あの夜の真相
僕は柊の後ろを歩く。ここはどこだろうか。山間の車が通れるであろう道を歩いているが、周りに民家や畑の一つもない。そもそも、この道を歩き続けるくらいなら先程の車で行けば良いのではないか、歩く意味はなんなのだ。
「どこに向かっているんだ」
僕が問うと、柊はついてからのお楽しみさ、と言うだけだった。
「お前は、遠藤を気紛れで助けたと言ったが、あれは嘘だな」
「どうしてそう思うんだい」
「お前が遠藤を生かしておいたところでなんの役にもたたない。味方になるかもとは言っていたが、味方になったところでくそほども役に立たん。あれは遠藤への方便だろう」
「君は本当に些細な事にこだわるな」
柊は歩調を変えず前を向きながら話す。
「そうだな、本心を言えばあの場に私がいなければ君ならおそらく彼を助けたと思ったからかな」
「馬鹿を言え。そんな危険なことをするものか」
間髪入れずに返した僕の返答に柊はくすくすと笑う。
「いや、助けたね。一時的には匿っていたよ。適当に脅された事にでもしておけば良いと考えたはずだ。君は思ったより阿保なことをするきらいがある。多分ね、こう思っていただろう、この糞野郎、僕を巻き込みやがって、しかしここで憲兵に付き出せば共産主義かぶれどもの報復で己の身が危ない、もしかしたら憲兵に捕まった遠藤が僕との関係性を語れば遠藤を告発しなかった事で僕も処罰されるかもしれないぞ、と」
「それは、ないではない」
ほらね、と言いながらまたくすくすと柊は笑う。確かに身の安全を最優先に考えたろうとは思う。
「それはね、君は助けれるものなら助けてやりたいってどこかで思っていたはずだからだよ。自分の阿保な行動に正当性のありそうな理由をつけて無理矢理納得させている。わざわざ自分まで騙す必要なんてないのにね。憲兵に引き渡した後、私にでもその話をすれば柊家の庇護くらい受けれると考えられそうなものじゃないか、なのにそれを絶対に君は選ばない」
「そんなわけあるか、僕がそんなお人好しなものか。お前を頼るなんて考え方が無いだけだ。たとえ頼ったところで憲兵に捕まり処罰されていた可能性はあるだろう」
「そんなわけあるよ、君は自分が思っているよりお人好しだ。身の危険を感じたから彼のことを黙っていたという事さえ伝えればなんとかなりそうじゃないか。仮に君が捕まって私が君を見捨てるとでも思っているのか。私でなくても謎の支援者が黙っていないとは思わなかったのか」
「いや、しかし、そんな」
「きっと彼が当たり前のように死んでいたら君の私に対する態度はもっと硬化していただろう。馬鹿な男だが死ぬほどであったのか、とか多分考えていたね」
どうだろうか、確かに柊に対する態度は硬化していたとは思う。それが遠藤を助けたかったという気持ちがあったからだと言われれば違う気もするが。
「それが真相のひとつか」
「そういう事だね。あそこで私がああしていなかったら、あの場で君は彼を救う事はできなかったろう。だから単純に私は君のために一芝居うったのさ。ああしておけば共産主義者たちも私への憎悪は持っても君への憎悪は持たないだろうかし、彼も君の話を憲兵にすることはない」
情けなくなる。そういう事か、だからこそ僕のためだと言ったのか。
「君は合理的な考え方をするわりに感情的に動くときがあるって言っただろう、その典型例じゃないか」
「謎の支援者様は全てお見通しと言いたいんだな」
「そんな大層なもんじゃない。まぁ友人なりに君を見てきたから、そう感じたんだよ」
否定できないのが腹ただしい。事実でないと言ったところできっと言い負かされる。