第四十五話/海老名さん×清田くん/
「…佑奈さん、なんで奥梅なんていうところに来ちゃったんですか?」
「あの、いや、話せば長くなるんですが…」
佑奈さんの話はこういうことだった。
ある日、崎雪のギルドで、一人の旅人に出会った。
受付で彼と会話を交わし、話が合う人だとわかった。
その後、彼が奥梅周辺にすんでいると知り、付いていこうとしたが、両親の猛反対により断念。
メールをやり取りする仲に落ち着いたが、やはり付いていきたくなり、半ば夜逃げのように家を出て、崎雪ギルド本部から奥梅ギルド支局に転勤。
ここ奥梅についたのは昨日のことだという。
「…ということなんです。」
少し顔を赤くして、佑奈さん。
「その旅人って…誰ですか?」
もしかしたら知人かもしれない。
「…えっとですね、上の名前は、キヨタっていうんです。私と同じ13才です。あれ?上戸さん?返事がない。ただの上戸さんのようだ。って、上戸さん?大丈夫ですか?」
途中から、もう彼女の言葉は耳に入ってこなかった。
商売人の後輩、清田くんに間違いない。たぶん。
最近あっていないが、旅行にいっていたという話は聞いた。
この二人が仲良くなっていたなんて。もう全力で応援しちゃうぞ!
「上戸さん?」
顔が赤くなった佑奈さんの頭をつい撫でてしまった。
「わわっ?え?上戸さん?」
目だけこちらに向けて、佑奈さん。
「…頑張れよ。応援してる。」
「はわわっ、ありがとうございますうぅ。」
しばらくその体勢のままいたら、手に輪投げの輪を持った優樹がやって来た。
「輪投げやろうよ!…そうき、どうしたの?頬が緩んでるよ?」
「まあ、色々あったのさ。気にすんな、優樹。」
「わわっ、はいんない」
「はわわっ、もう一回やっちゃダメ?」
「いいわよ」
「やったー!ヘ(≧▽≦ヘ)♪」
店の前で立ち話もなんなので、椅子を二つ出してきて、店の前に並べた。
四苦八苦してきゃぴきゃぴいってるちびっこ二人を見ながら、佑奈さんと談笑する。
「みなさん、可愛いですねー。」
「んまあ、うるさいときもありますけど。」
「可愛いじゃないですか。」
「佑奈さんはどこの部署でしたっけ?」
「営業第三部ですね。」
「ああ、あの受け付け業務の。」
「それは営業第二部ですよ。第三部は、管轄範囲内のクエスト製作ですね。管轄範囲内の現状に合わせてクエストを提供する部署です。上戸さんは?」
「僕は総務課です。」
「ええと、あの、雑用をしているところですか?」
「それは雑務課です。」
「雑務と総務の違いってなんですか?」
「明確にはわからないけど、雑務課は雑用を、総務課は掲示板の管理やホームページの管理、ギルド施設の貸し出し管理をしているんだよね。」
「会計は総務課じゃなくて出納課ですよね。…雑務課ってなにやってるんでしょうね?」
「さあね。」
ふと通りの方に目を向けると、空がこっちを見て突っ立っていた。
「空?」
「別に何を思っているわけでもないんだけど、壮樹、誰と」
言い終わる前に佑奈さんが動いた。
「上戸空さんですよね?」
「そうですけど!?」
次の瞬間、佑奈さんが叫んだ。
「あ!空さん!探してました!」
「…は?」
「…え?」
少しして。
「…ビックリした…」
空。
「ごめんなさい、空さん。ちょっとつい。」
うつむいている佑奈さん。
どうやら、空は崎雪ギルド本部から称号『BRAVE HUNTER OF ドスレベス』なる称号を貰ったようで。
「…ゆ、許してあげるわけではないけど、別に気にしなくていいからね。そんな、気を使って接してくれても嫌だから。べっ、別に、許したとか、そんなんじゃ無いから。」
ツンデレモード全開の空。たまによくこうなっている。
彼は軽くツンデレである。
「そんな回りくどく言わないでくださいよ」
「うぐっ。」
しばらくして、知人が一人やって来た。
「こんにちは上戸さん。…って、ええ!?なんでこんなところに!?」
「キヨタくん?」
「清田?!」
噂をすれば影が差す。
清田秋人くん本人である。
二人の会話は聞かないことにした。
ぼーっとしていたら、優樹が絡んできた。
「壮樹、頬が緩んでるよ」
「え?そう?」
「さては何かあったな~?」
「いや別になにも。」
「くすぐっちゃえ~!」
こういうのを、天使の笑顔という。
一瞬抵抗力を奪われたのが、命取りだった。
脇腹に細かな振動を感じた。
「え、ちょっと、やめて!」
優樹のくすぐりは、指が細いからかとてつもなくくすぐったかった。
「はは、きゃはは、やははのは、ははは。やめてくれ。」




