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短編集

少女たちの夜 

作者: 橘高 有紀

 大きな大きなクマのぬいぐるみを抱き寄せて、ロロットはぷくりとリンゴのような頬を膨らませた。

「べ、別に良いでしょう、男爵が一緒でも! 子どもっぽいと笑うのは勝手ですけど男爵はふかふかなんですからね」

「悪いだなんて言ってないじゃーん。でもロロらしくない感じするねって話」

「私らしくないって、どういうことですか」

 ぎゅうっと抱きしめたクマは小さな頃にプレゼントされたぬいぐるみだった。部屋には他にもクマが十匹いるが、このスティーヴ男爵は十五歳になったロロットと変わらないほど大きい。赤と焦げ茶のストライプ模様のリボンを首にしている。

(似合わないって言われることぐらい、わかってました)

 ふて腐れるロロットは、黒に近い茶髪を腰まで伸ばした痩せぎすな女の子だ。背も高く、笑うのがこっそり苦手だった。対して、けらけら笑うミアケルは、オレンジっぽい明るい癖っ毛を二つに纏めた女の子である。そばかすがチャーミングで、ロロットとは正反対な性格をしている。

(だから部屋に呼びたくなかったのに。ミアケルは絶対笑うと思ったから!)

「ゲームで私が勝ったんだからね。約束、でしょう?」

 笑顔で押し切られてしまったのだ。家まで来てしまうと、ミアケルはロロットの家族とあっという間に馴染んだ。母など、まさかロロがお友達を連れてくるなんて! と感激したほどだ。

 そして、ミアケルはまんまと泊まることになった。家族以外の他人を部屋に入れたことなんてなかったのに。

 ミアケルは友人だと思う。だが、自分の領域へ踏み込まれると戸惑いは隠せない。

「怒んないでよぅ、ロロ。いいじゃんクマ。私もおんなじ。クマ大好き」

 かばんにぶら下げた、たくさんのキーホルダーとマスコットをミアケルは見せた。クマやウサギがたくさんある。思えば、彼女のペンや筆箱もかわいいものだらけだ。

「学校じゃロロって優等生! って感じだし、真面目だし、こういうの好きじゃないのかもって思ってたんだ。だから、ごめん。機嫌直して?」

 口を噤んだのは、こんなときロロットはなんて言ったらいいかわからなかったから。

 そっぽを向いたロロットの長い髪を、ミアケルが一房手にとって櫛を通す。彼女はロロットの長い艶やかな髪が大好きで、気づくとこうして触れている。あっという間に緩い三つ編みにされた。

「私、うれしいよ。ロロのお家来ることが出来て。今度私のところにも来てよ。ね?」

 そのまま背中越しに「えいっ」とのしかかられ、男爵ごと二人はシングルベッドに倒れ込む。ミアケルの指先が冷たくてくすぐったい。旋毛を曲げていたはずなのに、ロロットはくすくすと笑いを漏らしていた。

「ほら、せっかくのパジャマパーティなんだから、内緒話しようよ」

 ミアケルの囁き声も、笑い含みだ。向き直ったロロットは、ミアケルが着ているパジャマが自分とお揃いであることに、不思議なくすぐったさを覚えた。くしゅくしゅしたレース付きのキャミに、七分丈のパンツだ。実はロロットの手作りだった。着てくれたことが嬉しくて、そっと手を伸ばしてみる。

「胸に触る?」

 ミアケルの声に、ハッとロロットは息を呑んだ。そして予想外の近さに驚いた。目と鼻の先に他人がいて改めてびっくりし、きゅうと小さくなった。恐らく耳まで赤くなっている。そう思うとますます恥ずかしい。そんなロロットを、小柄なミアケルが抱きしめた。

「かわいいなぁ、ロロットって。うん、かわいい!」

「ミアケル、ミアケル。内緒話しましょう、内緒話!」

 あたふたするロロットをいたずらっぽく見つめるミアケルは、目を輝かせた。

「じゃあ、教えてよ。ロロの好きな人!」

 え、え? えええ? とミアケルは途方に暮れたような声を上げた。

「知ってるんだよ~? いるんでしょ。聞き出すまで寝かさないんだからね」

 ミアケルはまるで小悪魔のようににやりと笑い、ロロットの脇腹をくすぐった。

 少女たちの夜は長いようで短いのだ。

SSの習作。女の子かわいいですよね!

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