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自由と恐怖  作者: 詭弁
僕と柊の始まりの話
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忍び寄る軍靴の音

遠藤との昼飯の後の講義中、僕はなんとも言えない気持ちになっていた。恐らく遠藤達はそんな簡単に国家転覆なんぞはできないだろう。今回の僕への勧誘も酷く杜撰に感じる。

簡単に告発されてしまう。

いや、違うな、遠藤は恐らく組織で一番下端なのだろう。切られても良い立場。捕まっても問題無い位置。彼は捨て駒なのではないだろうか、はたまた組織の上層部には憲兵を黙らせる力がある人間がいるのかもしれない。

どちらにせよ関わらないのが吉だ。だがもし、もしもだ、彼らが密告を恐れて僕に危害を加えてきたらどうだろうか。そうなると逃げ場はないぞ、僕にはなんの後ろ楯もないんだ。

こんなことなら、蕎麦なんぞ食いにいくものでは無かったな。密告をしても制裁があるかもしれない、密告をしなくとも襲われる可能性がある。

なるようになるしかないか。えぇいままよ。

考えても無駄だと思考を放棄して講義を聞く。

しかし、講義は右から左へ抜けていくようだ。

あぁ、こんな事で時間を無駄にして、なんということだろうか。

結局午後からの講義をまともに聞けなかった。


下宿先に戻ればまた奉公娘と夕食の準備をせねばならないなと、筆記具をしまいこんでいる時だった。

「やぁ、君。何か酷い顔をしているが大丈夫か」

男にしてはやけに高い声だなと見やると、これまた女のような顔立ちの奴がいた。

「特には」

「えらく愛想がないな君は」

「僕はいつも土のような顔色をしてますから、お相手してもつまらないと思いまして」

高等学校時代からめんどうだと思ったときの逃げ口上のひとつだった、小作人の出であるので土のような顔色と言うだけで嘲笑を稼げ満足するものが多かった、その場を去るにはちょうど良い自虐的な口上なのである。

「いつも土のような顔色はしていなかったとおもっているのだけれどね。三笠くん、少し自虐的すぎはしないか、出自を悪し様に言うものではないよ」

名を知られているのは良くあることだ、小作人の出がこういうところにいると逆に目立つ、噂も早い。なので極自然なのだが、意図が読めない。本当に心配して声をかけてくれたというわけでも無いだろう。

「どなたか存じませんが、大丈夫ですので」

「ならかまわない。私は君と話してみたいと思っていたのだが、些か話す時を見謝ったみたいだな。どうもご機嫌が斜めらしい。また後日声をかけるとするよ」

また共産主義の勧誘かと警戒する。

「名乗りもしないで去るのもなんだからね、私は柊だ。素直に君を尊敬している者だよ。覚えておいてくれ」

柊はそう言うとなにもなかったように講義室を後にした。

尊敬、尊敬ねぇ、こんな僕の何を尊敬するというのだろうか。


下宿先に戻って、下働きを終えた僕は家主と近頃の話をしていた。

「面倒なことになりそうだ」

家主は人柄はとてつもなく良いのだが、穏健派すぎるきらいがあるとかで軍人とあまり折り合いが良くないらしい。ともすればその関係の話だろうかと探れる。

「何か良くないことでもあるのですか」

「また戦争が起きかねない、中央大陸鉄道のいざこざは君も知っているだろう」

中央大陸鉄道は露国との戦争で得た陽国の戦利品であり、列強諸国が中央大陸からの搾取を行っているなか、遅れてはいけないと中央大陸への足掛かりとしている。

しかし中央大陸の国家とて指を加えて搾取されるだけではなかった廃エングレスト連合国運動から始まった激しい抗議運動は陽国の中央大陸鉄道にまで及び、ついには鉄道爆破事件へと進展する。

陽国政府の見解では反陽組織の犯行と考え、地方軍を設立し常駐させる形をとった。

端から見ればそう捉える人が多いのは確かだが、僕はなんともいえない違和感を持っている、何故一番反対運動が大きいエングレストではなく陽国の鉄道を狙ったのか。

そして、陽国が軍を派遣した事で中央大陸内の陽国派の住民が陽国の後ろ楯で国家を建設した。その結果反陽運動はさらに大きく激化している。

エングレストの陽国への攻撃目標そらしかと思っていたが、それ以上に陽国の軍部がキナ臭い、そんな簡単に混迷している政情の中央大陸内で国家建設の準備ができるとは思えない。仕組まれた謀略ではないかと家主と僕は踏んでいる。

「しかし、流石に内部分裂状態の中央大陸でそうそう反対勢力も軍備が整うとも思えませんが」

「後ろに露国かエングレストが出てくればわからないぞ。標的が我が国になれば都合の良い国は多い。一時的に団結もするだろう」

家主は国府、国の文官による最高会議に参加している。文官最高峰の要職と言っても良い。この国は武官、つまり軍主導の陽国軍本営と、文官主導の国府の二つの大きな議会がある。その二つで話し合われた事を皇議会という皇帝と皇族と有力な文武それぞれの公家による議会が最終決定を行う。

ともすれば、国府は皇帝への進言権がある数少ない場である。

「主様はまた、国府で大変な目にあわれるのでしょうか」

「とうに大変な目にはあっているよ。外務省と連係をとりつつ軍部の影響を止めるしかあるまい」

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