塩南間子
塩南先生と一持握の関係とは。そして、塩南先生が動く・・・。
AV界に存在する学校の部活動のほぼ全てが、”AV撮影大会”の俳優となることを目的として存在している。
それは、AV界を構成する上で需要な司法、立法、行政、メディア、等、あらゆる人材の基盤となっていることに起因する。
その為、高等学校のAV科と言う”AV俳優”を専門に育成することを目的とした教育課程を有している高校は、一般の普通科高校とは違い、俳優育成の為の”部活動”の施設がかなり充実している。
それは、”併性へノ路学園高等学校”通称”へ高”もその例外ではなく、校舎の1階のほぼ全てが、各部の活動施設となっている。
中でも、校内1位の部活には、への字に曲がった校舎の先の渡り廊下を隔てた先に、”第1スタジオ”と呼ばれる三角屋根の別棟が練習場として割り与えられており、他の部の施設とは別格な施設だ。
この第1スタジオ内の奥に更衣室があり、その2階は部室となっている。そして、更にその上の屋根裏には顧問の先生の部屋、顧問室が割り当てられているのだった・・・。
「キンコンカンコン・・・」
”へ高”校舎内に、少し軽薄な鐘の音が響く。
午前の授業が終わった合図である。
殆どの生徒や教員達は、鐘の音と共に昼食を取り始めるのであるが、その顧問室には、既に食事も取らずにやって来た二人の姿がある。
もちろん、そこに居ても何ら問題のない、校内ランク第1位”柔軟体操部”の関係者の二人ではある・・・。
ジー、ジー、ジー・・・。
細かい振動音が、狭い屋根裏部屋に響き渡る・・・。
その発信源は、テーブルの上に置かれたAV子機である。
このAV子機とは、AV界においてAV俳優としてデビューした者全員に支給される受信専門の文字端末機のことだ。
木製テーブルの上に放置されたAV子機は、乾燥した木の反響音により大きな音を立てている。
静かな屋根裏部屋には二人しかいない。気付いていないはずは無いのだが、屋根裏部屋の管理者であるその持ち主は全く気に掛ける様子が窺えない。
それで、しょうがなく、
「皇女様、連絡が入っておりますが・・・」
テーブルの横で直立不動に立っている女生徒の方が、気を使ってその事実を伝える。
もっとも、文字通信なので後から受信内容の確認は出来るので、焦って確認する必要が無いといえば無い。だが、液晶画面に表示された内容が、通常の受信とはちょっと異なった表示であったのだ。
それを心配してのものである。
個人間の連絡機能が無いAV子機は、基本JRAV会から連絡であるダウンロードと、固定機能内のアップロードしか出来ない仕組みとなっている。
その為、ダウンロード機能を使っての連絡と言うことは、JRAV会、または、そこに精通している者からの特別なメッセージと言うことになる。
「あ~ん、矛ちゃん。せめて学校では”センセ”って可愛らしく言ってにょん」
そう返すのは、一ヵ月後に開かれるであろうと予測される今年度一回目の”AV祭”の出し物に頭を悩ませている柔軟体操部の顧問である。
「申し訳ございません、皇女様、いえ、塩南先生。通常の連絡では無いようなのですが・・・」
柔軟体操部顧問、塩南間子の会話の相手は、その1年生部員、体が弱く(と言うことになっている)学校を休みがちの鉾田矛である。
「誰からなのか、ちょっと確認してみてちょんまげ」
彼女は机に両肘を突いた手で、頭を掻き毟りながらの奮闘中なのである。その顔付きは、生徒の前では決して見せない、煮詰まった表情だ。
彼女にとってはメッセージの確認等する状況ではないと言ったところであろう。
「承知致しました」
無表情にそう言った矛は、テーブルの上に置いてあるAV子機を拾い上げると、その液晶画面のメッセージを確認して、口元を微かに緩めた。
「騎乗レジェンド様からですが、内容を確認しましょうか?」
子機の液晶画面に向けた顏を上目遣いで瞬時視線だけを間子に向け、その様子を窺う。そして、内容も確認せずにアドリブを付け加えた。
「急ぎの様ですが・・・」
抑揚の無い口調が間子の意思を誘導する。
「あん?読んでみてくらしゃいませんか~、矛ちゃん」
敢えて“何の要件だろう”と言った何気ない疑問系であるが、頭を掻き毟っていた手は止まり、姿勢は驚いた様に背筋が伸びている。それを横目に矛は無表情を貫く。
「承知致しました。
今、裏門に居るので、会いたいとのことです」
「あらっ!」
間子の目尻が無防備に緩むのを、矛は微笑ましく思うが、あくまで感情表現の手法は全て無表情で貫く。
「何の用かしらねん?
矛ちゃ~ん、ちょっと行ってくるから、部長ちゃんに宜しく言っといてねん」
「承知致しました。ごゆっくり行ってらっしゃいませ」
間子が屋根裏部屋の顧問室を出ると、矛は無表情を貫いた表情を微笑ましそうに少しだけ緩めた。
”へ高”は丘の頂上附近の斜面に建てられた校舎の為、正門は2階にある。斜面側の裏門は部室が並ぶ1階となる。
間子の向かった裏門はその“へ”の字の頂点の部分にあたる。
・・・。
裏門の広葉樹の葉は数枚を残し、残り全てを地面の彩に変えている。
初冬を迎えようとしているのだ。
俳優名“騎乗位置労”、一持握が、塩南間子に会うのは4年振りのことである。
最後に会ったのも枯葉が路を染めた、丁度今頃、一持握がレジェンドに昇進するのが決定した時のことであった。
握は、焼き芋屋のリヤカーを脇に止めて広葉樹に体を持たせ、その頃のを思い出に耽っていた。そこに、落ち葉を踏みしめる音が近づいて来た。そして、それを追いかける様に、軽くふらついた声が耳に届く。
「お待たせ~ん」
軽い言葉が聞こえて来た。
視線を向けると、そこには見るだけで気が抜けてしまう、ふわふわとした女性が近づいて来ている。
その女性は、もちろん塩南間子である。
「あら~ん、お久しぶりん。元気だった~ん?」
「君は・・・(また・・・)」
と、彼女の不自然な口調への不満を途中で飲み込んで、苦笑いは下を向くことにより隠した。
そして、作り直した顏を向ける。
「相変わらず元気そうだね」
定型の挨拶を行う。それに間子は、
「あ~ら、私が先に聞いたのにぃ・・・」
自分が先に気遣ったことを無視されてしまったことの不満を過剰に表現をして見せる。
彼女なりの恥ずかしさを隠す表現であることは、握には承知のことである。
昔の彼女であれば不自然過ぎる焼き芋屋の格好に、真っ先に突っ込みを入れる筈なのであるが、それすらしないのだ。久しぶりの再会にその余裕が無いのである。
「ああ、悪かった。元気だよ」
それに、満足をしたと見えて、目尻を下げて話を続け出した。
「んっ?何かあったのかしらん?」
彼女は珍しい訪問に、本当は思いっきり嬉しいのだが、意味もなく訪ねて来る仲は遠い昔に終わっていることなのである。と言うことは、その訪問の意味が心配なのである。
「んっ、んんっ・・・」
握は、咳払いを一つ、二つして、気持ちを作り直す。
4年も会わずにいて、“今更”の関係である。頼みごとなど出来た義理ではない。だが、そこは恥を忍んで、彼女の力を借りるしか無いのである。
「君の生徒のことなんだ。もちろん、知っていると思うんだが・・・」
「はあ~ん、わ~かったにょん。
工口っちゃんと、里緒ちゃんの“特許申請”のことねん」
「ああ・・・、そ、そう。
その通りなんだ。申請をした事実については聞いていると思うんだが・・・」
と、話の途中で、間子がワザとらしく雄たけぶ。
「うわぉーっ!申請が誰かに邪魔された何て言ったりして~ん?」
握は相変わらずの勘の良さに眩暈がしそうになる。
「き、君は何でそんなことまで知ってるんだ」
握の言葉にも我返さずで、間子は無視をして続ける
「そ~りゃ、た~いへんだ。AV省政務官としては、始末書ものだわ~ん。
と言っても、邪魔したのは他でもない。レジェンドのお偉さん達だったりして~ん」
「し~、声が大きい」
握は、口に人差し指を宛て、周りを見回す。そして、誰もいないことを確認して続ける。
「そ、その通りなんだ。そこで、すまないのだが、お願いがあるんだ」
握は全て察しがついていてのワザとらしい対応に頭痛がしそうになるが、そこはお願いする身として、耐え忍ぼうと心に誓う。が、
「そんなことでもなきゃ、私の前に現れないものね~ん」
あからさまに棘のある言葉が返って来た。
はっきり言って、真剣に頼みごとをしに来た身に取ってはちょっといらつく。
この自分には敵わない鋭さと、ちょっと嫌味なところが4年前に別れた原因ではないかと思ってしてしまう。が、それで別れるに至った訳ではない。決して彼女が原因ではないのだ。
だから、ここで必殺皮肉返しをしたりはしない。そこは4年の間に、彼も彼なりに成長しているのだ。
そこで、謝ると言う行動を怒ると言う行動だと自分に言い聞かせて、低姿勢を貫くこととする。
「あ、ああ、申し訳ない、それで・・・」
話しだそうとすると、
「それで、それで?」
と言いながら、耳に手を宛て、握に迫っていく。それには、さすがの彼もそれには、
「き、君はいつも・・・。普通に話してはもらえないのか」
つい本音が出てしまった。もちろん、言い返してくる事を見込んでの言葉であったのだが、
「ごめんなさい」
素直に謝られてしまった。彼女もまた昔とは変わっているのだ。今は教員なのだ。
謝られると、返ってバラの棘以上の棘が体の表面に突きつけられた気持ちになってしまう。4年が経過したとは言え、自分の非で終わったのだ。二人の間はその続きなのである。
別れる1年前、握が間子に近づいたのはある思惑でしか無かった。
だから、その付き合っている過程で握の気持ちがどう変わったとしても、その1年後、近づいた理由が完了したのと同時に別れることになってしまった以上、どう捉えられても彼には何も言えないのである。
素直に謝られるのは、心苦しいだけである。
「いや、声を荒げてすまなかった。話をさせてもらっていいかな」
「どうぞ」
間子は素の顔で頷いた。
「実は工口君が特許申請した役場から、僕の所に申請書が届く前にあるレジェンドからストップが入ってしまったんだ。
理由は、新人であることが理由だ。
彼はAV俳優として、特許を背負うことが心神共に相応しいかと言う調査が必要だと言うのだ。
もちろん、君には言うまでも無い。それは表向きの理由で、真の意味は特許を取らせたく無い。第三の勢力を作らせたく無い、それ以外の何物でもない。
恐らく、誰かが特許申請したことを上にリークしたのだろう。それでなければ、私の所に届く前に気付くはずが無い。あの時、私が役場まで付いて行くべきでだった。
申し訳ない、私のミスだ」
「それに、異世界からスタウトされて来た事も知られたのもミスね」
「その通りだ」
握は間子に頭を下げる。
「それで、私に何をすれと言うのかしら」
間子の口調はいつものふわふわとした口調から、鋭い口調に変わている。
「次のG2大会に出場して欲しいんだ。
男優の手配は済んでいる。その相方になって欲しい」
「相方になって、工口君と、里緒ちゃんの”あの技”をやると言うこと?」
「そうだ。あの技をやり“キス”と言う名で特許申請をして欲しいんだ。奴らが登録する前に登録して欲しい。後は上手くやる」
「ああ~あ、やっぱりそんなことだと思った~ん」
ワザとらしくがっかりした態度を取り、
「で、その男優と“お願いします”で上手く相方になれないかもしれない。何て、心配はないってことよね。どうせ、何か不正をするんでしょ」
「不正・・・、不正とは失礼な。ちゃんと正々堂々と相方になれる様な方式を考えている。撮影場所も、申請後の対応も全てだ。
君は、撮影開始時間直後に演技をしてくれれば大丈夫だ。後はこちらでやるから」
「それを不正って言わなくて何を不正って言うのかしらね?」
間子は厳しい顔で嫌味を言い出すが、口元は直ぐに緩んでしまう。
「それで、工口君と里緒ちゃんの申請許可書を手に入れ、無事手続きが完了した後で、こちらの申請を取り消せばいいってことなのね」
「その通りだ。今度のG2大会の登録締め切りまで、まだ4時間近くある。お願い出来ないだろうか。
G1に上がる大切な時なのは充分に承知の上で、こんなことをお願いするのは、本当に心苦しいんだが・・・」
握は内心、申し出を受けてくれると信じていた。
ところが、
「ふ~ん、ど~うしよっかなん~」
口調がいつものふわふわした口調に戻っている。
「お願いだ、申請は男優にお願いする。君の素性は絶対にバラさない。王家、継第二継承者、マコ・バレル・シオナールとは」
「ん~、どうしよっかな~。
バレない様にするのは、上手く行った場合でしょん。
もし、演技後の特許申請で、むこうに何か手を打たれていた場合は、私が自分の素性を使って、申請を強引に通してくれると思ってるんでしょう・・・。
でも、飾りだけの王家にそんな力、あるのかしらん?」
彼女の性格であれば、そうしてくれるのではないだろうかと言う期待が、頭を掠めなかったと言えば嘘になる。つい王家のフルネームで呼んでしまったのも、その為だと自分でも分かっている。しかし、G2女優で全てを話すことの出来る仲間がいなかったのも事実である。
「そ、それは・・・」
「私だったら、やってくれると思ってるのでしょん」
“全く心に無い”とは言えない握は口ごもってしまう。
「でも、残~念。遅かったわね。私、登録できないのよん」
「えっ!」
遅いとは、どう言うことだろうか?
期待はずれと言うよりも、“はい”でも“いいえ”でもない、断りの言葉に握は驚きを隠せない。が、極力表情は見せない様にして間子を見ると、
「ん~もう、登録済みなのでありま~す」
嬉しそうにフワフワと笑っている。
「次の大会に?」
握には、間子の会話が何を意図して言っているのかが理解出来ない。
間抜けた顔で間子を見つめてしまうが、その勘の悪さにいきなり彼女の顔が見たことも無い鋭い顔に変わった。
「当たり前でしょ、私を誰だと思ってるの!」
「皇女様・・・」
と、小声で言いかけて、それは違うと握も気付いた。そんなことで彼女が怒ったりはしない。
「顧問の先生が生徒を守らなくて、誰が守るって言うの!」
間子が声を荒げてそう言う。
それに、握は、4年前の彼女とは全く異なった姿に面喰ってしまい、上手い言葉が見つからない。ただ、その時間から逃げる為に自問するのみである。
俺はバカか?断るわけがないのだ。
と言うより、既に彼女なりに対処を考えていたことになる。
それは、既に知っていたと言うことなのか?
それとも万が一を考えていたのか?
どっちにしても、自分より先に行動をしていたのである。
自分の取った行動の失礼さに恐縮してしまう。
「でもねん、折角のお願いだから条件だしちゃおうかな~ん」
間子は意味深な顔でほくそ笑む。はっきり言って、握には怒った顔よりも怖く見える。
「条件って?、既に登録済みって・・・」
条件も何も、既に登録済みであるのだ。
それに、さっき、“顧問の先生なが生徒を守らなくて、誰が守るの!”って言ったばかりなのだ。
「それはそれ、これはこれ。登録をしたけど言う通りにするとは言ってないでしょん。交渉ごとは上手くやらないとねん」
間子の言う通りである。
「わかった。聞こう」
と、真剣な顔で言ったものの、握は極力無茶なことは言わないでくれと心の底から祈る。
すると、意外な条件が返って来た。
「そうですわね、久しぶりにデートして頂けませんこと。
焼き芋屋のお兄さん」
改まった口調で、間子は少し顔赤くした。
5年前、AV大会で初めて彼女と出会った時の握への気品のある口調である。
彼女は今では象徴となってしまったが、紛れ無くその昔は自然教に通ずる王家の血筋なのだ。そして、今尚、27部では崇高な存在なのである。
それに、彼は思わず、
「光栄です」
と応えた。
そして、そのままの口調で、今、聞いておかなければならないことを確認する。
「ところで、確か腕相撲には自信がお有りだったと思しておりますが、今でも3番目の実力はお持ちでしょうか?」
そう聞くと、
「3番目?」
その質問に面喰っていたが、少し考えて、
「・・・あ~ん、もちろんにょん。焼き芋屋のおじさん。
3番目?楽勝よん!」
そう応えた。
思った通り、相変わらず腕に自信ありなのだ・・・。
★☆ 第15話 ★☆
☆★ ♂塩南間子♀☆★
特許申請を行った翌日の金曜日の午後。
柔軟体操部のAV祭実行委員をやっている俺”千乃工口”は、同じ実行委員の次期部長候補の”りんりん”こと林林と、遅ればせながら部室兼練習場の“第一スタジオ”にやって来たところ、塩南先生の姿が何処にも見当たらないのだ。
因みにだが、俺とりんりんが遅れた理由は、残念ながら特に深く熱い理由があったからではなく、昼休みもまだ終えない内に緊急のAV祭実行委員会の徴集が行われ、それが長引いたに過ぎない。
通常この時間には、塩南先生はいつもの飄々とした姿で、俺の練習着の摩擦がある一部位を苦しめる程のあられもない練習を部員達にさせているのである。
それが、残念ながら今日は見られない。全く物足りない限りである。
今、塩南先生の代わりに練習を仕切っている柔軟体操部、部長ちゃんの里緒であるのだが、残念ながら彼女にはこの才が乏し過ぎる。
頭のお堅い里緒が仕切る部活には、右足の小指の爪の、その裏にへばり付いている色白の垢にも劣る程のおエロ気しか無いのである。
しかし、そんな里緒でも、不思議と立派に校内ランク1位を守り続けているのである。
と、言っても何故1位であるかはこの間のAV大会の競演で俺にも分かった気がするのだ。
それは、はっきり言って本来の里緒には全くおエロ気は無いのである。失礼ながら、少なくともそれが間違っていない自身が俺にはある。ただ、エロを要求された時に咄嗟にテンパって出す行動が、人の持っているエロへの欲求を天才的に惹き付けるのである。
まさしく、こいつはエロに対して天然なのだ。
もっと分析すると、俺が思うにはこのAV界の女生徒達はパンティーを下ろすことと、ブラウスを脱ぐことが全く同意なのである(条件付だが)。
だが、里緒は違うのである。もちろん異世界人の俺もそうだが、里緒は俺の元の世界、このAV界から見ると異世界にあたる(一般的な)女生徒の感覚と近い恥じらいを持っているのである。
しかしながら、それにも関わらず、里緒は自分の気持ちに無理をしてAV女優を目指しているのである。けな気に目指しているのである。
結局、そこの矛盾こそが、里緒が人を惹き付ける理由ではないかと俺には思えるのである。
いわゆる俺の世界で言う清楚で素朴な女の子が見せるギャップ。
具体的に言うと、「恥ずかしくてたまらないと言う態度を示しながら、何故にそこまで無理をするの?
ああ、見てはいけない禁断の花園を覗いてしまった」
と思わせる、そのプレミアム感である。
違う例えで言うと、ロリフェースの女の子が脱いでみると、「な、な、なんと巨乳ではないか!」と言う驚き。微乳と思われる中から、ボロンと出てきた形の良い乳房、「そんな幼い顔して、その大きさは反則だろう。僕は僕は見てもよかったのだろうか!」と思わせるその刺激。
ああ、そうだ。これは簡単に言えば”意外性”と言うやつで良いのかもしれない・・・。
今だって、きっとあの短かすぎるショートパンツの前屈に精一杯なのだ。
それでも大分慣れたようだが、まだ若干顔が赤い。
あれは、絶対に体が固くて前屈がしんどい為のものではないだろう。それは表情でうかがえる・・・。
俺もあの恥ずかしがりやで無理しているところに惹かれていないと言えば嘘になる。
だが、言っておくが、俺の場合はそれが全てではないとだけ付け加えておきたい。
等と余計な分析をしながら更衣室に向かっていると、そんな邪念の塊の俺とは対象的に真剣な顔付きのりんりんと俺を里緒が見つけたようだ。
「練習止め!整列!」
里緒が部員に集合の合図を掛ける。
当然、今やって来たばかりの俺達も走ってその合図に従う。
練習中の里緒は怖いのだ。いや、特にあの”二度目のまほまほ事件”より、いつも細心の気を使っているのだから、練習中だけのことではない。
里緒の掛け声に、マッハの速さで3列横隊が更衣室前に完成する。
いつもながら、この”へ高”では授業中と部活の時の気合の入れ方の違いに驚かされてしまう。
「実行委員会の報告をお願いします」
里緒の声に、
「はい」
真剣そのもののりんりんの声がスタジオ内に響き渡る。きっと、彼女に取って”三校合同AV祭”とは、それだけ大きな行事なのだろう。と想像だけはする。
そして遅ればせながら、ついでに俺も慎ましやかに返事をすると、俺とりんりんは3列横隊と向かい合わせに、里緒の隣に移動する。
幸いなことに、いくら俺がりんりんより1学年先輩だとは言え、次期部長候補の彼女の方が俺をリードしてくれるのだ。俺はそれに甘えれば良い。この学校は女性が断然に強く頼もしい。
「昨日、校長先生と、AV審査委員会の方達が“原石発掘高”と“SOD高”に伺い、交渉の結果“三校合同AV祭”の実施が決定致しました」
『うわーっ』
黄色いざわめきがスタジオ内に反響する。
そんなに凄いことらしい。
それに、鋭い目付きが空を切る。
「静かに!」
里緒は怖い・・・。
りんりんは、ザワメキが止むのを待って説明を続ける。
「三校合同AV祭の期日は12月10日、11日の土日です。場所は、我が”へ高”に決定です。
内容は簡単に説明すると、三つの部門の演技と、教室による展示を行います。展示は発表と言うだけの位置づけになります。
そして、その演技ですが、一つは“御何部門“・・・」
りんりんが演技の部門説明を真剣にすればする程、俺は噴出しそうになるのを堪えるのに必死である。
何を隠そうこの部門名は俺が名付けたのである。
「・・・これは単独での演技となります。二つ目は”蘭香部門“・・・」
当然これも俺の提案が通ったものだ。だめだ、顔がニヤケてしまう。
説明しておくと、何の意味も無く付けた名前ではない。こじつけ位はしておいた。
”御何部門”の名前の意味はこうだ。
一人で行う演技はAV界には存在していないのだ。なので、これを始めてやるのだから、きっと“何”を演じているかが、観客には解り難いだろう。である。
それに“蘭香部門”は、こうだ。
単独AV祭では部活の発表としては普通に行われる演技であるらしいのだが、名前が“団体戦”ではつまらない。
蘭の花の如く香しいと言う例えを言ったら、案の定、実行委員の皆様は食いついてきましたとさ。と言うことである。
「・・・これは10人以上の団体戦、それに通常の”コンビ部門“男女二人一組で行う部門です」
すみません。これについては、いい名前がみつかりませんでした。
「これを、各校各部が一軍と二軍に分けてチーム編成をします。もちろん一軍がメインで、演舞場での開催になります。
二軍は、私達の第一スタジオと、マッサージ部、畳部の第二、第三スタジオを使用します。
各部門とも、一軍は各部門一組のみで、二郡は部員数により2組までが出場可能となります。柔軟体操部は2組となります。以上です。」
りんりんの簡潔な説明が終わり、自分の話す機会が無かったことに俺は安心した。
「何か質問は」
里緒の声に、
「代表者の発表はいつになりますか」
との質問。
そこに、顧問室からではなく、第一スタジオの入り口から塩南先生が現れたのである。
あれ?
いつもそうだが、今日は更に地に脚が付いていない気がする・・・。
いつもよりフワフワと浮遊している様な動き・・・。
「あ~あん、それは明日までに、演題と一緒に先生と工口ちゃんで考えて発表するわねん」
はっ?いやいや、何で俺なんだ?普通部長だろう!
俺は里緒の冷ややかな視線を予測しながら、横目で覗くと・・・。
あれ?
なぜか頷いてやがる。
それに、他の部員達も、それにりんりんも。一体、俺の今の立ち位置は、どの辺りなってしまったのだろうか・・・。
まだ、この柔軟体操部では何もした覚えはないのだけれど・・・?
「みんな部長ちゃんの言うことを聞いて練習していてねん。先生は工口ちゃんとこれから会議をしますから。じゃあ、行きましょうかん」
なんて、言って俺の背中を押し出した。
「あ、は、はい・・・」
良く分からないが、顧問の先生が言うのだから行くしかあるまい。
俺は申し訳なさそうに、腰を低くして、みんなの前を通り過ぎていく。
俺以外の男子部員、一年の島宇摩と砂万名風琉の二人だけだが尊敬の眼差しで俺を見送ってくれている。
ヨレヨレのスーツに押されて、俺は更衣室に二階の部室を越え、三回の屋根裏部屋へ?
会議は部室では無く、初めて入る三回の顧問室みたいだ・・・。
顧問室に入った塩南先生は、
「さ~て、工口ちゃん、あの大技教えてくれるかしらん」
「はっ?」
いやいや、いきなり教えるって、どういう風に?
「ほ~ら、口と口を合わせる技よん。名前何ていうのかしらん?」
そんな、淡々と?
「キ、キスと言います・・・」
「あ~らん、キスって言うのねん。いい名前ん」
そうです。キスです。ですが、
「先生、打ち合わせじゃあ・・・」
なかったでしたか?
「そっ、まずは技の使い方は顧問として知らないとねん、部員ちゃん達もきっと、演じたいと思ってるはずよん。
それで、服は、どこまで脱いだらいいのかしらん?」
「ま、まって、せ、先生。そこまでしなくても・・・、大丈夫かと・・・」
語尾の消えかけた俺の話を聞いてか聞かずか、上着とスカートと言う言うヨレヨレの一皮をむきながら近づいて来る。
むかれた皮のその中からは、程好く熟れた果実が現れ。さらに胸を覆う・・・を外し・・・。
そして、一歩一歩と俺に迫り来るではないか。
「あ・・・は・・・・」
言葉を失い立ち竦む俺に、
「あの、技、これでいいかしらん・・・」
と唇が・・・。
先生、し、舌、入れてもいいですか~・・・。
<つづく>
長くなり過ぎてしまいました。最後まで読んで頂けると嬉しいです。