星空の下で
ぼうっと星を眺めているとごそごそと天幕の中から音が聞こえる。
「三笠、そこにいるか」
「目が覚めたのか」
僕がそう言うとどこか震えた声で柊は返事をした。
「どうかしたのか」微細な異変もこの緊張状態の中では洒落にならない、身体の異変は死に直結しかねない。
「ちょっと、昔の夢を見てしまって……」
そう言うと柊は次に言うべき言葉を探っているのだろうか、少し沈黙が流れた。
「私は孤独が怖い。いつも偽り続けてきたんだ、産まれも、性別も、自分自身も、そのうちいろんな所が悲鳴をあげて私は私として誰かに受け入れられて生きたいってそういう何かが破裂しそうになる夢だったよ」
「今はどうなんだ」
そう言うとまたしばし沈黙が流れる。
「君には悪いけれど私は今とても楽しいんだ。不思議なんだよ、君もそうだろうけれど右も左もわからない場所で明日には何かで死んでるかもしれない。でも今の私は何も偽りがないんだ。私は私として生きている、そしてそれを知ってくれている君がいる。もしかしたらこれだけで充分なのかもしれない」
はぁと溜め息をついて、天幕に石ころを投げつける。
「おい、危ないじゃないか」
「僕もお前ほど気楽になれたらどれだけ良いものか」
「君は真面目すぎる上に後ろ向きな所があるから問題だらけだと頭を抱えてしまうんじゃないかな」
「そもそも能天気にいられるような状況ではないだろうが」気の抜ける話だ、首を二三回ふるとパキパキと同じ体制で固まっていた首から音がする。
「なんとかなるさ、なんとかならなくても二人でのたれ死ぬだけだよ」と言ったと思うとクスクス笑いだす。
つられて僕も気の抜けた笑い声をあげていた。
「のたれ死ぬだけとはまぁ言ってくれたもんだよまったく。あぁ死にたくないね、こんなよくわからんところでお前と心中みたいなのは御免被る」
「そう言わないでくれよ。私は君と一緒に死ぬなら構わないかなって思ってるんだから」
ふざけた声色でそんなことを言われてもな、こいつは本当に緊張感というのがこちらに来てからどっかやっちまったのかもしれない。
「死ぬのは怖いな」
「死ぬのは怖いよ。生きるってのは大変なことだなって思う。でも一人で孤独になるくらいなら私は君より先に死にたいかな」
随分と勝手なことを言う奴だ、こんな所に一人にされるのは僕とてやはり困る。
「馬鹿なことを言ってないでもう少し寝ておいたらどうだ。明日もいろいろすることはあるんだから」
「うん、そうするよ。おやすみ三笠」
天幕でまたごそごそと音がした後また近くの小川の音だけが聞こえてくる静かな時間が返ってくる。星だけが煌々としている。
流石に僕も少し眠たくなってきた、無味無臭の水を保存容器からマグカップに移す。
そう言えば敵性語なんて言って欧州の言葉を使わないようにしていたが、それもここでは馬鹿らしい話だなとマグカップを見て笑ってしまった。
水を飲み干すとふぅと一息ついてまたぼうっと星を見ようと空を見上げた。
その時、明らかに小川の音では無い音が近づいてきている事に気がついた。小さいが間違いない、何かが動いてこちらにきている。しかもこの道の上を此方に向かっているのではないか、と推測できる。車の移動音に似ている気がする、なんにせよ少し遠い、だが近づいているのは間違いない。
僕は銃の弾の装填を確認すると安全装置を降ろし、即座に音の方向に注意を配る。
さてさて、鬼が出るか蛇が出るか、はたまた如来でも降臨なさってくれればななんぞと苦笑いする。