家号は血よりも濃い
ラミア(まほまほ)何者?
AV界での家号とは?
このAV界の住民登録には”氏名”の他に”家号”と言う名称の登録が必須となっている。
では、この家号が何者であるかと言えば、簡単に言うと”姓”以外に受け継がれる呼び名で、一族の総称のようなものと言うことになる。
因みに、AV撮影並びにその配信を一手に取り仕切っているAV界直営(界営)の団体”JRAV会”への登録には、”俳優名(ユーザー名)”と、作品毎に変更可能な”演者名”の登録が必要となっている。
ただ、この二つが同じ世界での個人を特定する為の登録だからと言っても連動性がある訳でなく、全くの別システムになっている。その為、この二つ登録において全く関連性の無い名称で登録すれば、俳優名から個人名を特定することは出来ないそうである。
だが、名誉と実権とが直接JRAV会での業績と結びつくAV界において、JRAV会での実績が高位であればある程、その実名と俳優名を結びつけることが必然的に必要になってしまう。誰の業績なのかを知らせる為には当然のことであると思う。
また、地位や業績が優れていれば、それを世間に知って欲しいと思うのも人間としては当然のことであろう。それは、自分自身の事ではなくても、親類や知人等の自分に近い存在であればある程然りではないだろうか。
そうなるとその延長線上で、自分の属する一族全体の優秀さを広く世間に知らせ群れて力を持ちたくなるのも人間として否定するものではない。
そこで利用されたのがこの”家号”と言う呼び名であるのではないかと推測する。
元々、これはAV撮影業(JRAV会)に対して使用されたものではなく、同じ家業を営んでいることを示すと言う、広く職業全般に使われていたものであったらしいのだが、今ではJRAV会での俳優名に対して同じ一族と言うことを示すのに使用される様に変化したと言うのである。
それ故に、逆に言えば本人が望めば変更(一族を抜けること)も可能な名称なのである。よって、一門と言う言い方の方が適しているのかもしれない。
この家号と言うのは、同じ一門の総称なだけあって、同じ家号を名乗るには血縁関係(直近で名乗る者と二親等以内)が必要となる。だが、決して血縁関係にあるからと言って同じ家号を名乗れる訳ではないのだそうだ。その家号の長である”家長”の承認を得た者だけが名乗れるのである。血よりも濃い関係と言えるかもしれない。
ただ、家長の継承者を設けていない一族も多い。その場合はその限りでは無く、自由に名乗ることが出来るのだそうだ。
スカウトされてこの世界に来てしまった俺には、血縁関係に当たる人は誰一人としていないからであろう、新たな適当な家号を登録することを役場から求められたのである。
そこで、俺が選んだ家号は”得路”である。
初め、家号をお袋側祖父の姓”萬にしようとしたのだが、この名は既に登録済みであったのだ。同じ家号名を名乗ることは、登録上問題ないのではあるが、家号の右に何番目の登録であるかの数字が着くとのことなのだ。この場合”萬2”(よろずにと読む)となる。
そんな、オリジナリティーの無いものが性分には合わない俺はその名を諦め、この世界に存在しない言葉でウケそうな名を考えたところ、思いついたのが”エロ”であったのだ。
何せこの”エロ”と言う単語、不思議なことにこのエロいAV界において、それに類したものも含め現存しない言葉であり、俺が我がへ高の柔軟体操部で初めてこの言葉を使用した時には、大きな反響を巻き起こすことになり、俺の認知度が急上昇させた非常に縁起の良い言葉なのだ。
そんなことで俺は迷わず家号を”エロ”に決め、適当な漢字を当てはめ”得路”と決めたのである。
先日、里緒と撮影に挑んだAV作品に作品毎自由に付けることが出来る演者名に、当初”萬”という姓を付けようとしたのは、この時の記憶があったからなのかもしれない。
このAV界での俳優名(ビデオを観る側ではこれをユーザー名として使うのだが)、少し前までは”家号”+”名前”を俳優名(ユーザー名)とするのが当然であったのだと言う。もちろん、住民登録とJRAV会の登録は連動性を持たないので、そんな義務はないのであるのだが、先に述べた様な理由であろうと思うのだが今でも根強く残っている。
それは置いとくとして、仮にこの法則に従うと俺の俳優名は”得路工口”少し安易に余読むと”エロエロ”になってしまい、これはちょっとはばかられる。
それに、”お願いします”と言う撮影の相方探しの時には俳優名の書かれた名札を首からぶら下げるので、俺の正体を隠す為には全ての名前に関連性を持たせない方が無難である。
その判断から、俺の俳優名には”エロ”と言うを文字を使うことは避けることにし、全く関係のない”福山回春”と言う俳優名を登録をしたのである。
因みに、この名前は俺のお袋である”千乃顔出”が、愛してやまない芸能人の名前を元にしている・・・親子孝行な俺なのである。
★☆ 第 3 話 ★☆
☆★ ♂ 家 号 は ☆★
★☆血よりも濃い♀★☆
「おろせー、急に下ろすなよ静にだぞ、静に下ろせ~」
何て、いくら叫んでも真っ直ぐに舞い上がった”まほまほ”では無かった、ラミアは俺を抱いたたまま颯爽と空を切り、更に空に向い上昇していく。
しかし、今度はこの世界に連れて来られたあの時とはちょっと違っている。体感速度と実際の飛び上がる距離が上手くマッチしているのだ。
この世界に連れて来られた時は、体感的には緩やかな上昇に感じたのだが、実際に目の前で移り行く景色は飛行機のそれを遥かに超えていた。
だが、今回は風圧で息苦しさも感じ、現実感がある。それに、今度は幽体離脱ではない。俺の体が元の位置に置き去りにされてはいないのだ。
もちろん一度離れているのだから、二度離れることは無いだろうとも考えられる。
あれ、ちょっと待てよ?
そこで俺の頭を根本的な疑念が賑わしたのである。
実体を抜けた?という事はもしかすると・・・
この”AV界”とは死後の世界なのだろうか?
俺の性行為への無念さがこの世界に転生させたと言うのだろうか?
まさか、このラミアは天使か死神の類なのか?
よく見ると、白い羽が背中にあるではないか・・・。
でも、確か?あの時は羽など無かった気もするのだが・・・。
とは言っても、俺もあの時は心神共に正常な状態では無かったのだから、そんな余裕が無かっただけなのかもしれない。
と言う事は・・・、まさか俺は本当に”変体スケベ病”か何かの類で前世から死神ラミアに連れられてしまったのだろうか・・・。
もう、あの病的に下ネタ好きお袋や、お袋とアンバランスに真面目一方の親父、それに、おませに俺の先を進む妹に、数少ない友人達とは再び会うことはもう二度とないのだろうか。
それに何と言っても元の世界での俺の目の保養(毎日帰宅時のバス中で一方的にお会いしていた視覚だけでそそられてしまう超ミニスカのお姉様)をこの目にすることも、もう出来ないのだろか?
そう思うと、懐かしさと寂しさで少し熱いものが体の中を流れるのを感じる・・・。のだが、
いや、ちょっと待て。冷静に思い出せ。
そう考えるのは早計ではないのか?
あの時、確かにラミアは俺をスカウトに来たと言ったのだ。それに、この世界では”スカウター、ラミア様”として名が通っている。
スカウトと言う言葉で俺の世界とこのAV界が繋がっている。それに役場では、異世界から来た住人としての移転届も出したではないか。
やはり、俺はこの異世界にスカウトされたと言うことで間違いないのではないか?
それとも、長くリアルっぽい夢でも見続けているとか・・・そんな訳がない。
これだけは絶対に確かめなければならない。
確かめたいのだが、それよりも今はこの高所から少しでも高度を下げてもらう事が大切だ。恐怖で色々と縮み上がってしまっている。
出来れば地面に足を付け、心神共に余裕を持たせたい・・・。
と、つい今しがたまでは、そう切に願っていたのであったが、いつの間にかこんなに冷静に考えることが出来ている・・・。
確かに最初は相当な恐怖であったのだが、いつのまにか空中を飛んでいると言う感覚が無くなり、そうこう思っている内に、小さな丘の林の中に二本の足で地面を踏みしめていた。
途中から空を飛んでいると言うより、ふんわ~りと、無重力空間を移動したと言う表現をしたい感覚であった気もする。
一体、俺に何が起こったのだろうか?
それよりも、此処は何処だ?
そう思っていると、俺の頭に記憶が蘇ってくる。ここの雰囲気には見覚えがあるのだ。
そうだ、恐らくここは一昨日”お願いします”を行った千々木公園内の人工の丘に間違いないであろう。
辺りは雑木林に、芝生と家も無ければ人影も無いが、見覚えのある休憩場所がある。あれは間違いなく”お願いします”と言う相方決め大会で使用した”拠点”の一つである。
それには俺もちょっと安心だ。
せっかく慣れて来たAV界だ。幾ら適応能力に優れた俺でも、さらに違う世界に連れられては堪ったものじゃない。それにAV界は、若干美味しい。
そうと分れば、俺も強気だ。
目の前には、「ぜいぜい」言っている”まほまほ”で無かったラミアが居る。
積もり積もった言いたいことは、この人工の丘よりも遥かに高く積もっている。が、まずはいきなり高所を飛ばれたことへの文句からだ。幸い、ここならば少々大きな声で怒鳴っても問題はない。
よし!
「おい、何でいきなり飛ぶんだ、危ないだろ!」
ここぞとばかりに荒げた俺の声。いいぞ、俺。今日はこいつの中途半端な色香に惑わされてはいない。
しかし、それに
「危なくないレスよ」
ラミアは、ハアハアと息を上げながら口を尖らせて平然と言い放つ。
俺は負けてなるものかと、
「危ない!」
と言い放つ。
「危なくないレスよ」
平然とラミアが言う。
こいつ、なかなか撃たれ強い。
「・・・」
「・・・」
「危ない!」
「危なくないレス」
繰り返す問答は、俺の口調に合わせてこいつの口調も次第に荒くなる。
可愛い顔して以外に頑固である。
疲れてくる・・・。
「危な・・・」
まあ、そんなこともういいか・・・。百歩譲れば、あれだけ言うまいと決めていた”まほまほ”と言う言葉を言ってしまった俺も迂闊であったことには間違いない。
そんなことよりも、”まほまほ”と言う言葉には一体何の意味があるのだろうか?
その意味が気になってしょうがない。
まさか、隣で満足そうな顔をしているこいつに聞く訳にもいくまい。今度は何をされるか分かったものではない。
それよりも、彼女には聞かなければならない事は沢山あるのだ。そうそう、まずは俺が生きているかどうか確認しなければ。
「ところで、お前・・・」
と言ったところで、またこいつの口が尖がり出す。
「お前じゃなくて、”ミラミ”れす」
ミラミって、こいつ”まほまほ”おっと、”ラミア”ではなかったのか?
「お前、いや、ミラミはラミアじゃないのか?」
「ラミアれすよ」
訳が分らん?
「いや、そうじゃなくて・・・」
「・・・・・・」
何、言ってんだと思ったが、説明を聞いてみると俺がすっかり忘れていただけで、こう言うことらしい。
彼女の名前は”ララカー・ミラミ・アポストロ”それぞれの最初の文字を全て取り、”ラ・ミ・ア”と呼ぶのが”愛称”なのだそうだ。
実際、愛されて呼ばれているかどうかは分からないが、そうらしい。どういう呼び方かと思うのだが、こいつに突っ込むのは面倒なので止めることにする。
こいつ的には仕事中以外はラミアと言う名前は使わないとのことなのである。つまり、彼女の意識の中ではスカウトは仕事なのである。
そして、名前の最後の”アポストロ”と言うのは4人(人と言うのが正確な表現かは不明だが)居るスカウターに付けられる称号みたいなものらしいのだ。
「ぽっよ~んな(そんな)ことより、ろうして(どうして)待ち合わせ場所に来なかったのれすか!ず~~~っと待ってたれす!よ」
と怒りながら、彼女の目に大きな滴の元が溜まっていく。良く見ると顏もヤツレ気味で、俺をスカウトした時のままの黒色の制服は結構汚ならしい。
本当に、ずっと俺を待ち続けていたと言わんばかりの様相である。
その憐れさに流石に怯みそうになるが、ここは俺にも言い分がある。零れ落ちる手前の涙なんかに負ける訳にはいかない。俺だって、勝手の分らないこの世界でそれなりに大変だったのだ。
「そ、そんな話、聞いてないぞ」
と、控えめな対抗になってしまったのは、俺が気絶した時に説明していた可能性が高いことに気付いてしまったのだ。
そうなると、聞き直さなかった俺にも非があるといえばある。しかし、俺の首を絞めた”こいつ”が、ではなくミラミが悪いのだから訂正をするつもりまではない。
「言ったれす!待ち合わせ場所に来るなら真ん中のAVの扉、元の世界に戻るのならRTの扉、NVの扉には行くと物凄~く苦労するから行っちゃいけませんろ~って、言ったれす。
そうれす。
AVの扉を開けたら、すごいスピードで引き込まれるれすから、この団扇を進行方向に向かって扇いでスピードを緩めてくらはい。でないと曲がり角を行き過ぎて怪我しますれす。とも言ったれす」
団扇を腰からぶら下げたベージュの巾着袋の中から取り出して、納得した様にウンウンと頷いている。 その自信満々な言い方は気に入らないのだが、それよりも、ちょっと待て。
この話、言い分だけと聞き流せない要点が幾つかある。まず、
「俺は団扇をもらってないぞ」
信じがたいが俺はその団扇を貰っていなかった為、物凄いスピードでこの世界に落下(体感的に)し、危険な目にあったと言うことになる。
「あげたレスよ」
そう言いながらラミアは熱くなった顔を団扇で仰いでいるのだ。
「待て、何故お前が団扇を持っている」
「お前でなくてミラミです」
「ああ、分かった。ミラミが何故、団扇を持っている」
「んっ?」
と言い、ミラミは自分が手にしている団扇を大きな目で見ている。
「へんれすね~、渡し忘れたのれすかね~」
いや、そんな悠長なことを言っているが、もはやそんな胡散臭いことは、どうでもよい、取り敢えず怪我なくこの世界にこれた訳だからそれは許すとしよう。次だ。
問題はRTの扉を開ければ戻れたと言う事実である。
「いや、その前にRTの扉を進めば俺は元の世界に戻れたってことか」
「それは、絶対言ったれす!よ、きっと。団扇は渡さなかったかもしれないれすけど・・・」
と、言う事は俺は生きていると言うことであり、飛ぶのは怖いが、また、あの洞窟に連れて行ってもらいRTの扉を開ければ、俺は元の世界に戻れるのである。いや、それより直接戻してもらった方が手っ取り早い。
「分かった、団扇を渡さなかったことは許す。だから、俺を今すぐ元の世界に戻せ。ミラミは自由に行き来出来るんだろ」
どうだ、今度は名前を間違えなかったぞ。さあ、答えろ!
「んっ?」
「んっ?じゃなくて、連れてけ」
さあ、連れてけ!
「無理れす。移動出来るのは自分一人だけれす」
”なんだとー!”と思うが手はもう一つある。
「だったら、俺を今すぐあの洞窟へ連れて行ってくれ」
「無理れす」
「なんで!?」
「洞窟はいつもあるわけじゃないれすよ」
「なんで!」
「なんでもレス」
「じゃあ、いつ洞窟は現れるんだ!」
「不明なのれす。
ミラミも実物の洞窟を見たのは初めてれすし、何処に現れるかも分からないれすよ」
自信満々にそう言う。
結局、終始こんなやりとりで分かったことは、こいつも洞窟の場所は急に閃いて分っただけで、ラミア様と呼ばれている割にはあまりこの世界のことを知らないと言うことである。それと、俺はこいつが閃きでもしない限り戻れないと言う事実であった。
ただし、全く元の世界に戻れる可能性が無い訳ではないと言うのである。
このAV界の9割以上の人が信仰している”自然教”の”自然神”と言う神様に認められるAV俳優になれば、望む異世界に行けると言うのだ。まだ、一人もそんな人間はいないらしいが、”教えの本”にそう記述されているというのである。
だが、このスカウターのミラミでさえも、自然神と言う神か人物か分からない存在には、一度だけ会ったことがある”気がする”と言うだけなのである。
「神様はそんなものですよ」
なんて他人事に言うのだ。
仮に自然神が実在したとし、且つ”教えの本”に書かれていることが事実だったとして俺がそんな無茶苦茶エロい人材である訳がない。結局、待望の”まほまほ”では無かった、”ミラミ”に会うことは出来たのだが、会えず終いと結果は一緒だったことになる。
それに俺は失望をするが、それは理屈的に考えてのことだ。何故か俺の心は結構明るい。大儀的には元の世界に帰らなければならないのだが、開き直るとこの世界の方が元の世界よりも”生きている”と言う実感がある様な気もするのだ。
だから、こいつでなかった”ミラミ”も許せてしまうのかもしれない。いや、こいつの憎めない可愛いキャラと、口調に似合わない色香に惑っているだけかもしれないのだが、どっちにしろ戻れないのならば色香に惑いっ放でもいいような気もする。
そして、暫く続けた取り留めの無い問答も止め、千々木公園からアパートへ帰る途中であった。もちろん飛んで帰るのは怖いので歩いて帰る途中である。
今度は今まで俺に起こったことを順序立てて話してやった。すると、ミラミは少し申し訳なさそうな顔になって俯いていた。
こいつも満更ノー天気な訳でもないと見える。何かスカウトをしなければならない理由がありそうなのだ。そこで、今度は雑談としてミラミのことについて聞いてみた。ちょっと気を使ってみたのだ。
「お前は、ずっと俺を待っていてくれた様だけど、次のスカウトをしなくても大丈夫だったのか」
すると、
「お前でなくてミラミれす。いいのれすよ。工口が凄~く偉い俳優さんになって、あの塔に昇り詰められればミラミの役目は完了なのれす」
白く雲よりも高くそびえる”ミンジュ塔”を見上げながら胸を張ってそう言う”ラミア”改め”ミラミ”の顔は、夕陽よりも眩しく希望の光に輝いて見えた。
それを見ていると、気を使ってやったのに細かく名前に拘っていることに対し、文句を言う気が失せてしまった。
ミラミが、その日をどんなに心待ちにしているかが俺にも伝わって来たからだ。
こいつの人生は俺に掛かっているようなのだ・・・。
「それって、俺が自然神様に認められるAV俳優になればって言うことなのか?」
「そうれす」
「お前、役目が完了したら、どうなるんだ」
「お前でなくてミラミれす。分からないれす。分からないれすけど、良いことが待っているのれすよ、きっと・・・ミラミがずっと待っていたことが起こるのれす」
「何を待っているんだ」
「分からないれす」
「そうか・・・」
分からないれすってかぁ~、そうなのか・・・。
もう、深く聞くのは止めた。物事に意味を求めるのは人間の概念であって、この世界のスカウターの概念ではないのかもしれない。そんな気がして来たからだ。
であれば、俺は無理と決め付けずに目指すしかないではないか。
俺は、希望に満ちたこいつの輝いた顔を見ている内に、もっと輝かせたい、何故かそんな気がしてきたのだ。それに、俺の両親を安心させる為にも・・・。
そう思い、ミラミの顔を横目で覗くと、不思議そうな顔をしている。
「どうしたんだ」
そう聞くと、
「だけど、おっかしいれすね~、工口の家号は”萬”のはずれすけどね~。何で新規登録しか出来なかったのれすかね~」
そんなことを呟き、首を捻っている。
少し前に話した、一持握と言う恩人に出会い、“第27部 そ地区羊役場”で移転届けを行った話をしたことが気になっていたようなのだ。
流石、スカウター俺の祖父さんの名字も知っているのは関心するのだが、なぜ、母方の姓なのだろうか?スカウトされた人は、母方の姓を家号にするのが通常なのだろうか?
まあ、そんなことは小さなことなので、どうでも良いが・・・。
しかし、何でこいつといると、何も緊張をしないのだろうか。こんなに可愛い顔で、里緒以上にスタイルもいいのにだ。腹の調子はすこぶる良い。快腸だ。
何故だろうか? やっぱ、
「キャラかな・・・」
つい、呟いてしまった。
「何れすか?」
ミラミが小首を傾げる。
「何れもないレス」
おっと、口調が写ってしまった。
それよりも、こいつはいつまで俺の後を付いて来るのだろうか?
そろそろ聞いて見るとするか・・・。
<つづく>
4000文字以内で納めるつもりが倍以上になってしまいました。
飽きずに読んで頂けたでしょうか・・・。