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覚醒ニンジャ如来FUCK~そして未来へ~

 次に佐助が目覚めたとき、その体はだいぶましな動きをするようになっていた。

 丸々一日は眠っていただろう。彼は次にい起きた時真っ先にしようと思っていた事をしようと、すぐさま立ち上がる。


「ここは何処だ?俺はどうなった?うがああああああああ!!!」


 そういって佐助は周囲を見渡す。

 彼にとっては見たこともない複雑な金属群。そして、それ以外は何もない、真っ白の部屋だった。彼はその中に一つだけある、簡素ながらも寝心地の良い、天蓋付きのベッドで眠っていたのだ。


「誰かいないのか?あの女は?化け物は!」


 佐助はそういってベッドから降りる。すると、巨大機械群の単調な赤いランプが灯り、マシンボイスが部屋に響く。


「オハヨウゴザイマス。よく眠れましたかミスター?」

「な!!誰じゃ!!」


 佐助にとってはこの機械群が声を発しているとは思えるはずもなく、辺りを必死で見まわして、声を出している者の気配を探る。忍者の気配察知能力はあの時代の野生動物に並ぶものだったが、ここではその力も意味はない。


「ミスター?私はハルマニー。疑似ヒューマン型思考回路付きの……いわば人工知能です」

「人コウチンノウ?なんだそれは?ふざけるな」

「機械が疑似的な意識を持った状態のことですミスター」


 佐助は頭をひねる。疑似的な。これは偽物という意味だ。機械……これは聞いたことがない。意識……さてこれはなんだったか。そして最後にこの声が付けるミスターとは何の事なのか。彼は慎重に次の言葉を選ぶと、ゆっくり話し始める。


「あー。わかった。一個一個聞いてゆくぞ。まず機械とはなんだ?それにみすたーとはどういう意味だ。そして此処は何処で今は何時(いつ)で、そして俺はどうしてこんな体になった?なんだこの若造の体は!?10代か?元服して直ぐのような体つきだぞ?」

「……思考中です。しばらくお待ちください」


 思考レベルを云々。機械群はそういって再び思考すると、赤いランプの隣の緑のランプがついて、答えを述べる。


「マスター……私のご主人様から許可を得ました。よってすべての質問にお答えします」

「ご主人だと!?……いや、今は話を続けろ」

「ハイ。まず人工知能、私は、雷のエネルギーを非常に複雑な金属に流したものです。それが非常に複雑かつ大規模である為に、雷の流れが意思を持ち、貴方のようなヒューマンタイプの脳みそのような働きをしています。そして、この場所は大熊座星雲第十一番衛星上のハイ貴族の住居です。貴方の住んでいたチキウとは違う星です。そして、この今の時間は貴方が元いた場所から3000年程後の世界になります。そしてミスターとは、男性への敬称だそうです。それ以外の情報はありません。最後に、あなたの体は、脳みそ以外はすべて新品です。新たに作られました」


 滔々。ただ答えを語るマシンボイスに、概念的な話をされても何やらわからず、佐助は頭が再び痛くなるばかり。しかし、肝心の最後の部分を聞き逃すことはなかった。


「おいおい。この体は狸の幻術でも狐の悪ふざけでもなく、本当に若返ったのか。で、俺は何千何万と言う日々を生きたまま眠って過ごしたと。そういう事か?今や俺の追いかけた天下はつわものどもが夢のあとだと!?そういいたいのか?」

「しばらくお待ちください……。完了しました。検閲終了」

「いいから早ようせい!」


 佐助が急かすと、形だけ急いだ風を装いながら、ハルマニーは回答する。


「BIBIBI。結論から言うと、あなたの居場所はなくなりました。あなたはGAUR(ガウル)の調査隊に捕獲され、体中を弄繰り回された後にたらい回しにされ、氷漬けになっていままで眠っていたのです。その後、覚醒と同時に、異星人と戦闘。身体に致命的な損傷を受けました。マスターは傷ついたサーに新品の体を与えたのです」

「マスターとやらがこれをやったのか」

「そうです。なにもかも新品に作り直しました。この場所ではそれも可能です。身体活動が現環境で最も有効に動くように調節済みです。そして、その体は然るべき措置を続ける限り、損傷以外の方法で自壊しません」

「……はあ。妖術。魔術。奇奇怪怪。そんな次元を超えておる……」


 そういって改めて佐助は自身に触れてみる。のびやかな筋肉は10代のそれで。まだ成長の余地を残した心地。頭のまげはなくなって、少し長めに散切り頭にされてこの頭は格好が悪い。どうにかならないものかと頭を掻く。


「で、はるまにー。機械よ。俺を助けたのマスターとやらは何処だ?一つ例でも言わせてもらおうか。一応死にぞこなったようだしの」

「BIBIBI。それは私のマスター▽ブリオンミニ◎です」

「なんじゃそれ?」

「発音が特殊です。サーの言語体系ではミニ以外の発音が不能です。あとはあなたを解凍した施設職員。あと、貴方のもう一人の命の恩人。サーを解凍した人物は、あの場でモンスターに捕食され、存在レベルで絶命しています」


 佐助はそういわれると、ほっと溜息をつく。

 これは安心ではない。絶望だ。彼は江戸以前の戦国を生きた忍者だが、それでもこの世界があの世ではないのに奇想天外で、おそらく目の前のモノが言ったように、元の世には戻れないことも悟ったのである。

 ここで狂ってしまえばそれでもよかった。

 しかし、佐助は思う。あと一歩だったのに。と。


「ああ、俺の野望が。天下まであと一歩だったのに」

「野望……。BIBIBI、野心家なのですね。しかし残念ながら、あなたの言うテンカは、最長500年程。規模も島国ひとつです。しかし現在は時代の流れとともに、あなたの知る規模の10の10乗以上の増加を遂げています」

「10の10ジョウ?……ハハハハハ!!。そうかそうか。言葉の意味はよくわからんが、どうしようもなく大きいのはわかるぞ!!」


 手をたたいて喜ぶ佐助。否、半分狂いかけているのだろうか。

 この場で切腹することを妄想しながら、自分の剣を横目で探しつつ、満面の笑みで佐助は身体を大きく伸ばして欠伸をした。


「で、その10の十乗の天下を制したのは誰だ。どこの化け物だ?そんな奴なら閻魔大王も如来も何も怖くないであろうな」

「BIBIBI。閻魔大王なる人物は処刑された人物リストに該当ありません。しかし、このテンカを制したと言える存在は、GAURです」


 GAUR。くしくもこの名前はかつて存在した地球に生息していた、とある偶蹄目の名前だが、そんなことは彼らには関係がない。


「ガウル。そいつが天下人か」

「BIBIBI。違います。GAURは個人ではなく、連合国家そのものです。代表は100人からなる議会制です」

「百人。そうか。大きな天下を一人で制御するのは無理か。あの信長でも持て余していたからな。で、そいつらを倒して俺が天下を握ることはできるのか?ええ?言ってみろよハルミニー。それが出来るなら、きっと世界はまだ面白いままだろう?」

「ハルマニーです。サー。天下を取ることは限りなく不可能です。サー」

「何!?」


 逆切れした佐助はハルマニーを軽く蹴る。どうも蘇ってから感情の起伏が激しかった。佐助は存外に蹴り具合がよかったので、今度は本気で蹴り怖し、いよいよこのバカな世界とおさらばするかと考えていたのだ。

 するとその時、目の前の壁(少なくとも佐助にはそう見えていた)が、ナマズのような口をぱっくりと開き、その中から人影がゆっくりと出てくる。

 ナマズの口からは生暖かい風に、乗って、女性特有の良い香りがしてくると、目の前でその人影は止まり、影の中から(たぶん)女性が出てきた。。


「なに奴!?……まさかお前が“みに”か?」


 佐助は警戒を一瞬解きかけた。しかし、彼女のあまりの異質さに、再び佐助はその体を硬直させる。

 彼女。そう佐助が感じたのは、その姿かたちが人型であり、人間離れした青い素肌が透き通とおるように美しくても、その体系が女性的な曲線美を保っていたからである。


「お前、異人。イヤ、化け物か?……綺麗だなチクショウ」

「怖がらないで、戦士よ。私は敵ではありません。タクアル☆出身のミニとお呼びください」


 戦士。戦う人とう意味では合っている。佐助をそう呼んだこの異星人は、頭を深く下げてお辞儀すると、ゆっくりと佐助の元へ近づいてきた。これではまるで野生動物を飼い慣らそうかとしているようだ。


「ミニ。お前が俺を助けてくれたのか。ご丁寧に若い体まで」

「はい。そのお姿はご満足いただけましたか?」

「概ねは満足じゃ。ちと若すぎるが」


 佐助は自分の体を見回して、筋肉の付き具合を確かめた。それは、まだ彼が下忍だった頃、野犬の群れに襲われた時の傷や、敵側のクノイチの甘い手管に嵌り、危うく首を落とされかかった時の不覚傷。

 そういった思い出の詰まった身体ではない。

 今や新品同様だ。否、新品真っ新である。


「(古い身体と肉付きが変わっている。これでは元のように動けるようになるまでいつまでかかるやら……否、それ以上に仕上がっているのであろうな。今までのの話からして……)」

「……。因みにあなたの体は元の体とバランスを同じにしていますので、問題はありません。出力は大きく上昇させていますが」

「BIBIBI。マスターの言うとおり、問題ありません。それにサーの体に合うパワードスーツを現在開発していますので。肉体的に不便はしないでしょう」


 なんと、佐助は心を読まれた。


「……おい、俺の考えていることがわかるのか!!?」

「宇宙中探しても、心を読める種族は少ないものですが、私はその一人ですわ」

「……。はあ、そうかそうか」


 佐助はまくしたてられているように感じ、諦めてため息つきつつ寝ころんだ。

 彼の脳みそが許容量を超えた情報に、ふて寝を決め込めと命じたのだ。


「……もうわけがわからん。俺が何をした。俺をどうするつもりだ。それだけ教えろ。あとは当分いらん。知りたくもない」

「……わかりましたわ。簡単に言いましょう。あなたと私は何千年もの間、コールドスリープという名の氷漬けにされていました。氷漬けしにした奴らに復讐しませんか?復讐って楽しいですよ?」


 そういってミニは怪しく笑う。

 しかし寝ころんだ佐助はその声に耳を傾けながらも、動かない。

 彼に復習という選択肢はなかったのだ。なぜなら彼は忍び。彼は復讐を行うものではなく、復讐を行う際の道具だったからだ。


「ああ?復讐だと?それをして俺に何の儲けがあるっていうのか?俺はただ殺しと犬死には絶対に御免だぞ?」

「え?復讐ですフクシュウ。憎い相手を殺したいとは思わないのでしょうか?」

「俺は腐っても殺しを生業とする忍びだ。お前はただ働きする奴隷なのか?」

「……なるほど。復讐だけでは無理ですか。では……。では、何か欲しいものがおありなら、報酬としてご用意しましょう」


 そういわれて、佐助は青いミニを見つめる。彼女の唇はいかにも柔らかそうで、その髪は佐助が見たどの姫君よりも滑らかである。真っ白ではあるが……。


「うぬぅ」


 佐助は想像する。彼が戦国の世で欲したもの。天下。それに内包される形で欲していたのは、きっと金、名誉、女、名物。あとその他。


「俺は天下がほしい。金、名誉、女、名物だ。それ全部がほしい。だが、それはもうない。はるか昔に滅び去ったらしい。畜生め。だから俺は欲しいものがない。まだここに何があるのか。それが分からんゆえな」

「もうすぐ準備が整います。それに復讐がすべて達成できれば、天下を取ることもできるかもしれません」

「なに?ハッハッハ、それは面白いな。で、それが本当だという保障がどこにある?」

「それを説明すると長くなりますが?」

「ああ?じゃあやらん。……なんだか疲れた。しばらく起こすなよ。起こしたら……そうだな犯し殺す……」


 段々とミニの声が何故か遠く聞こえる。佐助は急にい襲ってきた眠気に抗えない。不眠不休で諜報活動をする佐助がである。


「……はあ、ただ殺しはしないのでは?」


 素朴な疑問とともに、ミニが首をかしげる頃には、佐助は眠りに落ちていた。


「(天下……)」


 彼は元来は実直な性格の人間だ。天下がほしいのである。

 そんな彼の見る夢は、きっと彼の野望の夢であろう。

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