彼等への感想
男は地図を取り出して眺めている。
おそらく仕事内容と関わりのある地図なのだろう。
「三笠、君は彼等をどう思う」
聞き取れるかどうかと言う小声で柊はそう問うてきた。
「信頼はおけないな、仕事ってのがなんなのかもわからない。それに菅原は僕達を話が通じる漂流者だから価値があると言ったけれど、その実翻訳機があるから漂流者なら誰でもいいはずだ、わざわざそんな言い回しをする必要は無いだろう。矛盾している」
「概ね私も同じ意見だ。何処かに奴隷とでもして売るつもりかもしれないぞ」
言っている割には柊の声は暗くない。
「だとしたら僕達の武器を取り上げない理由が今一理解できない」
「眠ったときにでも縛り上げるのかもしれないな」
確かに安心しきって眠ったところを縛り上げてしまうのが一番効率的な気もするか。
「どちらにしろ対処方法はないな、なにせ僕もお前も言葉がわからないし周囲の環境がさっぱりだ。仮にここで逃げ出したとして振り出しに戻るだけだ。それどころか菅原の言っている事が本当ならなんかよくわからんものに巻き込まれてお陀仏かもしれん」
「やはり様子見しかないか」
柊はそうだろうなと言った感じで肩を竦める。
彼らが何者であれ利用するしかない。善意の者であれば万々歳だし、悪意があるならば情報を引き出すだけ引き出してうまいこと逃げるしかない。失敗したところで命まではとられないだろう。まぁもし奴隷にされたとして僕はなんかの労役に死ぬまで従事するあたりだろうし、柊は僕と同じか、女であることが別れば身体を売る仕事にでも従事させられるかと言ったところだ。
最悪そうなっても生きて逃げれる可能性はその先にもある。
楽観的かもしれないがこんなとこで野垂れ死ぬよりはマシだろう。
せめて人の多い場所、安全な所までは彼等と共に行くより他ない。
それよりも流石に僕も眠くなってきた、移動時間だけでもそれなりにたっている。
多少でも寝た柊と違って流石に僕も眠気に耐えられなくなってきていた。
「少し寝る、何かあったら起こしてくれ」
僕がそう言うと柊は君は神経が図太いなと笑った。
失礼な奴だ、冷静に考えればここで僕が寝ておかないと先々頭も身体も動かなくなってしまうというのに。どう考えてもここは多少でも寝るべきところだろう。などと呆れながら僕は微睡みの中へ落ちていった。
何か金属が叩かれるような音がして目が覚めた。
どうやら車は止まっているらしい。
縛られてる様子もない。
柊はと言うと、隣で難しい顔をしていた。
「どうした」
と問いかけると、柊は神妙な顔をこちらに向けて、どうやら本当に治安維持活動らしい、と告げる。
どういうことか問おうとしたとき、車後部の扉が開き、菅原が顔をのぞかせる。
「起きたか」
翻訳機をつけているのだろう、菅原がそう告げる。