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自由と恐怖  作者: 詭弁
異界での始まりの話
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混沌

荷室はそこそこな広さのある空間になっていた、強度のある金属製の空間に10人ほど座ることができる広さがある。

とは言え、荷物を乗せるのにも限界がある、いくら広めとはいえ荷物の運搬用車輌ではない、いくらかの水と食糧を諦めることとなった。

「荷物は乗ったか」

菅原と名乗った男がそう告げる。

「えぇ、なんとか」

柊がそう返すと満足そうに荷室に彼も乗り込んできた。

「少し話を聞かせてくれ」と空いているところにどかりと座り込むと菅原は軽く僕たちに座るように言う。

「あぁ、それとそこで黙って座ってる奴のことはほっておいてくれ。気が向かないと口を開かない変わり者だから」

菅原が言う座ってる奴、というのは荷室の先客で一番奥で一言も発さずにいる男のことだろう。寝ているのかと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。

僕が腰かけると同時に車は小さい小刻みな振動音をあげながら動き出した。

「おまえさん達は異世界から来た漂流者なんだったな。多分、ここがどういう場所かとか、何をどうしたらとか、まるでわからんって感じか」

「そうですね。僕も柊もここに関して何も知りません」

菅原はうーんと唸ると、少しばかり考えるしぐさをした。

「そうさな、ここはちょっとばかしおまえさんら基準だとへんてこな場所かな」

異世界なのだからへんてこな所があってしかるべきなのではないか、むしろ異世界なのにまったく僕らと同じ世界と言う方が無理がある。

「昔々のお話さ、ここに住んでいたとてつもなく技術力をもった何者かは別の世界を往き来できる道具を作った、何故作ったのかは俺も知らんし知りたいぐらいなんだが、とりあえずこれがいけなかった。いくつも異世界との往来できる道具を作った結果、本来この世界に望まれてない世界のものもやってきた。それどころか道具を使用していないのに異世界からこちらにいろいろなものが突然やってくるようになった」

「つまり、神隠しにあった者は突然世界をまたいでやってきてしまうということですか」柊の問いに頷きで解答する。

「まだ人なら良い、おまえさんらの来た世界と別の世界にはもっとややこしい奴がいてな。まぁ奇妙な生物だ。時には大きな虫であったり、時には鬼のような生物であったり、時には粘液状のよくわからんものだったり、そういうのが来ては時に人に排除されたり、時に住み着いたり、そういう歴史がある」

菅原は一息つくと、煙草のような物に火をつけ、ふぅと煙を口から吐き出した。

「つまりよく分からないものがいっぱいいるし突然現れるってことですか」

僕の問いにそうだと菅原は答える。

「そんだけじゃなく、あれなんだがな、よくわからん世界の土地や植物らしきものなんてのもくる。それこそ天も地も無くなるようなところもある。言ったところで伝わらんだろうが、この世界は混沌だ。なんでもおこるから、なにがおこってもそういう場所だとしか言いようがない」

それは暗にどこにいても安全ではないと言うことではないだろうか。

「その技術力も持った何者かもそれが原因で滅んだと」柊が問うているそれは陽国で神と崇められていたそれらの終焉に帰結する。神の国が滅ぶほどだとすればここは地獄に近いのではないか。

「さて、そいつはわからん。俺達はあったことがない。だが、異世界にいなくなったのか、はたまた俺達が踏み込めない領域に今もいるのか。ただわかっているのはかつてこの世界とおまえさんらの世界では交流があって、その何者かは俺達の祖先とここで暮らしていたということだけだ。といってもさっきから話してるのも口伝えの伝説だったりで正確なところは解らんけどな。へんてこなことがあるってのだけは確かだ」

「よくそんな状況で人は生き残れましたね」

僕がそういうと菅原は当然の質問だな、と笑う。

「そういう天変地異がおこらない土地が散在する。そう言うところに人は集落と壁を作り外敵から身を守って生きてきたわけだ。何者かが残した技術も失われた部分が大多数といえ残っていたからな。俺達はそうやってこの世界にいるわけだ」

なるほど、それならば納得も行く。人は人の安全圏で細々と生き残る選択をしたと言うことか。

「ところでおまえさんら、俺が陽の血が流れているとは言ったが、どうしておまえさんらと意思疏通に支障がないか気にならないのか。口語なんて変化するものなのにとかさ」

言われてはじめて確かに、と思った。かつてこの世界に来た人々も陽語を使っていたのは間違いないが、恐らく僕たちと口語なんて違ったものになっていたはずだ。

菅原は首のあたりと耳の辺りをとんとんと叩く。

「まぁこれはそういう機械らしい、どういう理屈かはわからんが言語の問題を取っ払う。まぁ遺跡でみつけてきて使ってるわけだが、面白いだろう」菅原の言うとおりであれば知らない言語を話、知らない言語を理解できる機械ということになるらしい。そんなものがあってたまるか、と思うが、それと同時に否応なしにそれが存在することを認識させられる。なにせここでそれを使った男と会話しているわけなのだから。

途方もないところに来てしまった。生きてはいけるかもしれないが、平穏にとはなかなかいきそうもない。

少しばかり憂鬱な面持ちで柊を見やると、柊はむしろ楽しそうに微笑んでいる。

何が楽しいのだ、菅原の言うことが確かならば予測不可能な偉いところだぞここは。

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