尻芝居(後)
救世主現る。
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フフ、やっぱさすがやわ・・・。
教員でありながら、現役G2戦士。それも、次期G1候補最右翼。高校生の扱いなんぞは、お遊び半分ってとこなんやろ。ナア、せんせ。
みんな、彼女が現れただけで面白い位に彼女のペースに飲み込まれとるわ・・・。
それに、この矛って子も?ちょっと、ただ者やないかもしらん。
せんせと、何か関係ありそうやないの。
あんなに派手に転んで怪我してないんか?
無茶苦茶な芝居するわ~。熱演賞あげるわ。
そんなことよりもや、なんで、せんせ二人のこと知っとるんやろ?
昨日の”お願いしますの”こと何て、その場におらんと知ってる訳無いんやけどなぁ・・・。 工口君が話したんやろか?
いや、そんな筈無いわぁ、それやったら、こんな尻芝居で本人まで騙す必要はないやろ。
それじゃ、これって、ただ先生の勘ってことなん?
ホントそうなんか?
何の為やろか?
まあ、こっちも工口君には頑張ってもらわんといかんし、ここは感謝しとくな・・・、せんせ。
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★☆ 第 33 話 ★☆
☆★ 尻 芝 居 ☆★
★☆ ♂(後)♀ ★☆
矛・・・。
俺は慌てて席を離れ、椅子ごと床に倒れ伏した矛の元に回り込んだ。
矛の顔色は青白い。元々病弱な為、色白なので普段との違いがそれ程判らないが、多分いつもより青白い顔色だと思う。
「矛、大丈夫か!」
俺の声に、矛はゆっくりと目を開けた。
それに、取り敢えずホッとはするが、瞳を動かすだけで体はぐったりとして動こうとはしない。
こんな時、情けないことにどうしたら良いのか全く解らない。
取り敢えず俺は感情のまま、床と彼女の顔との間に左手を挿し入れた。
俺としては床に押し付けたままの彼女の顔をそのままにはしたくは無かったからだ。
挿し込んだ俺の左手に押し当たる頬が赤ん坊の様に柔らかい。それが彼女の脆さを俺に伝えてくる。
やっぱり、実行委員会には俺一人で出席するべきであったのだ。
矛はずっと、無理して会議に出ていたのかもしれない。気付かなかった自分の鈍感さに腹が立ってくる。
俺が矛を見つめ、そんな思いに顔をしかめていると、
「貧血のようね」
後ろから俺の肩に手を乗せた者がいた。
社会部部長であり、この”へ高AV祭”実行委員会の審査委員長の穴井狭子である。
「血の気が戻るまで、少しそのままにしてあげた方がいいわね。保健室にはそれから連れて行きましょ」
落ち着いた口調の狭子に対し、何も出来ないでいる俺は、ただ頷くだけである。
狭子は俺の隣に屈み、矛の上履きを脱がせた。そして、用意の良いことに持って来た自分の鞄を矛の脚の下に引いて、少し高くした。
派手に倒れた矛により一瞬にして騒然となった会議室も、次第に冷静さを取り戻しては行ったが、生徒達は立ち上がって覗き込んだり、心配そうに近づいて来たりで、未だ会議の雰囲気とは程遠い。
こんな状況では、無論、生徒会長 稲荷家一子の始めた身勝手な”臨時の実行委員会”の再開どころではない。
とは言っても、これで会議が終わった訳ではない。一子のことである、会議室の雰囲気が落ち着いたら続きを始めるであろう。ただ、矛はこんな状態だ。それがいつになるか全く分からない。
時間は刻々た経っていく。
俺と、俺のアパートで里緒の距離は遠ざかって行くばかりである。
仮に会議がここで終わったとしても、同じ柔軟体操部の代表として出席している俺が、矛を放って一人帰る訳にはいかない。そう考えると、今日のAV撮影は絶望的と言ってもいいかもしれない。
里緒、ごめん・・・。
事情を知らずに待っている里緒の気持ちを考えると心が痛い。
だが、もう諦めるしかなさそうである。
・・・。
しかし、こんな時に意外にもあの人の行動は素早い。塩南先生が俺と狭子の間に飛び込む様に割って入って来たのである。押された狭子はそれによろめき尻餅をつく。
塩南先生の後ろには宝家先生も続いている。
塩南先生は、全く狭子の行動を無視して、矛の上体を抱き上げて身体を激しく揺すった。
「あぁ〜ん、矛ちゃん、矛ちゃん、しっかり!ああ、そうだわン、会議が長くて辛かったのねン。可哀想に。先生の胸でお休みねんねん」
矛の顔が先生の胸元に沈んで苦しそうである。
その矛の顔を、宝家先生が強引に塩南先生の胸から引き離した。呼吸を取り戻した矛の顔に安堵が浮ぶ。
不満げな塩南先生は、
「え~い!こうなったら、今日の会議はこれでおしまいよン」
その腹いせを実行委員会にぶつけた。のだろうか?
気合の入れ所の意味が分らないが、塩南先生が会議を打ち切る宣言を、いきなり宣った。
その一方的な発言に面食らっていたのか、一時、生徒会長 一子は呆気に取られていたのであったが、思い直す様に慌てて首を左右に降ると、言葉を発した。
「先生、病人は保健室へ連れて行きますから、会議はもう少し続けさせて下さいませ。”へ高AV祭”までに日数は、そんなにないのですから・・・」
しかし、そんな言葉で到着地点を変える塩南先生ではない。
「あら、会長タン。会議は病人が出たら終わりって決まったのよん」
そんな訳のわからないこと言い出す。
「そんなこと、全く聞いておりませんが、いつ誰が決められたのですか」
当然、一子もそれに納得する訳がない。
「今日、高速に校則として決まったのよン。ねえ、宝家せんせ」
塩南先生は、”数×質”で勝負が決まることを良く心得ている。すかさず、宝家先生を巻き込んだ。
「ああ、はは、いや、は、はい。」
塩南先生に睨まれて、いや、微笑みを投げ掛けられた宝家先生は、止む無く肯定してしまう。
これが、格の違いと言う物だろうか・・・。
「そんな無茶ですわ・・・」
一子も抵抗を試み、宝家先生に懇願視線を合わせるが、独り言程度に呟いただけの言葉では勝負は既についている。塩南先生の締めの言葉が待っているだけであった。
「そうよン、会長タン。
無茶なものなの。校則だの条例だの、法律だのは知らない内に勝手に決まっていて、その存在もしらない内に罰則を受けてしまうものって、昔っから相場は決まってるものなのよン。
会長タンも罰を受けちゃったら大変よン」
なるほど・・・。と納得もするが、かなり強引と言うか、無茶苦茶である。それに、本当にそんな校則が今日決まったとはとっても思えない。
宝家先生の顔がそう言っている。
「・・・」
さすがの気の強い一子も、無茶苦茶過ぎて何も言えない。それを尻目に、
「は~い、みんな-!そう言う訳で、今日はちゃんちゃんこだから、気を付けて帰ってねん。
みんな、ご・苦労ちゃん。矛ちゃんは先生達にまかせてねン。ねえ、宝家せ~んせ」
事は強引に進んでいく。ただでさえ、みんな会議等早く終わらせたいところに、塩南先生の言葉である。
みんなは喜んで従うに決まっている。
「『は、はい』」
塩南先生の指示に返事をしながらも、実行委員達は一応、一子の顔をチラチラと伺いながら席を立ち始めた。
その視線から目を背けて一子も席を離れ、会議室を後にしたが、不満をアピールする様に無闇に物音をたてている。
しかし、そんなことは塩南先生の眼中には全く入ってこない。
今度は俺に目を向けて来た。俺に何かあるようだ。
「さて、くぐっちゃんも、帰って大丈夫よン」
そう言うが、しかし、
「でも、矛が・・・」
ここで、簡単に帰ってしまうなんて人として出来る訳がない。
「あ~ら、くぐっちゃん。先生じゃ、頼りないか知らぁ~ん」
先生は珍しく不満を装って頬を膨らませるて見せる。
「そんなことは、ないですが・・・」
あり難いことに、その顔が俺を帰り易い様に威圧してくれる。
「ん~ん、そうでしょ。、急いで帰ってらっしゃいねン。狭子たんも帰って大丈夫よん」
そう言って先生は、俺と狭子に向かって尻を大きく2回振った。
”シッシッ”と追い払う感じにだ。
確かに矛を抱いているので手は振りにくいだろうが、普通、尻を振るだろうか?
らしいと言えばらしいが・・・。
狭子は素直に、挨拶をして帰ろうとしている。
既に、先ほどの塩南先生の一声に、会議室の中は早くも数人しか残っていない。
俺の行動の結論も既に出てしまっているようなものだ。
有り難い限りである・・・。
今なら、まだ間に合うのだ。
もちろん、里緒が待っていてくれればだが・・・。
思い直した俺は、
「それじゃあ、先生。矛をお願いします」
そう言い、鞄を持つと、気持ちは急に家路への焦りに変わっている。
「わかったわよン。気をつけて急いで帰ってねン」
塩南先生は楽しそうに、まだ矛を抱いている。
「失礼します」
俺が踵を返そうとすると、
「さようなら、ご苦労様」
と言ってくれた宝家先生に対し、残りの二人は無言で俺に向かって尻を振っている。
「はっ・・・」
その華麗に同期した動きに、一瞬、間を置いてしまったが、俺の対応能力も格段に上がっている。それに手を振って応え走り出した。決して尻は振らない。
会議室を出ると廊下を全速で走り、階段を2段飛びで降り玄関に向かう。
走りながら、考えてみると、塩南先生はともかく、矛が・・・尻を振る?
いくら、血の気が戻ったとは言え、そんな子じゃないだろう。それに、倒れたばかりなのだ。そんなことが出来る空気では、とっても無いと思うのだが・・・。
まさか、嘘だったのだろうか?
しかし、嘘であんなに派手に転べないだろう。それに、そこまでする意味も無い。
矛の本性は、意外とひょうきんな奴なのかもしれない。
俺は結論の場所は、そこで納めることにした。
俺が玄関に着くと、先に玄関に行っていた狭子が俺に声を掛けた。
「バスは15分来ないわよ。」
すれ違い様に狭子が、俺にそう言葉を投げた。
「うん」
俺は振り返って頷き、笑って見せた。意味は判らないが、狭子も嬉しそうに笑っていた様に見える。
何かハッピーな気分だ。
学校を出て、腕時計を見ると午後4時15分を回っている。
俺のアパートまでの距離は2kmちょっとだ。何とか午後4時半までには帰ってみせてやる。
その為に俺は、自分の世界での高校の3年間を陸上部で過ごしたのだ。そんな気持ちになってくる。
とにかく今は、その体力が役に立ちそうだ。
待っていてくれ里緒。必ず、お前を抱いてやる!
俺は2000m走の新記録を誓った。
この距離、始めての距離だから全てが新記録であるのだが、それは俺の里緒への気持ち(エロい気持ちも含めて)として捉えて欲しい。
しかし、このエロさを含む誓いが俺にこれから待っていることを想像させてしまった。
里緒の裸体が脳裏を横切り、急激に自然界の”元気”が俺の身体の一部位に集められていくのを感じて来たのだ。
これが元気玉、いや、元気棒と言うやつなのか・・・。
元気棒は、次第にパワーを増し、急成長をしていく。
もし、里緒が待っていてくれれば、俺は”んなことやこんなこと”と言うことに絶対になるのだ。
これは、このAV界ではビジネスであり、里緒の子供の頃からの夢なのだ。駆け引き等面倒なもの抜きで俺は、大義名分”あんなことやこんなこと”がで出来るのだ。
いよいよ、時は来るのだ。ただ、里緒が待っていれくれればだだが。
待っていてくれるだろうか?いや、待っていてくれていると信じよう。
しかし、このスリル、ちょっとやば過ぎではないか?
そう思っただけで、スリルと言う興奮が腸内を潤していくのが、腹の弱い俺には経験則的に分かってしまう。
大丈夫か・・・、持つだろうか?
それに、”カメムシくん”と言うカメラに撮られた俺の元気棒と性癖は、全AV界ならず、他15局の異世界AVネットで視聴が可能なのである。俺は世間の眼にさらされて里緒と絡むのだ。
そう思うと、俺の緊張は更に腸を活発に動かしていく。
ゴロゴロ・・・。
これは、この活性化はこの先不味いかも・・・しれない。
<つづく>