものはどうしようもないだろう。そうなったときは君に助けをこうしかない!」

「僕はそんな面倒には巻き込まれたくないからな、自分でなんとかしろよ」

間髪いれずにそう言うと、柊は少し項垂れる。

「友人だろう、困ったときは助けてくれよ」

「友人だからといってできることとできないことがある」

はぁ、とため息をついた柊は首を横に二三度降ってよしっと呟いた。

「話を変えよう、こんな話してたら気分が落ち込む」

「そうしよう。何も建設的になれない話だからな」

柊とは随分打ち解けてきたように思う。どことなくよそよそしい所がお互いあったが最近では冗談の一つや二つを飛ばし会うくらいにはなった。もともと身分的には天と地ほどの差のある友人関係である。こういう形になれたのは柊という人間の人間性の賜物だろうか。

柊は身分による差別意識が少ない。まったく無いと言えば嘘になる。公家の出だからだろう価値観の差から来る無意識的な差別発言はやはり無いではない。だが、それを含めたとしてもやはり差別的な言動がほとんど無い。

このまま無事卒業できていればおそらく柊とは全く違う立ち位置で友人関係があったなど驚かれるくらいの別々の道を歩んでいただろう。

そう思えばこそ、得難い経験であり友人であった。

「君はこの戦争はどうなると思う。私は行き先が暗く見えて仕方ない」

親しくなったのが原因か、時折危なっかしい質問もぶつけてくるようになった。下手に他人に聞かれれば非国民だなんだと偉い目にあわされかねない。

「またそういう危なっかしい質問をする。まぁ、お前のことだ、適当な解答では納得しないんだろう」

「勿論、君の真面目な意見を聞きたいね。愛国心だのでなんとかなる問題じゃないし、君はそこらへん冷静に考えているだろうから」

「また、そういう事を言う。買いかぶりすぎだ。ただ、そうだな、概ねお前と意見は一緒だよ。第一次大戦で敗北したフランク国とロマ国が欧州で火種を撒き散らし始めた、これに呼応してエングレストは自国に近いそちら側の方の対策が急務になったろう。中央大陸の方にはそこまで注視できなくなったのはある。フランク国は急激な軍国化と武力をちらつかせた隣国合併が始まった、あれを警戒するのは当たり前だな。ベスプッチは世界恐慌を巻き起こして経済的に低迷しているままだ、だからこそ中央大陸利権が欲しいというのがある。ここで引くことはないだろう。エングレストの驚異が引き、露国との不可侵が通り国境での小競り合いが終息したとはいえ、ベスプッチが怖い。欧州の情勢次第ではこちらに飛び火するぞ。中央大陸である程度の所で目処をうちベスプッチと外交的友好を結んでおかないと欧州戦争にこっちまで巻き込まれかねない。良い引き際を見定めないと」

「フランク国とロマ国の評価は君的にはどうだ」

「さて、どうなるかはわからないが、欧州で喧嘩を売って勝ち続ければあるいは、とも思う。しかしフランクとロマはそもそも相容れているとは思えない。烏合の衆でどこまでやれるかだな。エングレストと露国がでてくると流石に厳しいんじゃないか」

「我が国は欧州の情勢が混乱してるうちにこちらでけりをつけないといけないって判断は概ね私と同じ考えか」

かなり細い綱渡りだ。ベスプッチさえ丸め込めれば下手を打たなくてすむ。戦争などというものは起こすこと事態が得策ではないのだ。国費の浪費、人的資源の消耗、補給線確保のインフラ整備、量秣とてただではない。昔の兵法家は戦うのは下策であると断言している。

戦わずして勝つのが最上だ。今や戦中である、我が国はなにか準備してきたのであろうか。僕はそれが全く検討外れな事しかしていないのではないかと勘ぐっている。利益欲しさに戦いに軍部は突き進んだのではないだろうか。だとすればこの先は良い方向に進むとは思えない。

報道でこそ中央大陸の6割近くを押さえたと発表しているが、その実後ろにいる国にはなんら打撃は無い。エングレストやベスプッチからの経済封鎖もされている、資源の乏しい我が国ではこれ以上の戦闘行為に幾ばく耐えれるかすら不安ですらある。

そうして、我が国はどんどん深みにはまっていく。

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