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佐助、1675歳。独身。職業忍者。

 ああそれから歴史は教科書通り。何の変哲もなく。

 3300年、佐助が居なくなってから、正史通りに歴史が進行した先の先。丁度西暦で彼の疾走した年を倍にした時代。

 ただ場所だけが変わり、此処はとある銀河の型落ちコロニーは、とある過疎地の博物館。


「そんな事言わないでくださいよ旦那~」


 一人の中年が、自分の上司であり、スポンサーである生物に、生涯何度目かの涙と共に、必死に頼み込んでいる。勿論日本語ではなく、銀河亜宇宙連盟公式言語のひとつ、S11でだ。


「もんぎゃ~、ならねえだ。こん博物館は赤字続きでぇ。もう貰い手も算段が付いてるだよぉ」

「旦那、そこを何とか。私はこの100年間、この博物館で働いてきましただ。おねがいしますだぁ!!」


 そうやって中年男は、彼のその長い鼻と、三つの眼球に涙や鼻水をためて、必死に上司に懇願する。しかし上司はその黄色と黒の縞々で不気味さ満載の体を横に振ると、じつにトカゲらしい大きな口を開いて、両目をクルクル。

(これはこの生物間のボディーランゲージで、いやなこったと言う意味。)

 彼がその滑りけのある足に縋り付こうとすると、その2m近い巨体を揺らしながら、顧問弁護士のオレンジ色のかカエル型が、中年男の体を押しのけて、電子書類を空間照射する。


「いんや、もう無理だケロ。これを見るケロ」


 緑色なら可愛げがある物を、その爬虫類モドキは醜く肥え太り、不思議の国出身であると主張できる程にグロテスクかつ人類の視点から述べると非実在的だった。


「今日の晩12:00までにここを立ち退く出ケロ。ここには次のスポンサーが付くケロ。それがなんとギャラクシー娼館が建造される出ケロ。ゲッロロ~」


 カエルが鳴くと、引きつったような顔でなおも頼み込む中年を無理に突き飛ばして、ふたりの生物は去ってゆく。ああ、カエルがどうやって売春宿を使うのか、想像したくはない。しかし彼らは下種な笑みと共に、この博物館を容赦なく取り壊す。


「そ、そんなー!」


 そう、彼らは皆宇宙人である。

 そしてこの場所はとある人工衛星コロニー。今の名前は『SSSハイクラス文学衛星SSS』だが、明日にはスポンサーが変わり、最高な『HHH感度でどっきりギンギランHHH』という名前になる予定だ。


「おらの……おらの博物館が……」


 この現在ハイクラス文学のとある博物館の管理人である。この中年型鼻長宇宙人の@9は、半生をここで過ごしてきた。

 しかしその管理仕事も今日ここまで。明日には色とりどりのセクシークローン雌共が、非清潔なギャラクシー娼館と共にやってくるのだ。

 彼はたった今、首になったのである。


「おらの……おらの城だ。これはオラの城なんだ……。なんで売春婦どもの仕事場になって良いもんか。おらは認めねえ。認めねえぞ!!」


 しかしやしかし、あの醜い爬虫類共は、彼を採用するときに、面接の時間を節約し過ぎた。

 そしてそれを今から身をもって知る羽目になる。


「どうせ……。どうせなくなってしまうのなら……いっそおらの手で……クケケ」


 彼の前科を調べれば、実は彼か過去、青年時代に何度か。自身の体から出る高純度ファイヤーによる放火の罪で、銀河刑務所に収監されていたと言う事実を知ることが出来る。

 しかし博物館を見栄の為だけに買うような無教養な爬虫類型宇宙人達には、それを調べる気はなかったのだろう。

 @9はその種族的な特徴の一つである体内の火炎をケツの上あたりにあるっ噴出口から、屁のようにして噴出するのである。


「イヤ、待てよ。しかし、おらの可愛い息子達が焼け死ぬのは見たくないだ。そうだ!!……な・ら、逃がしてやるだぁ!!」


 彼の犯行が、この時また重くなった。この博物館に収められた、コールドスリープ冷凍や、カー○ン冷凍された“展示物”達。彼らは皆どういった趣向で集められたのか解らないが、絶滅危惧種や珍種ばかりだったのだ。ここで燃やすにはあまりにも惜しいと考えたのだ。

 そして何よりも、このさびれたコロニーで誰とも話さず長い年月を過ごした@9にとって、展示物たちは家族だったのである。


「確か此処をこうして……」


 それから数時間経過。

 無い知恵を絞り、1200共通時までの残された時間を使う@9は、必死で解凍処理を続ける。実は彼らの一族にはアルコール類を飲酒すると、特定の集中力が増すのだが、既に許容量の合成ハーブヴォトカを飲みまくった彼には吉と出たようで、人生最大の絶好調らしい。(その分彼の残りすくない寿命が音を立てて崩れていくのだが、それは関係のない話だ)


「フヒヒ。出来た……カモ。たぶん。この、このボタンを押せばば、息子たちががよみががええるる~♪」


 合成ヴォトカは粗悪品だったようである。彼の2つある脳味噌の、その二か所ある内の両方を、どうにも美味い具合に溶かしたのだから。


「それじゃあイッチョ~行ってみるだぁ!!ミュージックぅスタタタタタ!!!っとととと!!」


 言葉を言い切る前に、自律神経を超越した彼の右手が、最後の軌道スイッチを音速で連打する。

 その後彼の右び先はモニターを貫通して、彼の年収に相当する額の有機デバイスごと旧式コンピューターを粉砕したが、結果はかわらなかった。


「ニャオオオオオオオ!!!!」


 管理室の向こうで、けたたましい叫び声。ああ、悪魔が地上に舞い降りた。

 あの地球種の猫のような鳴き声は、他生物の尻に卵を産むとう、有名な宇宙カッコウ鳥の一種の、1000年ぶりの咆哮である。


「あの声はデミグロトスぅかねぇ~~~?」


 デミグロドス。バルルン星雲に分布する希少な肉食生物だ。

 そう、この男は無知である。


「なっなんじゃこらーーー!!!!!」


 次に、もっと施設の奥の方から、日本語による絶叫が聞こえた。


「あ、あれはニンゲンだな」

(彼の発音はニン↓ゲン↓だ。これは銀河基準である)


 そう、奇しくも長い年月を経て、とある男が意識を取り戻した。

 その男は、奇しくも歴史を変えうるあと一歩のところで、銀河亜宇宙連盟(GAUR)にお縛された不幸な男。そして、そのあとの幾つかの非宇宙法律的な人体実験を終えて、元通りにされた後、こうして展示用にたらい回しにされたのだ。


「げへへ。オラの子供たちよ。強く生きるだぁ!!」


 彼自身がそうできなかったせいもあってか、ものすごい勢いで解放された生物たちは、各々の欲求に従って、食べたり走ったり糞をしたり。


「ここはどこじゃ!!まさか信長が我が野望を見破ったか!それともここが死後の地獄だとでも言うのかぁ!!うわあああああああ!!」


 佐助は如来を酷く罵りながら、周囲の轟音と異臭と見知らぬ獣の叫び声を聞き、目を白黒とさせる。彼にとってはピンク色が毒々しいアンプレイコング(ギョップ=ギョップ星の最重要保護動物)の糞の香りに酩酊し、ボブブサ・ウルス(ミゴロス星雲のどこかに生息する、肉食亜爬虫類)の吐く息で目がくらむ。

 そしてその両方が、佐助達を食おうとしているのだ。


「地獄の閻魔は……ほんに、ほんに物好きだのう……」


 佐助は二匹の殺気に一瞬で頭がさえた。彼は瞬時に忍び流で息を整えると、腰に差していた何千年物の日本刀を抜き放つ。その投身は一切のよどみなく、彼が意識を失う当時の輝きを保っている。これこそ超常温冷凍の技術だ。


「シェエエエエエイ!!!」


 佐助は獣に威嚇する。獣とはいっても地球産ではない。方やアンプレイコングは体長2メートル。ボブブサウルスは体格こそ人間と変わらないものの、筋組織の大半が鉄よりも硬度の高い物資が覆っている。


「(デカブツは何とかなりそうだが、この堅そうなのは刀で切れるだろうか……)」


 佐助はにじり寄る二匹を前に、硬直し、そして1千年ぶりに脳みそを動かした。


「GYAAAAAAA!!!!」

「GIOOOOOOOOO!!!」


 二匹が同時に飛び掛かってくる。佐助は思わず身を低くして二匹に突っ込むと、アンプレイコングの脇腹をすり抜けざまに切りつけた。そして逆に彼はボブサウルスの爪の一撃を紙一重で躱したが、アンプレイコングの尻尾が彼の目を切りつけた。


「GYAAAOOOOOOO!!」

「ヌゥウ!?」


 交差した三匹のうち、一匹は腹掻っ捌かれて内臓をひり出しつつお陀仏。

 しかし無傷のボブサウルスは、目を負傷して遠近感を失った佐助の臓物の味を想像し、その二つある口から真っ赤な涎を垂らす。


「くっいけるか!?」

「GIOOOOOOOOO!!」


 この間、5秒と少し、再び両者はお互いの息の根を止めようと走り出し、その最高速で相手を屠ろうとする。


「セイヤアアアアアアア!!」


 忍法とはかくあるべき!!佐助は途中で滑り込み減速すると、虎の子の手裏剣を投擲する。目標はボブサウルスの眼球。一見堅そうで仕方がないこの生物も、眼球、水晶体は柔らかかった。


「GIO!?」

「シニサラセェ!!」


 忍者らしく戦い、忍者らしく勝つ。佐助は同じく片目を目を失ったボブサウルスの動揺が見て取れた。そして相手が大勢を立て直す前に、そのもう一方の目に日本刀を突き入れる。


「GIOOOOOOO!!」


 ボブサウルスは甲高く泣き叫ぶと、そのまま息絶えた。この場で一番勝率のオッズが低くなりそうな彼が、練り上げた身体と最高のタイミングで勝ちを拾ったのだ。


「ふーほーふーほー。ウン!」


 忍者式で呼吸を整え、辺りを観察する。周りには二匹の死骸。彼はこの悪趣味ない無差別級の戦いに勝ったのだと実感する。

 ちなみに二匹とも彼を食おうとして敗れた。しかし、彼は勝ったがこのグロテスクな生物と、見るからに肉が堅そうな生物を食う気にはなれなかった。


「……ま、いざとなればこの猿モドキから食うか」


 彼が絶命した猿モドキを剣先で突いていると、突如甲高い女性の声が、彼の後ろで聞こえる。甲高い声は危険のしるし。しかし危険に陥っているのは、彼女自身でないことが、彼女の発する内容で理解できた


「伏せて!!」


 佐助の後ろの彼女はそういった。銀河方言だい111言語で。確かにそうだ。しかし彼はその言葉を脳内で理解するよりも早く、姿勢を低くし、出鱈目な方向へ跳躍した。乱数回避は戦いの基本である。


「セイヤアアァ!!」


 宙返りのような無茶な姿勢での跳躍にも、千年越しの彼の体はうまい具合に動く。

 そして、彼が今までいた場所を振り返ると、天井から滴った酸性のなにかで、床が大きく蕩けているではないか。


「むん?次はお前か?」


 天井には佐助と同じくらいの大きさの蜘蛛が、片方の足で即席の巣を作りながら、その最初の獲物にアンプレイコングを選んだらしい。

 そして佐助はその餌を狙う敵である。


「KISYAAAAA!!」

「今度は蜘蛛か。猿、トカゲ、蜘蛛。まったくここは誠に地獄よ!ハハハハハハ!!」


 やけくそ。佐助はそういって訓練された空挺部隊の神がかり的な速度に似た糸伝いで迫る、12個の眼球を持つ蜘蛛型宇宙人と、ラウンド2を始めるのだ。


「デリャァッ!!」


 佐助は刀を今一度強く握りしめ、この道の化け物3号へ切りかかる。

 しかし、彼の剣は蜘蛛に届くことはなかった。


「ゴヘア……何!?」


 突如彼の腹部に拳程の大穴が開いたのだ。およそ光の速度で訪れたそれは、俗にいう軍用レーザーピストルの短時間照射だった。

 そう、正義の味方。ガウル警察がやってきたのだ!!

 さんきゅーガウル!!


「なんじゃ……こら……?」


 佐助は自分の腹に開いた穴を触る。熱い。

 そしてその高温で焼け焦げた体からは、血管の一つ一つまで焼け焦げて、血の一滴も出ないのだ。地面を汚さない戦い。それがこの未来における常識的な戦闘なのだ。


「(俺は……死ぬのか?)」


 その場に崩れ落ちた佐助は、自分のなくなった腹の肉の代わりに、地面に落とした刀を抱き寄せながら、その場にゆっくりと座る。


「(この地獄とやっとおさらば。いや、これが最初からずっと続くのやもしれん。……まあしかい、これもよきあかな。よきかな。一度死ぬのも二度死ぬのも同じことよ)ごはぁ!!」


 彼は次に、薄れゆく意識の中で、1000年前に言い損ねた辞世の句を言おうと口を開いたが、もう声が出ない。


「…………?………。………」

「手遅れじゃないわ。大丈夫。大丈夫だから」


 気が付くと、地獄に天女。彼の近くには一人の女性が座っていた。そして彼の頭を膝の上に乗せると、優しく頬をなでる。


「(地獄に天女か。こうやって生きる希望を少しだけ持たせて、永遠に殺すのが地獄なら、さぞかし俺は罪深い人生を送ったことになったのだろうな……)」


 角田佐助。何者かに抱かれつつ、腹の肉の大部分を失って絶命。3300年。その見知らぬ衛星の中で。享年1675歳。されど、大往生とはいえず……。

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