たとえあなたが神の使いでも(転)
里緒とラミア様の第2ラウンド。
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あのね・・・、あのね、工口君。
私、声に出して何て、恥ずかしくて・・・とっても出来ないんだけど。
なんか、なんかさぁ、工口君との全てが嬉しくて、楽しくて・・・、
その~、何って言ったらいいのか・・・ん~、え~と、全てが充実って言うか・・・、
そ、そう、全ての事にね、全てに自分を感じるの。
一緒に居る時も、一人で工口君のことを考えている時も、
気持ちが、凄く動いているって感じるの。
それってね、ホント言うといつもなんだ。
だって、恥ずかしけど、ず~っと工口君のことばっかり考えてるんもん。
初めて会った時から今日までず~っと。
だから、口には出せないけど、心の中ではいつも思ってるの。
・・・。
私の前に現れてくれて、ありがとう・・・って。
工口君と出会えて、あの時、思い切って声を掛けて・・・ほんとに良かったと思ってる。
あの時、初めてのAV撮影大会の”お願いします”で、誰にも声を掛けられなくて、誰かに声を掛けられそうになると逃げてしまって、とっても相方何て決められる状態じゃなかった。
でも、工口君を見付けた瞬間、あなたに脚が向いていたの。
いつの間にか惹かれて近づいていたの。
ドキドキしながらも、脚が勝手にあなたに向かって行ったの。
そして、気が付いたら誰にも声を掛けられなかったのに、自分から「お願いします」って言っていた・・・。
他の出場者には当たり前の言葉なのにさ、私、自分で「なに言ってるんだろう」って思っちゃって、なんだか恥ずかしくて恥ずかしくて。
きっと、顔が真っ赤だったと思う。
でさ、工口君に参加者じゃないって言われて、凄く恥ずかしくて、凄くショックで、名札を下げて無いことに気付かなかった自分に腹が立って、頭にきちゃって・・・、工口君に八つ当たりしちゃって、本当にごめんなさい。
でもさ、そんな私に工口君は謝ってくれた。
この世界のことが何も解っていなかったのに、私の事を思って謝ってくれた。
何にも悪くないのに・・・。
今はね、あの時の事をこう思ってるの。
きっとね、工口くん、あなたの黒髪を意識して、お母さんを思い出して安心して近づいたんだって。
でもね、声を掛けたのはそれだけじゃないと思うの。
なんか、同じ匂いを感じるの。
心が安らぐ匂いがするの。
ドキドキしながら安らぐなんて、おかしいかかもしれないけど、本当に今もそれを凄く感じている。意識している。
きっと、私、あの時も無意識に感じてたんだと思う。
じゃ無かったら、近づいたからって、声なんか掛けられないもん・・・。
家に帰ってから、相方が見付けれなかったよりも、工口君とコンビに成れなかったことがショックで、もう会えないかもしれないと思うと凄くショックで・・・。
そしたら、あの夜に一持さんとうちの食堂に居るのを見付けて、驚いちゃった。
それなのに、お願いしますで断られたことが恥ずかしくて、あなたに当たってしまった。
折角また会えたのに、恥ずかしくて素直になれなかった。
心は弾んでいたのに・・・。
きっと、嬉しくて、怒りながらはしゃいでたから、きっと、変な子だと思われたんだろうなと思ってた。
そんな私でも、あなたは、次の新人大会でコンビに選んでくれて、私を、私だけを探し続けて、見付けてくれた。凄く嬉しかった。
そして、あなたはお母さんと同じ黒い瞳で私に勇気をくれた。
あなたは色んなことを知ってて、”エロ”何て凄いことも知ってて、”キス”って言う大技も教えてくれた。
やっぱり、ラミア様にスカウトされた人なんだて思ってる。
だから、立場が違うことなんか十分に判ってるつもり。
でも、でも、これからもずっと、色んなこと教えて欲しいの。
今日、今日さ、工口くんのアパートに寄りたかったのはね。
本当は、あの初演の時を、特別な時を二人で思い出したかったからなんだ。
役場で特許申請をしていた時からそんな気持ちになってたの。
私に部屋が汚いなんてこと、全然気にしなくていいのに。
そんなの私が掃除してあげるんだけどな。
だって、私の前に現れてくれたお礼も、エロを教えてもらうお礼しなきゃならないもん。
んっ?
あっ、そうだ。そよね。
だったら、これから掃除してあげればいいんだよね。
何で気付かなかったんだろ。
私たちは、特許申請を共有する特別の間柄なんだから、そんな遠慮するなんて可笑しいもん。
そうよね、そうよね、工口くん。
よ~し、やっぱり、思い切って、これから行っちゃおうかな・・・。
――――£
★☆ 第19話 ★☆
☆★ たとえ ♂ ☆★
★☆ ♀あなたが ★☆
☆★神の使いでも☆★
俺、千乃工口に幸運の女神は現れなかった。
里緒を俺のアパートに招く”妙案”と言う女神は、ついに現れなかった。
今現在、俺の前に現れている神的な存在と言えば、”ラミア”様と言う、この世界では天使的存在のへっぽこスカウター様だけだ。こいつは、俺の女神には成り得そうにもない。
因みに、俺はこのへっぽこスカウター様に対してはミドルネームの”ミラミ”と呼んでおり、心の中では禁断の言葉”まほまほ”と呼んだりもするが、決してラミア様と呼んだりはしない。
それは、とっても徳の欠片も感させない平凡未満の貧弱さをこいつが醸し出しているからだ。
今、まほまほことラミア様は俺の帰りが遅いことに対し、3分間マシンガンの様に文句を言い続けた後で、”カップラーメンスペシャルとんこつ味”を満足そうに、ずるずると啜り出している。
その3分間とは、カップラーメンが出来上がるまでの時間だ。恐らくは、それも暇つぶしの為と、心配していたことを照れ隠しする為の自己満足の文句だっただけで、本気に文句を言ってはいないのだろうと思っている。
なぜならば、俺が帰った時のこいつの顔は、帰って来たと言う事実だけで顔が極上に綻んでいたからだ。
まあ、俺にはカップラーメンにお湯を注ぎ始めた時点で、文句を言うだろうことは分ってはいたことなのだが、黙って聞いてやることにした。
こいつも、これまで色々なことがあって寂しかったのだ。話し相手が傍に居ることを、どんな形にせよ味わわせてあげたいと俺は思っている。
しかし、とは言え、そんな居候様を抱えているお陰で、俺はせっかく里緒が自ら進んで申し出た、俺の部屋でエロを教わりたいと言う、一生に一度あるかないかの言葉を遂行する道を選択することは出来なかったのだ。それに関しては、正直腹立たしい気持ちもあるが、こいつにあたってもしょうがない。次回と言う機会を作るしかない。
、
と言う事で、俺はその折角捧げてくれた里緒の気持ちを傷つけずまいと、取り敢えず里緒の大好物のイチゴクレープを一緒に食べ、エロについて適当なウンチクを語ると言うごまかしで帰って来ると言う、不本意な選択肢を選んでしまったのである・・・。
こんなことで、里緒の気持ちを継続させることが出来ただろうか?
里緒の真意は不明だが、これでも、俺の中の最大公約数的な選択なのだ。
もったいない。
非常に、もったいないことをしてしまった。
とは言うものの、ミラミに対して同情心だけかと言えば、多少違ってはいる。なぜならば、こいつはこいつで「本来」可愛いのだ。
喋らなければ、時折スラモチ(スラッと細くはあるが、もちっとした脂肪は感触良くあると言う意)としたそのスタイルで俺は幻を見そうになってしまうことも、しばしばあった様に思う。過去形で。
ただ、こいつは一切体に触れさせない。自分のご都合でのみ俺の体に触れてくるのみだ。所謂一方通行だ。
まあ、それはそれだけでも感触的には満更でも無いのだが、幾分かだけでも花園と言うものを味あわせてくれてもいいのではないかと思ったりもする。・・・もした。過去形で。
しかし、それもこいつと暮らせば暮らす程、何か未接触の人間に対する”未知のエロス”みたいなものを余り感じなくなって来てしまっている。
まあ、それはいっか・・・。
ある意味、こいつの特技なのかもしれない。ただ、その代わり・・・代わりにはならないが、こいつには不思議に放っとけない愛らしさがあって、つい守ってやりたくなってしまう。
もしかすると、こいつは天使では無くて、元の俺の世界で言う魔女なのかもしれない・・・ってことはないよな・・・。
であれば、俺の取る手としては・・・これか・・・。
お陰様で今や遥か上空を飛ぶ鳥をも落とす勢いでアクセス数を稼いでいる初演AVビデオ、タイトル名”初めての柔軟体操”は、恐らくは、二ヶ月後にはきっと、多額の印税を俺にもたらすはずだ。であれば、ここは里緒用の別邸を構えると言うのも一つの手ではないだろうかと思う。
二つの家を交互に・・・。
一日置きか、曜日割か、それとも・・・。
・・・いや、それはよしておこう。
愛人を囲っている様で抵抗がある。何か良くないことが起こりそうだ・・・。
だが、いつかはミラミの居ないところで、里緒が納得するまでエロを教えたいと思う。
必ず・・・。
おっと、危ない。そんな余計なことを今考えてしまっては、余計なエネルギー膨張を起こしてしまう。こいつの前で・・・。
それは、ベッド、いや、ソファーに入ってから考えるとしよう・・・。
なんて、そんな俺の野望も知らず、見ると、こいつは自分だけ先にせっせとインスタント食品で夕飯を済ませようとしている。まあ、そんな姿も可愛いと言えば可愛い気もする。
そんな俺の視線に気付いたのか・・・。
「工口が、夕飯を作らないから悪いのれすよ。ミラミは、さっきまれ食べないれ待~ってたのれす」
と、目尻を下げた横目で俺を批難する。いつの間にか、俺は食事担当となってしまっている。
こうなると、これから一人で夕飯を作って食べると、幾らこいつがインスタント好きでも、どんな批難を向けて来るか分らない。
と言うことは、今日は俺もインスタントとするしかなさそうだ・・・。
「はいはい、自分で作りますよ~。取って置きの”スーパー背油付豚骨ラーメン”か、これで今日は我慢するとするか」
その品名に、こいつは背筋を伸ばして反応だ。思った通りの行動で、嬉しい・・・。
「うえ==、新製品のスーパー背油付豚骨ラーメン!れすか!!
それ!ろうしたんれすか、そんなのお家の何処にも無かったれすのに」
泣きそうな顏で食べる手を止めるこいつに、俺は鞄から取り出す、スーパー背油付豚骨ラーメン。
「じゃん! ほら、明日の昼にでも食えよ」
実は、俺は余りくどいラーメンは好みではない。里緒とショッピングモールを歩いている時に偶然見つけて、こいつへの夕飯のお詫びにと買って来たものである。
「ほんろう!
い、良いのれすか? 工口は食べないのれすか?」
「俺は、スープ付焼きそばが好きなのさ」
と、もう一つ、インスタント焼きそばをカバンから取り出すと、
「ミラミも、それ食べたいれす」
流石に、新製品を貰った後では、言い辛いのか、小声で体をもじもじとさせる。
だが、
「これはやらん!」
そこまで、甘くするのはこいつの為、いや、共同生活する俺のデメリットが大きすぎる。
「工口はケチれすね~・・・」
何? ケチ? 甘くすると、どんだけこいつは自分本位に付け上がるのか分らん。
ここは、聞き流すべきだろう・・・。そう思い、無視を決め込みインスタント焼きそばのラップを取っていると、玄関の呼び鈴が聞こえて来た。
あれ? こんな時間に誰だろうか?
と言うより、俺のアパートに訪ねて来る存在が思いつかない。
と、考えている僅かな間に、
「ミラミが出るれす」
こいつが先に反応してしまった。正直、こいつが動くとろくなことが起こらない、と言う”トラ”と”ウマ”を俺は各一頭ずつ飼育している。
「おい、待て、出るな!俺が出る」
「は~い」
と、俺の声も聞かずに、オクターブ高い声を発して、嫁気取りにミラミは玄関にまっしぐら・・・。
まあ、俺のアパートを知っている人間は、ほぼ居ない。大方はセールス系だろうと思っているとだ。
聞こえて来たのは、
「だ、だれ・・・?」
「そっちこそ、誰なのれすか?」
定型句ではなく、聞きなれた声が驚き合っている声だ。
俺の家を知っている知り合いは、そう、殆どいない。知っているのは二人だけのはずだ。
一人は、役場の住民課のレンズ無し黒縁メガネのお姉さん。しかし、この声は間違いなく違う。
であれば、残るはもう一人しかいない。
そうだ。この声は間違いなく、そのもう一人だ。
これは、G3☆食堂での遺恨の出会い以来の二人の出会いとなる。
拙い!と思う前に俺は立ち上がっていた。俺の脊髄は気持ち良く反射している。
「あの~、此処は工口君、いえ、千乃さんのおうちじゃあ・・・」
「そうれすよ。ここは、ミラミ・・・じゃなくて、私と工口のお家れす」
玄関に向かった俺の視界に入った、里緒の顔がみるみる青ざめていく。
「ミラミ・・・って、も、もしあして、ら、ラ・ミ・ア様・・・」
そんな、里緒の驚いた声に、
「あっ、思い出したれす。ケチ女れすね」
と言う、里緒の気持ちも察しない反応。
里緒を非難していることが、後ろから見てもその姿で分る単純な容姿。
俺が慌てて玄関に到着した時には、里緒は腰を直角に曲げて立っている。
いかん・・・。やはり何かが起こって・・・。
「ごめんなさい、ラミア様。
私、ラミア様と気付かずに、先日は大変失礼なことを・・・」
その里緒の姿勢に驚いているのは。俺よりもむしろこいつだった。こいつも、やっと里緒の心に気付いたらしい。恐らくこいつは、口喧嘩位にはなるのだと思ったのだろう。自慢の可愛いクマさんのパジャマの袖が右手だけ二回ほど捲ると言う気合いの入れ様だ。
呆気に取られて沈黙をしているこいつ。
里緒は顔も上げず膝を折だした。それを怒っていると勘違いしたのだろうか?土下座をしようとしている。
「里緒、いいんだ。大丈夫。ラミア様は怒ってなんかいない。心の広いお方だ」
俺の脳神経は、こいつとの玄関への競争の出遅れをカバーしようと、常にクラウチングスターとの姿勢を保っていた。瞬時の応えとしては、我ながら素晴らしい対応だ。
心の中では、こいつはそれ程のもんじゃなと思いながらも、今は、こいつを奉った方が丸く収まるだろう。
一応この世界では、こいつはそれなりに伝説的な存在なのだ。利用させてもらうとする。
俺は里緒を抱き起す。
里緒の肩は震えて、泣き出しそうな勢いだ。それに気まずかったのだろう。こいつも、
「まあ、誤解はあることじゃれす」
何が「じゃ」だ。こいつの場合、調子に乗っているのか、それっぽく演技をしているのかが分からない。
と言っても、ラミア様本人なのだが・・・。
「休んで行くと良いのらよ」
こいつとしては、異例なお心遣い。ここは、早めに引き取ってもらった方が無難だと俺の勘が叫んでいるのだが、折角の雪解けムードに割って入るのもはばかられる。
少々、偉そうに自分の家扱いをしていることにも腹も立つが、ここは里緒がそのつもりならば、黙って上がってもらうべきか?
部屋が汚いと言うことで、里緒の訪問を断った手前、もう少し部屋を汚して置けば良かったと後悔もするが、今の里緒の精神状態では、そこまで考える余裕はないだろう。と願う。
俺は里緒の手を引き、力が抜けた里緒の体を起こした。そんな状態でも里緒の視線と体制は、俺の家の中へと向かっている。やはり、俺の家に上がるつもりだ。
何事も無く終えますようにと消極的な俺の姿よりも、里緒は余計なことが気になってしまったのか、ミラミを見ている。
「ら、ラミア様は、どうしてパジャマなのですか?」
「寝るから、らよ」
「ここで、ですか?」
「もちろんれす」
「ま、まさか、いっ、い、一緒に住んでるのですか!」
「当然れす。スカウターは親も同然なのれす。さっき、ミラミと工口のお家と言ったばかりれすよ」
ここぞとばかりに、胸を張るこいつ。
里緒は少し生気を取り戻したのか、顔色が良くなっている。それにつれて、表情を取り戻していく顔が心なし険しく見えたりもする・・・。
相手は、何せスカウターラミア様なんだ。
女性と思っちゃいけない。な、里緒。俺もそんなには思ってはいないんだ・・・。
「そ、そうですね・・・」
一応、納得してくれたのか・・・。
<つづく>