たとえあなたが神の使いでも(承)
工口の周囲で巡るAV界での攻防。それを知らない工口は盛り上がって行く。
∮――――
彼と二人っきりで話す機会が訪れたのは、工口君と、里緒ちゃんの特許申請の受領が降りて、数日後のことであった。きっかけは、彼の方からお食事の誘いがあったからで、もちろん、それは役場の同僚には秘密の誘いである。
お誘いは私にとっても望むものではあった。けれど、だからと言ってこのお誘い、胸がキュンとしちゃうような甘酸っぱいものではない。はっきり言って、プライベート的には全く好まないオジンとのお食事会に位置をなしている。
そのオジンこと、彼とは・・・、
私、穴井広子が勤める”第27部 そ地区羊役場”の役場長だ。この人物、今現在、私の中では一番旬な存在であったりする。
間ち合わせをしたのは第27部す地区、隣町の街外れにあるレストラン。
私がそのレストランを探し出すのに多少時間を要した為、既に彼は予約していただろうと思われる窓際の一番端の席に姿勢正しく座っていた・・・。
・・・・・・
呼び出された理由は何か?
と、考えるまでもない。思いつくところは一方面のことのみしか有り得ない・・・。
近頃感じたことのないドキドキ感が、私のそれなりに形の良い胸を破壊しようと高鳴るが、ここまで来てしまえば後は、なるようにしかならない。役場長は直ぐ目の前にいる・・・。
私だってG3女優。ここまで来て戻る訳にもいかない・・・。
腰から下を(心情的に)自動運転に切り替え、歩を進める。
「遅くなって、すみま・・」
と、約束の時間前だが、一応、お詫びをする私に、
「お酒は、飲める方だったかな」
えっ? 意外な言葉が返って来た。
敢えて、私の詫びの言葉を制すると思われるタイミングで発せられた言葉に、一瞬、動揺をしてしまうが、一息つくいて考えると、そう悪い方向ではない気もする。
「いえ、嫌いではありませんが、そんなには・・・」
「そうかい。そんなに硬くならなくても大丈夫。無理に飲ませたりはしないよ」
「いえ、別にそんなつもりじゃ・・・」
見抜かれている。
私の過剰な警戒心が見抜かれている気がする・・・。
見抜かれたぐらいのことで、いとも簡単に引き気味になる自分の精神力にちょっと悔しさを感じるが、ここは虚勢を張ってでも対等に振る舞わなければならない。
「好き嫌いはあるかい?」
「いえ、嫌いなものは特に」
私の普通を装った応えに、彼は少し顏を綻ばせている。
今度は何かしら?
そんな、面白いこと何て言って無いはずなんだけど・・・。
「そんな肩に力を入れて警戒しなくても大丈夫さ」
「いえ、そんなことは・・・」
何で?
事実、肩に力は入っているけれど、名一杯普通に喋ったはず。
そんなに、普通と違って聞こえたの?
「ハハハ、人間、”いえ”何て否定の言葉から入ると時は大概は相当警戒している時さ。大丈夫、私は君の敵ではないよ」
そう言いながら、私の顔色も確認せずに、彼は近くにいるウエイターを呼ぶと注文を始めた。
言われてみれば確かに、その通りだ。全て否定から入っている。
やっぱり、完全に見抜かれているんだ。見下ろされている気がする。
私って、まだまだ青いと言うことなんだろうか。
ちょっとショック・・・。
だけど、見抜かれていると言うことは、考えていることが一緒と言う事かもしれない。
回りくどいことは必要としない。と言うこと・・・。
何かそう思うと、気持ちが落ち着いて来る。
よし、ここで気持ちで負けてはいけない、広子ファイト!
しかし、「君の敵ではない」とは、やはりあの事を指してるのかしら?
もしかすると、もっと大きな意味で知っていると言うことも・・・、いや、まさか・・・。
それに、「敵ではない」と言うのは本心かどうかも分らない。
ただ、彼が私の緊張を解こうとしていると言うことは、今の言葉から間違いない。
明らかに今日の彼の振る舞いは、現在の役場での腑抜けた彼とも違うし、それに、彼が変わった”あの時”以前の振る舞いとも異なっている。正直、気持ちは好感を持ってしまっている。
これが、彼本来の自然な姿なの・・・?。
因みに、この”あの時”と言うのは、塩南間子と密室である役場長室に籠もった僅か30分にも満たない時間のことだ。”あの時”から役場での彼はすっかり変わってしまっている。
あの時・・・。
私達、第27部そ地区羊役場の二階にある住民サービスの窓口は、AV界直営のJRAV会のみで、その他はAV大会の施設、会議室、役場長室等の別室になっている。
その役場の配置に加えて偶然もあるが、役場の職員であの時、あの30分余りの事を知っている者は、私の他には我が役場に出向している”JRAV会の担当所長の一人きりであった。
その為、今でもいきなりの役場長の変貌の原因が分らずに、役場内ではその話で持ちきりになっている。とは言っても、その場にいた私にだって、原因については全くを持って分からない謎ではあった。
役場長本人だって、この役場の雰囲気には気づいているに違いない。しかし、一向に気にする気配すら窺わせてはいない。今までの彼から行くと、考えられない振る舞いだ。
”あの時”以前の役場長は、一見穏やかに見えていても思慮の根底には”出世”と言う隠し切れない野望があることは、私の目から見て明らかに覗う事が出来ていた。だから、一線を画するべき人物だと、ずっと思い続けていた。
しかし、どうしたのか・・・?
あの時から彼は温和どころか、全く威厳の欠片も無く、ふぬけたナマコの様になってフネフネと愛想を振りまいている。
因みに、”あの時”同席していたJRAV会の所長も、あれから暫くの間、虚ろな目で口を閉ざしたまま多くを喋ろうとはしなかったし、今だって雰囲気はすっかり変わってしまっている。
まるで、二人は”あの時”に誰かに催眠術にでも掛けられた様にだ。
まるで、あの時に彼らと話していた、塩南間子に・・・?
いや、まさかそれはないと思う。と言うよりある訳がない。
私だってあの場に居た。確かに、役場長は塩南間子と2~30分、役場長室に消えて行ったが、少なくてもJRAV会所長に関してはずっと、私の視界の範囲内に居たのだし・・・。
彼女がいくら次期G1戦士候補筆頭のG2女優だからと言って、それが真の実力でのものだからと言って、そんな人間離れした芸当が出来る筈がない・・・と思う。
さっぱり意味が分らない。
”あの時”塩南真子が役場長を変えたのか、それとも違う要素が偶々同時期に起ったのか、或いは何も変わっていなく、彼の本来の出世目的の一貫の行動なのか。いや、最後のだけは無さそうな気がする・・・。
何れにしても、あの時から役場長は変わってしまった。そして、その”あの時”は、工口君の特許申請問題が掛かった時なのだ。
このタイミングでの役場長からの誘い。工口君のことに関すること以外には考えられない。だから、今回、食事を誘う人選が私であった理由等、やはりこれしか考えられないと思う。
”工口君の移転届の偽装を行ったこと”と、
”工口君がラミア様にスカウトされたと言う事実確認”この二点。
”敵ではない”と言うのは、このことに関連してのことかもしれない。
工口君が異世界から来たことがバレた、或いは、思われてしまったのは住民課の上司である大楽毛右左課長が、工口君を疑ったから漏れてしまった可能性が高い。
だとすれば、工口君が有り得ない、建前上で何処の役場にも置いてある紫色の”異世界からの移転届け用紙”で、移転届を提出したこと。そして、スカウター名にラミア様と書いていたことで、その時何も知らなかった私がその不審さを課長に相談をしてしまったことが発端となっていることは間違いない。
その後、工口君に同行していたのが騎乗レジェンドであることを、騎乗レジェンド本人が私にだけ明かし、更に私にだけ、工口君のスカウトの真実を話して来た。そして、騎乗レジェンドの指示で私は、課長には夢見がちな変わった少年と言うことで、実際は第48部からの移転と言うことでごまかしをした。
あの時、大楽毛課長は納得したようにしていたが、疑っていたのかもしれない。
課長は、工口君の髪の毛はともかくとして、瞳の色までも気に掛けていたか、或いは、言動に不自然さを感じて、役場長に何らかの報告をしたのだろうと思う。
課長は住民課に長い。今では、もう都市伝説にもなっていない、萬顔出の”初演の秘密”は知っている可能性がある。であれば、それ位は常に頭にあるずだ。そして、彼が発端で近藤家にまで伝わったと考えるのが自然だろう。
もしかすると、工口君と一緒に移転届に来たのが、騎乗レジェンドに気付いた可能性だってある。
先日、騎乗レジェンドの依頼で、私は彼に単純な引っ掛けの工口君の噂を仕掛けた。それを罠とも知らずに、彼はすかさず役場長室に向かった。根拠の無いことも、単純に報告しに行っていた。
それが、課長の裏に潜む出世行動なのだ。大人しい割りに影では、何でも喋る滑らかな口をしている。
そんな彼の行動に、今まで私は気付きもしなかった。
全く、甘かったとしか言いようがない。甘過ぎて吐いちゃいそうなくらいだ・・・。
ただ、真っ先に役場長に告げに行ったことからも、この性格から言っても課長は役場長に話しただけであり、恐らく直接近藤務家との繋がりは無いと思う。
であれば、役場長が、騎乗レジェンドと私が工口君の真実を隠す工作を行ったことまでを近藤務家に報告さえしていなければ、目の前の役場長さえ抑えてしまえば何とかなることになる。
今、彼の言った「君の敵ではない」と言う言葉はの真意は、近藤務家との繋がりは無い。もしかすると、その意味なのかもしれない。
そうだ、あの時だって繋がりどころか、完全に敬遠していたはずだ・・・。
工口君と里緒ちゃんが帰ってから、間もなく役場に姿を現した”近藤務家の副家長”レジェンド”近藤弐枚”に対して、役場長は腑抜けたゴマすり役人を演じ続けていた。二人だけで話しをすることさえもしなかった。
近藤務家副家長が現れた理由は、近藤務家が意図的に各役場に”新人の特許申請保留”の指示を出して、工口君と里緒ちゃんの”キス”と言う特許申請の妨害しようとしたのだったが、目の前の役場長が彼らの出した指示を守らなかった為に、それが上手く行かなかったからだ。その怒りをぶつけにと言うことは明白だ。
ともすると、役場長や、JRAV会所長の即座左遷だって強引に行ってしまうのではないかと言う勢いであった。
しかし、それを役場長はあっさりと交わしてしまった。見事な位に外部の人には見せられない行動を職員の前でそれを平然とやってのけたのだ。
役場長は、工口君について迫られると、まるでボケ老人の一歩手前の様な態度で、交わし続けた。
それに堪らず、近藤務家副家長は役場長に言った。
「次の人事を期待して待ってるんだな」
しかし、それに対しても役場長は
「はは、有難うございます」
と、昇進でも約束されたかのように、全く空気を読まずの揉み手だった。その場を凌ごうとしていた。
「このバカが・・・相手にならん!」
鼻息荒くそう言い残すと近藤弐枚は呆れて帰ってしまった。しかし、その後姿を見送る役場長から溢れ出る見下すオーラを私は確かに感じた。そして、彼はその時の演技を未だに役場内で続けている。
一体、役場長は何に向かっているのだろうか?
何を考えているのか?
取り敢えず、彼の挙動の真意が何なのかを掴まなければならない。
確かにそれは演技だが、彼は明らかに変わった気がする。
変わったのは、腑抜けなナマコ役人の表向きではなくて、死んではいないあの目だ。何かを見据えている瞳だ。
確実に依然と違う輝きが感じられる。彼の根底にある意思でも変わったかの様だ。
これも、全てが”あの時”からなのだ。
彼女との間に一体何があったのだろか?
2~30分の密室で、彼女は役場長に何をしたのか?
何を話したのだろうか?
でも、分らないとは言えそれは私達にとって、今のところ功を奏している様に思える。
ここは私が真相を掴んではっきりさせたい!
私の直感が間違っていなければ、敵ではないどころか、役場長を味方に出来る可能性も大ではないだろうかと思う。
そうだ、ドキドキ何てしてられない!
気持ちを強く持たなければ、テーブルを挟んで目の前の役場長をこちらに取り込むこと何て出来はしない・・・。
私の目まぐるしい思考に対して、目の前の役場長は、何気ない仕草でウエイターが運んできた葡萄酒を口にしている。
テーブルの向こうの彼の真意が見えない。
勤務時間が終えたとはいえ、見慣れない役場長がそこに居る。
彼は敢えて私にそう言う姿を見せているのだろうか?
私から先手を打って見ようか?
そう思うと、駄目だ。また、ドキドキとして来た。
でも、ここは私も落ち着いて見せなければ負けてしまう。目の前の相手を飲み込むんだ・・・。
私も名一杯何げ無く、葡萄酒を口にしよう。
私がグラスを置くと、彼が再び口を開いた。
「穴井君は、世の中で一番強いのは何者だと思う?」
先手を取らてしまった。
と、思ったら、いきなり何を言い出すのだろう?
一体、私に何を言わせようと・・・。
「何者って・・・レジェンド様とか、近藤務家の家長ではないかと・・・」
いきなり言われても、そうとしか私の頭には浮かんでこない。
「ハハハ、すまなかった。質問の仕方が悪かったね。
確かに権力と言う意味では、そうだね。でもね、丸干しの一対一の勝負で一番強いのは”バ○”だとは思わないかい。前提として、そこそこ世界が平和であればだけどね」
なにを・・・。
役場長は、何を言ってるのだろうか?
「論争になればなる程最強さ。バ○には理論も何も通用せんからね。
まあ、理屈も屁理屈も含めて、頭を使った者は大概は呆れて折れてしまう。この間の近藤務家副課長近藤弐枚、彼の様にね。
そこそこ平和な世の中、バ○に敵う者なんていないんだよ・・・」
「そうなんですか・・・」
あの時の彼の態度は、そういう意味だったと言うこと?
ちょっと極端ではあるが、役場長の言わんとしている事が分からないでもない。現に、役場長も近藤務家副課長に対してやってのけたのだ。
しかし、本当に左遷されたりしないのだろうか・・・?
「私はバ○になって、この身を守ろうと思う。この地位を失いたくなければ、世の中の邪魔もしたくない。人としてね。
君は、副課長も言っていたように、私が左遷させられるのではないかと思っているかもしれないが、大丈夫さ。
彼が本当にこんな下々まで直接構ってしまうと、逆に彼が何かを企んでると表立ってしまう。
そうならない様にするには、部下を使わなければならないが、役場はAV実行省とも深く関わっている。それがどう言う意味かは、君には言うまでもないと思う・・・」
一持握、AV実行省の実質的に握っているのは、騎乗レジェンドだ。彼のことを言っている。
騎乗レジェンドのことを、何処までかは分らないが、ある程度のことを知っている。
それもかなりの自信を持って知っている。でも、
「・・・だから見てみようと思う。この世界の成り行きを。”神話の書”に掛かれたスカウトされた者のパフォーマンスを」
やっぱり、彼はもっと知っていた・・・。
しかし、工口君が本当にラミア様にスカウトされたかどうか何て、私も分かってはいない。
役場長だって、半信半疑に違いない。ラミア様の存在にだって、目撃の噂は多いが、私だってお目に掛かった事はない。
そう言えば、騎乗レジェンドのあの確信はどこから来るのかしら?
役場長もその確信の元の行動と言うことになる。その確信とはどこから来るのかしら?
しかし、はっきりしているのは、13年前の御法度で姿を消した。萬香出と言う、ラミア様にスカウトされたと、一部で噂された女優。そして、赤いマスクの陰で良く見えはいなかったが、本来は原色が全く混じっていない黒い瞳で、そして、初演の時は黒髪だったと噂のあった女優。
工口君の瞳と髪の毛が彼女と同じ色をしていると言う事実だけだ。確かに珍しいが、それだけのことではないのだろうか?
・・・・。
いや、違う。俳優としての実力が二人とも抜きんでている。そして、演技がこの世界では未知の行動だ。
そう言う私だって、移転届の偽造や、AV大会出場資格等の本来は不正行為であることを、当たり前の様に行っている。幾ら、騎乗レジェンドから直接頼まれたと言う気持ち的な名誉があったにしてもだ。
私だって、何かを感じてるんだ。妹の狭子だって、”へ校”で工口君を見た瞬間から、特別なものを感じたと言っていた。ここまで来たら、直感を信じるしかない。
信じよう・・・。
今は、もう少し騎乗レジェンドを信じよう。彼の言っていることを信じよう。
あれ?そう言えば、この間役場で見た里緒ちゃんも、工口君程の真っ黒ではないにしても、ほぼ珍しい黒色だった。
これは、偶然、なのかしら・・・。
私が思考を巡らせているのを待っていたかの様に少し間を取って、役場長は再び口を開き始めた。
「今、変革の時期なのであれば、そちらに乗る方が、当然のずるい人間の生きる道さ。目先に捉われず、風を読む。それが、私の考え方だ。
君は私を出世思考な奴と思っているが、否定はしないが微妙に違っているんだよ。
私は、今の自分の生活が上に向けばいいと思っている。それは、相対値的にではなくて、絶対値的になんだ。
出世と言うのは周りとの相対関係でしかない。上にいても周りと一緒に低いんじゃ意味が無い。
そうではなくて、周りが、この世界の絶対値が高ければ、出世しなくても今よりいい生活が出来るじゃないか。
私の判断はそこにあるんだよ」
「私は、皇、いや、塩名間子と言う女優の魔法にかかったのか、目を覚まさせられたのか、それが何だか分らないが、自分の進む道に妙に自信が持てる様になったんだよ。
彼女は、恐らく次のAV界、いや、新たな世界かもしれないが、そこに名を残すだろうと思う、全ては隠された”神話の書”のままに・・・」
いきなり何をいってるのだろうか?
隠されたって・・・。
途方もない話しに付いていけない・・・。
「君は、私のことを鞍替えしたと批難するかもしれないが、それは事実なのだから構わない。
ただ、今はそれを黙っているべきだと私は思うよ。
君が、いや君達がどちら側の思想の持ち主なのか、私は判っている。だったら私を利用すべきだと思う。
賢い君だ。そんなこと言われるまでもなくそうするとは思うが、風見鶏の様に風向きで向きをまた変えはしないだろうかと心配になるだろう」
「そんな、何も、自分は・・・」
上手く言葉に出来ない。この人は、大方私達のことを知っているのだ。
「それに、私はそんなに近藤家と繋がっている訳では無い。事実、出世の為にあるレジェンンドに工口君のことを告げはしたが、君と騎乗レジェンドのことは近藤務家には伝えてはいない。
自分の役場の不祥事を伝える訳は無い。工口君が一人で移転届を出しに来たと言うことになっている。安心して欲しい。
信じるかどうかは、もちろん君次第だが、その心配は無いと私からは伝えておくよ。
私は、自分でバカだと思ってはいない。だから、先行投資として君達側にいようと思う。次の世界を築だろう君達にね。バカになった役場長として。
なぜならば、理屈では無く、この先を私は感じてしまったのだからね・・・」
彼は最後まで、自分を守って欲しいとも、仲間に入れてくれとも言わなかった。自らは、自らと言う姿勢だった。なのに、彼の姿からは根拠が無いはずなのに、何故か確かな自身が感じられた。
不思議にも・・・。
・・・・・・
役場長は私との二人だけの食事?密会?で、内容は驚くべきものだったが、一方的にそう告げただけだった。
結局私は何も出来なかったが、何もせずして、私のドキドキとした食事は思いも依らない成果でご馳走様を迎えた。もちろん、彼の言っていることが嘘でなければだけど・・・。
私は、取り敢えず彼を信じようと思う。
それは、彼が前々から私の目的に気付いていたのかもしれない。いや、私たち第48部の近藤務家に対する反乱を企てる精鋭達のことさえも疑っていたと感じさせるところがあったからだ。それを、知っていて今まで黙っていた様にも思える。
それに、彼の言っていた考えは、私の考えと通じるところがあった。
ただ、彼は、実際の私を誤解している様に思う。今は騎乗レジェンド、一持握に協力はしているが、もし志が違っていれば、それはいつでも裏切るつもり。私たち第48部の利益に適わないのであれば・・・。
私は自分の勘を研ぎ澄ませて、間違いの無い判断をし続けてみせる。
この世界を変える為に。
しかし、彼の心変わりが塩南間子からだと言うことは分かったが、一体、塩南間子から何を得たからと言うのかしら・・・。
――――∮
(時間は元に戻って・・・)
★☆ 第18話 ★☆
☆★ たとえ ♂ ☆★
★☆ ♀あなたが ★☆
☆★神の使いでも☆★
距離が確実に近い。たかだか36度余りの温もりにも関わらず、こうして空気を媒体にして確実に俺に伝わって来る。
俺、千乃工口は、今、この温度だけで若き血潮と言うエナジーを収束し始めている。身体を無防備に発動させようとしている。
それも、この温度が妄想を呼び込んでいるせいだ。
拙い?! 駄目だ。このままでは、目覚めてしまうのもそんなに先の事ではない。
なんだかムズムズとした宙吊り状態のこの攻防が意外と心地よく、いや気持ち良く、体が要求してくる。
妄想が、妄想が止まらない。
理性が、欲望に包まれてしまいそうだ・・・。
拙い!拙いぞ!
このまま一部位を、封印し続けることが、俺は、俺は出来るのか・・・。
この妄想、いや、温度の熱源は、我が柔軟体操部の部長ちゃんであり、前回のAV大会の俺の相方の千逗里緒である。
初めて里緒と共に下校した時は、付かず離れず1メートルの距離を部長様の命により強要されたものだった。しかし、どうだろう?
完全に今はその縛りから開放されている。されているどころか、俺の歩みに合わせて里緒が俺の直ぐ脇を維持している。
意地悪く少し早歩きすると、こいつも一生懸命にニコニコ笑いながら小走りに付いて来る。ずっと、里緒の顎は上がりっ放しだ。
愛らしい。愛らし過ぎる。俺の28個ある性的ツボの内、おそらく半分は自動運転を開始しているだろう。
駄目だ、制御だ制御だ。何とかそれっぽいホルモンを分泌させて止めるんだ。俺の体の指令系統よ!
なんて考えても、俺のエナジーが確実に少しずつ位置部位に収束しつつある。
こんな他愛もない間接的な接触など、部活で相当抵抗力が付いたはずなのだが、どうしたと言うのだ。
どうして、そんなにも妄想へと繋がる・・・。
部活着から比べると、完全防備服とも言える制服越しである。確かにミニスカートだから里緒の美脚はお目見えしている。しかし。距離が近すぎて眺めることは叶わない。それに、既に結構拝んでもいる。にも関わらずだ。
何を、現物を前に妄想しているのだ。俺は・・・。
このAV界、物理的接触やAV大会の演技中に男的部位が、元気一杯になることに対しては恥ずかしがることで無いことは、二人しかいない柔軟体操部の後輩男子の砂万名と、島との何気ない世間話から学んだ。
確かに、それは部活でも何度も経験しているし、里緒とのAV大会での初演でもそうだった。里緒は俺の元気印に何の反応も見せなかった。
ただ、この世界では自然発生的な妄想等の感情での元気促進は、とても恥ずかしいことなのだ。
何分、感情を表すことを恥ずかしいとするのがこのAV界の人間なのだ。
よって、今俺はこの何の接触も無く、演技でも無い状態で血潮を結束させる訳にはいかない。
気持ちを抑えなければならない。世間体は大切だ・・・。
しかし、里緒はどうしたと言うのだろうか?
二週間位前はあんなに一緒に歩くことを恥ずかしがっていたのに、今や”並んで歩き歴10年”と言わんばかりの落ち着きだ。
まだ、二回目だぞ。一度の経験で女性と言う人種は、男女間の行為を自分のものに出来てしまうのだろうか?
確かに、妹の少毛も初めてのキスを経験して家に帰って来た時は、終始宙に浮いていた感があったが、それ以降は俺に余計な報告をしてくる中にその行為はあるものの、ベテランの風格を感じさせていた。
そんな俺の攻防を我知らずと、今度は里緒の手が、肩がコツンコツン俺にぶつかり出す。
こいつ俺と手を繋ぎたいのだろうか?
視線を落とすと、里緒の小さい手が揺れている。小さくて滑らかそうで可愛い。
掴みたい。掴んでみたい。
掴んでみようか?
こいつ、どうするんだろうか?
たかだか手だとは言え、街中で手を握るのは初体験だ。
ちょっと待て、その前に俺も初体験であり。俺が恥ずかしい。
俺の元の世界でならまだしも、この世界の高校生が手を繋いで歩いているのは、未だかつて見たことがない。
それに、こいつはそこそこ有名人だ。大通りに出てからは結構視線を浴びている。
なのに、こいつは平然としている。お前、極度の恥ずかしがりやでは無かったのか。それとも、俺と並んで歩くことが、それを凌ぐ行為と受け止めても、俺の買い被りではないと思ってもいいのか?
いかん!そんなことを考えてしまったせいで、出力が30%を超えそうだ。
恐らく70%を超えてしまうと、ズボン越しにも何らかの隆起が人目からも覗えてしまうだろう。
こんな、何のメリットも無い状況で、欲望に身を任せてもいいのだろうか?
良くは無い。だが、抑えきれない。
抑え切れない自分がいる。
だったら、ものは、試しだってか!
よし!
よし、イケ!
俺は一瞬里緒より半歩下がって、元気良く前後に振れる手に狙いを定めると、虫でも捕まえるように親指と人差し指の日本の指で前後に動く里緒の小さく滑らかな手へと、えい!やっつ!
掴んだ!
掴んだと思った瞬間、スルリと里緒の手が瞬時に俺の二本の指から逃げてゆく。まるで真夏の虫の様に・・・。
しまった、やっぱり無謀だったのか・・・。
高速に頭を巡る後悔。
中央に集積しつつあるエナジーが、心臓の激しい鼓動とは裏腹に勢力を弱め、冷やりとした身体を作り上げていく。28ある性的ツボも順次解放されていく。出力も5%を切る・・・。
冷たい汗が吹き出し、ひ、貧血がおきそうだ・・・!
そんな俺に、小走りに数歩前に出た里緒が振り返って、意外にも何も無かったかのようにっ接して来た。
「ねえ、工口君。今度のAV祭だけどさ、テーマはやっぱり、”制服とエロ”なのよね」
なんて、俺に聞いてくる。
「えっ?」
俺は辛うじて騒がれなかったことに喜び、更に冷静に里緒の笑顔を確認でき、血の気を感じて来る。
「だって、今年の柔軟体操部のテーマだもん」
確かに、そうだが・・・。
「ねえ、どんな発表にするか案はあるの?」
「いや、まだなんだ。いい案が思いつかなくて」
「ねえ、今日工口君のアパートに行っていい?
エロを教えて欲しいの!そしたら、私も一緒に考えれるから・・・」
ホントか? マジか?
嘘っこ無しか? こいつも、催しているのか?
確認だ。取り敢えず確認してみよう。
「俺のアパートで、エロを?」
急激な出力アップが、俺を壊しそうだ。妄想を、妄想を封じ込め無ければ!
「だって、私は部長なんだから。我が柔軟体操部の実行委員が困っているのに黙って見てるわけいかないの。
だからエロを教えて、ね」
うっそー、と言う事はプライベートで、時間制限も無に最低限AV大会と同じ程度の事を出来ると言うことなのか。お互いの同意の基に。
おれはもちろん意義なしだが・・・。
もちろん、教える。お前が満足いくまで教えてやる。
教える・・・ムズムズ。
あれ、教える?
教えたいが・・・何か引っかかる。
何だ?
あっ!ダメだ。無理だ。
家にはあいつがいるじゃないか。
この世界での天使的な存在、まほまほスカウターのラミア様がいるじゃないか・・・。
しかし、こんな機会みすみす逃す訳にいくか!
な、何か、何かいい方法はないものだろうか・・・。
<つづく>
相当、書き直したのですが・・・。