群れ
随分明るい光が車内に入り込んでくる、どうやら随分寝ていたようだ。
菅原は翻訳機を投げ渡す。
「そっちには渡してある。本来ならよく知らない人間に三つしかない翻訳機を貸し出すのは不本意ではあるんだが、うちの二人がなんかあったときにお前さんらが言葉が通じないと不便だろうっておしきられた」
そう言うと少し不服そうに菅原は僕に翻訳機の使い方を説明する。
喉と耳に翻訳機をつけ、喉側の電源をいれるだけ。使い方としては非常に簡単ではあるのだがどういう原理で動いているのかさっぱりわからない。
「現状の説明した方がいいんじゃない」
「ニュー、そうは言うけどさァ、口で説明するより見た方がはやいだろ」
菅原がそう言うと車の後部扉から顔をひょこっと出してニューと呼ばれた女はそうかも、と言う。
「無名は外か」
「さっき戻ってきたとこ、煙草でも吸ってるんじゃない」
ニューがそう言うと菅原は無名も呼んどくかと振り替える。
「ここにいる」
振り替えった菅原の先にいつの間にいたのか陽刀の男が佇んでいた。
「いるなら声かけろ、びっくりしたわ」
「君が気が付かなかっただけだろう」
無名はそう言いながら何か血濡れた物を菅原に見せる。
「こいつあれか」
「小型生物の群れ、その一体だ。脊椎動物系統、猿に近い。人間ほどではないが武器を使用し知能がある。数体で一つの敵対生物にあたっていたことを考えると狩りとしての集団戦闘には慣れてるだろう。武器は近接用の木でできた鈍器、皮膚は柔らかく9mm弾でも有効打にはなるが、数が多い。雑食だろうか、何かの肉を食しているところを見た。僕を見た瞬間攻撃的になったことを見るに人間とは好意的に共存できそうになさそうだ」
無名がそう言うと菅原はうんざりしたような顔をする。
「三笠とやら、ちょっと外にでてこの双眼鏡で指示したとこみてみてくれ」
菅原に言われて僕と柊は外にでる。
明るいとは思っていたがどうやらもう昼過ぎらしい。
無名のもってきた血まみれのそれは猿というには大きく体毛がない、肌の色は爬虫類じみた緑、体長は1m20cmあるかないかといったところ、足は直立二足歩行ができそうだ、武器を使えると言うことは両手が使えるということである。
そして、菅原に指図されたとおりに双眼鏡である方向を覗き見る。
ゾッとする、道をさきほどの猿のようなものがわらわらと歩いている。
一匹二匹ならそうでもない光景かもしれない、が、数を数えるのをあきらめるほどのそれらが埋め尽くすように歩いていた。
「俺達のもう一つの仕事が外でこういうのを都市に近づけないよう駆除する事なんだが、こいつはちと手にあまる。ニューも無名も斥候や暗殺みたいな一体少数向きで数への対処ができない、こういうのに向いてる俺は普段使う自分の得物を置いてきてる」
「都市に連絡をとって人を集めて迎撃するしかないのでは、いくらなんでもこの数相手に三人ではどうしようもないでしょう」
僕がそう言うと菅原はそうなんだよなぁと言って頭をかく。
「やれることをしないと、うちの大将が許してくれそうにないのが難点なんだよなァ」
そうポツリと菅原は言うとまだそうとう距離がある猿みたいなのの方向を眺めつつ溜め息をついた。