一子一皮半ムケる(そっち?)
里緒の不満。
㊥――――
これって・・・なに?
この気持ちって一体何なの?
これがエロと言うもなの?
いつもと、いつもと変わらない練習のはずなのに。
同じ、マッサージを介した絡みのはずなのに。
いいえ、いつもよりも全然基本的な絡みのはず。
なのに・・・。
いつもとは・・・
いつもより・・・
ううん、ダメ、全然、気持ちいい・・・。
どうして?
どうして!
千乃さんが喋る度に、あ~ああああ・・・。
台詞なの?
言葉が心を絞めつけているの?
あっん、うっううう・・・。
そんなに、言葉で虐めないで。うんん、だめ、言葉を止めないで。
言葉が心を熱くする。
やっぱり、だめ、このまま受け止めたら、
わ・た・し、どうかしそう。
演技だと分っているのに、心が演技と受け止めていない。
惹かれて行く。感じちゃう。
か、体が、こ、心がどうかしそうー。
これが、これが、台詞が生むエロと言うものなのこれがリアルから生まれるエロと言うものなの。
千乃さん、もうダメ。
そんなに虐めたら、一子、もう
ま、まほまほ・・・。
――――㊥
★☆ 第27話 ★☆
☆★ ♂ 一 子 ♀☆★
★☆一皮半ムケる★☆
☆★(そっち?)☆★
マッサージ部の練習場である第二スタジオを出て、我が柔軟体操部の練習場である第一スタジオに戻る俺、千乃工口のその脇。そこに、微妙にややこしい風が絶え間なく吹き抜けている。
時間は、もう午後6時を回っている。柔軟体操部の練習時間もとっくに過ぎている。もう、恐らく誰も残っていないだろうと思う。
このまま第一スタジオに戻らず、真っ直ぐに帰宅しても良かった訳だが、第一スタジオに戻る流れになってしまったのは、そのややこしい風を挟んで目の前に、わざわざマッサージ部の練習場”第二スタジオ”の、・・・よりによって中に入り込み、衝立と言う最後の砦を割って入って来た千逗里緒様が、右手に青筋を立てて硬絞りするかの様にタオルを握り締めて歩いているからである。
要は彼女に付いて行くことこそが最善だろうと言う、俺の防衛本能が働いているからなのである。
彼女が放つ不可視なオーラに付くことも離れることも出来ず、俺は当然の様に一定距離を保ち彼女の後に引かれて行く。
気まずいこと、この上なしっていうヤツか・・・。
里緒は「決して怒ってはいない」とは言ってはいるが、…正確にはそんな言葉を発した訳ではない…怒ってはいないと言う態度を表向き必死にアピールしているのだが、残念だが、それが無理な行動であることは、この俺にも容易に判ってしまう下手くそな態度だったりする。
そんな下手くそな態度と、最近、彼女が俺に向けていた心から好意的だった態度とのギャップに、俺の素肌からはジワジワと熱が奪われて行く。
よりによって、何で里緒は今日に限ってやって来たのだろうか?
あの時、里緒は、そう・・・
・・・何の為か手にしたタオルを胸に抱き、いつの間にか衝立を割って入っていた里緒。
そして、俺と一子を見る大きな目の中の点になった黒い瞳。
耳からも何らかの情報は入っていたかもしれない?
その瞬間、里緒の顔が青く落胆の顔に変わる。
そして、一瞬、赤く鬼の形相へと変貌したと思ったら、明らかに作られた一見穏やかそうな顔に落ち着いた能面の様な無表情・・・
その時の里緒の心境を想像すると・・・ダメだ、俺には怖くてとっても出来そうもに無い。
折角、里緒とは良い雰囲気になっていたのに・・・。
そう思うと、自分の行動がいかに軽率だったかと反省してしまう。
里緒は、俺と目も合わさずに直ぐ前を黙々と歩いている。
こんな時、何かこの場を和らげる一言を・・・。と思うがそんな言葉の一つ持ち合わせていない俺の人生が悲しい・・・。
おっとと・・・危ない。
何て反省している俺の前で、里緒がいきなり立ち止まる。
危なくぶつかるところだった。こんな時に要らない刺激は御法度だ。と思ったら、振り向きもせず
「あの~、それはさ、色んな演技練習を取り入れるのは当たり前であって、どの部だって工夫をして、頑張ってやってることで、私だって柔軟体操部の部長なんだから、その~それは当然理解していて・・・」
里緒を心地良くさせる言葉を返そうと、必死に彼女の言葉に耳を傾けるが、この場の緊張感のフル支援も有ってか、里緒の言葉が理解し辛い。
里緒は何が言いたいのだろう?
「・・・でも、練習であそこまで、いや、AV祭も目前なんだから普通のことではあるんだけど・・・その~」
言い方が遠まわしで解り辛いが、不満の表現であることだけは俺にも理解が出来る。それでも、必死にその不満を沈めようとしてくれているようなのは、俺にとって大きな救いだ。
しかしだ・・・、考えてみるとそんなに攻められることなのだろうか?
里緒が現れる少し前に衝立から顏を覗かせて、俺の心臓が止まるほど驚かせてたもう一人、宝家先生は、俺と一子の絡みを見ても当然の様相を向けてきたのだ。
宝家先生は、拙いところを見られたとビビリまくった俺の顔を笑顔で包み込み、パンツを穿いていることだけを確認すると、「パンツは脱ぐなよ、練習でも御法度のマネをしてはいかんぞ」と言い、薄手の小さな穿きモノ一枚同士の絡み合いに、「後、半分剥いてやってくれ」と、満足そうな表情で俺にウインクまでして、その場を後にしたのだ。
それから考えるとだが、俺が一子に対して取った行動は、現状、問題の無い範囲であったとのだろうと思える。それどころか、先生の意向に合っていたのだろうと想像する。
ここは皆がAV俳優を目標とするAV界の高校だ。しかも、その技を磨くための部活動だ。その活動の一番熱が籠った時を里緒に見られたからと言って、後ろめたいことはない。はずなのだが・・・。
何故か非常に後ろめたいこの感覚・・・。
そう・・・里緒は異質なのだ。この世界の女子高生としては、異様に裸とカラミ演技に対して敏感なのだ。これでも、里緒としてはかなり無理して、俺に理解を示してくれているのだろう。
煩悩が去った今ではあの時の快感は何処へやら、罪悪感で一杯だ。
そもそも、期待していたとは言え、あそこまで俺が肌を合わせるつもりが有ったかといえば、もちろん、そんなことはない。恥ずかしながら、もちろん願望は有ったが、通常仕様の俺であれば何処かで制御が掛かっていたと思う。
ただ、あの時は俺の言葉の一字一句に目に見えて反応する一子を前にし、ついつい俺は何らかの興奮を味わって楽しんでしまったていた。
結局、あの後、稲荷家一子と、俺の三校合同AV祭に向けての演技作りがどうなったのかと言うと、結論を言うと言葉で攻められるのが好きなM女のセラピストに対し、S男の客が言葉巧みに弄んだ。と言った構成だろうか・・・。
調子に乗った俺にも多分に反省点はある。一方的な俺の言葉攻と、巧みな指さばきで感情を露にした一子からの色んな体の接触、と言ってもパンツを脱いだり、はみ出したりには至ってはいない。御法度に対して自制が効く程度には抑える理性は十分に有していた。
どちらかと言うと、御法度を気にするよりも、俺はそれを微妙に逸らすと言う心理的な興奮を味わっていたのかもしれない。
いやいや、俺の一方的な興奮ではない。彼女だって晒されることにより、俺以上に燃え上がっていたのだ。
そもそも、そんな幸か不幸かそんな暴走状況になってしまったのは、不満が募ってしまった一子が発してしまった一言で、役柄が逆転したことにある。
途中までは、常日頃の険悪な雰囲気もどこ吹く風と、非常に協調的に三校合同AV祭に向けての演技作りとなっていたのだ。
俺が彼女の拘るスペシャルマッサージを再三再四断るまでは・・・。
今考えると、あの不満の現われは、もしかすると日ごろの練習の成果を俺に披露したかったのかもしれない。だから、本番では無いにも関わらず、一子はあんなに一生懸命に何度も俺にスペシャルマッサージを疲労しようと試みていたとも思える。それだけ俺のことを認めていたのかもしれない。あの高慢ちきな彼女がだ。
それに気づかず、俺はそのたび毎に拒絶していたのだから、彼女が次第に苛立ちを増して行ったのは無理も無い。更に、それに加えて、俺は恥ずかしがる一子に無理な台詞の強要をした訳だ・・・。
彼女は単純なマッサージの繰り返しと、感情のこもった台詞を要求する俺に、
「マッサージに素人のあなたが、そんなに難しい注文をされるなら、私にマッサージをやっていただけませんこと」
ついに、怒りが言葉となって現れた。
結局、それが切っ掛けであった。
俺もそれが不満の言葉とは気付いていたのだが、男のサガとは何ともしがたい。咄嗟に閃いたのはその後の展開。発想の逆転。
状況を逆手に取った俺には、こんな美味しい状況は無いと言った心が、もっこし盛り上がる。
すかさず一子を背にベッドに伏していた俺は、気が変わらない内にと荒々しく立ち上がり、俺の背から驚きながら滑り落ちる一子を代わりにベッドに寝かせて、すかさず逆に馬乗りとなるまで10秒とは掛からないと言った早業。
俺にだってプライドはある。そこまで言われては一子を世界最高峰の頂へと昇らせなければ気がすまない。と言う身勝手な大義名分を頭で唱え、趣味へ趣味へと一目散に走り行ってしまった・・・。
・・・よ~し、一子。お前が未だ見ぬ境地へと誘おう。
俺に心身共に開いてしまえ。そうだ、鯵だ。お前は鯵の干物になって、俺の前で大きく二つに・・・
***自主規制***
そして、あんな付近に、こんな辺り。
降りたり乗ったりetc・・・。
気がつくと吐息が漏れ始めた一子に気を上昇させた俺は、流暢に異世界と思っていた俺の元の世界に存在するAV業界のSMチックな言葉をetc、連発してしまっていた。
「どこが気持ちいいのか口にしてみなさい」
命令形となってetc。
「分かんない」
「じゃあ、やめてしまおうかな・・・」
「いや・・・」
「同じ気持ち良いじゃ、分からないなぁ。肩と背中とソケイ部の気持ち良さの違いを言ってみなさい」
言葉にすることをためらう彼女にetc。
結局。俺は彼女が我に返らぬようにと、喋りに喋り。それが次第に彼女を甚振る言葉となったと言う具合にだ。
こんなことに才能があったのか、何なのか。その時だけは、言葉の洪水。
とめど無く飛び出すボキャブラリーの雨と風。
もしかすると、あの言葉にあの俺の指捌き。里緒はどれだけを目にしたか聞いたのか・・・。
・・・里緒はそれでも俺と一緒に第二スタジオを出ることを選択して、衝立の向こう側で俺の着衣を待っていた。
・・・・・
結局は、どれだけ自分を贔屓目に見ても言い訳を考えても、俺の心に罪があるのは俺自身が一番判っている。
出来れば、こんな態度で一緒に歩くのは非常にキツイ。何とか、取り繕わなければ・・・。
そう思っていたら、里緒はいきなり振り向いて来た。口をこれ以上無い位に膨らませている。
拙い・・・。
内心、両手で頭緒抱えていると、右手が動く。
殴られる!
あれ?
俺にタオルを持った右手を差し出して来る里緒。
「お疲れ様」
そう一言。
「えっ?」
「ハイ、タオル」
「あ、ありがとう・・・」
口元だけは笑うが目尻は依然として完全に怒っている。それに、声にも薔薇並みの棘がある。
でも、どうやら俺に渡そうとしているタオルには、労いの気持ちがあるのだけは間違いなさそうな気がするが・・・スポーツの後じゃあるまいし、タオルをもらうと言うのもはばかられる・・・。
「その・・・、いや、何でもない!」
何か言いたそうな里緒。
今がチャンスだ、取り敢えず謝ってしまえ・・・。
「ごめん」
「何であやまるのよ、謝らないでよね。別に悪い事なんて何もしてないんだから・・・でも、そのちょっと・・・そう、そう。自分の所属している柔軟体操部でもそれだけの熱意をみせなさいってこと!」
「ごめん」
「だから、謝らないでって、”へ校”の為にやってる事なんだから。
そんなことより、じゃあ無くて、その~・・・」
空元気で飛び出した言葉の語尾が消えて行く。
どうしたんだ?
「・・・それと、それと、その~、キ、キスは・・・一子とキスはして・・・してないわよね」
「キ、キス・・・? ああ、し、してないけど」
「ああ、そう。そうよね。それはそうよね・・・」
里緒の顔に綺麗な血色の華が咲く。
里緒の心配はそこであったのか?
問題はそこだったと言うことか・・・。
しかし、確かにキスはしていないが、それは口にであって・・・。
ウシロメタイ気持ちが残る、俺のこの気持ち・・・。
<つづく>