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萬のエロはしその香り   作者: 工口郷(こうこうごう)
第3章 三校合同AV祭
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AV界二大奥義(その2)

果たしてこのAV界では、AV撮影だからと言って自分の孫娘が裸で抱かれたこと知っても平気なものなのだろうか?



 俺、千乃工口ちのくぐちが”初じめて参加したAV撮影大会”第27部 第一回 サラ18歳新人大会”の評判は、予想に反して思いもよらない驚きの方向に進行している。


 何と、追い詰められた挙句に行った俺の性癖が、世間様では”大技”として認められ、AV界において規模は不明だが、それなりの旋風を巻き起こしているのである。

 ・・・と想像される。


 アクセス数は新人の常識を遥かに超え、G2クラス並みと言う凄い数であり、お気に入り数だって既に200件を超えている。


 それに、お尻の綺麗な若い女性から沢山の感想が来ているのである。このままの調子で行くと俺の行く末は、もしかすると”AV界のアイドル”何てことになるのかもしれない。想像するだけでも興奮してしまう。


 ただ、AV界でビデオ撮影を運営しているJRAV会では、一般に公開しているビデオ出演者の登録は”演者名”と言う作品毎に付けた個人名のみであり、俳優ユーザー名や、本名は特定出来ない様になっている。

 個人情報を公表しない規定となっているのである。


 よって、アイマスク姿で出演し、演者名と本名に結びつきのない俺は、外見からも名前からも誰にも判らない謎の存在と言うことになる。なので、残念ながら街中で若いお尻の綺麗な女子群にもみくちゃにされてしまう様な事態は発生したりはしないのである。


 と言っても、これは俺が故意に行っていることであり、当然の結果なのである。

 何故か俺は異世界からスカウトされたことを隠さなければならないことになっており、個人を特定されてはいけないことになっているのである。


 何でも、俺が異世界からスカウトされた事が分ってしまうと、俺の通っている通称”へ高”の学校長いわく、校内でそれなりの騒ぎになってしまうらしいのである。

 まあ、校内の格付けランクと無関係でAV撮影大会の出場権が得られるのだから、それも分らないでもない。


 そんなことで、俺が撮影前に咄嗟に付けた演者名は、思いつきの”エロン棒様”。個人を特定出来ないと言う意味では正解ではあるのだが、安易であったことは否めない。


 今、俺の演者名”エロン棒様”は、競歩選手かと思うスピードで一人歩きを始めているのである。


 こうなると、この先俺が有名になって行くには、否応無に今回思いつきで付けた”エロン棒様”を継続していくことになってしまう。


 安易なことをせず、前もってそれなりの名前を考えておくべきであった。


 今更ながらこの名前、結構後悔をしている・・・。


★☆ 第 5 話 ★☆

☆★ AV界♂ ☆★

★☆ ♀二大奥義 ★☆

☆★ (その2) ☆★


「・・・ところで、今回の27部の新人大会はどうだったんだい」


 嬉しいことに、俺の恩人である一持兄さんは、10日近く経った今でも俺の事を気に掛けてくれていたようである。


 ただ、この問いの意味するところは、未だ一持兄さんは俺がまだ里緒の相方であり、”エロン棒様”であることを認知していないと言うことになる。更に、それに対する、店主マスターの反応がない。


 と言うことは、二人ともまだ里緒の相方が俺であることを知らないと言う事になる。


 自信満々に「実は俺が、あの新人大会で有名な里緒さんの相方の”エロン棒様”なんです」なんて言っても何のことなのかさっぱり解らない。「あんた何言ってるの?」何て状況も想像出来る。


 いや、俺のことを気に掛けてくれているのだから、里緒の事だって気に掛けているだろう。恐らく一持兄さんは、里緒の作品として俺たちの作品を観てくれているのは、彼の性格から間違いがないし、もちろん店主マスターだって、里緒の祖父なのだから、例え里緒が嫌がったとしても隠れてでも観てくれているのは間違いない。


 少なくても、里緒の相方が”この俺”だと知ると、俺が里緒に対してどんな行為を行ったが自動的に脳裏を過ぎることは言うまでもない。


 それって、ホントに調子に乗って言ってしまっても大丈夫なのだろうか?

 俺の身がちょっと不安だ。


 ただ、今日の調子は良好だ。

 この世界に来て一番の強運日と言っても良い位である。何せあれだけ探していた”まほまほ”でははなかった、新呼名”みらみ”にも会えたのだ。


 とは言っても、俺が元の世界に戻る何の解決にもなりはしなかったのだが・・・。

 しかし、少なくても天使的な存在のスカウター様だ。この世界のみの括で考えると、会えただけでも相当運勢が良いとも言える。多少、勝手な解釈かもしれないが・・・。


 きっと、一持兄さんは俺のことを気に掛けてくれているのだから、口癖の様に言っている”すごいじゃないか”位は言ってくれるだろう。

 それに、店主マスターだって、里緒の成績に多大なる貢献をしたと言う意味では俺は高い評価を受けてしかるべしである。このAV界はそうい言う世界のはずである。


 であれば、ここで俺が里緒の相方だと言ってしまっても大丈夫じゃないのか?

 もしかしたら、感動で涙さえしてくれるかもしれい?


 ・・・でもだ。

 それは論理的には、なのだ。

 果たして俺の世界と似通ったこの世界で、人間の感情が論理に追いつけるかと言うことははなはだだ疑問である。


 本当に、この世界では成績さえ良ければ可愛い孫娘を裸で抱いても、気持ち的に平常心でいられるものなのであろうか?


 まだ、初演を観た親心、いや祖父心と言うものが、どんなものであるのかを実際に聞いたことの無い俺が決めつけることは、かなり危険なことかもしれない。


 そもそもだ。そんなことを勘繰ってしまうのは、正直言うと、このAV界の通常の演技で里緒を抱いていないと言うのが大きな理由なのだ。


 ごく一般的な演技であれば、心では多少面白くないことはあっても、店主マスターのことである、大人としてそれなりの対応はしてくれるであろう。


 しかし、俺が作品上で行った演技と言うか、行為はこの世界では通常な行為では無いと言うことが既にはっきりとしているのである。


 俺の元の世界では女性の服を脱がせたり、はたまた、パンティーの一番か細い側部を手にしたら”Tバック”を作ってしまうのは、俺の性癖だけではない。

 男としてそれ程変わったことではないはずだ!と断言したい。


 しかし、このAV界では”大技”と言う目新しい演技なのである。

 こと古風な考え方の人、はっきり言って老人達にとっては、この俺の放った新しい”大技”が受け入れられるかどうかは未知の部分である。


 もしかすると、俺の思考では計り知れない変体チックな行動に映っているのかもしれないのである。

 用心深い俺には、そんなマイナス思考の疑念が沸いて来てならないのだ。


 確かに、学校では塩南先生を始め柔軟体操部の部員達、級友達からは大絶賛で否定的な意見は一つも無かった様に思う。それに半世紀以上生きているであろう、へ校長(併性へノ路学園高等学校へいせいへのじがくえんこうとうがっこう校長)にも好評であった。しかし、彼はAV撮影を積極的に教える立場の人なのである。それに、考え方もすこぶる若い・・・。


 大丈夫だろうか、いきなり包丁を投げつけられたりとかしないだろうか・・・。


 一持兄さんの褒め言葉に流されて、店主マスターも「良かった」位は言ってくれれば良いのだが・・・。

 一度不安に思うと、ズッポしハマッテしまうのが俺である。


 しかしだ。このまま悩んでいても何れは分ることであるだろう。何せ里緒の保護者なのだ。


 それであれば、この店のお得意さんである一持兄さんのいる時に言った方が無難ではないだろうか。

 仮に店主マスターが怒りだしても、彼が助けてくれればきっと何とかなる。

 何より彼は口が上手い・・・。


 よし!


 とばかりに安全を考え、俺はさりげなく一持兄さんの後ろに立ち位置を変えながら、


「一持さん、店主マスター、実はあの~・・・」


 度胸を決めて俺は自分が里緒の相方であり、エロン棒様であることを言おうとしたのだが・・・。


 更に余計なことを思い出した。

 ”エロン棒様”の時の”俺の姿”が客観的に頭を過ぎってしまったのだ。


 ちょっと待て、言っても大丈夫か・・・。


 そうだ、俺の繰り出した性癖だけがこの世界では斬新な行為と言う問題だけでは無いのかもしれないぞ。もう一度、客観的にあの時の俺の姿を想像してみよう。


 あれは古風な人々に受け入れられる姿であっただろうか?


 俺はこのAV界のビデオを毎日結構見ている(理由は何であれ)のであるが、エロン棒に変身した時の俺の様な格好(衣装)は、まだ一度も見た事がない。


 よく考えると、いや、考えるまでもない。元の俺の世界でも通常の人々は、ほぼ持っていない衣装である。この世界ではもっと珍しい衣装の可能性は高いのではないだろうか。


 たとえ、里緒が選んだ格好であることを慌てて補足したしても、トータルイメージでは俺の変質性はぬぐえないであろう。


 そんな思考を巡らせていると、


「どうしたんだい?」

 

 一持兄さんが俺の顔を覗き込んで来た。


「いえ、あの~里緒さんの作品は、見たりなんかは・・・」


 そこで、急遽きゅうきょ俺のあの姿を見たかどうかを、先に探ってみることにする。


「あ~あ、もちろんさ。や~里緒ちゃん良かったね~。可愛くて、キュートで心も体も感じていたね~。

 それに、相方の何て言ったかなぁ~、ああ、そうそう”エロン棒様”とか言う、変な名前の相方さん。何者なんだろうね。アイマスクなんかして、本当に18歳の新人なんだろうか?


 僕はね、工口くぐち君、彼が本当に新人であるのか疑ってるんだよ。あの変態的な様相での堂々ととした一種独特な行動。それに、そうそう特にあの他愛も無い口を重ねると言う技。あれだけで、見ている人を魅了させるなんて、18歳じゃあ~考えられないよ。

 本当に、18歳の新人さんだったら奇跡だね」


 おぉっ?

 微妙な言い回しに加え、”変体”と言う単語はあったが、トータル的には結構高評価じゃないのだろうか?

 俺の格好が変態的と指摘されてしまったことについて目を瞑っても、余りある評価と十分に判断出来る。変体と言われても嬉しく感じたのは生まれて初めてだ。

 誤解しないで頂きたいが変態と言われたのも初めてである。


 そうれはそうと、肝心の里緒の肉親、店主マスターは、どう思っているのだろうか?

 そう思い、店主マスターに視線を移してみると、


店主マスターは、どう思いますか?」


 丁度、一持兄さんが俺の心を読んでくれたかの様に話を振ってくれた。

 それに、店主マスターは、


「あっ、ああ、凄かったね。里緒の相方が彼で良かったよ。ん~、満足さ、ハハハ。

 彼には感謝しているよ。ただ、確かに格好と、演者名にはセンスが無かったかもはしれないが・・・」


 急に強張った顔つきを見せたので、一瞬、孫娘を裸で抱かれたことに対して、不満であることが顔に出てしまったのかと思ったが、どうやらそうではなさそうだ。


 おお~、ビビるじゃないか・・・。


 それは急に話を振られたせいでなのだろう。その後は、笑顔を見せてくれている。

 俺の評価もマイナス分を差し引いても、概ね良と判断して良さそうだ。それに、”変体”の言葉を頂戴ちょうだいしなかっただけでも評価に値するのに、”満足”と言うことばも言ってくれたのだ。俺こそ満足だ。

 

 これなら、大丈だ。

 慎重深い俺でも”俺 = エロン棒様”を発表しても問題無いと判断出来る。


 これ以上余計なことを言われると返って言いにくくなってしまうかもしれない。であれば、今が告白タイムだ。


 心なしか店内の全体の雰囲気も温かい気がする。

 ここで俺の隣に里緒がいれば、何か結婚の申し込みをしに来たみたいな雰囲気だ・・・、なんて・・・。


 と、思っていたら、本当に階段を駆け下りる音が聞こえてきた。この家で二回から降りてくるのは一人しかいない。新婦、ではない里緒だ。


 ギーッと、店の奥の扉の開く音が聞こえると、


「工口くん、来てたの!」


 店内に響く良く通る声と共に満面の笑顔が登場した。俺を含む店内全員の視線が登場した主役、里緒に注がれる。


 里緒の姿は、俺好みに脱衣させ易そうなデニムのショートパンツにピンクのトレーナーと言うラフな姿だ。どうも昨夜から俺の脳には、更に瞳に映る映像を自動変換する機能が備わっている様だ。里緒の姿を更なるラフなパンティー1枚の姿に置き換わってしまう。


 肉親の前で里緒のあられもない姿を想像していると、何か恥ずかしくなってしまうが、俺が恥ずかしがることはない。例え俺の脳と同じ映像が、偶然二人の脳にも映し出されていたとしても、恥ずかしいのは里緒なのである。俺の脳は誰にも覗けはしないのだから。


 あれ?しかし、本当に里緒が真っ赤な顔をしているぞ。

 まさか・・・。


 なんて、そんなことがあるはずが無い。

 しかし、こんな着衣姿を見られただけで顔を赤くする里緒が、撮影中によくもあの姿であんな表情をしたものである。それに、小声であの禁断の言葉”まほまほ”を口にしたのも、恐らく間違いないのだ。

 禁断と言っても、その本当の意味を俺はまだ誰にも聞けないでいるのだが・・・。


 そうだ、後でこっそりと一持兄さんに”まほまほ”の意味を聞いてみるとしよう・・・。


 などと、要らんことを考えている間も俺は無意識に里緒を見つめてしまっていた様だ。

 俺だけではない。他二人も里緒を見つめていたのである。もしかして、本当に二人とも瞳に映る映像を俺と同じ妄想に自動変換する機能があるのだろうか?


「なに、もう3人でじろじろ見ないでよ!」


 それに里緒は顔赤くしてそう言うが、決して機嫌が悪い訳ではない。

 なかなか、恥ずかしがる姿も可愛いい。機嫌が良いと本当に非の打ち所がないのであるが、機嫌の悪い時が多すぎる・・・。


「里緒、丁度里緒の作品の話をしてたところだよ。”凄く良かった”ってね」


 里緒は恥ずかしそうに口を膨らませるも、それに慣れた店主は触れもしない。きっと、家にいる時もいつもそうなのであろう・・・。


「そ、そうなの・・・」


 里緒は赤い顔で恥ずかしそう俯いているが、嬉しそうなのは俺にも雰囲気で伝わってくる。


「そうさ、里緒ちゃん、ホント良かったよ。感動したよ」


 一持兄さんの褒め言葉にも今日は素直に嬉しそうだ。


「あ、ありがとう・・・。でも、私じゃなくて、工口くぐち君が凄かっただけだから、全部工口君のおかげなの・・・」


 あらら、その言葉、俺が相方だと言ってるのも同然のお言葉・・・。


 本当に俺の身は大丈夫なのだろうか・・・


 ついさっき大丈夫と結論を出したのであるが、当然不安はある。

 一歩下がって、片目をしかめながら二人の顔をうかがってみると・・・。


 一持兄さんは・・・よし、いい意味で驚いているぞ。そして、肝心な店主マスターはと言うと、何か一持兄さんの顔を窺ってから驚いて見せた気もするが、きっと、年のせいで自分が聞こえた事実に自身が無かったのであろうと想像する。


「ハハハッハハ」

 となれば、ここは小さめな声で照れ笑いが無難と思われる。

 

「工口君?本当に”エロン棒様”は工口君なのかい。驚いた!すごいじゃないか・・・」


 何て言ってくれる。

 想像通りだ。いいぞ、いいぞ・・・。 


「・・・ここに来る前にAV端末の”勝手に呟きコーナー”を見ていたら、既に新人マニアの中では噂になっているからね。きっと、第27部どころか、全AV界の高校で騒ぎになるんじゃないのかなぁ。工口君の学校じゃ、大騒ぎだろう?」

 

 そんなコーナーがあるのか?


「はぁ、里緒さんの回りは、もう朝から凄くて・・・」


 俺の言葉にも里緒は相変わらず真っ赤な顔でもじもじしている。


「そうか、工口君はスカウトされた事が知れたら大変だから、AV撮影の出演は隠さなければならいのか・・・。それで”エロン棒様”と言うあんな、”名前”に”あんな姿”で・・?」


 一持兄さんは、つい正直に言ってしまったことに、気まずかったのだろう。途中で言葉を止めてしまった。

 こんな時って、俺が気を使って喋るべきなのだろうか?

 迷っていると、急に・・・。


「クククク・・・それじゃ、工口君も身も蓋もないよ一持さん」

 店主マスターが鼻で笑い出しながらそう言うと、続いて・・・。


「ハハハ・・・、し、失礼、ハハハ」

 一持兄さんも爆笑だ。


 俺と、里緒は互いに顔を見合わせるが、里緒の顔は更に赤くなっている、火が付きそうだ、大丈夫か?


「そ、そうか、そういう理由だったのか。ハハハ・・・」


 店主マスターには、かなり可笑しな格好に映ったようだが、そんなことより早く里緒の顔色に気付いて欲しいものだ・・・。


「そ、そんなことない、全然可笑しくなんかないんだから?あの、ファッションの何処がそんなに可笑しいのよ、全く・・・」


 里緒が珍しく自信なさそうに反論を始める。どうやら、俺が着せられた衣装は里緒的にはファッションと呼べるジャンルであった様だ。里緒のファッション音痴は神がかっている。


「いや、アイマスクをしたことは理解出来るんだが、なんで、赤いマントにピッチピチのビニールのベストに短パンなんだい。一体工口君は何処で、あの衣装を探して来たんだい」


 一持兄さんは里緒の反論を聞いてもすっかり俺のセンスだと思っている。店主マスターだって、キャラに似合わない信じられない笑いを未だ続けているのだが。


 早く察してくれ、二人とも・・・。


 これ以上余計なことを言うと、折角の里緒の機嫌が悪くなってしまう。

 もはや、俺が笑われたこと等は俺の中では大した問題ではない。そんなことよりも里緒の面子を守らなければ、また暫く機嫌が悪い。それは日々が楽しくない。


「あの衣装、私が用意したの・・・。そんなに笑わなくたって・・・」


 いかん、言わせてしまった・・・。

 悲しげに小さく呟いた声は店内を硬直させ、壁も窓も冷や汗を流している幻想が見えて来るようだ。

 何て余計なことを考えてしまう。


「・・・そんなに笑わなくったていいじゃない。服装ぐらい印象的なものを着ないと、と思っただけなのに・・・」


 それならば自分も印象的なものを着ろ!と、本当は言いたいところだが、俺の言い分を言うことは里緒の真っ赤な顔に油を捧ぐ様なものだ。火気厳禁だ、絶対に口にはしない。

 

 店主マスターも、一持兄さんも事の状況は拙いと感じている様だ。この場を治める次の一手を考えている様に見えるが、なかなか一言が出てこない。


 時間が冷たい、空気も濁る。


 ここは、俺が場を治める一手を打たなければ危機だ・・・。

 だが、こんな時に俺の頭は良く回る。


「まあまあ、一部で笑う人はいたとしても、”エロン棒様”は里緒さんじゃなければ俺でもないし、それに、少なくても高校生にはそんなキャラで人気が出てるんだから充分だよ。全部の人に好かれるのは難しいと思うよ・・・」


 とは言ったが、俺はこの先当面は、色んな人達の笑いものとして人気を博するのだろう、アイドルとは程遠い。


「そうそう、そういう新しいキャラを、みんな待ってたんだね。盲点だったよ」


「そうだ、そうだ、流石は里緒だ。里緒は先見の目があるねぇ~。おじいちゃん達は流行にうとくて駄目だ・・・」


 何て、一持兄さんの言葉に店主マスターまでが、あたかも本心であるかの様に真面目な顔を作っている。流石、元G3俳優なだけあって見事な変わり身だ。


 その芝居の上手さに里緒も怒っていいのか、どうしたらいいのか、また真っ赤な顔でもじもじとしている。これが里緒に対するベスト対応なのだろうか。アパートに帰ったら忘れずにメモしておくことにしよう。


 そんなことで、何とか里緒の機嫌も繋げかけかな?そう思ったところに、一持兄さんが気になることを言って来た。


「ところで、あの最後の大技、互いの口を付けると言う大技なんだが、

 

 工口君、あれ、特許申請してみないかい」


「特許、ですか・・・」


 ”特許”、学校で塩南先生から聞いた言葉である。

 

 そう言えば、現在特許を取ることが出来た二つの技について、塩南先生から聞きそこなっていた。


 そうだ、一持兄さんに聞いてみよう・・・。


 <つづく>


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