光る一撃
車が急激に加速する。
「その、社長だか大将だか知りませんが、その人が来るとどうなるんですか」
引き離される緑色の群れを眺めながら僕はその場にへたりこむと無名に向かって聞いてみる。到底一人でどうにかできる数では無いと思う。四人がかりで撃ち続けて数が減っているのはたしかだがどうみつもっても四千には遠く及ばない。
「場合によっては焦土になる」
絨毯爆撃や艦砲射撃でもするつもりなのだろうか。確かに有効そうではあるけれど、地形変化させるほどの攻撃を叩き込むほどの脅威には思えない。
重機関銃を使った弾幕で群れに向かって撃てば群れは崩壊するだろう。あとは確固撃破で十分な気がするのだが。
車が急激に曲がり始めた。どうやら脇道に逸れるらしい。
「見ればわかる」
車体が脇道に完全に入り込んだ時、無名がそう返す。その瞬間一瞬稲光のような光と耳をつんざくような轟音が響き渡る。本当に一瞬の出来事だった。
「ちゃんとこっちが射線から逸れてからやってるんだろうけど、ほんとギッリギリ。死ぬかと思った」
天板から降り立ったニューは脱力したようにへなへなとへたりこむ。
「あーあーうちの社員へ、菅原はそこに待機。のこり二人は撃ち漏らしをちゃちゃっとかたしてきてー」
間延びしたような声がまた車内に響く。
無名はその声が聞こえる前に既に抜き身の刀を片手に駆け出していた。
「人使いほんと荒いんだから社長……」
そうこぼしながらニューもよろよろと立ち上がり、無名とは違いのんびりといった感じで後に続く。
菅原が運転席からこちらに歩いてくると疲れたといった顔で僕と柊にちょっと緑色のいたあたりを見に行ってみなと促す。
道路まで歩いてみると先程までになかった熱気を感じる。
緑色の猿が群れをなしていた方を見ると上半身が無く、下半身が黒くなっているあの緑色の猿たちだったものであろう死体とちろちろと火のくすぶりがそこかしこに広がっていた。そしてその先にはかなり遠方の曲がり角にある土手に大穴が空いている。
「うちの大将の仕業だ」
菅原は煙草に火をつけながらなげやりに言う。
「どんな兵器だというんだ。いくらなんでも一瞬で炭化するほどの一撃をこの範囲に収束して一直線に撃ち出すなんて」
「柊、どうやら炭化って程度の話ではないぞ。上半身は蒸発している。僕達の知る範囲でこんな規格外な兵器なんて聞いたこともない。稲妻だってこうはならない」
どういう原理でこうなっているのか。この世界にはとんでもない兵器があるものなのだな、と呆けるしかない。これが故郷の戦争で使われていたらどうなっていただろうと想像して生唾を飲む。
「まぁ、そんなわけで片付いたからとりあえず戻ろうぜ。流石に大将が来るって通信が来た瞬間には肝が冷えた。こんなもんに巻き込まれでもしたら俺等は一瞬でこの世からおさらばよ」
どうりで菅原もニューも車内に声が響いた瞬間悲痛に叫んだ訳だ、どういう結果になるか目に見えていたのだろう。自分達のいる方向に向かってこの一撃が飛んでくる、ちょっとでも座標が狂えばまとめてお陀仏と言う訳だ。
「ほんと過ぎた力なんぞ目の前で振り回さんでほしいね。こっちに斥候だけさせて条件整ってんだから一人でやってほしいもんだ」
ぶつくさと言いながら菅原はもと来た道を歩き出す。