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萬のエロはしその香り   作者: 工口郷(こうこうごう)
第2章 初演
35/73

たまたま方式

いよいよ、AV撮影大会の”相方”を決める”お願いします”が始まろうとそている。

 つ、ついに俺、千乃工口ちのくぐちはAV撮影大会に出場することになった。


 と、言ってもいきなりビデオ撮影に取り掛かれる訳では無い。

 自慰行為でのビデオ投稿が不可であるこの大会、要するに男女の絡みを演じることが必須であるこの大会では、まずは自分と絡みを演じてくれる相手を探さなければならないのである。

 

 因みにAV界ではこの相手のことを”相方”と呼んでいる。

 この相方であるが、18歳以上で大会に登録していれば誰でも良い訳ではないのである。

 一つだけ決まりがあるのだ。


 俺の場合、18年間出し惜しみこそしているが、尿意棒にょーいぼうを一本保持している。

 これが理由となり、”相方”と言うのはこれを保持していない者と言うことになるのだ。


 と、言うことはどう言うことなのか?

 それは、俺とスッポンポンで絡むことを是とする女性を探せと言うことになるのである。


 無茶な話しである。


 そんな奇特なお方がそう簡単に探せるのならば苦労はしない。俺の人生には既にピンクの薔薇が咲き誇っているはずである。


 しかしだ、こんな冴えない男たちも救済してくれるのがこのAV界と言う処である。


 ”相方”を勝手に探せと言うコクな事を言ったりはしないのである。

 ちゃんとこの相方を見付ける為の大会が”撮影大会”の前日に用意されているのである。


 因みにこの大会のことをAV撮影大会をを主催運営している公営団体”JRAV会”では”お願いします”と命名している。


 この”お願いします”は、お見合いの様にちょっとだけ堅苦しい。

 大まかではあるが、相方への申し込みには決まった形式が存在するのである。


 まず、気に入った相方の前に行き右手を差し出し、上の頭を下げながら適当な能書きを垂れた後に、こう言うのだ。


「・・・(能書きタレ)・・・・自分と組んで下さい。お願いします」

 

 そして、申し込み側は相手の意思を待つ・・・しばし。


 その申し出に対し申し込まれた側は、その場で結論を出さなければならない。

 そして、結論が”申し出を受け入れる”場合は、


「・・・よろしくお願いします」

 と言い、右手を握るのである。


 残念ながら”その申し出を断る”結論に達した場合は、


「・・・ごめんなさい」

 と言い、敬意を払って頭を下げるのである。

 これで後腐れ無しだ。


 ただ、この”お願いします”と言う相方探しの大会、最後の決め文句は共通であるのだが、探すまでのルールに関してはその大会毎に結構異なっているらしいのだ。


 今回の”第27部 第一回 サラ18歳新人大会”の”お願いします”は一体どんな方式になるのだろうか。


 実は今回の”お願いします”であるが、俺はこの方式の下で、自分の事ではないある特定人物の目的を達成しなければならないのである。


 それは、この世界に来て何かと縁のある千逗里緒せんずりおの相方探しを成就させることである。


 別に彼女に頼まれた訳では無い。

 俺の心が勝手にそうさせようとするのである。


 俺は自分の心に忠実に従おうと決めた。だから、誰がなんと言おうと(誰も何も言ってないが)俺は里緒の相方を探してみせてやる。


 それには、まずは里緒の姿を見つけ接近しなければと思うのだが、この方式の下、里緒を見付けることが出来るのだろうか・・・。

  

★☆ 第 27 話 ★☆

☆★  たまたま  ☆★

★☆ ♂ 方式 ♀ ★☆


 雲の上まで続くミンジュ塔。

 その南側には、どこまでも地平線に向かって真っ直ぐに伸びる大通りが走り、そしてその反対、北側には千々木公園ちぢぎこうえんが深緑を彩っている。


 この公園、広さは東西に約1キロメートル。南北には500メートルと約50ヘクタールにも及ぶ。

 緑溢れる園内は起伏に富んでおり、谷間には小川も流れている。

 この一見自然を利用して作られた様に見える公園が、何と砂地を改良して造られたものであるのだから驚きである。

 

 今、俺はこの公園の南側を東西に沿って走る通りの東よりの一角で、その時を待っている。

 右手にはこの公園の地図を、左手には”7番”と書かれた白い小さな玉を柔らかに握り絞めている。


 もちろん待っているのは、他でもない”お願いします”の始まる時間、”正午”である。

 そして、両手に持つ球と地図であるが、これは一時間近く前に集まった”27部そ地区羊役場”で、大会の説明後に貰ったものであり、特にこの俺が回春マッサージのエステシャンの様に柔らかに握っている玉は、逆に若干ではあるが俺の明日を握っている。


 いや、里緒の明日を握っているはずである。


 そう、俺はほんの少し前まで、その役場で真剣にこの大会の説明を拝聴していたのである・・・。



 説明は顎鬚あごひげに疎らに白さが見られる”羊役場長”の大会宣言の後に続いて、役場内にあるJRAV会の大会課から行われた。

 初めは”新人大会の歴史について”である。


 他の出場者達には周知の事かもしれないのだが、俺には興味深い話であった。


 大会課の中年女性の話では、この”サラ18歳新人大会”とは、今でこそ高校生以外も出場対象であるのだが、元々は18歳になり”AV撮影大会”の出場権利を法律上得た高校生の為に始められた大会なのだそうである。


 当初は一般社会人と高校生の間には演技レベルにかなりの開きがあり、“お願いします”で相方を見つけることはとても難しく、仮に相方を見つけることが出来たとしても、畏縮した未成年には撮影大会において十分な力をはっきすることが出来なかったそうなのである。


 そこで、それを問題視したJRAV会では、AV界の将来を担う若者を育てる為にと、とある高校の校長が提唱した、在学中の者だけの大会”新人戦”案を採用したのだそうである。


 つまり、新人戦とは同じ18歳でも新年度が始める当年9月1日から、翌年8月までに18歳になった高校3年生のみの大会であり、9月生まれはフルに1年間の対象期間があるが、8月生まれの生徒はほぼ対象外と言うことになる。

 要するに18歳を迎えた高校3年生限定のジュニア大会と言ったものなのである。


 しかし、この大会を採用した当初は18歳高校生であれば誰でも出場出来る様にした為、余りにも演技レベルが低くアクセス数の伸び悩みが続いたのだそうである。

 そして、ついには大会の存在意義すらが問題視されるようになったのである。


 そこで、教育委員会とJRAV会では校内の部活動を中心に”校内AV大会”を開くことを取り決め、この新人戦は、そこでの優秀な成績の生徒が出場できる大会へと変更したのである。

 更に高等専門学校の代表や、各地区や特別団体の推薦者にも参加資格を与え、今の形が出来上がったとのことである。

 

 そのお陰でレベルも年々向上していき、二十二年前からは、新人大会以外でも里緒の様に自分のクラスに合わせた大会に出場することが可能になったとの話である。


 俺はこのエッチな大会にも・・・。いや、語弊がある。この世界の由緒あるAV撮影大会について、改めて重みを実感してしまい、俺は自分が引き締まっていくのを感じた。

 何か不思議にも子供の頃から俺はこの大会を目指していた様な気分になって来ていた。



 さらに大会課の中年女性は”大会名”の由来について説明を始めた。


 この話の中で俺をドキリとさせたのは、この大会名についている”サラ”と言う言葉である。 


 この”サラ”と言う言葉、俺の世界で言えば”サラ3歳”と言えば、競馬で”サラブレッドの3歳馬”と言う意味であるが(競馬好きの叔父に聞いた話である)、この世界では人間の大会である。

 ”サラ”の意味はサラブレッドではないのは当然である。


 この大会名に付く”サラ”とは、”まっさら”の”サラ”と言う意味らしいのだ。


 では、”まっさら”とはどう言うことか?

 と言うと、はっきり言うと純潔を意味するのであるらしい。


 俺はこの大会の出場に当たって、誰からも、その~何と言うか、つまり、童貞であるかの確認を受けていない。

 と言うことは、何というか、見るからに俺が童貞にしか見えないと言うことになるのだが、ん~何と表現したらいいのだろうかこの気持ち・・・。


 確かにそれは事実ではあるが・・・。


 どうしてそう思われたのだろうか?

 俺は見るからにHとは無縁にみえるのだろうか?


 そう複雑な気持ちで続きを聞いていると、それは昔のことで、今は名前だけが残っていると言うことらしいのだ。


 それを聞いて、俺は少しホッとしたのだった。

 んっ、・・・ホッと?


 いや、待て。ホッとする必要はない。

 何も、誰に恥じることでは無いではないか。だから、堂々としていれば良いのだ・・・。


 それはそうと、何故そうなったかと言うと、その理由が俺を更に安心させた。

 安心する必要は全くないのだが・・・。


 今のAV界の高校生の殆どが聞くまでもなくH未経験が当然らしいのだ。要は童貞と処女である。


 これには、俺は驚いた!


 何故だろうか?


 物心が付いた時から、スッポンポンの男女の絡みを見ているこのAV界にあって、各自の暴れん坊達を大人しくさせておく事が可能なのだろうか?

 それに、高校ではAV撮影の為の部活ばかりが平然と存在するのにである。


 みんなはそんなに聞き分けの良い物をお持ちなのだろうか?

 俺の殿とのは、元来そんなに上品でないぞ。今のところ上品に甘んじてはいるが、だが野望は常に持っている・・・。


 しかし、今のこのAV界ではそれが当たり前であるようだ。

 と言う事は、俺の居た世界とは違ってH経験による優越な態度を取る者や、H未経験による悲観する者はいないのかもしれない。


 初体験がいつか?何て質問をするような者もいないのであれば、焦る気持ちになる必要も全く無い。

 と、すると今の俺向きの良い世界なのだが・・・この世界、H自体に対する感覚が違うのだろうか?


 まさか煩悩とHが全く繋がっていないなんてことはないだろう。

 そうすると、この世界で俺だけがサル並みと言う事になってしまうのだが・・・。


 俺はサルに近いのか?


 いや、俺の世界で俺は多分ノーマルな高校生だと思う。思いたい・・・。

 だとすると、俺の世界よりもAV界の方が文化的に進んでいると言うことになるのだろうか?


 これが本来の文明社会の姿なのかもしれない。

 俺をそんな気持ちにさせていく・・・。


 俺の世界も書物の性的表現の規制を厳しくするよりは、どうせ行うならばH経験を当たり前とする下世話な雑誌類に対して規制する方が正しいのではないのだろうか・・・?


 と思うのだが、こんなことを大声で言うと、所詮もてない奴のヒガミと言われそうだから大人しくしていよう・・・。それに、元の世界に戻れなければ、所詮、余所様よそさまの世界の話なのだ。


 しかし、そう言えば俺の元の世界でも、特に男子は昔に比べると大人しくなったとも聞く。これも草食系オタクが増えたせいなのだろうか?

 何となくこの世界と似て来ている気もするが・・・。



 そんなことを考えている内に、全集合場所(27部各役場)共通の放送による開会宣言が行われ、今回のルールの説明が始まった。

 

 ここから先は聞き逃すとエライことになってしまうかもしれないのである。何せ、このAV撮影大会はHと射精行為が御法度なのである。他にどんな禁忌が潜んでいるか分からないのだ。

 俺はスイッチを入れ替え、放送に集中することにした。


 まずは、今回の”お願いします”の採用方式の発表があった。

 この方式に従って”お願いします”が行われるそうなのである。


 今回の”お願いします”は、”たまたま方式”である。


 何だその方式?


 と思ったのだが、他の参加者達からは途端に不安の声が洩れたのだ。


 その声で俺にもある程度の察しはついた。

 きっと、厳しいルールなのだ。と言うことは相方が探しずらいと言うことであり、里緒とのコンタクトが難しいことになる。


 説明では、千々木公園内にある20箇所の休憩所に拠点を設け、その拠点の中のみでしか”お願いします”が出来ないらしいのである。

 さらに、次にどの拠点に入れるかは拠点毎に用意してある”ガラポン”と言う抽選機(歳末大売出しの時に良く使う抽選機)で出た球に書かれた番号のみとのことである。


 これを制限時間の1時間の間行い、相方を見つけなければならないのである。


 この方式の命名は、玉により偶々出会った人と相方を組むことになるので、”たまたま方式”と言うのだそうだ。ただのゴロである。


 確かに、これでは里緒と巡り合うのは難しそうである。

 しかしだ。俺と里緒の関係はそんなことで妨げられるものでは無いと、俺は信じている。


 何故ならば、俺はこの世界で始めて偶然に話したのも里緒であれば、そのこの世界初日に泊めてもらったのも里緒の家である。

 それに、同じ学校の同じクラスに柔軟体操部までも偶然一緒になったのである。


 絶対に俺と里緒は縁があるはずなのだ!

 俺はこの制限時間内に、里緒を会えないはずがないに決まっている。

 既に俺と里緒は必然で結ばれているのである。いて欲しい・・・・。

 

 今回の参加者は、全部で189人。男子が87人、女子102人と、塩南先生の予想よりも少し少ない人数である。

 人数が少ないのも探しやすいと言えば探しやすいのかもしれない。


 いやいや、本線を反れてしまってた。違うのだ。探すのが目的ではないのだ。男子が少ないと言うのは里緒に取っては不運なのである。


 目的を見失ってはいけない!

 俺の目的は里緒が相方を見付けることなのである。

 今回は敢えて縁の下の力持ちになると決めたのだから・・・。



 この”たまたま方式”の説明が終わると、順に役場のガラポンで抽選を行い、スタート地点の場所と、最初に向う拠点の球を抽選により引いた。

 続いて、公園内の地図も渡された。この地図に20ある拠点が示されている。 


 そして、全ての説明が終わると11時半過ぎにバスにより”千々木公園”に移動となったのだ。

 

 俺を含めた14人がみんな、緊張に包まれた顔でそれぞれのスタート地点で降りて行く。

 これから、いよいよ始まるのだ。


 学校の制服姿の者も居れば、勝負服らしき者もいる。

 彼らは生まれた時から、この大会を目指しているのである。


 先週のオープン大会に出場していない限りは、出場者全てが初めての大会と言うことになるのだ。

 20メートル前後離れた所にいる制服姿の女子は座り込んでいる。

 その向こうの男子はAV子機(スマートフォンの様な端末)を見つめたまま微動だにしない。 


 そして今、異世界からひょっこり来た俺も、この大会を目指して来た者達と同じ土俵に立っている。

 俺は柔らかく握っていた”7番”の玉を持つ左手に力を込める。


 不思議な気持ちだ。何かこの世界で生まれ育った気持ちに完全になっているかもしれない・・・。


 俺は今自分のスタート地点で、ドキドキしながらAV子機からの合図を待ちながら公園内を見つめている。すると、


 ”10・9・8・・・”


 AV子機のバイブが震動を始める。画面を見ると、秒読みが始まりだした。

 何かこのドキドキ感心地よい。


 どうしてだ?

 出すものを家のトイレで全て出して来たからか?


 ”・・・3・2・1・”


 いよいよだ。

 俺の闘志に火がついたのか?


 ”スタート!!”


 その合図と共に、公園内で花火が上がった。

 

 俺は地図に従い、7番の拠点へと走った。


 運良く里緒と会えれば良いのだが・・・。


 体は熱い・・・。

 

 <つづく>

 

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