一持握編(必然なる出会い)
一持握と萬香出の偶然?の出会い。
そして、握が香出が知ったAV界の事実とは。
彼女達が神話の中のみの存在であったのは、実は、まだそんなに昔のことではないのである。
少なくとも僕が小学校低学年の頃は、皆がそう思っていたのだから・・・。
AV界の9割以上の人々が信仰する自然教の主神、その自然神に仕えると言われる彼女達の存在を、ある頃から架空の存在として認識するには、余りにも不自然になってしまったのである。
自然教の書の一つ”神話の書”には、彼女達は空まで伸びる白い”ミンジュ塔”の中腹に住み、異なる世界の様々なパフォーマンスを見守り、そして、各々の世界が存続の方向に向かう様に、スカウトと言う手段によりパフォーマンスの移動を行う存在と記されている。
即ち、彼女達は異世界間の狭間を飛び越え、才のある若者をスカウトしては、その能力を必要としている世界に連れて行き、その能力により世界の方向性を正す役目を担っていることになる。
因みに、このスカウト行為は強制ではなく、”神話の書”の中にも本人の同意の基と言う事になっている。
この異世界間のスカウト行為を行う彼女達の事を”神話の書”では”スカウター”と呼んでいる。
その存在は四柱と記され、各々が司る役目が異なっている。
その四柱とは、
燃える様に赤い薔薇色の翼、愛を司る情熱のレミア様。
奥深く済み切る群青の翼、闘志を司る雄麗のルミア様。
爽やかな新緑色の翼、調和を司る包容のリミア様。
そして、4柱のスカウターの中で中心的存在、純真無垢の白の翼、物理的な生命を司る純白のラミア様である。
このスカウター達のスカウト行為と言うのは、AV界においては”神話の書”の意味合いを多少逸脱して人々に理解されているところがある。それは、恐らくこのAV界が”AV撮影大会”と言うビデオ撮影で、この世界を動かしているからであるからだと僕は思っている。
AV界では、スカウター達がスカウトして来る才のある若者達のことを、”世界の方向性を正す者”と言う捉え方では無く、”AV撮影大会で偉大な成績を収める俳優”と言う解釈で広まっているのである。
もちろん僕には、他の世界を確認することは出来ないので、この考えが特殊であるかの検証は出来ない、しかし、”神話の書”をそのまま解釈すれば、間違いなくそう言う意味になる。
まあ、何れにしても、スカウターのスカウトして来た者が大きな影響をその世界に与えることは間違いないのである。
その”神話の書”の中の存在でしかなかったスカウターが、ある時から時々目撃される様になったのである。その人数は、見間違いや錯覚では済まされない数となったのである。
もちろん、それが世間を大きく騒がせる出来事となったのは言うまでもない。
ただ、僕に取ってそれは、耳から得ただけの情報であり、自ら体験した訳では無かったからだろう。正直あまりその話を信用してはいなかったのだ。
だから、そのことよりも僕の中では、時を重ねて生まれた、ある女優の存在の方が衝撃であったのだ。
新人女優”萬香出”の存在である。
奇しくも、僕、一持握がスカウターと言う実在を確信したのは、高校一年の春のボランティア活動で、偶然にも彼女に出会ってからである・・・。
★☆ 第13話 ★☆
☆★ 一持 握 編 ☆★
★☆(必然なる♂★☆
☆★ ♀出会い) ★☆
「すみません、間違ってたらごめんなさい。
もしかして、あの〜、萬香出さんじゃないでしょうか?」
人見知りの僕が、緊張でガチガチに震えながら口にした言葉であった。
いきなりの言葉に彼女は相当驚いたのであろう。素早く背筋を伸ばし振り向いた彼女の口は半開きになっていた。
僕が話しかけた相手は、児童養護施設の中庭で赤ん坊を抱いた一人の女性である。
その日は、昨日までの寒さが嘘の様に、朝から空は晴れ渡り、陽射しの気持ちの良い暖かな日であった。
高校に入学して半年が過ぎた高校一年の春休み、僕が学校から紹介をしてもらた児童養護施設に一人、ボランティアに行った時のことである。
それは、気まぐれにも近い思い付きであった。
当時16歳の僕は、本質的にそんなに善人でもなければ、特別優しい人間だった訳でもない。極々一般的な高校一年生であったはずである。
なのに、何故僕がそんなことを思い付いたかと言うと、当時からAV界を襲っていた急激な少子化問題の実態を無料チャンネル放送の中で知ったからである。
AV界の税収は、AV撮影大会の有料放送からの収入が8割を占めている。
その収入が人口の減少に伴って急激に減収方向に向かって行ったのである。それが原因で、各予算が削られ、児童養護施設で働く人材にも影響されていると報道されたのである。
要は自分で言うのは恥ずかしいが、ちょっと”正しい”と言う行為に、当時から熱い人間であったのだ。
それに、高校生活にも落ち着き、気持ちの中に少し余裕が出来たのも、僕の背中を押しをしたのも事実である。
いや、それよりも、何かの力に引き寄せられたのだろうか?
そんな気がしない訳でもない。
何れにしても、自分がそんなに積極的な行動を取るなんてことは今まで無かったことであった。僕の申し出に、両親が凄く驚いていたことを覚えている。
僕が学校の紹介を受けた児童養護施設は、第26部の第3児童養護施設”羊が丘園”と言うところであった。
手にした地図をもとに向かうと、そこは市街地からそれ程遠くはない閑静な住宅地の中にあった。
3月であった為、周囲を囲む木々はまだ殺風景であったが、夏には綺麗な緑に囲まれることが想像出来る、一般的な施設よりも少し小さ目な二階建ての施設である。
「来て良かったかな・・・」
本心からの言葉が僕の口を突いた。
来るまではちょっと不安もあったのだが、外観を見ただけで何故かそんな気持ちにしてくれる雰囲気がそこにはあったのだ。
僕は少し気分が楽になり、成りきりの善人気分で敷地の入り口にある石門を通り抜けた。
門から玄関までの道は、丁度建物に陽射しが遮られており、雪解け水でぐちゃぐちゃとしていた。
そのせいで少しヒンヤリとしていたのだが、玄関に近づくにつれ現れて来た建物の側面は、陽射しが眩しく照り込んでおり、芝の芽が青みを帯び始めていた。
「春だな・・・」
僕を嬉しくさせる。
玄関までの短い道のりで、そんな思いが僕の脚を引き止めさせたのだ。僕は少し立ち止まってその庭を眺めていた。
すると、暖かさに包まれて、鼻歌らしき声が聞こえて来たのである。
普段であれば全く気にならない他愛もないことなのだが、その時の僕には何故かその歌が気になってしまい、聞き流すことが出来なかったのである。
僕は半ば無意識的であったと思う。正面の玄関には入らずに、庭のある右へと歩を進め、玄関の横から顔を覗かせてしまっていた。
見ると、そこには鼻歌の主である一人の女性が、体を揺らしながら小さな赤ん坊をあやす様に抱いて立っていたのである。
その姿は、今でも鮮明に覚えている。
凄く眩しかった・・・。
もちろん、僕が立っているところが日陰で、彼女が立っているところの陽射しが強かったせいもある。けれど、それだけには僕には思えなかった。
一言で言えば、彼女には口では表せない独特の雰囲気があったのだ。
一目で僕を惹き付けてしまう”空気”があったのである。
僕は何の躊躇いも無く初めて来た施設の庭に無断で入り込み、彼女に近づき始めていた。
そして、近づくにつれ優しい風が彼女の周りを包んでいることに、僕の心は震えて行き、更に、彼女の姿や、何気ない仕草に、僕は感動を覚えて行くのである。のの感覚が・・・。
そうだ、僕には覚えがある・・・。
その時、僕はこの感覚を味わったのは初めてではなっかたことに気付いたのである。
それは、僕がAVビデオで初めて衝撃を味わったあの女優、1年半前に突如としてAV大会から姿を消したあの女優と一緒の感覚なのである。
黒い髪に、黒い瞳。ピンクのアイマスクで一斉を風靡し、デビュー僅か2年でG3女優となり、更にAV界で二つ目となる特許まで取得。
おそらくは、史上最年少でG1戦士になると言われた女優にだ。
目の前で幼い子を抱く女性は、茶髪のロングヘアーで、サングラをしていて瞳の色も判らない。
髪の色も長さも違う、そして、あの時の彼女とは違い、体型も若干丸みを帯びている。
一見、その時の彼女はビデオで見せる姿とは全く異い、子供の世話をする平凡な女性にも見える。
しかし、僕は彼女の空気を感じ取ったのだ。
そして、更に首を少し傾けて話す仕草、微笑む時に下顎に若干の力を入れ結ぶ口元、何気ない癖も一緒なのである。
僕は、緊張しながらも思わず彼女に問いかけてしまっていたのでる。
「えっ、私?」
彼女はその時、初めて僕の存在に気付いた様であった。
一瞬、彼女は恐れる様な驚きの表情で僕の方に視線を向けたのだが、今となって判ることだが、恐らくは僕がまだ学生であることを認識して安心をしたからであろう。その表情は、即座に穏やかなものに戻っていった。
そして、少し考えたように間を取り、
「あなたは?」
逆に、僕に問い返して来た。
「はい、第26部の真等高AV課の一年生、一持握と言います。この養護施設のお手伝いがしたくて来ました」
僕は無断で施設の庭に侵入したこともあり、不審者と思われないように、不自然な位に必死に説明をしていた。
「へ~、一持君は真等高なんだ、名門じゃない・・・?
ん・・・、あれっ?」
彼女は、何か思いついた様に、一時間を取って、再び口を開いた。
「あれ? 一持君って、もしかして、いつも私に感想をくれていた・・・。そうそう、私を”お気に入り女優”にも登録してくれてた、あの一持君?」
そう言いながら、嬉しそうに彼女は僕に近づいて来た。その距離は1メートルもなく、手を伸ばせば彼女に触れることが出来る距離である。
やはり、目の前の彼女は、間ぎれもなく僕が唯一お気に入り登録をした、大ファンのG3女優”萬香出”本人なのであった。
「やっぱり、そうなんですか!光栄です。覚えてくれていたなんて・・・」
「当たり前じゃない、君が私のお気に入り登録第1号だったんだから。
彼女の顔が、急に仲の良かった旧友に久し振りに出会った様な嬉しそうな表情に綻んだ。
「君が登録をしてくれた時ね、嬉しくて嬉しくて、私ね、何回も何回もモニタをつけて確認しちゃったのよ。
私も、一持君に会えて凄く光栄!」
それを聞いて。僕は思いっきり昇ってしまった。
第1号だったとは言え、僕のことを覚えていてくれた上に、喜んでまでくれたのだ。
因みに、この”お気に入り女優登録”とは、言ってみればファンクラブの様なものである。
恐らく彼女をお気に入り女優に登録している人は、現在のG1女優に匹敵するのではないかと僕は思う。
それなのに彼女は僕のことを覚えていてくれていたのだ。
しかし、この嬉しさは回顧してのものであり、起点は今現在では無いのだ。過ぎ去ったものなのである。逆に言えば、現在進行形でないことが悲しい。
だから、僕は彼女の存在を目の前にして、いきなり失礼かもしれないとは思ったのだが、どうしても聞かずにはいれなかった。
それは、もちろん、
「どうして、AV撮影大会に出ないんですか?」
彼女がいきなりAV大会に出場しなくなったことである。もちろん、赤ん坊を抱いていると言う事は、結婚をして出産をしたのが理由なのだろう。
でも、僕にはそれが信じられなかった。それだけが理由とは、とっても思えなかったのである。
あれだけの人気を棒に振って結婚をすると言うのは、このAV界では通常のことでないし、それも、人気絶頂で、最年少G1戦士も間違いないという状況であったのだ。
「あ~そっか・・・、
そうよね。ごめんなさい・・・」
彼女は真から申し訳なさそうに頭を下げ、続けた。
「・・・ちょっと、守りに入っちゃってね。
ほら、あんな”もの”調子に乗って取っちゃったばかりにね、狙われちゃって・・・」
彼女はそう言って、迂闊な行動をしたとでも言わんばかりに苦笑いをするのだ。
「狙われっるって、何かあったんですか?あんな”もの”って・・・」
「特許よ」
「特許?」
「君は知ってるでしょ。
私が別の演者名で変装して出演したビデオのこと・・・」
そうなのだ。彼女はAV大会に出場しなくなる直前に、別の演者名”万乃調”を名乗って出場したAVビデオ大会での演技で、何と、AV界で二つ目となる特許を取得することが出来たのだ。
今まで見た事の無い口を使うと言う大技”縦笛”で、である。
「あれがね、この世界の利権。悪の根源なの。
私はそれを知らないで手に入れてしまおうとしちゃったのね」
「ど、どういうことですか・・・?」
「私ね、特許って他の俳優があの技を使うことにより、私にお金が入ってくるものだと勘違いしていたの。
バカでしょ。一つ目の特許”被り物”のこと考えれば直ぐに分る事なのに・・・。
あの時ね、遊び半分で演者名を変えてしまったら、調子に乗って大胆なことしてしまったのね。
そしたら、それが余りにも凄い人気だったから、舞い上がっちゃって特許申請してまったの・・・」
彼女は溜息をついて続けた。
「・・・だって、特許ってね、私の元居た世界ではAV界とは違って、他の人が使うとお金が入って来るシステムだったのよ」
自嘲気味の彼女の言葉である。
本来であれば、この言葉で更に”狙われた”と言うことや”特許”について掘り下げて聞くのが普通なのであろうが、僕は今の話の中で聞き流せない単語を見つけてしまったのだ。
それは、
「えっ?元、居た世界って、どう言うことですか」
「あ~、あららっ・・・」
彼女は気まずそうに舌を出して笑った。
「・・・そうよね。意味解んないわよね。
ん~、どうしようか・・・。でも、多分、君には話しても良い気がするの。
だから、話しちゃおうか?」
無邪気に舌を出した姿が、また魅力的に可愛い。そかし、そんなことよりも話の続きが気になる。
「えっ、何をですか!」
「ん~、ほら、スカウター様って、もちろん知ってるわよね。
異世界から俳優をスカウトするって言う。
確か、神話の書に出て来るのよね」
「はい、もちろん知ってます」
もちろん、この世界に知らない人等、居るはずがないことだ。
「今、よく目撃したとかって言う噂を聞くでしょ」
「はい」
「彼女達ってね、本当に実在するのよ」
「まさか・・・」
確かに最近、目撃情報を耳にすることはあった。無料チャンネル放送でも話題になっていた。だが、そんなのは所詮自分の錯覚に好意的な人だけに見えるのだと思って、全く信じてはいなかった。
いなかったと言うよりは、むしろ聞き流していたに近かった。
それがである。
彼女の口から撃的にも、軽い口調で飛び出したのである。
僕は驚いて、腰を抜かしそうになってしまった。
なぜだろう?僕には、彼女の言葉を疑うと言う気持ちが、全く頭の中に無かったのである。
「私ね、彼女にスカウトされて、このAV界にやって来たの」
「彼女、彼女ってスカウター様にです・・・か!」
「そう、純白のラミア様にね。
そしてね、彼女に連れて来られたのが、この場所なの。
その時、彼女の眩い白い光に驚いて、此処の園長の奥さんが直ぐに飛び出して来てね」
そして、彼女は思い出し笑いを浮かべ、
「フフフ、
驚いて、大きな口を開けた奥さんの顏が今でも目に浮かぶわ・・・。
ラミア様は、それを見届けると直ぐに去ってしまったんだけど、きっと、彼女はこの場所を選んでいたのね。
私はその後、此処のお世話になることになったのよ。
そしてね、その後はラミア様のスカウトして来た女優と言う事で、此処で凄く大事にしてもらったの。
高校にも通わせてもらって・・・。
ん~、違うわね。きっとそうでなくても、園長も奥さんも変わらず大事にしてくれたと思う。
だからね、此処の子達の為に何かしたくて・・・。
ううん、此処の子供達だけでなく、全ての施設の子供達の為に何かしたくて。
それで、私、女優として凄く頑張ったの。
そうしたら、頑張り過ぎちゃって・・・。
特許申請なんて話が舞い込んで来てしまって、勘違いしていまったって結末。
バカよね」
そう言って、彼女は後悔する様に、空を見上げて溜息をついた。
「でも、何故、それが狙われることになるのですか?」
もちろん僕は彼女の話を全て信じていた。全てを信じた上で、真剣に聞いていた。だが何故それが”狙われる”事に繋がるのかが理解出来なかったのだ。
「あっハハハ、そうよね。分んないわよね・・・。
特許ってね、知ってると思うけど、特許を得た人の二親等以内の親族で、同一家号を名乗る俳優だけが使用できるでしょ。
これが、悪の根源の法律なの」
「どう言うことですか?」
その時の僕には全く意味が分らないことであった。
「ほら、この世界って。おかしなことに、AV大会の成績で人間の価値を決めるでしょ。
俳優を止めて職業に就く時なんか、モロそうでしょ。
レジェンドを始め、特にこの世界を動かすポジションの人はそうよね。
つまりね、特許を取得した一族が、この世界を納めると言うことなの」
それは、今まで僕が何の疑問も持っていなかったことであった。
優秀な俳優なのだから当たり前だと思っていた。ところが、
「仮に百歩譲って、AV大会の成績が優秀な人が、この世界を治めることに優れていたとしても、それは特許を取得した人だけであるのに、その二親等と言うことは、兄弟、祖父、孫も特許の技を演技することが可能と言うことのなのよ。
それも、”特許を取った人”であれば、その代までのことなんだけど、”特許を得た人”となると?」
「はい、代々一族には、その技の特許権が与えられ可能性があります」
「そうね、それも二親等だから兄弟の子供も同じ様に与えられるから、次第に増えて行くわよね?」
「でも、それは家号を与えなければ引き継げないので、それはその家号で能力の有無考えて、家号を引き継がせているのだと思うのですけど」
「確かに、引き継げなかった者も一人か二人は居る様だけど、今の特許を引き継いだ、二世、三世が、この世界を動かす人間として、本当に全員が優秀なのかしら?
家号を引き継げなかった人が、世間を欺く為に敢えて引き継がせていないのかもしれないって考えたことはない?
もっと根本的に言うと、私はね、優れた俳優と、世界を動かす能力はイコールじゃないと思うの。
”二人のみの規定の演技”と、”多人数による未知の事実”は同じなのかしら?
私には、この世界を導く能力何て、全然無いわよ」
「それは・・・」
僕は言葉に詰まってしまった。他の人から言われていたら反発をしていたかもしれない。
しかし、僕の尊敬する、しかも優秀な女優である彼女が自分自身を否定するのである。
確かに、裏でそんなことを囁くひともいると言うのは僕も知っていた。
しかし、当時は能力の無いものの僻みと言われ、消されていたのだ。
「二親等何て、いかにもそれっぽく閉鎖的に見せて、気付かれないように少しずつ力を広げていくには、丁度いいわよね。
そして、特許を取得する基準を調べてみるとね、”被り物”と言う特許の数値をそのまま使っているの。だいたいあの特許自体、自然教の教えの本来の意味の隙間を突いた冒涜ではないかしら?
それに、この特許の引継ぎ方も、家号を利用してもっともらしくした凄くご都合主義ではないのかしら?
もし、最初の特許が95年前にこの世界が出来た時からの作為だったっとして、その前にAV大会の成績で人間の能力の全てを判断すると言うのも作為だったとすれば?
そう考えると何かしっくりとこないかしら。
全てが最初から出来ていた、『一見、民主主義に見せかけた、その実は一つの家号の為の”既得権益”を作り上げるシナリオだった』として・・・」
その時、彼女が抱いていた赤ん坊が、
「あ~ん、あ~ん」
大声で泣きだしてしまった。
彼女の声が怒りのあまり大きな声になったことに驚いたのである。
「ごめんなさいね~里緒、よし、よ~し、いい子ね~・・・」
彼女は子供が泣き止むのを待ってから、気持ちを抑えて続けた。
「ごめんなさい。つい熱くなっちゃったみたい」
「いいえ、こちらこそ・・・」
僕には、それ以上の言葉が出なかった。
全く頭の整理が付かなかったのである。AV界の仕組みが根底から覆される話しであるのに、余りにも筋が通り過ぎているのである。
そして、彼女は少し笑って穏やかに話を続けた。
「もしね、最初の特許が作為で作られたものだったら、次の特許取得者が邪魔になるわよね。
結局、私と私の相方は、彼らの邪魔ものみたいなのよ」
「そんな・・・」
「そうしたら、どうするかと言うと、
強者が強者で居続ける為にはね、後続を仲間にしてしまうのが手っ取り早いのよ。戦って蹴落としてしまえるのなら、その方が利益が多いけど、そんなリスクを冒すより、自分達の利益を僅かずつ減らして共存する方が賢い選択なのね」
「じゃあ何で、香出さんは?」
「まだ、子供だからかな?
だから、間違っていると思うことが出来ないの。
私ね、結構熱いのよ。
もう、気付かれちゃったけどね。
フフフ。
大人になると、視野が広くなると思うでしょ。
それは反対。大人になるとね、周りの人間の幸せには視野が狭くなるのよ。
感情が偏ると言った方がいいのかもね。
子供の頃は、同じに見えていたものが、自分に近いものほど大きく見えて来て、遠い物には感情が働かなくななるの。
自分の為には、物凄く視野が広いのにね。大人ってやあね~。
心の真は子供のままいたいものね」
彼女はそう言って、笑った。
凄く素敵な笑顔だった。
「あ~っ。そっか、と言う事は、私はこの子に冷たいのかもね・・・。
だから特許、捨てなかったのかも。
この世界の僅かな可能性を、この子の意思に任せたい何て、親のエゴよね。
でも、もしこの子に危険が及ぶようだったら、その時は”特許”何てもちろん捨てるわよ。
その時は、私も子供の心を捨てて、大人になってこの子だけを守るから・・・」
彼女の話は僕には驚くことばかりであった・・・。
<つづく>
大変遅くなりました。