上に「ま」、下に「こ」の付く3文字でしっとりしているもの
工口と里緒のAV撮影目前に、障害が発生!
本年度の”第27部 第一回 サラ18歳新人大会”は、意外と慎ましく幕を開けた。
既にAV撮影の相方を決める”お願いします”も、大会の初日である昨日、無事に終了している。
無事と言う意味は、俺も里緒も見事、AV撮影の相方を見つけることが出来たと言うことである。
それも、相方が他ならぬその里緒であるのだから、俺にとってこれ以上のない結果である。
もちろん、あの時ずっと俺を待ち続けてくれていたのだ。きっと里緒だってそう思ってくれているに違いない。まずは、めでたしである。
ところがである。そこまでは最良の結果であったのだが、撮影は今日の午前9時から17時までに行わなければならない規定だと言うのに、なんと、俺は”第一回へ高AV際”の実行委員会で足止めを食う羽目になってしまっている。
現在の時刻は、午後2時50分。
昨日作ったばかりの合鍵で、俺のアパートで帰りを待つ里緒との約束の時間は午後3時半。
たった15分のビデオ撮影とは言え、初めての体験なのだ。諸々の準備時間を考えると時間に余裕はないであろう。
今、会議を行っている”へ高”から、俺の家までは徒歩30分。
間もなくこの会議も終わって貰わなければ、その時間に間に合わなくなってしまう。だが、一向に実行委員会は全く終わる気配を見せない。当然、俺はそれに焦りを感じているのだが、この厳然とした雰囲気の中、会議室を出て行く勇気が湧いて出そうには無い。
ホント、自分勝手に行動出来る奴が羨ましい・・・。
★☆ 第 31 話 ★☆
☆★ 上に「ま」、 ☆★
★☆ 下に「こ」の ★☆
☆★ 付く3文字で ☆★
★☆ しっとりして ★☆
★☆ ♂いるもの♀ ★☆
年4回行われる”へ高AV祭”の本年度の一回目は来月開催される。
その実行委員は各部活から2名選出されるのであるが、俺は運悪くその実行委員に柔軟体操部代表として選出されているのだ。
本来、学校代表が出場している”AV撮影会”の日は午後3時が下校時刻なのであるが、今日は急遽その”へ高AV祭”の実行委員会が行われることになったのだ。
こんな肝心な日に・・・。
この臨時実行委員会の言いだしっぺが、”生徒会長 稲荷家一子だと言う噂は聞いていたのだが、どうやら、それは間違いなさそうである。
それは、生徒会長 一子の取り巻きの実行委員が、次々と示し合わせた様に同意見を発言をしているからである。
それに・・・。
いつもクールで沈着冷静な社会部部長 穴井狭子が、いつまでもだらだらと続く会議に苛立ちを見せ、生徒会長一子に向い珍しく皮肉を込めた言葉を言い放ったからである。
「先程から、今度の”へ高AV祭”を今までに無い盛大な大会にしたいと、抽象的な発言ばかりを繰り替えされている方が数名おられますが、中止になった”西部地区合同新人大会”の替わりを”へ高AV祭”にお求めなのでしょうか?」
狭子はメガネの淵を指で摘みながら、生徒会長 稲荷家一子を一瞥する。
因みに社会部部長の狭子は、里緒、稲荷家一子に次ぐ校内ランク3位で、”校内AV委員会の生徒代表”であり、この生徒会主催の”へ高AV祭実行委員会”の審査委員長でもある。
通常、部長は実行委員ではないので、出席しない筈の社会部部長の狭子が出席しているのは、その肩書きの一つの為である。
「替わりって、聞き捨てならないわね。私は生徒の代表として、この”へ高AV祭”を有意義なものにしようとしているのよ。何が悪いのかしら!」
狭子の言葉に声を荒げ、燃え上がる程の赤い顔で生徒会長 稲荷家一子は、声高く狭子に威圧を加えようとする。だが、それにも、
「あらっ、私は会長に言ったつもりはないのですが、それとも、会長がそもそもこの大雑把な提案の発信源なのでしょうか?」
校内の力関係で行けば、当然、表は生徒会長の稲荷家一子であるのだが、完全に裏では色々な実務権限を握っている狭子である。狭子に怯む様子は全く見られない。
何せ狭子は陰の”へ高のドン”なのだから。
しかし、俺にとってこれは・・・。
いかん。心地よいエロホルモン(略して”エロホル”)を垂れ流している場合ではない。
火に油、思春期にエロビデオ状態である。狭子の一子に対する言葉は気持ち良いのだが、返って悪い方向に進みそうだ。普段、あまり感情を表に出さず、メリットのある行動しか取らない狭子には、らしくない行動である。
能面の様な顔で皮肉る狭子の鉾先、生徒会長 稲荷家一子は爆発寸前である。
こうなると、生徒会長派の実行委員達を除くと、他の実行委員の生徒達は全くの傍観者である。
俺の前に座っている”畳部”の実行委員の2人なんかは、強張って固まったままである。
これでは、会議を収束させる様な客観的な意見は、出そうもない雰囲気である。
全くの感情論の応酬に終止しそうな状況だ。
実行委員会は一体どこまで続くのだろうか・・・。
俺がそう思った時であった。
そこに、”ひょい”と会議室の扉を開けてやって来た人物が、俺には救世主の様に輝いて見えたのだ。
その救世主こそ、我が”柔軟体操部の顧問、よれよれのスーツ姿の”塩南先生である。
「は~いン、みなさ~ん聞いてくらはいなン。
今度の日、月に予定されていた本年度の”西部地区合同 第一回 サラ18歳新人大会”は、取り止めではなく2ヶ月延期の1月に行われることに決まりました~」
因みに、西部地区とは、AV界全48部の内、第25部~第36部の西にある地区のことを指している。
突如として表れ、会議を無視して話を始めた先生に稲荷家一子の口がポカンと空いている。
「一部の生徒には、先に不確定な情報が届いてしまったみたいだわねん。
ま~あ、実行委員会のみんなは、騒いだりしないと思うのだけど、一応先に伝えとくわよン。
良いん。
因みに延期になった理由は、みんな大体想像が付いていると思うけど、この27部だけではなくてン、全部で行われた新人大会の出場率が、ことごとく悪かったからなのヨロヨロ。
どうも、大会に参加するレベルに達する生徒ちゃんがいないかららしいのん、これも少子化のせいねン」
と、話す塩南先生は緊迫した会議室の中でも、いつもの様にふわふわとマイペースである。
この塩南先生の”少子化”と言う言葉は、俺も最近耳にした言葉である。
何と、このAV界は極度の少子化で悩まされているらしいのである。
通りを歩いても子供の姿をあまり見掛けないのはそのせいなのだ。
この挑発的な性的産業が発達しているAV界と言う世界にあって妙な話である。
普通、挑発されて血気盛んになるのではないだろうか?
俺ならば、そうなると思うのだが・・・。だが、確かにこの世界の若い男は、オタクで大人しい奴ばかりである・・・どうしてなのだろうか?
だが、この少子化こそが今回の出場校数の低下に繋がっていると塩南先生は言っているのだ。
つまり、こう言うことである。
まだ新年度が始まって2ヶ月では、出場資格のある18歳の誕生日を迎えた高校生はただででさえ少ない。その上に、少子化で生徒が少ないのだ。
その少人数の中では、実力のある生徒もそういないのも当然のことである。
学校側も自校の名誉の為と、大会の質の為に実力不足の代表を選出する訳にはいかない。
すると、止むを得ず辞退に向かうことになる。
それが、今回の延期の理由であると言うのだ。
この延期になった複数部合同で開催される”合同新人大会”は年3回開催される。各部毎に行われる最初の新人大会と、最後の大会、そして、その丁度中間の大会の翌週である。
つまり、2週連続の各部開催と合同開催がセットで3回開催され、昨日から行なわれている”第27部 第一回 サラ18歳新人大会”と、”西部地区合同 第一回 サラ18歳新人大会”は最初のセット大会であり、高校生に取って、貴重な大会なのである。
その合同開催が中止になったとの情報が、何処からか稲荷家一子に入ったのであろう。
それで、里緒に変わって次週の大会に参加が出来ると、皮算用していた稲荷家一子が”合同新人大会”が中止と知って、その代わりを”へ高AV祭”に求めて来たと言うは、一子の性格から容易に想像が出来ることである。
実際、塩南先生から、中止ではなく延期になったとの訂正を聞いて、一子のトーンは一気にダウンしている。
会議室も落ち着きを取り戻して来た。
いいぞ・・・。
これでいけば、この実行委員会も俺の勘では、10分少々後の午後3時過ぎには終わってくれるだろう。そうすれば、俺の帰りを待つ里緒との約束の時間、3時半には充分に間に合うことになる。
俺と里緒の初Hビデオ、では無かった、初の競演作品は滞りなく完成することとなるのだ。
ありがとう、塩南先生・・・。
俺は心で叫ぶ!
塩南先生はその連絡だけを終えると、他言は言わずにふわふわと何事も無かったかのように会議室から姿を消して行った。
ドアを出るときに俺に向かってお尻を2回振った様に見えたのは錯覚だろうか・・・。
俺も先生のお尻を笑顔で見送ると、狭子も心なしか一瞬笑顔で見送っていた様にも見えるが、直ぐに、クールで沈着冷静な”へ高のドン”に戻っている。
それにしても狭子は先週まで、胸まであった綺麗な翠色のストレートヘアーであったのだが、今日は耳が隠れる程度のショートカットに一変している。
何かあったのだろか?
失恋で髪の毛を切るタイプにも思えないが・・・。
しかし、ショートカットも良く似合っている。何か少し幼く見える分、親近感を覚える。
俺が狭子を見つめていると、あらら・・・、狭子と目が合ってしまった。
少し長く見つめ過ぎてしまった様だ。
変に思われてはいけないと思い、慌てて目を逸らそうとしたが、その心配は要らなかった。
俺に向かって能面が僅かに微笑んだのである。
自分を買い被っていなければだが・・・。
いや、買い被りだろう。
きっと、取り止めのない話し合いが、塩南先生により終わりに向い出した事が、表情に現れただけなのだろう・・・。俺に向かって微笑む理由が無さ過ぎる。
しかし、その顔が・・・。
似てる・・・。
以外にも昨日の”お願いします”での救世主、”秘苑緋壬子”の人懐っこい面影を、俺に思い出させた。
最も、狭子は髪もしっとり濡れた眼(サブタイトルの回答は”まなこ”でした)も翠色であり、緋壬子の緋色とは大きく異なっている。それに、性格も違えば学校も違う。
顔もよく見れば違っている気もする。似ているのは輪郭ぐらいかもしれない。
恐らく、俺の頭の中でずっと、あの緋壬子の存在が気になっているから、そう見えたのだろう。
それは、気にもなるであろう、何と言ってもおれと里緒の裏のMVPなのだから。裏の・・・?
その気になっている事とは、他でもない。
彼女が渡してくれたあの”19番”の玉のことである。
彼女が相方を見つけた後に、”最後に残った玉”と言って俺に渡してくれた玉である。
それは、通常在り得ないことなのである。
何故ならば、本当に相方を見つけたのであれば、最後に”玉”を持っているはずがないのである。
俺と里緒が互いの相方と決めた時に、19番拠点の係員に玉を渡すことによって相方成立の番号をもらったのだ。その後で、俺が記念にその玉を貰おうとしたのだが、規則で貰えなかったのだ。
本当に彼女の言うとおり彼女が”相方”を見つけたのであれば、”玉”を持っているはずがないのである。
相方を見つけたと言うのは、彼女の嘘か見栄だったのだろうか? ・・・そんなタイプか?
それとも、係員のミスだろうか? ・・・それも・・・?
それに、もう一つ。里緒から聞いたのだが、”お願いします”のスタート前に何も聞いていない里緒に対して、「お互いに決めた人がいるならば、一箇所から動かないで来るのを待った方が確立が断然高い」
と教えたのも、”緋色の瞳”の持ち主だったと言うのだ。
それは、きっと彼女であろう。俺にも同じ事を言っていたのだから・・・。
それに、このAV界の人達は髪と瞳に多種の色彩を持つのだが、緋色の瞳を見たのは彼女が始めてである。
まさか、他にも珍しい緋色の瞳の持ち主が参加していたのだろうか?
そうだ!
ちょっと、待てよ?
良く考えると、彼女と2回も会うと言うのは偶然過ぎるのではないだろうか。
そうだろう、それに最初に交換した”15番の玉”。彼女は、それを持ちながら15番拠点とは逆の方向に向かっていたではないか。
しかし、見ず知らずの彼女が俺と里緒の為に、そんなことをしてくれる理由が全くなければ、二人の状況を知っているはずもない。
それとも俺の事を知っているのだろうか?
俺と里緒のことをだ。
俺が異世界からスカウトをされたことを知っているのだろうか?
いや、それこそ無いであろう・・・。
そもそも、俺がこの世界に来た事自体が偶然としか思えない。
スカウト自体も、あの”まほまほ”の早とちりの可能性が高いのだし・・・。
やはり、ただの偶然と考えるべきか・・・。
ただの親切な人、又は、好奇心旺盛の人だったのだろう。
そう見るのが自然である。
取り敢えず、彼女がこの大会で女優名と違う”演者名”(作品毎に付ける名前)を使っていたとしても、参加者が少ないのであるから、きっと、彼女が本当に”相方”を見つけたかどうかは、投稿ビデオを探せば分ることである。
探すのに、ちょっとアクセス料が掛かるが、今日無事に撮影が済んだら、明日探してみるとしよう・・・。
俺が会議に耳も傾けず、さらに”情熱エロホル”を放出することも忘れ、そんなことを考えていると、会議室がまた騒がしくなって来た。
一子の声が耳に入ってくる。
どうしたんだ?
<つづく>
遅くなりました。