情報は重宝
AV大会の相手探し”お願いします”が始まった。
果たして、工口は里緒に会えるのだろうか・・・。
いよいよ俺、千乃工口が初参加する”第27部 第一回 サラ18歳新人大会”が幕を開けた。
この大会、“新人”だけの大会であるが、もちろんルールに変わりはない。
基本男女の絡みが主であるAV撮影大会である。
初日である今日行われているのは、相方探しの“お願いします”である。
ここで撮影相手である”相方”を見付けなければ、明日の撮影本番に進めらないのである。
だが、今回の俺の目的は本番に進むことなどでは無い。
お節介にも自分の相方探しよりも色々と縁のある千逗里緒の相方を探してやることなのだ。
まず、始めにその目的達成の為に向ったのは、右手の地図に”7番”と書かれた告白拠点である。
それは俺の意思とは無関係に左手に握った玉に書かれた数字によって決められているのだ。
これが今回の”お願いします”の”たまたま方式”と言うルールなのである。
しかし、俺がどんなお節介を焼くにしても、まずは里緒の現状の把握することである。
そうなると俺は、まず里緒を探すことから始めなければならないのだ。
だが、手掛かりは全くない。運と脚力だけが頼りである。
果たしてこのルールの下、俺に里緒を探すことは出来るのだろうか・・・。
そして、里緒の相方を見付ける事はできるのだろうか・・・。
制限時間は1時間である。
しかし、いざ始まって見ると色々な出来事が俺を待っていた・・・。
それに、俺の里緒に対する心配は・・・。
(この出来事については、第3章でと言う事になる。)
★☆ 第 28 話 ★☆
☆★♂情報は重宝♀☆★
「バカ、何で”ごめんなさい”なんだよ!4人目の男ならお前の気持ちも分かるが・・・」
俺のボヤキは止まらない。
相方探しの”お願いします”も残り20分を切った頃であった、俺は里緒の姿を見付けることが出来たのだった。
俺の心配も余所に、里緒の所には次々と”相方”の申し出がやって来る。
しかし、その18才の若武者達は、次々と里緒に返り討ちにされているのである。
俺がこの場に来て6人目である。
どうやら、俺の応援は全く無用であったようである・・・。
里緒はモテモテの状態であるのだから・・・。
今、里緒のいるのは公園内にある最大の池”あっちに池”と、そこに流れ込む小川”おがわさん川”に挟まれた19番拠点である。
そして、俺は幅3~4mの人工の”おがわさん川”を隔てた藪の中、腰を屈めて雑木の影から里緒の姿を伺っている。里緒との距離は3~40メートルと言ったところだ。
俺のズボンの右ポケットに入っているAV子機を見ると、”お願いします”の時間も既に残り12~3分となっている。
この子機、役場から支給されたスマートフォンの様な端末であるが通話機能が全く無いのである。
因みに機能は、JRAV会本部の親機とのメール通信機能しか持っていないのである。
映像に関してこれだけ進んだ技術のあるAV界において不思議な話はあるのだが・・・。
これがどう言うことかと言うと、里緒と連絡を取る手段がないと言うことなのである。当然、連絡が取れてしまえば偶然性が薄れてしまい、偶然の出会いを演出しているこの”お願いします”の”たまたま方式”が成立しなくなってしまう。
では、この偶然性の必要な競技の中、そして、更にこの広く起伏のあり、草木の多い千々木公園で、何故里緒を見付けることが出来たかと言うと、それは偶然にも俺に情報を与える出場者に出会えたからなのである。
やはり俺と里緒には、何か見えない縁みたいな”もの”があるのかもしれない・・・。
と俺は思う。
この”お願いします”と言うこの競技が始まって制限時間の三分の一である20分が経過した頃であった。俺はいきなり一人の女の子に後ろから肩を叩かれた。
「玉を交換っこしよう」
そう言うのだ。
一瞬女の子に玉を交換しようと言われ、一歩引いた俺だったが、直ぐに左手に持つガラポンで引いた玉であることに気付き、ホッとして振り向いた。
すると、そこには白いドレスにデニムのジャケット姿の活発そうな女の子が、この大会を楽しむ様に微笑んでいたのである。
ただでさえ内気なAV界の高校生の、それも殆どの出場者が始めて参加しているこの”新人大会”なのである。更には子供の頃から出場することが夢であったはずなのだ。その中で、この女の子は他の出場者達が緊張感に潰されそうになりながらこの大会に挑んでいると言うのに、偉く余裕をかましているのである。
俺の世界にも色々な人間がいるが、きっとこの女の子は異質なタイプなのであろう。人見知りの世界の中で、全く人見知りをしていないのである。
彼女は様々な色の髪と瞳を持つAV界においても、それ程見ない緋色の瞳をしている。更に、色は珍しくないが、栗毛色のお姫様カットと言う珍しいヘアースタイルなのである。
俺は一瞬にして彼女に興味を惹かれ、直ぐに首から赤い紐で提げた名札に目を向けた。
そこには、”秘苑緋壬子”と言う女優名が書かれている。
それが、本名であるか、家号なのか或いは、全く作られた名前なのかは分からないが、もちろん俺の記憶には深く刻み込まれた。
何か、俺は意味も無いがその申し出に乗りたい気がしてきた。しかし、
「玉の交換って、そんなことしていいのか?」
そんなことをして良いのだろうか?この大会には色々と規則があるのだ。
確かに玉を交換してはいけないと言うルール説明は無かった様に思う。だが、迂闊なことをして、この世界の御法度に触れるとどんな罰を受けるか分からないのである。
すると、
「大丈夫、そんなルール聞いて無かったでしょ。何か言われたら、説明無かったって言えば筋が通るから大丈夫よ」
簡単にそう言う。強気だ。役場の説明忘れと言うこともあるのだぞ・・・。
だが、彼女は違う役場で説明を聞いていたのだ。二つの役場で同じ説明を忘れると言うのも考えにくい。
本当に、筋が通れば大丈夫な世界なのだろうか?
少なくても俺の世界は法律を知らない方が悪いと言う世界である・・・。
そんなことを考えていると、俺の不安な心を掴んだのだろうか、
「何で、心配してるの?」
彼女は不思議そうな顔で俺の顔を覗き込む。
まずかったのだろうか?
この世界では、筋が通れば問題ないと言うのが当然なことなのだろうか?
もしそうだとすると、それを知らないと言うことは、この世界の人間でない事に繋がってしまう。
疑われてしまうかもしれない・・・。
「いや、そうじゃなくてさぁ、俺が聞き逃したかなと思ってさ、ちょっと思い出してたんだ」
「そっか、大丈~夫。絶対にそんなルール説明なかったから。
それより、せっかくの大会なんだから色んな人と知り合いたいでしょ、ね。
だから、私色んな人と玉交換をして話掛けてるの。
さっき、あなたを小川の近くで見付けて、話しかけたくて追いかけてきたんだから・・・」
本当に珍しいアクティブな女の子である。
俺としても、里緒の居る場所が分からないのだ。どの玉でも構わない。それに、俺と里緒との縁はこんな偶然から繋がっているのかもしれない。そんな気もする。
「うん、了解。交換しようか」
俺は彼女の玉交換の申し入れに快く応じた。
「そう、じゃあ交換ね」
俺は3番の玉を引き換えに彼女から15番の玉を手にした。
彼女は、手にした玉を嬉しそうに眺めて、
「また会ったよろしくね。もし、告白拠点で会ったら”お願いします”するかもしれないから・・・」
社交辞令なのかもしれないが、そう言われると恥ずかしいが嬉しいものである。何せ、裸で抱き合っても構わないと言っているのと同じなのである。
俺が照れ笑いしていると、続けてさらっと情報を教えてくれた。何も聞いていないのだが・・・。
もしかすると、一物兄さんの様に説明好きな人種なのかもしれない・・・。
それは、別にこの玉の番号に向かわなければならないと言うルールは無いと言うことである。
言われて見ればその通りである。この玉の意味は、番号が書かれた拠点に入って”お願いします”と言う相方申し込み行為が、出来ないと言うだけのことなのである。
良い事を聞いてしまった。
俺はそこである事を思いついて彼女に聞いてみた。
「ねえ、”へ高”の制服姿の人を見なかった?」
女の子と言わなかったのは、俺に対して本当に”お願いします”をする気持ちを持っているのかもしれないと思ったからだ。
しかし、
「あ~あ、お目当ての子がいるのね。”へ高”の女の子か~」
ちょっとがっかりした様にそう言うが、
「知ってるわよ」
明るくはっきりとそう言ってくれた。
「ホントに?」
そう聞き返すと、
「うん、嘘なんて付かないわよ」
任せなさい的な自信満々の顔付きである。
やはり、里緒は制服姿で参加をしていたのだ。里緒の性格であれば、学校代表で出場している以上、制服姿のはずである。先週の”オープン大会”でもスカートだけは制服のものであったのだ。ただ、気温が今日よりも高かったので上着は着ていなかったが、きっと、今日は上着も制服なのだ。
彼女は続けた。
「集合した役場が一緒だったから・・・。確か~、19番の玉を引いていたと思うわよ」
そう言いながら、偉く、エッチな顔でくすくすと笑う。
俺の心を読み違えているかもしれない。が、ここで言い訳する意味も無い。
彼女は続けた。
「ふ~ん、意外とまだいるかもよ。お互いに探しあっている場合はね、一人は動かないと言うのがこの方式の鉄則!
だって、拠点は20しかないんだから拠点で玉を抽選するなり、誰かと交換するなりをして拠点に向かえば確率的に20回で1回当たるわけだから。ね」
その通りである。後は、拠点を回りきる時間との勝負である。しかし、里緒は俺を待っている筈が無いだろう。出場有無も知らないのだから。
だから、里緒がまだ19番拠点に残っているかは全く分からない。
しかし、それでもそれしか手掛かりがないのであれば、そこに向かうしかない。
もしかすると、里緒も同じ場所にいるのかもしれないのだ。里緒に取って、同じ場所で留まって相方を探すのも一つの手であるのだから。
そして俺は、彼女と別れてから19番の拠点に向かったのである。
その途中、すれ違う男子には全て声を掛けた。目的はもちろん、19番の玉を手に入れることと、もう一つは、”へ高”の制服姿の可愛くて、演技の上手い女の子が参加していると言う、情報を広める為である。
俺はその間、全く自分の撮影大会の事等は忘れて、里緒のことを考えていた。
多分、純粋に彼女のことを思っていたと思う。
彼女がこの大会で相方が見付けられなかった時の学校での立場を考えると、そうせずには居られなかったからだ。
彼女には、常に”へ高”ランク一番でいてもらいたいのだ。あの稲荷一子には絶対に明け渡して欲しくないのだ。
そして、俺はこの場所に辿り着いた。
里緒はまだ”19番告白拠点”から動かずに居たのである。
相方も決めずに・・・。
<つづく>
やっと、始まりました。AV大会!