黒い壁
「もうちょっとで着くよ」
ニューがそう言うと、菅原は一旦車を止めるように指示する。
柊を揺り起こし、菅原は僕と柊に一緒に車から降りるように告げる。
「この光景を初めて見た人がなんて言うのか聞いてみたくてな」
菅原は煙草に火をつけながらそう言う。
それなりに距離があるのだが、異様な佇まいの黒い壁がそそりたっているのが見える。壁の端はどこだろうと目を凝らして壁の果てを見ようとして諦めた。上空にも地平の先にも視力で見える限り延々と壁が続いている。この壁の話を聞いた時は昔写真で見た中央大陸にある万里の長城というものを想像したが、それを遥かに凌ぐそれがある。
「どうやってこんな物を建造したというのか」
思わず驚嘆の声がこぼれ落ちる。柊も同じ感想なのか眠気眼だったのに今ではその大きい目をさらに見開いて呆然としている。
「失われた技術って奴さ。今の俺達の文明ではこれは作れない。あの壁、傷つけても自己修復するんだぜ。厚さもとんでもない。おまけに地下どこまであれが続いてるのかわかってすらいない」
「これが神が作りし建造物……」
柊は目を白黒させながらその威容を誇る壁に向かって手を伸ばして、中空で止まり行き場を失った掌を今度は胸元に寄せた。
「面白いだろ。こんなもん作っちまった奴等がどんな奴だったのか想像するだけでさ、わくわくするだろ。だから俺は考古学なんかやってんのかもしんねぇなって思うわけよ」
菅原は目を細めながら壁を眺めている。多分彼にとってこの壁も僕等が初めて見たあの朽ちた高層建造物も等しく知識欲を刺激する物なのだろう。
「これから俺らと働いてもらうんだ。そういう気持ちの共有って大事だろ?」
そういうと菅原はにかっと歯を見せてなんとも胡散臭く笑った。
「諦めてなかったんですか」
「大将が何と言おうとねじ込むね。だってよ、お前さんら良い顔でこの景色見てくれてるし、なにより人手が欲しいんでな。拾っといて行く宛もない奴ほりだすほど無慈悲でもねぇから」
呆れてしまうが、案外この男もお人好しなのかもしれない。なんにせよ頼れるものが無いのだから、頼むしかないのだが。
ニューがそろそろ出発するよ、と告げる。
菅原のすすめで運転席側からの景色を見せてもらいながら移動する。
車が壁に近寄ると切れ目すら見当たらないのにも関わらず門らしきものもないのに壁が一部開きまるでそこに出入り口が最初からあったように開く。
「ようこそ、私たちの都市、第三城郭都市ヤマトへ」
ニューがそういって笑う。
その後、僕と柊は門の出口付近で一ヶ月ほど軟禁状態になった。僕と柊が未知の病原菌を持ち込んでいる可能性があるとか、こちらの世界の危険な病気の予防接種だとかで隔離せざるを得なかったのであるが。
菅原達も僕等との接触の関係で一週間ほど足止めにあったそうだ。
何はともあれ人の住む地域にこられたと言うだけ、いくらかはマシというものだろうか。