AV界二大奥義(その4)
二大奥義の二つ目とは、それに隠された事実。
工口と里緒は特許申請をするのか?
いったい、一持君はどこまで工口君に話すつもりなのだろうか・・・?
”G3☆食堂”の店主であり、千逗里緒の祖父である利吉は、一持握の言動が自分の想像の範囲を越えていることにヒヤ汗が止まらない。
まさか、幾らなんでも里緒の前で13年前の香出さんの、あの事件のことを話す訳じゃないんだろう?
この子は、まだ多感で傷つき易い。それに自分の感情を冷静に抑制することが出来ないんだ。
一持くん・・・。
祖父として、そして親代わりに里緒を育てた者として、利吉は”そのこと”を知った里緒の精神状態が心配でならないのだ。
二十年前に、二大奥義のもう一つ”技”、縦笛の特許を得た実の母の顛末。
その事実を。
利吉は心の中で叫ぶ。
あの事実を知ってしまう衝撃は、まだ、この子には早すぎる。
それに、里緒は自分までもが香出さんと同じ悲劇に会う可能性があることがを知ってしまうことになる。
そして、きっと里緒は香出さんの様に自ずから危険に飛び込んでしまうだろう。
一持君、君には判っているはずだ。
香出さんの一番のファンとして、そして、影からこの子を支えてくれている身として・・・。
★☆ 第 7 話 ★☆
☆★ AV界♂ ☆★
★☆ ♀二大奥義 ★☆
☆★(その4)☆★
・・・一持握の二大奥義の話は続く・・・
「近藤務家は意外だっただろうね。まさか新たな奥義が現れるとは思っていなかったと思うよ」
そう言う一持兄さんの表情は心なしか苦笑混じりだ。
一持兄さんは、きっと、今の近藤務家に何かしらの不満があるのだろう。
近藤務家が”被り物”と言う技で特許と言う法律を作り上げた経緯の話ぶりから行って、それは間違いなさそうに思えてしまう。
だけど、仮にそうであったとしても、この世界も俺の元の世界と変わらないだけの事だと言えば、それだけのことなのである。
権力を得る為に卑劣な行動を取る奴と言うのは、世界が変わってもいらっしゃると言う事なのだ。
良くある話じゃないか・・・。
一持兄さんの気持ちは解るが、正直言って他人事の様に思えてあまりピンと来ない・・・。
そんな俺の気持ちが顔に出てしまったのだろう。
「おっと、ごめんごめん余計なことだったね・・・」
或いは、一持兄さんも喋りすぎと感じたのか、自嘲気味な苦笑いを浮べる。
「・・・話を戻すと、この縦笛”と言う技は、もう知っての通り”JRAV会大会規約”の裏表紙にあった通り、女性が男性の陰茎を口で含むという技なんだが、当時は口を使う技は一つも無かったので、凄い衝撃だったんだよ。
それも、開発した女性はデビュー二年目と言う若さだったから、尚更さ・・・」
へ~、二年目で二大奥義の一つとは凄い。あまりピンとは来ないが、客観的には理解が出来る。
AV撮影にも天才が居ると言う事なのだ。
まあ、俺の世界のAV業界ではコースメニューのワンパターンとも言える当たり前の行為であるのだが、世界が違えばこんなものかもしれない・・・。
さらに、一持にいさんは、話を続ける。
「・・・因みに、男性の陰茎が大きければアルト縦笛、小さければソプラノ縦笛と言うんだ。どっちの技が優れていると言うわけではないが、二つに分けているんだ・・・。
ああ、そう言えば、口を使うと言う点では工口君と里緒ちゃんの技も一緒だよね」
と言うが・・・、
いやいや、それはフェラチオだろう。俺の世界では全然一緒ではない。と言いたい。
口には出さないが、俺と里緒の最初の行為をフェラチオと一緒にされたくない気がする・・・。
しかし、本番行為は”生”が厳禁なのに、そっちはいいのだろうか?
それだって、体液移動に当たるだろう。
俺の父側の従兄弟である林票児兄さんは、確かヘルスで、[自主規制]行為を行って、淋しいことになったと後悔しきりだったはずだ。
俺はその時、決して風俗等行くまいと心に決めたのだ。
そうだ、生は拙いだろう・・・。
もしかして、それもゴム付きなのだろうか?
でも、AVビデオ撮影でのゴムの使用は”被り物”の特許ジグだから。多分使用は不可能と思うのだが・・・。
気になるところだ。
聞かずにはいられない・・・。
「すみません、それは自然教違反にはならないのですか?
それも、体液移動と言うか、拙いんじゃないかと・・・」
「ああ、大丈夫だよ。種子を出さなきゃいいんだよ」
「しゅし?」
しゅしって何だ?
「射精だよ。これは、AVビデオ撮影では”縦笛”に限らず出しちゃいけないことになっている。危険物扱いだね」
ほ~っ?危険物!
なるほどね。そう言う事ですかー
まあ、出さなきゃいいってこと何だろうけど、でも・・・、
んっ?
そこで、俺はある液体に注目したい・・・。
それは・・・透明に澄んだ光り輝く”先走るもの”なのだが・・・、
微量とはいえ、それはどうなるのだろうか?
あれの制御は人類にとっては、すこぶる難しい。
もしかして、この世界の男性は”あれ”が出ないのだろうか?
そんなことって、あるのだろうか?
まさか・・・。
聞いてみたい。
それは、興味だけではない。
ご法度を起さない為にも、その手の正確な知識は必要なのだ。
ではあるが、どうやって聞けばいいのだろうか?
俺はその”液体”の正式名称を知らなければ、この世界の男性の生理現象を正確に掴んでいないのである。
そして、なによりここには里緒様もいらっしゃる。下手なことを聞くと嫌われてしまう恐れがある。
そんな気の迷いが・・・。
「あの~、一持さん。その~」
いかん、気持ちが言葉を押し出してしまった。
「なんだい、何か疑問でも?」
はい、疑問はあります。ありますが、その表現力に乏しいもので・・・。
俺は言うか言うまいか・・・と思いながらも、やっぱり言いかけた言葉を止められなかった。
「別な液体と言うか、その~微量だと良いとか・・・」
「ああ、もしかして先走り汁のことかい?」
「は、はい。そ、それです」
なんだ、その名前で良かったのか。ちょっと拍子抜けだ。
しかし、問題は名前だけではない。里緒様のご機嫌も心配だが・・・。
そこで、取り敢えず、里緒の反応を確認すると・・・。
話は聞いている様だが、未だに「特許、とっきょ」と呟いて気にも留めていない。
Oh!宜しゅうようで・・・。
里緒にとっても問題のない液体の様だ。しかし、そう考えると、思い出されるのは”まほまほ”と言う言葉が一体何者であるかだが、それは後に取って置くとする。
「透き通っている液体はいいんだよ。例えば、汗とか唾液とかもそうなんだ。だから、工口君の技も問題ないよ。因みに、女性の潤滑油も透明と位置づけている」
「そ、そうですか」
ォフッ!そんな予備知識まで・・・。
透き通れば綺麗と言うことなのだろうか?
それはそうと、知らないと言うのは恐ろしい。
もし、自然教が透き通っていてもダメだと言っていれば、今頃俺は犯罪者になっているところではないか!
「ああ、因みに、透き通っていない液体を出したら不衛生と言うことでビデオ撮影されるだけでご法度だから注意した方がいいよ」
なるほど・・・。
と言うことは、整理するとAVビデオ撮影でご法度になるのは、”生本番”と”射精行為を含む透き通っていない液体放出が映ること”。それに、特許違反が”コンドーム付き本番”と”フェラチオ”と言うことになる。
これをAVビデオ撮影大会で行わなければ良いと言うことだ。
だが、透き通っていない体液は他にも色々あるのだが・・・。
それも、やはり御法度なのだろうか?この際、きになることは全部聞いてみよう。
「あの~例えば、血液とか、その他排泄的な体液はどうなんですか?」
「ああ、血液に尿だろ?それに、下痢的な糞もあるね。それらは射精行為と一緒で、ビデオに映らなければいいんだよ」
「もし、映ったら?」
「もちろん御法度さ、まあ、不慮の事故で怪我をした場合に出た血液は見逃されているけどね。それに、下痢糞や、尿をところ構わず出すものはいないだろう・・・。まあ、常識の範囲で撮影していれば問題ないさ」
どっへ~!!
それを聞いて、俺は縮み上がった。一部分ではない。全身がだ・・・。
俺にはこの世界の常識に少し欠けているのかもしれない・・・。
昨日の撮影中、もし、あそこでトイレに行くのが、あとホンの僅かでも遅れていて、噴射してしまっていたら俺は今頃犯罪者になっているところであった。
危なっ!
かった~。
俺の元の世界では、一般的で無いとはいえ、糞尿的プレーは存在している。いったい、俺の世界はこの世界より、性的に進んでいると言うことになるのだろうか、それとも遅れていると捉えるべきなのだろうか?
まあ、どうでもいいが・・・。
そんな俺の心の騒ぎも知らずに、一持兄さんの話は続いていく。
「話を戻すと、その”縦笛”と言う技を持っているのが、”尺八屋”と言う家号の一族なんだ。
彼らは、元々竹輪や、かまぼこ等の加工品の製造販売を行っている一族だったんだが、特許を得たことをきかっけに著しく繁栄し、今では食品加工以外にも楽器関係、更に金融業等にも進出して、手広くやっているんだよ」
尺八で楽器に手を出すと言うのは、懸命な企業方針と言えないこともないが(嘘だが)、しかし、この世界はAV撮影が命ではなかったのだろうか?聞いてみよう。
「手広くって、AV撮影大会に専念はしないんですか?」
「AV撮影大会で活躍出来るのは、まあ、女性でいいとこ40才位まで、男性も40中位までだろうね。もちろん、G2位までになれば、それまでに得た収入で一生暮らせないことはないんだが、人には欲が出るものなんだよ。そうだろ?」
”そうだろ?”って言われてもって気もするが、まあ、確かに高収入を得ると日常の出費も激しくなるのは当然だし、AV大会の成績で社会的地位の上がるこの世界であれば、きっと商売にも利益がありそうなのは、俺にだって容易に想像の付くことではある。
一応、肯定しておくこうか・・・。
「はあ、まあそうですね」
「と、言う事で、この二つの家号は、沢山のG1戦士が生まれていて、今や二大財閥になってるんだ」
「財閥ですか・・・」
肯定を前提としていたようだ・・・。
それにしても、この世界には財閥が存在するのか・・・。
「話が長くなったけど、要は、特許と言うのには凄い力があると言う事なんだ。
工口君も特許があればこの世界で暮らしていくお金には困らないよ。困らないどころか君なら大金持ちなれるさ」
「ほ、ホントにですか?!」
三つ目の財閥と言うことか?
いや、しかし。
ちょっと待て!
一瞬その気になって喜んでしまったが、ここは冷静にならなければ。
よく考えるとしよう・・・。
特許がこの世界に本当に二つしかないのであれば、財閥を築きあげれるのも不思議なことではない。多分、誇張した話ではないだろう。
それであれば、過去のいきさつが何であれ、変なデメリットさえなければ俺が否定する理由は皆無である。一持兄さんだって、善意でアドバイスしてくれているのだ。
それに・・・。
お金だけの問題ではない・・・。
此処に来る前に”まほまほ”で無かった”ミラミ”から俺が元の世界に戻る方法として、あの空まで届くミンジュ塔を上り詰める程のAV俳優になれば、自然神と言うこの世界の神様に認められ、元の世界に戻れると言う話を聞いたばかりなのだ。
雲を掴むような胡散臭い話ではあるが、あいつの任務もそれであると言うのだ。
そして、本当かどうかは分らないが、あの時のあいつの顔を見て、俺はそれを成し遂げることを目標としたばかりなのである。
だから、俺は”G1戦士”位はあっさりとクリアしなければならないのである。
俺にとってはこの上ない、朗報がいきなり舞い込んだのだ・・・。
それに、里緒の夢も叶うじゃないか・・・。
となれば、後はデメリットだが、現に二つの特許が存在するのであれば大した問題は無いだろう。
あるとすれば、特許を取れなかった時に何か被害は無いかだが・・・。
「一持さん、本当に良いことばかり何ですか?その~デメリット的なもの何もないのですか?」
「デメリットとは?」
一持兄さんが、そう言った時である。
ガシャン!
心臓が縮み上がる程の陶器の割れる音が店内に響いたのだ。
俺が驚いて音の方に視線を向けると、その音の原因は店主であった。
「すまん、すまん、手が滑ってしまって。余りにも凄い話しだから興奮してしまったようだ」
店主が苦笑いをしながら、落として割れた皿を片付けだす。
「もう、おじいちゃんは~、冷静になってよね」
里緒はそう言うが、そう言う本人だってついさっきまでは震えていたではないか。
里緒、俺には似た者同士にみえるぞ・・・。
俺も店主に笑いを返す。
ドンマイ、店主!何て感じに。
と言うことで、話を戻して、ちょっと心配症のビビリの様で恥ずかしいが、俺は質問を具体的に言い直し、真剣に確認をさせてもらうことにする。
「つまり、こう~。余りにも事が順調過ぎると、返って心配になってしまって・・・。
例えば、勇んで特許申請したはいいが、取れなかった時に世間から冷たい目で見られないかと・・・」
「ハハハ、ああ~なるほどね、そんな心配か~。
それはあるだろうね~」
やっぱりか・・・。
「でも工口君は、”エロン棒様”何だから、誰も本人は解らないよ・・・」
なるほど、そうであった。
「・・・と言いたいところだが」
あれ?
「誰もって言うと嘘になるね。少なくても役場の担当者は、工口君の顔と俳優名、それに演者名が全て解ってしまう可能性はあるね。それに、役場の数人も、演者名と俳優名の結びつきは知っているだろうから、演者名の”エロン棒様”と工口君が結びついているかもしれない。
基本的に住民登録と、JRAV会の俳優登録は全く別管理なんだが、役場内で行っていると言うことでは一緒だからね」
そうだ、そう言えば、黒ブチメガネが会う度に卑猥度を増していく住民課の窓口の女性は、俺の俳優名を知っていたからこそ、俺の為にカツラを準備して待っていてくれたのだ。少なくても、あの役場で彼女の周辺の人は、俺の本名と俳優名を結びつけることは可能なのである。
だからと言って、彼らも個人情報を扱っている身として、簡単に漏らしたりはしないだろう。
そんなことをしてしまっては、住民登録とJRAV会の俳優登録を別にしている理由がなくなる。だから、本来は個人を特定出来ることに、無視をしなければならない立場のはずなのだ。
住民課の窓口の女性の場合は、俺が異世界からスカウトされた人間であることが世間にバレてしまうと騒ぎになると言う事で、敢えて俺の為にやってくれたことなのだろうと思う。
多少、職分を間違えたとは言えるが、善意でやってくれたんだ。きっと、”善意の天然さん”なのだろう。
だから、彼女だって俺が笑われるようなマネはしないはずだ・・・。
よし、そうであれば、決まりではないのか?
この”特許”試してみるしかないだろう!
そう思った時だった。
「と、特許申請します」
俺より先に里緒の震えた大きな声が食堂内に響いたのだった・・・。
<つづく>
更新が大変遅くなってしまいました。次回はもう少し早く更新致します。