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萬のエロはしその香り   作者: 工口郷(こうこうごう)
第3章 三校合同AV祭
62/73

うっそー!里緒全速力

里緒の特許申請が間に合わない?

й――――


「朝っからお茶をすすってのんびりと雑談とは、

 さぞ世間に申し訳なくてお疲れのことでしょう?


 少し仕事でもして、心を休めることをご提案させて頂きますわ。

 きっと世間の人達も理解してくれることでしょう。


 ・・・?


 目があっちこっちに踊ってらっしゃいますが、私の言葉は理解出来てらっしゃいますか?」


「いえ、もちろんヒ・・(ニク)、お言葉は理解しております。

 私どもも手が無いと言ってるのでは無いのですが・・・」


 休み明けの月曜日の朝、”第27部 そ地区羊役場”。

 30メートルも離れれば、一見、いつもの様にすずめがチュンチュン鳴きそうな穏やかな朝を迎えた様に見えるだろう。

 だがその実は、JRAV会の窓口ただ一箇所から吹き荒れる寒波が、フロアー全体をとびっきりの寒さに凍て付かせているのである。


 そして、その根源が誰あろう、僕、一軸完治いちじくかんちと行動を共にしている、G1戦士に一番近いと言われる女優、塩南間子しおなまこ嬢なのだ。脱帽だ・・・。


 もっとも、その状況は僕にとっては全く正反対で、とても頼もしく温かく映るのだが、きっとJRAV会窓口で対応している彼にとっては、自分の悲運を嘆いても嘆ききれない状態であるのだろうことは安易に想像出来る。


 見るからに何とも言えない彼の様相が、それを物語っている。

 ホント、彼女が味方であることを心から感謝したいと思う・・・。


「私は、”急いで申請の手続きお願いします”と簡単なことを言ってるだけで、

 ”急いでお茶をすすれ”何て難しいことを言うきは全くありません。


 それとも、私が特許申請の手続きを急ぐことに何か問題があるとでも言われるのでしょうか?

 もし、有ると言い張るのなら、問題の部分を順序立てて簡潔に説明して頂きましょうか。

 400文字程度に!」


 口調は至って穏やかだけど、妥協を許さぬ理路整然とした厳しさに、棘のある言葉が相手をチクチクと責め付ける。それに、撮影中から掛けっ放しの真っ黒なサングラスが、威圧感を与えるには充分な効果がありそうだ。

 冷静に見れる味方の僕には、女性スパイの様になかなか似合っていて、カッコ良過ぎではあるのだが・・・。しかし、

 正直、彼女と会うのは4~5度目だが、あんなに強い感情を見たのは初めてのことで、その意外さには驚きを隠せない。


 10数分程前までの僕との濃厚な絡みが、全くを持って信じがたく思える。

 流石に人気G2女優だ。別人の様に見えてしまう。こんな彼女に攻められているのだから、防戦一方なのは仕方のないことだろうと同情するが・・・。


「いや、あの~、その~、個人調査が済んでからでないと、その~申請登録は出来ないことになってまして・・・」


「あら?

 そんな法律、聞いたことないわね。

 と言う事は、私自身に何か問題でもあると?

 体を調べたいのならここで脱ぎますから、隅々まで眺めるなり触れるなり、するといいでしょう」


 彼女はそう言うと、何故かコートのボタンを下から外そうとする。その演出はさすが次期G1戦士最有力候補といったところだろうか。


 肩幅よりも少し開いた姿勢からは、脚の付け根までもがコートの合わせ目から見えいてもおかしくない位置関係のはず・・・、いや、ぎりぎり見えていないだろう。

 後ろから見る僕には断定は出来ないが、それが女優、塩南間子の演技力なのだ。


「とんでもございません」


 慌てて、彼女の合わせ目を押さえ様と手を伸ばすが、彼女はその手に太股を押し付ける。


「では、今すぐ特許申請の手続きをして頂きましょう。

 書類はここに揃っています。後は押印をして、入力さえしてくれればいいだけのことです。

 手続きをしたフリをしても、第27部庁、いえその先のAV管理省に確認をしてもいいわね。私の知人も大勢いることですしね・・・」


 はっきり言って僕も顔の広い方だが、ムチ有り、アメ有り、謎のスパイス有りで、今の彼女に勝てる者は、僕の知っている範囲では誰もいないことだけは自信を持って言えそうだ・・・。



 今、僕と塩南間子しおなまこ嬢が、こうして一緒に”第27部 そ地区羊役場”に来ているのは他でもない、千乃工口ちのくぐち千逗里緒せんずりおの特許申請の権利を守る為である。


 現在、新人俳優の二人の”キス”と言う特許申請が、ある権力者の故意的な行動により保留されており、さらには、奪われようとしている。


 AV大会の法律でいけば、特許申請は先に申請した者勝ちである。保留中にこの”先”にあたる者が現れてしまえば、彼らの権利は保留のままとなってしまい権利を得ない。

 だから、誰かに奪われる前に僕たちがその一番の権利を得ようと、朝早くから”キス”と言う大技を盛り込んだAV撮影を終わらせ、特許申請に来ているのだ。


 と言っても、そんなことをする度胸と言うか理不尽な奴らは、幸いにも必死に権力を守ろうとしている奴らしかいないのが、このAV界の道徳の高さと言うか、お人好さ加減だ。


 こんな世界で僕たちの目的を知らない視聴者が見れば、僕達の行動は非道徳的な行動と受け取られ非難されてしまう。だから今回は謎のコンビとして、二人共真っ黒なサングラスに演者名までを変えて出場をしたのである。

 

 この僕達の非道徳的行為の首謀者は、僕たち二人の何れでもないく、他に居る。

 こんなことを平然とやってのけるのは、他でもない僕の大学の先輩であり、今はこのAV界を動かす一員のレジェンンドである一物握いちもつにぎる先輩である。


 では、何故こんなことに僕が加担しているかと言うと、それは学生時代に彼の”本当の目的”に偶然に触れてしまったからなのである。

 僕が、彼の目指す所こそがこの世界の向かうべき未来だと信じたからなのである。


 それ以来、僕の目標はそれまでの一般的な目標や夢から、一変してしまった。

 どちらかと言えば、今までの夢や目標を壊す方向に向かっている。それでも、今は彼を支持することに僕の夢を捧げてしまっているのだから、人生は不思議なものだ。


 彼はそれだけの器であるし、それを実行する力量がある。

 そして、その彼が千乃工口を認めているのだ。

 僕としては少し嫉妬もするが、同時に彼の能力に早く触れてみたいと思っている。先輩をここまで動かす彼に・・・。


 と言うことで、僕は今ここに居るのだ。


 特許申請に一番近い場所の一つを提供出切る、最近先輩の同士となったこの役場の職員、穴井広子に頼んで、朝からこの役場の倉庫で塩南間子との濃厚な辛みを行ったのである。


 撮影終了後、ビデオ編集もしないで窓口に来ている為、今の二人格好は、裸にコートと言うワイルドな状態だ。


 僕が一持先輩の秘書である小山内路里から貰った先輩からのメッセージに書かれていた依頼は二つ。その一つは、とにかく最速で千乃工口君のあの口を重ねる”キス”と言う大技の特許申請をして欲しいと言うことである。

 特に、その為の撮影場所や、申請役場の指定までは書かれていなかった。


 それでは何故、幾つかある申請に近い場所からこの役場の倉庫を選んだかと言うと、今JRAV会の窓口で圧倒的な強さで攻め立てる塩南間子嬢から、”第27部 そ地区羊役場”で申請をしたいとの選定があったからである。


 その目的は、間違いなく自分の受け持つ”生徒”の為なのだろうと僕は思っている。

 心の底からの怒りのオーラが半端じゃなく感じられる。


 一度、演技とは言え肌を合わせた相方であれば、大まかに位は性格を掴む自身はある。僕だって彼女程ではないがG2男優のはしくれなのだ。


 彼女は、きっとこの役場の誰かに、教え子である千乃工口君の特許取得を邪魔されたと考えたに違いない。だから、その者に対して、僕には可能とは思えないが、再発させない何か圧力を加えたいと考えているのではないかと思われる。


 実は手はずでは、住民課の穴井広子がJRAV会の窓口で手続きをしてくれ、上手くいけば簡単に終わる段取りはしていたのだ。だが、裏から全役場に何らかの通知が回っていたのだろう。穴井広子が役場長の印鑑を貰いに行くと、彼女の変わりに中年の男性が現れたのである。

 恐らくは、この役場に置かれたJRAV会の出張所所長だと思う。


 多分、彼の様子から、ただ単に忠実に上司の命令通りに申請を遅らせようとしているだけなのだろう。行動にも職務に対する意思にも、信念も感じられない。塩南間子嬢に責められてタジタジなのだから。


 未だ近藤家の息のかかったこの役場の主犯は出て来ていない。だから、もし順調に行っていれば、下っ端とのやり取りで手続きが終わる可能性が高かったとはずだ。それが普通だ。

 だが、彼女は最初からこの役場で何かをしようとしていた。

 と言うことは、手続きが順調に終わらず、きっと、この後この役場の主犯が現れる。

 塩南間子は、そこまでも予測していると言うのだろうか・・・。


 それに、一持先輩もだ。彼もある程度の予測をしていたと”ふし”がある。G2大会の少ない参加者であれば全員を調査もしているだろう。そして、二大特許を持っている家号を含め、この特許を狙っている者が僕達より早く申請が出来ないようにしている手を打っていると思う。

 

 それでも、先輩は「彼女の意思は尊重すること!」そう、二つ目のメッセージを僕に伝えている。

 それがこの為だったのだろうか?

 もしかしたら、彼女が本当にこの役場に圧力を掛けられると言うことだろうか?

 まさか・・・。


 二人の信頼関係って未だに・・・。


 それでも、ここは少しでも急ぐ必要がある。先輩が最速を僕に指示しているのだ。

 何があるか分からない。と言うのが手堅い先輩のやり方なのである。彼女もそれは承知の上だ。


「とっととお願いするわ。此処にちょっと押印して、システムに打ち込んでくれればいいのよ」


 JRAV会の登録は住民登録と違って、手作業での書類管理では無い。全て端末でのデータ処理になっている。それでも、当然と言えば当然だが役場の承認印は必要だ。


「それとも、私が特許申請を行うと何か問題でもあるのかしら?」


 幾つかのやり取りの後でも、窓口の男も相当に打たれ強いのか、はたまた、上から相当の圧力を掛けられたのか、屈することをしない。

 ただ、塩南間子の攻撃との狭間の中で弱り果てた様だ。目を閉じてうな垂れたまま石造の様に固まってしまっている。全く微動だにしない。


 これでは幾ら彼女でも彼の意思を動かすのは難しい。

 僕も何か他の方法を考えなければとは思うが、本当に無理やり脅しす以外に手など考え付かない。

 

 どうするか・・・。


 と思っていたところにだ。


 彼女は徐にカウンターに腰を下ろし、下を向いたままの男の顎に軽く手をあてた。


 こんな時なのに、僕はコートの合わせ目からスラリと伸びる彼女の脚に目が奪われてしまう。それは窓口の男も一緒みたいだ。彼女の御御足おみあしにさっきまで閉じていた目を見開いている。


 こいつは、薄目を開けていたのだろうか?

 それとも彼女のオーラがそうさせたのだろうか?


 それにしても、塩南間子は一体何をしようとしているのだろうか?


「失礼よ・・・フフ、話している相手の顔は見るものなの。

 さあ、顔をこちらにお向けなさ~い・・・」


 その言葉に、少なくても自分の非礼を感じたのだろうか、男が顔を上げる。

 彼女はそれに合わせて、掛けていた真っ黒なサングラスを少しだけ下にずらして、上目遣いで男を見る。

 

「さあぁ~、問題があるのなら役場長さんを呼んで、説明してもらおうかしら?

 ね~え・・・」


 いきなり甘い声、そんな戦法をしたところで無駄だろう?

 そう思っていたら、


「は、はい。只今お連れ致します」


 どういうことだろうか?

 何が彼を変えさせたのか?


 窓口の男は、一瞬にして真っ青だった顔に血の気を戻して、あんなに頑なに固まって耐えていたのに、彼女の言う事を素直に聞いている。


 どう言うことだろうと思っていたら、ずれたサングラスを直した彼女が僕の方を振り返り。


「申請書、受け付けてくれそうよ」


 そんな勝利宣言んをして、口元を綻ばせる。

 一体全体何が根拠か分からないがそんなことを言う。


 そして、あからさまにシブシブやって来た役場長が、


「塩南様、困ります。

 幾らG2で著名な塩南様でも、物事には順番と言うのがございます。全てが直ぐにと言う訳には・・・」


 と言いかけたのだったが、彼女が再びサングラスに手を掛けた瞬間。役場長の顔色が変わったのがはっきりと分かった。

 人間の顔色が絵の具でも塗られたかの様にこんな風に変わるとは全く信じられない。


「さ~あ、ここにポチッと押印して、こちらのコンピューターに入力してくれるかしら。そうしたら、役場長室に一緒に行っても、いいのよ~フフ」


「は、はい只今直ぐに」


 役場長はどうしたことか、慌てた覚束ない動作で自ら承認印を押し、それをコンピューターに取り込ませると、自ら入力を行い登録を済ませる。

 その急ぎようと、踊った目付きには異様さを感じる。


「は~い、ご苦労様。いい子ね!

 じゃあ、一緒に奥に行きましょうか・・・」


 と言いながら、役場長に体を押し付けて、彼女は先を促す。


 塩南間子と所長はそのまま奥の役場長室へと向かう。

 あたかも、魅力で誘惑をしてしまったかの様に見えるのだが・・・。

 そんなことが有り得るのだろうか?


 そう思っていると、彼女は僕に


「後はお願いねん、ちょっと役場長さんと遊んでから帰るわね・・・」


 そう言いながらこちらを振り向いた。


 その一瞬、サングラスの隙間から僕は見てしまった!


 彼女のサングラスの奥に光り輝くものを・・・。

 

 ま、まさか? 金色の瞳!


 見間違いか?いや、一瞬だったが、急激に彼女に心を持っていかれるのを感じた、一緒に奥に行く役場長に嫉妬まで感じてしまった。


 ま、まさか、塩南間子は王族に稀に表れると言う金色の瞳の皇女様なのだろうか?


 その両目を見ると心を持って行かれると言われる黄金色の瞳。


 そして、世界を変えると”神話の書”に記されている、自然神の血を引く伝説の・・・。


 彼女は、そのまま奥の部屋へと消えて行ってしまった・・・。


――――й


★☆ 第16話 ★☆

☆★ うっそ~! ☆★

☆★ ♂里 緒♀ ☆★

★☆ 全 速 力 ★☆


 今日の部活終了を告げに行った、我が柔軟体操部顧問、塩南先生がひそひそと里緒と何かを話している。その里緒の態度が遠目ながらもせわしないのが窺える。


 部長と顧問の先生の話しなど、珍しいことではない。むしろ当然の日課なのだが、更に話が済んだその後がいつもと違うのである。

 

 里緒は猛ダッシュで更衣室に戻ると、着替えも半ばで血相を変えて第一スタジオを出て行ったのである。


 どうしたんだ、何を焦ってるんだ?

 里緒・・・。


 その姿を更衣室二階の部室の内窓から見送る俺は、つい先程まで同じAV祭実行委員の”りんりん”こと林林はやしりんと、一ヶ月後に迫る三校合同AV祭の発表内容を煮詰めていた。


 当然、塩南先生も一緒の会議となっていたのだが、あまり良い案が出ないまま時間ばかりが過ぎていたのだ。


「あん~ら、もうこんな時間ね。先生は部長ぶっちょうちゃんに、練習を終わる様に言ってくるから、りんんりんちゃんも一緒に来てく~だはいな。くぐっちゃんは、欄香部門らんこうぶもんの出し物を考えといてねん」


 因みに、欄香部門とは団体戦のことで、命名者は恥ずかしながら俺である。

 

 そう言って、部室を出てスタジオに降りて行ったのである。

 俺はその姿を部室の内窓から眺めていた訳なのだが・・・。


 この眺めていた理由は、元々は里緒ではなくて塩南先生の今日の様子が少しばかり違っていると感じたからである。


 じゃあ、一体先生の何処がいつもと違うのかともし聞かれても、山のてっぺんなのか、海の底深くなのか、口なのか鼻なのかスタイルなのか、はたまた態度なのかは定かじゃない。しかし、俺には何か違って見えたのだ。


 ん~、ちょと思うのは、目付きだけはいつもより少しきつい気がしたことだろうか?まあ、これも気のせいと言えば気のせいなのかもしれない。

 もしかすると、塩南先生が今日の午前中を欠席したから、そんな気がしたのかもしれない・・・。


 そう、今朝は・・・。



 休み明けの今日、月曜日。

 俺、千乃工口ちのくぐちがいつもの様に登校し、我がアルパカ組の教室に入室したところ、黒板に、


 ”今日はお休みしま~す。愛するアルパカ組の皆々さん、ごめんなさいねん。

 代わりに、一腹白子いちはらしらこ先生がいらっしゃいますので、良い子にしてくだはいなぁ。(ハート)。

 柔軟体操部の皆の衆は、午後の部活には戻りますから、よ・ろ・し・く、ねん”


 と書かれていたのだ。まあ、先生らしいコメントである。


 と言うことで、残念なことに塩南先生は午前中を欠席したのである。


 それを見た俺は、今回のAV撮影大会はG2大会なので、てっきり先生が大会に出場しているからなのだと、ちょと期待をしたのだったがそう言う訳ではないらしかった。


 ちょっとした家庭の事情であるらしいのだ。心配になって、後で塩南先生に聞いてみたところ、「大したことでないから」と言う事だった。それ以上深く聞くことは個人情報の侵害にあたるし、そこまで聞く必要も無いので、俺はそのまま鵜呑みにすることとした。


 俺の個人的な気持ちからは、塩南先生の新作ビデオが拝見したかったので、ちょっとがっかりである。 それは、アルパカ組や、柔軟体操部ばかりではなく、全校生徒がそう思っていたに違いない。それだけ、この学校で塩南先生は抜きん出た存在だ。


 AV界に馴染むにつれ、俺にもそれが理解出来て来た。

 ただ、俺が入学した時に校長から言われた”塩南先生が厳しい論”の方は未だに理解が出来ていない。

 きっと無いと思う。

 

 このAV界は”AVビデオ大会”が統べての尺度である。この塩南先生の評価が高いのも当然出演しているAVビデオ作品が、その辺の女優とは一線を隔しているからである。


 塩南先生の作品の場合、一つ一つの動作が搾り立ての牛の乳の様に濃厚なのだ。

 どう濃厚かと言われると表現が難しいが、簡単に言うと、俺に”そそる”と言う感情を即座にもたらしてくれると言うことである。


 他の女優の動きは機械的、運動的であるのに対し、先生が絡みの時に見せる”台風の時の波バリ”のウネリは別格である。

 あの先週末の顧問室で起こった”キス事件”の際に思い知らされた塩南先生の魅力は、”技”を伝えた僅かな時間であったにも関わらず、未だにあの感触が鮮明に残って離れないでいる。

 恐るべしG2女優塩南間子なのである。


 もしかすると、先生が休んだことよりも、先週末のあの先生との一時で俺の方が変わったのかもしれない。気もする・・・。


 しかし、こんな凄い先生なのだが、普段はこの凄さを全く感じさせない。むしろヨレヨレでダサい位亜だ。最初先生の凄さが分からなかったのもそのせいだと思う。

 

 んっ、あれ?

 そうだ・・・。


 もしかしたら、今日はそのヨレヨレ度数が小さいのだろうか?

 そうだ、そんな気がする。


 まあ、とにかく塩南先生は今日午前中に休みをとり、黒板に書いてあった通りに部活までに戻って来たのだ。


 俺がそんなことを考えている内に、塩南先生だけがフワフワとしながら楽しげに戻って来た。


 やっぱり、いつも通りなのか・・・?


 先生のことだから、きっと俺が覗いていたことも気付いているはずだ。だから俺は遠慮なく口にした。


「先生、里、いえ部長、急いで帰って行きましたけど、どうしたんですか?」


 すると、先生は、


「あら~ん、もー工口くぐっちゃんが、一人でとっとと特許申請しちゃうからん、部長ちゃんの権利が消えるところだったのよん。ちゃんと申請書に俳優名を記入する欄が2つあったでしょん。そこに里緒ちゃんの女優名を記入しないからん・・・」


 そんなことを・・・。


 そう言えばあった。覚えている。

 ちょっと気にはなたっが、そのまま提出してしまった。


 しかし・・・、


 そんな大切なことなのに、役場の窓口のお姉さんも、それに一持兄さんも何も教えてくれはしなかった・・・、それに申請書にも何も書いてなかった気がする。


「申請しなくても、相方は自動的に保留になるのと違うんですか?」


 そうだ、一持兄さんから聞いたのはそんな話だったはずだ。


「それには、保留の手続きが必要なのよん」


「だって、い(ちもつ)・・・いえ」


 いや、一持兄さんが何て言ったかなんて何の関係もない。それに塩南先生は一持兄さんのことを知らない。言う意味が無い。


 俺が悪いんだ。一持兄さんは親切で話してくれただけで、その言ったことが100点万点でなきゃならない責任は無いんだ。俺は参考にはしても、実行するのは自己責任じゃないか・・・。


「先生どうしたら・・・!」


「工口っちゃんに出来ることはないわねん」

 

 そ、そんな・・・。

 どうしたら・・・。


 何て安易で注意深さが足りなかったんだろうか。

 ここは俺の元の世界とは違っているのは充分に分っていたはずだ。余りの調子の良さに、知らず知らずの内、俺は安易になってたのではないだろうか?


 血の気が引いて行く。

 

 落胆に顏を上げられない。上げる気にならない。


 どうすればいいんだ、一体・・・。


 しかし、あれ?

 温かい空気が前方から感じられる気がする。

 先生からか?


 俺の首が軽くなったのか、余りのバカさ加減に脳みそが愛想をつかして溶けて流れたのか、頭が軽く感じ、顏が上げられる。いや、上げたい。

 

 顔を上げてみると、先生が、ほんわりと笑っている。


「そんなに落ち込まなくたって・・・大丈夫よん。

 だ~からん、権利が無くなるところだったって、ね。


 工口ちゃんは、まだ受領書を貰ってないのよねん、だから、手続きは終わってないのん。今ならきっと間に合うわよん。

 部長ちゃん走っていったでしょん」


 先生は、自信満々にフワフワとした仕草でそんな有難いことを言ってくれる。

 

 しかし、それをそのまま受け取って安心してもいいのだろうか?

 今度は自分で確認しなきゃだめだろう。

 しかし、塩南先生は何故、僕が受領書をまだ貰っていないことを知っているのだろうか?

 

 そう言えば、申請の翌日に受領書を取りに行くことになっていたのだが、その日が伸びていたのだ。

 俺はその日付は伸びたと言うことだけを、子機からメッセージでもらっただけで、正式な受領日はまだ聞いてもいない。


 なぜ、先生が知っているのだろうか?


 それに、そんなことまで知っているなら、里緒にもっと早く伝えてもいいはずである。


 頭が混乱する。取り敢えず聞いてみようか・・・。


「せん(先生なんで)」と言いかけたところに、りんりんが戻って来てしまった」

 

 そこで先生が、


「じゃあ、今日の会議はここまでにしましょうか。

 りんりんちゃんも、工口っちゃんも、明日また色々考えましょんね。

 頼りにしてるのよん。フフフ」


 先生が今日の会議を打ち切ってしまった。

 ああ・・・。


「はい、分りました。一生懸命考えます!」


 りんりんは前向きの元気よい返事を返すが、最悪は切り抜けたものの、ショックの残像で声帯までも抑えつけているのか、声が上手く出せない。


「は・・・い」


 そこに、りんりんが、


「先輩、大丈夫ですよ。塩南先生の判断って完璧なんですから。

 間違えたり、失敗したこと何か、私がこの柔軟体操部に入部してからただの一回も無いんですよ。


 ね、だから今度の三校合同AV祭だって、きっと、へ校が勝ちますよ。そして、最優秀部活賞は、我が”柔軟体操部”のもので~す。ってね。


 だから、今日は帰ってゆっくり頭を休めて明日頑張りましょ」


 りんりんは、ちょっと勘違いしているが、俺に対する答えとしてはこれ以上ない模範解答だ。


「そっか・・・、そうだね」


 そうなんだ、ただの先生じゃない。訳の分らない不思議な先生なんだ。きっと、里緒も大丈夫だろう。

 しかし、一応自分の耳で確認しに、役場にはよって帰ろう。まだ間に合う。


 そう思った時だった。そのとき、AV子機が何かを受信した。

 りんりんに隠れて内容を確認すると、受領書についての知らせである。


 「明日には手続きが完了するので、受領書を渡せるから取りに来て下さい」書かれてある。

 そして、「相方の登録は今日まで」とも注意書きがされている。


 それには俺も、今日の締め切りを今日知らせるとは、どう言う連絡だ!

 とも思うが、何事も無ければどうやら里緒は間に合いそうである。


 俺は心配してくれた先生に右手を挙げ


「先生・・・」


 吉報を報告しようと見ると、今日はクールに後ろ手を振りながら既に出口へと消え去ろうとしている。

 先生が振る手は、指が2本だけ立てられている。


「先生の勝ちねん!!」


 何て言う。確かに俺が先生に向かって上げた手は広げていた。パーだ。

 Vサインじゃなくて、


「チョキってことか・・・」


 こっちを見ないで勝利を宣言する先生に、俺は慌てて拳を握るが、完全な後出しだ。


 そっか、やっといつもとの違いが分かった。


 今日の先生はカッコイイんだ・・・・。


<つづく>


3000文字だったものが、書き直す内に10000文字近くになってしまいました。次回こそ短く、早い更新を目指して・・・。

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