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萬のエロはしその香り   作者: 工口郷(こうこうごう)
第3章 三校合同AV祭
57/73

呆気ない特別

 工口くぐちは、ミラミと同居をすることになり、里緒と行ったAV撮影の特許申請も行うことを決めた。

 俺、千乃工口ちのくぐちをAV界にスカウトした”へんてこりん”なスカウター”ラミア様”は、この世界では神に仕える天使的な存在と言うことになっている。


 だが、どう見ても俺にはアリンコ程にも徳があるとは思えない。と言うか一般人よりも間違いなく頼りない。はっきり言って、ポンコツだ。。

 

 今朝の会話でも・・・。


「お前、俺に”1年以上前の記憶が無い”なんて、そんな自分の過去のことを話して、拙くはないのか?」

 そう言うと、


「お前じゃなくて、ミラミなのれす。間違ってばかりれすね~工口くぐちは。全く」

 何てお決まりの訂正を放ってから。


「ぉっホン」

 オクターブ高い咳払いを一つ。そして、


「多分、拙いれすよ。そんな気がするれす。

 でも、だいじょ~~ぶなのれす。工口は誰にも話したりはしないのれす」


 他人ひとの言動に対して胸を張ってそう言うのだ。


 確かに俺はこいつのことを無暗に他人様に話したりするつもりはない。仮に話したとしても、実物と遭遇した三人を除いては信じてはくれないだろうことは安易に予測出来る。


 が、最大の問題はそこではない。


 この世界の最大の宗教”自然教”の神、”自然神様”とやらに使える、天使的存在の”スカウター ラミア様”の歴史がたったの1年しか無いなんて事は有り得ないだろう。と言う事である。


 そんな存在であれば、何百年、いや何千年も存在し続けているのが普通だろうと思う。


 こいつは、本当に、本物のスカウター様なのだろうか?

 それとも、本当にそれ以前の記憶を喪失してしまっただけなのだろうか?


 しかし、神に仕えるスカウター様が記憶喪失なんてことも考えられない気もする。

 因みに、もしそうだとすると、こいつは物凄い年齢のお婆さんと言うことになるのか・・・。


 それに、


「お前は今まで何処で暮らしていたんだ」

 と聞くと、


「お前じゃなくて、ミラミれす。

 あれ、何処って?

 そうそう、夏は~、色んなところで寝たれるね。らけど、冬はホテルれすね。

 易くてお得なホテルがあるのれすよ~。教えないれすけどね」


 と、もったいぶった話し方をする。


「お金はあるのか?」

 こいつは、カップラーメンの特大、アンパン付きでさえもご馳走なのだ。


「ポケットに入ってるれすよ。無くなっても、朝になったら入ってるのれす」

 

 危険な臭いを感じた俺の顔を窺い・・・。


「ああ。工口疑ってるれすね・・。

 ミラミは、お他人ひとの物を黙って取ったりしないれすよ」


 もしかして、お賽銭なのだろうか・・・。

 それとも、神様がこっそりと。こいつのポケットに忍ばせてくれているのだろうか?

 まさか・・・とは思うが、


「お・・、」

 訂正されるのは腹が立つので、”お前”と呼ぶのは気をつけるとする。


「いや、ミラミは自然神様を知ってるんだろう?」


 と聞くと、


「自然神様れすか?名前は有名だから知ってるれすけど、会ったことが有る様な無いような・・・

 良く分かんないれす。キャヒャ」


 何が嬉しいのだろうか?


 分かんないとはどう言うことなのだろう。いわば、こいつの上司にあたるのだ。

 こいつの生活には一番大切なところだと思うのだが、


「記憶のある一年間で会ったことが無いと言うことなのか?」


「ん~、有る様な、無いような・・・」


 そんな感じである。


 こいつに”徳”と言うものを感じれ!と言う方が、どだい無理な話である。

 やっぱり、こいつは、まがいもののスカウター様か?


 だが、俺をAV界へと導き、光の羽根があり俺を抱えて空を飛んだのは、夢で無い限りは事実なのである。

 

 もしかすると、こいつは記憶喪失のスカウター様ではなく、単に記憶が悪い異能力者と言う可能性だってあるのだ。

 だが、例えそうだったとしても悪いヤツではないことだけは間違いと俺は信じている。


 こんなヤツに悪いこと等出来る知恵があるはずもないのだ。もし、行ったとしても、それは無知のなせる技であろう。


 だから、例えこいつが何者だったとしても、深く聞くのはもう止めようと思うのだ。

 

 その方が精神衛生上も良さそうである。

 やはり、ただの”ノー天気不審浸入ロリロリ痴女”くらいの位置づけで良いのではないだろうか。


 とにかく、こんな意味不明なヤツとこの先一緒に住んで、俺に不幸が降り注いだりはしないだろうか。


 それだけが心配である・・・。


★☆ 第11話 ★☆

☆★ 呆気ない♂ ☆★

★☆ ♀特 別 ★☆


 そして、ミラミとの生活が始まり2日が過ぎた木曜日である。


 早くもミラミは何故か嫁気取りに、勝手に物の配置を換える掃除や、するな!と言う洗濯をしようとする。

 いや、実際にしている。


 出来れば何もせずジッとしていて欲しい。いや、それより、俺のベッドにだけはジッとするなと言いたい。

 

 あいつは、俺が寝る前に先に俺のベッドに潜り込み、布団にくるまって俺を近づけさせないのだ。

 「何もしない」と言おうが、「お前がソファーで寝ろ」と言おうが、全くを持って聞く耳を持たないと言うか。

 ダンゴムシに成りきるのだ。


 しょうがなく俺は、二晩続けて小さな二人用ソファーで寝ることに甘んじてしまった。


 まあ、それでも何となく気持ちが今までと違うのは、もしかしたら、アイツではなく、ミラミのお陰なのかもしれない。

  

 何て、ちょっとした不満やら何やらを回顧しているが、俺は今一人で、いつもより早い下校中なのである。 


 我が、”併性へノ路学園高等学校へいせいへのじがくえんこうとうがっこう”、通称”へ高”のAV科の場合、平日の午後の授業2時間は、全て部活に割り当てられている。そして、普通科の授業の終わる午後3時からは一緒に午後5時頃まで行うのが通常なのである。

 因みに普通科の場合、午後からは職業実習と言う実技を行っているらしいのだ。


 この午後からが部活動と言うカリキュラムは、AV科のある第27部の全高校で共通していることである。


 現在は午後3時を少し回っている。よって、通常はまだ柔軟体操部で、妙な運動をしてる最中なのであるが、今日は午後3時になると部活を切り上げ、一人ある場所に向かっているのである。


 と言っても、行く場所の少ない俺が、部活を定時で切り上げてまで向かう場所等は、決まりきっている。


 もちろん、それは“第27部 そ地区羊 役場”である。


 少し遠いのだが、俺は珍しくそこに歩いて向かっているのだ。別に、それに深い意味はない。

 バスを待つよりも歩く方を選択しただけのことである。

 用は単なる気まぐれである。


 まあ、一人で歩くと、色んな事が頭を過ぎって来るのは俺だけではないだろう。


 そう言えば、昨日のAV祭実行委員会も、へっぽこスカウター様並に傑作であった。


 もちろん、AV祭の詳細が分かって来て、それ自体が結構ユニークだと言うこともあるのだが、何と言っても一番は面白かったのは、あの高慢ちきな生徒会長、稲荷家一子いなりやいちこの意気消沈した姿である。


 AVビデオ大会の里緒の活躍で、いかにAV祭で好成績を修めても学年1位の座を奪還出来ないと感じた一子は、終止、青白い顔で溜息をつくだけなのである。


 ちょっと可哀相な気もするが、お陰で、会議は”AV委員会生徒代表”穴井狭子あないきょうこの提案の元にスムーズに進み、大まかに内容が決めることが出来たのである。


 今頃は校長と宝家先生、それに穴井狭子他生徒2名が、他の2校へ交渉に向かっているはずである。そこで、概ねの合意が得られれば、三校合同AV祭が行われることになる。


 彼女にはもう暫くはこのまま大人しく沈んでいてもらった方AV祭実施の為には良いのだが、それを一番期待していた稲荷家一子がこんな状態だと”何の為だったんだろう?”と言う気もしてしまう。


 しかし、申し訳ないが今の俺に正直どちらでもいい事なのだ。


 それよりも、俺にとって今大切なのは”特許取得”と言う大イベントの申請を滞りなく完了させることである。

 これが、この先の俺の人生を激変させることになるのかもしれないのだ。いや、俺だけではない。ミラミも里緒も、更に周りの人達にも大きく影響するかもしれないのである。


 と言う事で、長くなったが俺はそれを実行するべく“第27部 そ地区羊 役場”に向かっているのである。

 

 昨日、一持兄いちもつにいさんと”G3☆食堂”で再び会って再度説明を聞いた結果、特許申請をすることを決意したのである。


 と言っても、誰が考えても俺の立場であれば特許申請をすることが当然のことであろうと思う。そこで、何で敢えて相談をしたかと言うと、そこは理解して頂きたい・・・。


 この訳の分らないAV界で、未知の領域に首を突っ込むのである。誰かに背中を押して欲しかったのである・・・。


 本当は里緒とも、ゆっくり話をしてから申請をしたかったのだが、あれから里緒とは再び気まずくなってしまい、何の会話も出来ていないのである。


 やはり、また”まほまほ”と叫んでしまったのが良くなかったのだろうか・・・。


 だが、里緒の意向は、店主マスターから確認することは出来たのだ。


 店主マスターの話では、もし特許が取れても、里緒は高校を卒業するまでは権利を保留するとのことなのである。店主マスターと里緒との間でそう言う話しになったらしい。

 それで、里緒が納得したのであれば、俺もそれがベストではないかと思う。


 そんなことで、俺が一人で特許申請を行い、もし特許を取得出来たら、里緒は高校を卒業してから権利を取得する。それで話が纏まり、俺はアパートに帰ることにした。

 その時である。一持兄さんが、


「特許申請に、一緒に行こうか?」


 と言ってくれたのだ。何処までも世話好きな優しい人である。


 もちろん、敢えて背中を押してもらいに来たくらいである。本当は一緒に行ってもらいたかったのだが、もう役場に行くことにも慣れた俺は、ちょっとカッコをつけて遠慮をしてみた。


「大丈夫です。もうこの世界にも慣れて来ましたから」


 正直言って、少し調子に乗っていると言えば、そうなのかもしれない。

 これも、アクセス数の後押しがあったからこそ言えた言葉である。この世界で認められていると言う実感が俺の力となっているのだ。


 特許申請をするのだから当然なことではあるが、俺と里緒の初演AVビデオ”初めての柔軟”は、爆発的なアクセス数を記録しているのだ。そして、その勢いは加速を続けており、本当に特許を取れるのではないかと思わせるのである。


 基本、視聴アクセスは10分毎に1回行うのだが、新人戦は15分と言うことで20分に満たない為、1アクセスで最後まで視聴することが出来てしまう。


 よって、今回の場合視聴アクセスと、視聴者の”のべ数(ユニーク数)”は一緒になるのだが、その数が撮影した今週の月曜の夕方から、昨日一持兄さんと会った水曜日の夕方までの間に、何と!5万アクセス(ユニーク数)を超えているのである。

 

 一持兄さんの話では、特許を取る条件は3ヶ月間で500万ユニーク数で1000万アクセスが必要なのだそうであり、日割りするとまだまだの様にも見える。だが、今の伸びを続ければユニーク数はいい線に行くのではないかと言うのである。

 ただ、今回の新人戦の場合撮影時間が短かったので、1アクセス=1ユニーク数となる為、アクセス数は厳しいことになる。これは再視聴者がどれだけいるのかに掛かっているとのことだ。


 後の条件としては、お気に入り作品数が10万件を越すことが必要なのだそうだが、数は少ないが、以外とこれが難しいらしいのだ。


 この数は、アクセス数とは違い増えるばかりではなく、減ることもあるのだ。

 用は、理由は分からないが”気に入らなくなる”と言うことがあると言うことになる。

 

 一持兄さんは、俺の特許取得を邪魔するものが現れて、”お気に入り作品数”を減らす行為運動をする者が現れるかもしれないと俺に言うのである。

 まあ、笑いながら言っているので冗談なのだろうが、最後の最後までぬか喜びは出来ないと言うことではある。


 特に料金が発生しないらしいので、是非取り消さないで頂けることを願うばかりである。


 何かに気を取られていると、時間の経つのは早いものである。

 そんなことを事を考えている間に、もう何度か来ている”そ地区 羊役場”に着いてしまった。


 2階に上がりJRAV会の窓口に近づくと、


「あれ?」


 窓口に近づくに従って、お色気がムンムンと伝わって来るのである。


 不思議に思い良く見てみると、いつもは住民課の受付にいるレンズの無い黒縁メガネを掛けたお姉様が、満面の笑顔で俺の方を見ているのだ。


 俺は急いで窓口に行くと、まずは特許申請のことよりも、


「今日は、何で住民課・・・じゃ無いのですか?」


 疑問の解決からである。

 まだ時間に余裕がある特許申請のことよりも、直近のそちらが気になってしまうのは普通のことであろう。と、言う事で窓口のお姉様に聞いてみると、


「校長先生から連絡があったのよ」


 なんて、言う。

 一応、俺は塩南先生と校長にだけは特許申請を行う旨を伝えてはいたのだ。だが、その連絡が役場にまで届き、更に、わざわざ担当窓口まで替えて待っていてくれたとなると、俺がAV男優として有名になったからだろうか?何て思ってしまう。


「そ、それで、わざわざですか?」


 おごりの表情を抑えて聞いてみると、お姉様は、


「なんと、工口くぐち君の担当が、この私だからなのでーす」


 と、誇らしげに即答しれくれた。


 なるほど・・・。そうであった。

 そう言えば、AV男優の前に、俺は異世界から来た特別な人間であったのだ。


 世間の人達が、俺が何者であるかを知らないので、俺は自分の特別度がどの程度であるかを、普段余り体感出来てはいない。だから、忘れがちなのだが、もしも世間の人達が俺の事をを知ったら、校長が初めて俺と会った時の様に、VIP的扱いをするかもしれないのだ。


 となると担当がいてもおかしくはないのである。

 誇らしげに言ってもらうと、何か嬉しくなってしまう。


 ただ、それだけで窓口を移して待っていたのでは無い様だ。

 特許申請など通常ありえないことなので、この”羊役場”では一番業務に詳しい彼女が行うことになったと言うのも大きな理由の様である。となると、彼女は優秀と言うことになる。


 因みに、彼女はそれの方が誇らしげである。


「え~と。これが申請書で、こちらが説明ね。特に難しい記入はないので、書き終わったらまた持って来てね」


「はい、有難うございます」


 受け取った用紙は二枚一組で、一枚が説明書きで、もう一枚が申請書である。

 俺はその二枚の用紙を受け取ると、記入用のテーブルに移動した。


 彼女の言った通り、申請書に記入する内容は、一般的なもばかりで特に悩む様なものでは無かった。ただ、俳優名の空欄が二つあったので、本来は二人で一緒に申請するものの様だ。


 俺は一つの空欄にのみ、俺の俳優名の”福山回春ふくやままわはる”を記入し、残念ながらもう一つの俳優名の欄は「空欄」のままとした。

  

 俺が2枚の書類に必要事項記入して窓口に戻ると、お姉様は記入事項を素早く確認し、にっこり笑って今後の詳細を説明してくれた。


 その内容は、概ねと言うよりも、ほぼ一持兄さんの説明そのままであったのだが、ただ一つ違っていたのは、申請に対する”受理書”が存在すると言うことである。

 それを持って申請が完了するとのことである。


「明日の午後以降、受理書が交付されるから、取りに来てね。住民課の窓口でいいわよ」


「はい、じゃあ明日取りに来ます」


 何のことはない。以外にも呆気なく申請は簡単に終わってしまった。


 これで済むのだったら、一人で来て良かったなぁ・・・。

 と、ちょっと拍子抜けである。


 俺は役場を出ると、夕食の買い物をして、ミラミの待つ俺のアパートへと帰ることとした。


 昨日はあいつに夕食を任せたせいで、とんこつ味のカップラーメンであった。

 それなりのお金を渡したのにである。


 そこで、今日は俺が夕飯の当番をすることにしたのだ。


 本当は外食の方が無難な物にありつけるのだが、俺はあいつの”へんてこ”な行動が全く読めないでいる。あいつと外出すると、どんな騒ぎになるか未知なのだ。


 であれば、そんな心配をしながら外食するよりも、多少粗末でも家でゆっくりと食事をした方が美味しくいただけると言うものだ。


「あいつの栄養状態が心配だから、今日は”すき焼き”にでも挑戦してみるとするか・・・」


<つづく> 

 

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