車内にて
「さて、お次はこちらが質問する番だな」
菅原は僕達の世界について、どういう状態でこちらにきたか等を質問する。
僕達は柊の出自とあの大きな鏡のような物についてはぐらかしながらおおまかには事実を答えた。
どうやってこの世界に来たかと言う話は別にできないわけではない。だが、そうなるとあの鏡のようなものの話をせねばならない、そうなると柊の出自に繋がる恐れがある。それは避けなければならない。
柊の出自は言ってしまえば皇帝に連なる。あの鏡のようなものもまた皇帝一族ぐらいしか存在を認識していない。柊の調べていたことですらなかば伝説上の話とその皇帝一族や関係者しか知り得ない事である。
この世界の陽人の中には皇帝一族に島流しにこの世界に来た者もいる、一族が恨みに思っている可能性は捨てきれなかった。
「そうすると、お前さんらは死にたくない一心で軍から逃げようと隠れていた、そんでもって隠れ家の神棚の鏡が光ったと思ったらこちらに来ていたと」
僕が頷くと菅原は少し眉をひそめる。
「そいで、よくここが異世界だとわかったな」
そう言えばそんな話をした気がする。
「私がそういった事の研究をしていました。伝説の話として資料を集めたり口伝を集めていたりしてたのですが。実際に同じ状況になって事実だと悟るとは思いませんでしたけどね」
柊がそう言ってもなお菅原は納得していないような面持ちをする。
柊が次の言葉を発そうとすると同時にけたたましい音が車内に響く。
僕は気がついていなかったが、車の荷室と運転席を繋ぐ扉があったらしい。車が急停車すると菅原は扉を開き、なにやら女と言葉を交わすと不機嫌そうにおそらく無線機かなにかだろうかを手に取り怒鳴りはじめる。
残念ながら翻訳してくれる機械を外したのだろう、こちらにはその内容が理解できない。
微動だにしなかった男が菅原に何か話しかけると菅原は苦虫を擂り潰したような顔をしながら運転席に行き扉を締めた。その瞬間車は急発進する。
何があったのか理解しようが無い。こうなると言語が理解できないことが仇になる。
「急に仕事が入っただけだ」
男が突然声をかけてくる。言葉が通じないものと思っていたため少し狼狽する。この男も翻訳できる機械を使っているのかもしれない。残念ながら首筋が服で隠れているためわからないが。
男は棒状の物を左腰に差すと右足ふとももつけね付近にある拳銃嚢から自動拳銃らしきものを取りだし、おそらく弾倉を装填し、遊底を引き撃てる状態にした。左腰に差している物は鞘に納められた陽刀に似ている気がする。
「どこかの遺跡調査をするんですか」
僕の問いに男はかぶりを降る。
「今回のはそっちの仕事ではない。荒事になる。君等も下手をすればその持っている銃を使うことがあるかもしれない」
「荒事って、何があるっていうのですか」
僕が問うと男ははじめて僕を見た。
その顔は東洋系の顔に大きな切れ長の何を考えているか読めない目、若いのだろうというのはわかるがそれ以外なにも読み取れない。
「治安維持活動」
それだけ言うと男は押し黙った。