第十話/ここからが本題だ/
さて、そろそろ動こう。
といっても何か始めるわけではない。
摘斗さんの後任は村のおじいさんが快く引き受けてくれたので、僕は別のことを始めることにした。それは、
商人。あきんどともいう。
この村は隣町が遠い。歩いて数時間かかる。
とても、スーパーに行くノリでは行けない。
そんな中、定期的に往復する人が居れば。
商人に優しい環境である。
僕はコミュ障ではない。いざとなれば広辞苑もある。
だからこの職を選ぶことにした。
「ちわーす」
「あ、壮樹くん、ご苦労さま。偉いわねえ。はい、じゃ、これお願いね。
「ちわーす」
「壮樹さんじゃないですか。これよろしく頼みます。」
このようにして村人から品物を集め、隣村へと持っていく。それから隣村で売り払い、その金で事前に各々申請してもらった品物を購入して戻ってくる。利益が残るようにうまく売るのも腕のみせどころだ。
荷車を引き、村を離れる。
道中には、モンスターが出ることも多々ある。
なんの対策もしないわけにはいかない。
対策法は、この前婚約したとかいう柿山さんの発案を採用している。
小さい辞典を投げつけ、空中で操る。
辞典を操る技は、まだ感覚的なものだが、そのうちはっきりとわかるだろう。
辞書とやたら相性がよいらしく、わりとすぐ習得できた。
町についた。
「こ、こんにちは…壮樹です…」
「あ、はいはい。コノミクンの骨、おいといて。」
「お、お値段は…」
「**でどうだ。文句あるか」
「そこをなんとかお願いできませんでしょうか。この辺りではとても希少なものでございます。」
「わかった。**にしてやる、文句あるか」
「本当にありがとうございます。今後もどうぞよろしくお願い申し上げます」
「トクノロンは要りませんかー?食べてよし飲んでよし塗ってよし、最高級のトクノロン、野菜の神、トクノロン、要りませんかー」
「これください」
「**で」
「そこをなんとか」
「じゃあ**で。」
「じゃあもうひとおし」
「しゃあない、**で」
「ありがとうございます」
町での交渉はすんなり行え、もう帰路となった。
日はいつのまにか傾き、広い草原へと消えゆく。
空は見事な真っ赤に染まり、雲が薄くたなびいている。
ゴロゴロ、ゴロゴロ。
突然荷車の車輪の音の間から、なにか違ったものが聞こえた。
荷車を止めて、耳をすます。
「うえーん、ひっく、えぐっ、うーー、」
泣き声だ。しかも押し殺している。
よくよく聞いてみれば、どうやら左の方か。
左の茂みの奥を見てみる。背が高い草ばかりでよくわからないので、掻き分けてみると、そこには。
泣きじゃくる女の子が一人。




