二割三割は当たり前
工口の”お願いします”の結果は?
「お願いします!」
そう言って、ひざまずいた俺は即座に里緒に向い右手を伸ばした。
顔を俯かせると自然に目をつぶっていた。
風に揺れる草木の音、遠くから聞こえる笑い声。
いままで聞こえていなかった音が、頭の中に心地良く入って来る。
こんな切羽詰まった時に、何故か俺は妙に清々しい気持ちでいられた。
それは、達成感からなのかもしれない。
ただ俺は、荒い息を吐きながら彼女の言葉が耳に届くのを待っていたのだ。
全神経が彼女の言葉だけに集中していた。
心臓の鼓動が体の内側から響いてくる。
その鼓動の数からいくと極僅かな時間なのであろうが、俺にはやけに長く感じられた。
多分、実際は数秒なのだろう。
俺の耳届いた言葉は・・・、
「ごめんな・・・さい」
否定の言葉であった。
「・・・」 聞き間違いではない。
はっきりと、脳にまで響いて来たのだ。
当然だと思う。
それは、当然である。
俺だって、相方になって貰えるなんて思って里緒の前に現れた訳ではないんだ。
これでいいんだ。これで・・・。
後悔なんてしない。
後悔なんてするわけが無い。後悔しない為に里緒の前に来たのだから。
何もしないで終わったわけではないのだから・・・。
今まで各学校の代表が里緒に断られ続けていたのだ。
俺なんかが断られるのも当然のことである。
しかし、俺の力の入っていた肩は明らかに下がっていた。
はっきりと面と向かって意思表示されたのだから、後悔はしなくても落胆位はする。
それでも、せめて里緒の顔をしっかりと見て、笑顔を作ろう。
そう思い直して、立ち上がろうとした。
その時・・・。
俺は自分の手が掴まれていることに気付いた。
俺は里緒の言葉ばかり気にしていて、相方の申し込みを受けるもう一つの動作のことを忘れていた。
差し出した手を握ると言う・・・。
★☆ 第 30 話 ★☆
☆★ 二割三割は♂ ☆★
★☆ ♀当たり前 ★☆
今日の俺は、朝から抱えきれない快楽エネルギーの放出を続けている。
それは、これから起ころうとしている出来事が、俺のエネルギーを一部位に偏よらせているからである。
さらに、その放出は常に心地よくアンダーウエアーからの低反発を誘い、今では納まりの付く限界の20%台を超え、30%強に達しようとしているのである。
気持ちの良いスリルである。
そんな、”危機と背中合わせ”と言う興奮の中、今、俺は急きょ開かれた”へ高AV祭”の実行委員会に、体の弱い1年AV科西組の鉾田矛と一緒に出席している。
もちろん、柔軟体操部の代表としてだ。
本来、柔軟体操部の実行委員は、俺と2年AV科南組の”リンリン”こと林林なのだが、今日は彼女の代理の矛と一緒である。
それは、今日は珍しく部活の終わる30分前の2時半から”へ高AV祭”の実行委員会が行われた為に、里緒の代わりに部活を仕切っている副部長のリンンリンは、部活を抜けられなかったからである。
そのリンリンの代役が、矛と言う訳なのだ。
病み上がりで見学しかできない矛が、自ら俺と「実行委員会に出席する」と塩南先生に申し出たのであった。
と言うことは?
今日、里緒は学校を休んでいるのである。
別に体の調子が悪い訳ではない。
恐らくは今頃、初めてのAV撮影の準備に頭を悩ませているはずである。
”お願いします”で相方を見つけたAV大会の学校代表は、撮影当日は学校を休み、撮影に備えるのが慣習になっているのである。
つまり、昨日の”お願いします”で、里緒は無事に相方を見つける事が出来たのである。
そしてその相方とは・・・。
もちろん、この”俺”である。
これで、何故俺が朝から幸福エネルギーを放出し続けているかがお分かり頂けたと思う。
因みに「お願いします」と里緒に申し込んだ続きは次の通りである・・・。
あの時、俺は・・・。
・・・
「ごめんな・・・さい」
と言われ、一旦は断わられたと思っていたのだったが、実はその言葉の意味は違っていたのだ。
次に里緒の放った言葉は、
「待たせて・・・、待たせてごめんなさいでしょ」
であった。
つまり、遅くなったことを俺に謝れと言いたかったのだ。
あの時、里緒は俺の「お願いします」の言葉の後、直ぐに俺の差し出した手を握っていたのであるが、里緒の言葉ばかり神経を集中していた俺は、”手を握られている”と言う事実と、それが”申し込みを受けた”と言う事であることを、結びつけられなかったのである。
その後、里緒は、
「ずっと、ずっと、待ってたんだから・・・」
消えそうな位に小さな声でそ俺に言ったのだ。
里緒は”面食い”で次々と来る申し込みを断っていた訳ではなかったのだ。俺が来ることを信じて疑って無かったのだろう。
買い被りかもしれないが、里緒はきっと俺のことを、ずっと待っていたのだと思う。
俺が、”まほまほ”では無かった。”ラミア”にスカウトされて異世界から来たと知っている里緒は、俺が当然大会に参加すると思っていたようなのである。
と言うことは、俺とめぐり合う方法として、”最初に訪れた19番拠点から動か無いこと”それを選択したのかもしれない。あの”19番の玉”をくれた緋色の眼をした女の子の言った様に・・・。
手を差し出して俯いたままの俺の上からは、里緒が鼻を啜る音が何度も聞こえて来た。
それは、多分風邪ではないと思う。
里緒が、
「よろしくお願いします」
と、俺の申し込みを正式に受けた時、その言葉と同時に俺の手に一滴の滴が零れ落ちたのだ。
それが、ヨダレや鼻水とは粘性が違っていたからだ。
俺は里緒の涙だったと確信している。
その滴の感触はこの右手にまだ残っている。
俺はどうしても、この滴の水源の”こと”が気になり、と言っても目か鼻かの場所の特定ではない。
里緒の表情が気になり、俺は直ぐに顔を上げた。だが、里緒は慌てて後ろを向いてしまった。
俺は里緒を心配させたことが、ただ、ただ申し訳なくて、里緒の希望通りに、
「ごめ、め、めん〜。あ〜、ああ〜ちょっと、待った・・・」
謝る予定であったが、その途中で里緒に思いっきり引きずられていた。
「早くしないと、登録時間が過ぎちゃうじゃない!ホント遅いんだから・・・、もう」
そうであった。その時はもう”お願いします”の残り時間も1分を残しているかどうか、と言う時であったのだ。
俺は里緒の明るくなった声に引きずられ、約10m先の屋根付きの休憩所に飛び込んだ。
ずり落ちそうなレンズの無い眼鏡を直し、飛びそうなカツラを左手で抑えながら・・・。
今頃になって気付いたが、里緒には俺の変装が全く通じていなかったようなのだ。
それどころか、全く気にも掛けていないのである。
女性とは、本題以外は余りきにしない”生き物”なのだろうか?
とも思ったが、そんなことを聞く余裕は全く無かった。
俺達は急いで”19番の告白拠点”の係員の所に行くと、言われるがままの指示に従った。
まず、”19”と書かれた玉を係員に渡し、それと引き換えに相方成立の番号をもらう。
そのもらった番号と、相方(里緒)の大会登録番号をスマートフォンの様なAV子機に入力し、親機に向けて同時発信するのだ。
それで、登録手続きは完了である。
後は完了通知を待つだけである。
この時俺は、渡した玉を記念に貰おうと思ったのだが、規則と言うことで貰えなかった。
あれ?この玉は確か・・・、
貰えるはずでは・・・。
心に引っ掛かるものを感じながら、30秒後。
無事、登録完了通知を受信した。
登録は間に合ったのである。かなりぎりぎりであったのか、係員の女性もホッとした顔つきであった。
・・・と言う事で、見事今日の”撮影大会”に進めたのである。
これで、晴れて里緒の”裸を?裸と?・・・”と言うことになる。いや、良かったのはそこではない。里緒のプライドと責任感を守ることが出来たのだ。本当に良かった。
俺と里緒は、その”お願いします”からの帰り道で、今日の撮影場所を話し合った結果、誰の目も気にしなくて良い、俺のアパートで撮影することに決めたのだ。
きっと、里緒は今頃は俺との絡み、ではなく、俺との撮影に備えているに違いない。
構想を考えたり、衣装を用意したり。
そうだ、お風呂にも入っていることだろう。
湯上りの肌は、想像しただけでも3回は抜け・・・いや、いい演技だ出来そうだ。
もちろん、昨日は俺の部屋の合鍵を作り里緒に渡したのは言うまでもない。
この”女の子に自分の部屋の鍵を渡す”と言う瞬間を思い出すだけでも、2回は抜け・・・、では無かった。里緒とは他人ではなくなった気がして来る・・・。
ここで、疑問に思われたことがあるのではないかと思う。
何故、俺一人が登校しているか?
と言うと、それは彼女に合鍵を渡すのが目的だった訳ではない。
”AV撮影大会”当日の今日、二人で学校を休むことが、不自然に思われない様にである!
俺が今回の新人大会に出場しているのは校長代理と、塩南先生達3年のA科教員しか知らないことなので、過剰反応と思われるかもしれないが、この積み重ねが大事である。そう判断したのだ。
まあ、撮影時間は夕方5時までで時間がある。今日の部活は学校代表が出場した大会日とあって、恒例の午後3時には終わる。まっすぐ帰れば撮影には十分に間に合うはずだ。
準備は里緒が全てやってくれていることになっているから問題は無い。
と、言うことで、全ては計画通りであったのだが、何と急遽臨時の”へ高AV祭”実行委員会が開かれることになったのである。
この余計な案を持ち出したのが、あの生徒会長、稲荷家一子であると言うのだ・・・。
<つづく>
更新が遅くなってしまいました。