第三話/大村さん。/
さて、どうしようか。
あれから3日がたった。僕は、摘斗さんの家の一室に厄介になっている。
「大村さーん大村さーん」
今探しているのは、ぼくの第一発見者、大村 澪さん。基本的に温厚な人だ。
基本的には。
年は僕に比べて少し上かと思われる。
僕は、親しみと敬意を込めて大村さんとよんでいる。
大村さんの職業はハンター。
狩りが上手で、素材を剥ぎ取ってきては売りさばいている。
僕を発見したのは狩の最中で、獲物を探していたらしい。
性格は、基本的にはまともな人。
基本的には。
時折、なんか庭の木に取り付けた扉から、地下につるはし持っていって、なにやらごそごそやってることがあると聞いた。
決して深追いしてはいけないらしい。
迎え撃たれて退治されるらしい。
『勇者の癖に!』とか言いながら。
怖い。
これまで何百人もの勇者が犠牲になったようだと言われている。
村の百不思議のひとつらしい。
本当に百あるかどうかは検証の余地があるけどね。
どうでもいい。
そんな大村さんも、いい人であることにはかわりない。はずだ。
僕が倒れているところを発見し、猛獣と広辞苑と僕を村まで持ってきて、介抱して…
感謝の気持ちは、とても言葉では言い表せない。
季節はちょうど梅雨。ここ二日間雨は降り通し。あじさいが美しく咲いている。
雨は嫌いではない。
大村さんは、あの男の子とカタツムリと一緒に縁側にいた。
男の子が捕まえてきたらしい。
「でーんでーんむーしむーしーかーたつーむーりー」
「何してるんだい?壮樹?」
大村さんもカタツムリを見て楽しんでるようだ。
「暇で暇でしょうがなくて。」
嘘をつく理由もないので、ありのままに答える。
ありのーままにー。
そんなことはどうだっていい。
「俺も暇だ。ちょっくら潜って掘り掘りしてこようかと。そうだ、ついてくるか?」
ものすごいお誘いである。
あの、何百もの勇者を犠牲にしたと言われている大村さんに地下に誘われた。
本当に百あるかどうかは検証の余地があるけどね。
そんなことはどうでもいい。
「全力でご遠慮します」
何があるかわかったもんじゃない。危険すぎる。
ハイリスク、ローリターン。
まあ、ついていってみたいけど…。
「そ、そうか。じゃあ、またの機会にするとしよう。晩御飯ができたらそこの扉を叩いてくれ。」
大きな木の根元を指さす。木製の戸がついている木。
明らかに怪しい。
「そしたら?」
大村さんの唇がニヤリと曲がる。
「そしたら、戸を開けてやる。いくらでも入ってきていいぞ。あ、剣は持ってきて損はない。広辞苑でも可だ。」
「わかりました開けたら外で待ってます」
「そんなに来たくないのかあ…」
「…」
顔がこわばってるのが自分でもわかる。
蛇に睨まれた蛙の気分である。
「はは、冗談だよ。晩飯までには帰るさ。」
「で、ですよねー、まだ朝ですしー」
つるはしを持ってきて扉の奥に消える大村さん。
扉の裏には、張り紙がしてあった。
『勇者の癖に、生意気すぎんだよ!』
扉は、ばたん、と閉まった。
地下からガタガタ音がする。
決して深追いしてはいけない。
迎え撃たれて退治されるらしい。怖い。
これまで何百もの挑戦者が犠牲になったようだ。
百あるかどうかは検証の余地があるけどね。
もうそろそろこのネタ飽きた。
けど、大事なことなので繰り返してみた。
「でーんでーんむーしむーしーかーたつーむーりー」
「おーまえーのーめーだまーはーどーこにーあーるー」
「つーのーだーせーやーりーだーせー」
「あーたーまーだーせー」
男の子と、ひとしきりカタツムリをいじって、部屋に戻ることにした。
暇だ。
俺は退職老人か。