第一話/全ての始まり?/
目が覚めたら、そこは草原だった。
ここはどこだろうか。
霧が多少かかっているものの、視界はそんなに狭くない。
どこからかうっすらと光が差している。
空はただぼんやり明るいだけで、正確に何時ごろなのかわからない。
そんな、人の気配どころか獣もいない草原に突っ立っている。
心の奥がちょっとひんやりして、僕は身震いをした。
鼻から息を吸ったら、鼻の奥がひんやりした。霧のせいだ。
俺は昨日?の夜机の前に座ってレポートを書いた。書いていた。
どうやら寝落ちしてしまったらしい。
足の裏に感じる柔らかい感触。どうやら作り物ではなさそうだ。
空は少し白み始めた。
どこからともなく爽やかな風。明け方かな。
服装は、裸足に長ズボン、長袖のTシャツにトレーナー。手には広辞苑。昨日?の夜使ったままだ。霧のせいでだいぶしっとりしてきたが。
平穏は突如として破られる。
自分の部屋から、見知らぬ草原。
普段、如何に自分が平穏のありがたみを享受していたことか。
ざっ、ざっ。
誰かが背後から近づく足音がする。
ふっと肩の力が抜けた。
よかった。誰かいたんだ。
ふわっと後ろを振り向くと、彼と目があった。
彼は大きな口を開けて、微笑んだ。
全体が銀の毛皮におおわれ、口は縦横4,50センチ、牙は20センチ以上、血が滴っている。耳は大きく、獰猛そうな目をしている。
ここまでの情報を脳が理解すると、条件反射で瞬時にきびすを返し、走り出す脚。本能って、怖いね。
って、そんな場合じゃなーい!!?
ようやく思考が追い付いた。
「ちょっと待ったー!狼じゃねえか!」
「がるる、がる、うをおおぉん!」
「なんか鳴きかたが怖い!」
猛獣の方が足が早いのか。距離が縮まっていく。勝ち目がない。
広辞苑なんぞ抱えたままだから遅いんだけど、もうどうしようもない。
これまでの思い出が走馬灯になって目の前を回っている。
「ど、どうにでもなれ!」
急に振り向くと、獰猛そうな狼の目がこちらの目を捉えた。
次の瞬間、心が変に安らいだ。
頭の中で何かが起こった。
『……コウジ・エンド!』
体が自分の意思と関係なく動き出す。
世界の流れがいきなり遅くなった。
「えぇ!?」
驚いてる僕を他所目に、手は広辞苑をいとも簡単に持ち上げ、狼の頭に振り下ろした。
がん!
ぐ、ぐうううう。
どさ。
「た、助かったか。」
気づいたら、猛獣は頭から青の血を流して倒れている。
何が起きたか、何をしたか、それがわかるまでたっぷり50秒かかった。
とっさに降りおろしたのは、抱えていた広辞苑。
それが一撃必殺の威力を発揮したのだった。
「す、すげえ…」
俺は何か異能力者のようだ。なんだか、転生者によくある話だ。
いきなり戦闘回です!テンションに注意して読み進めてね!