握り飯
相当な距離を歩いている。流石に少しばかり疲れてきた。
「まだ歩くのか」
「もう少し歩かないと無理かな」
柊が空を仰いだのにつられて僕も空を見た。太陽が随分高いところにある。時刻を見ると12時を少し過ぎた頃合いだった。
「昼食にしよう」
柊はそう言って歩みを止め、木陰に入っていく。
「飯を食わねば頭も身体も働かないからな」
僕がそう言うと、それは私の台詞だ、と柊は笑う。
差し出された包みを受け取り僕は木陰に腰かけた。
「君は握り飯が大層好きだったな」
「米の握り飯なんてのは贅沢品だからな」
包みの中には握り飯が4つ、あと沢庵が数切れ入っている。
「私が握ってみた、わりと様になってるだろう」
握り飯を作るのが下手くそな奴なぞ聞いたことがない。塩加減さえ間違えなければ後は握るだけだ。米から炊いたと言うのであればなるほど腕の差がでるかもしれないが、握ってみたとあっては本当に握っただけだろう。
「今日のお前は何か楽しそうだな」
僕がそう言うと柊はまた少しばかり唇をほころばせる。
「私は君と小旅行に来ている気持ちになっているのかもしれないな。今までそんなふうな事は一度も無かったからね。思いの外楽しんでいる」
「まさか、こんなとこまで遊びに来ただけってことはあるまいな」
僕がそう言うと柊は首を降って答えた。
「目的地は近い。本題はそこにある」
こんな周りになにもない所に何があるのだろうか、僕は柊に何をさせられるのだろうか、目的を教えてくれていない所を見ると聞いたところでまだ答えてくれそうにない。
「君は神社で神を祀るのに神鏡を使うことを知っているか」
「それくらいは。御神体に鏡を使っているところは多いな。しかし、山や岩なんて自然物も御神体にされていることが多いんじゃないか」
「神は自然に宿るものだからね、だとしたら鏡や刀剣なんていう人工物を祀るというのに少し違和感を覚えないか」
「刀剣に関して言えば、死して神になった人を祀るのに生前の持ち物として祀ったり、神代の時代の物として祀られているし、鏡は太陽を表していると聞くが」
「その通りだな。皇帝家にも神代の三種の神器、剣と鏡と首飾りが代々継承されている。皇帝家が太陽神の子孫としているのはそれらが証拠であるとしているくらいだから」
「しかし、突然神鏡の話なぞして、何か意味があるのか」
神鏡の話が今関係しているとは思えないのだが。
「これから行く先に関係している」
「ほぉ、神社にでもたどり着くのか」
「着いてからのお楽しみさ、さてそろそろ行こうか」
再び道をただただ僕たちは歩き始める。