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萬のエロはしその香り   作者: 工口郷(こうこうごう)
第2章 初演
30/73

見ると聞くでは聞くがエロ

里緒の部屋で、工口くぐちと里緒の二人は次第にいい雰囲気になって行くのだが・・・。

 この部屋のあるじ、里緒(千逗里緒せんずりお)のセンスは意外と乙女チックにである。


 今日のルームウエアは”どらネコ”がモチーフなのだろう。黄色のベースに黒の縞模様。フードには小さな耳がついており、ショートパンツの尻尾が愛らしい。

 それに手足の露出も多く、もろに俺(千乃工口ちのくぐち》のバットの芯を食っている。


 昨日のしおれたジャージとは大違いである。


 恐らく昨日は、このルームウエアを洗濯中だったのだと思う。この彩り鮮やかな部屋にはキュートな”どらネコ”がぴったりだ。


 でも欲を言えば、俺は昨日の極少生地のインナーの方がこの部屋にはベストマッチだと思う。


 今、隣で一緒にAV大会のビデオを観ている里緒には内緒だが・・・。


★☆ 第 22 話 ★☆

☆★ 見 る と♂ ☆★

★☆ ♀聞くでは ★☆

☆★ 聞くがエロ ☆★


 よく人間の姿を表現するのに”大の字”という言葉がある。

 例えば大の字になって寝るとか、大の字に手足を広げるとか・・・。

 この”大”の文字。

 一本の線、または一つの点を加えると様々な読みに姿を変えることはご承知のことと思う。


 今、このモニタ上に出演している俳優のシルエットはその例である。

 ちょっと、点の位置が上過ぎるかもしれないが・・・。”太”の字を見事に表現しているのである。 

 

 里緒が選んだ「体上開脚前転二分の一ひねり」と言うビデオは、逆光が作り出す二つのシルエットから始まった。


 左のシルエットは”大”の字を。そして、右は”太”の字だ。

 綺麗な人文字を描いている。


 さすがはジャンルが”柔軟体操”と言うだけのことはある。一目で分る人文字である。

 柔軟体操とは関係がないかもしれないが・・・イメージで・・・。


 さて、ここからどの様にな展開になるのだろうか?

 何てことは安易に予想されてしまう。俺は慌てて里緒の様子を伺ったのだが里緒は至って冷静である。


 まだ、気付いていなのだろうか?


 だとすると、ここで俺が騒ぐのは得策ではないだろう。この手の事に想像力がたくましいことになってしまう。ここは気付かぬ振りをするべきだ・・・。


 モニタの中では、微動だにしない二つのシルエットに当たる逆光が徐々に弱まっていく。そして、それに従い上部の照明が光を灯しだした。二人の姿が徐に三次元の凹凸を取り戻していく。 


 この”AV撮影大会”は男女が組みになって行うのが大条件である。と言うことは、ギャグで無い限りはっきりしている。

 左が女性で、右は男性である。


 そして、完全に現れた姿は想像通りだったのだ。


 もちろん、”すっぽんぽん”である。

 点の位置が微妙に動いた気がしたのは気のせいか・・・。

 

 共に年の頃なら30前後。”太”の方は頭髪をしっかりと七三に固めた、細身ながらも絞まった身体。そして、”大”の方も女性なりに良い筋肉である。彼女のショートヘアーは、その身体つきに良く似合っている。


 二人とも大真面目な表情でそのまま脚を広げていき、あわや、太いが横長の”木”と言う文字になりそうなところで、柔軟体操が始まった。


 俺は思わず、あっ、付くぞ!

 と声を出しそうになったのだが、すんでのところでの回避をする。


 今の”太”から”木”への移行は演出だったのだろうか?

 左から読むと”大太”から”大木”だ。

 

 み、見事なのだが、俺が一番気になるのはそこでは無い。隣で同じビデオを見ている里緒のリアクションである。

 横目で覗くと、里緒が呟いていた。


「なるほどね、自分達の名前を表現したのね。でも、ちょっと違うわね」

 そう言って、首を僅かに傾げている。


 名前?

 

 そう言えば里緒がこのビデオを選択する時に、作品名の横の”演者名”にそんな名前が書いてあった気がする。


 しかし、問題はそこでなない。そうだろう、里緒!

 お前はこのビデオに特に問題を感じないのか?


 キャーとか顔を赤くするとか、そうでなければ、せめて笑うとか他に何かないのか?

 ちょっと違うとは、何処なんだ!何が違うのだ!


 そんな俺には無視をして、モニタの中では上だったり下だったり、ぶらぶらとストレッチを初め身体を解して行く。

 そして二人の体が前後に重なる。


 何が始まるんだ?


 そう思っていると、里緒がゴクリト唾液を飲み込んだ。真剣な顔つきである。


 おい、まさか・・・。お前も、俺と同じ期待をしているのか?

 あんなに恥ずかしがリ屋のくせに、今は顔が全く赤くないぞ・・・。


 前後になった二人の内、前の女性が脚を伸ばして座ると、後の男性が背中に跨り体を擦り付ける様に押していく。前屈の補助である。

 さらに女性は開脚前屈へと移っていく。


 Oh!

 俺は危く声を出しそうになった。皿になり掛けた目を小皿で止める。


 はっきり言って少しお下劣である。だが口には出しはしないが、俺としてはそれなりに視覚的な快楽はある。


 しかし、里緒にとっては・・・。


 そう思い横目で里緒の顔色を伺うと、里緒の顔は真剣である。

 首は頷いたり、傾げたり。眉間には皺を寄せたり、伸ばしたり。

 一端の批評家の目でモニタにかじり付いている。

 

 どうやら、一連の動きの全てに顔を出している”あるもの”の存在に対しては全くNo problemの様である。


 どうしてだ?


 一人ならともかくだ。いや、ともかくであって欲しくはないが、俺と二人で”あんなもの”や”こんなのもの”が、角度を変えて映し出されているんだぞ・・・。


 現状に対する行動を迷っている俺を知ってか知らずか、知らないだろう。

 モニタに噛付いていた里緒は、


「ごめん・・・」

 俺の方を向いて、そう一言謝った。


 何なんだ、その”ごめん”は?

 一体、何に対してだ?

 謝られた理由を俺はどう捉えればいいんだ、里緒?


 すると、里緒は、


「駄目ね、これ。名前ばっかり。やっぱり作品名じゃあ判んないわよね」

 謝りはビデオ選択に対する謝罪だったようだ。


 俺は何て応えればいいのだろうか?


 唖然とする俺に、


「全然面白くないわね、違うのに変えましょうか?」

 そういってくる。


 里緒には”あんなものや”こんなもの”が手を変え品を変え、出たり引っ込んだりすることが、何てことでは無いことは間違いなさそうだ・・・。

 これは、一体どう言うことだだろうか。


 少なくても俺は、おまえと一緒に見ることに何とも思うぞ里緒。それに、どうでもいいが、作品名は気に入っているのか?

 

 しかしだ。考えてみれば昨日俺が部屋で観ていたG1ビデオ。あれも里緒が来た時には”その部位”こそはっきりとは見えていなかったにせよ、すっぽんぽんの姿で、それなりの摩擦行動は行っていたのである。

 その時も、里緒からのリアクションは俺に対する”感心”だった。


 AV界とは、そんなところなのだろうか?


 里緒は肝心な題名の大技「体上開脚前転二分の一ひねり」を見る事無しに、更新すること無く10分間で次に観るビデオを探し出した。


 きっと、俺の意思を聞くまでもない酷い出来な作品なのだろう。

 俺はそれなりに、面白かったのだが・・・。


 それにしても気になるのは、この直ぐ顔を赤くする里緒が平然”それ”を見ていることである。

 と言うことは、言うまでもなくかなり見慣れていることになる。


 ご主人のだろうか?

 いや、それは無いだろう。有って欲しくない。

 だとすると、大会のビデオと言うことになるのだが・・・。


 気になってしょうがない俺は、次の作品を探している里緒に疑問をぶつけて見ることにした

 もちろん遠回しにだ。


「り、里緒・さんは大会は何歳から見てるので・・」

 やはり、名前のさん付けは呼びにくい。その後が敬語になりそうで語尾を濁した。


 すると里緒は

「お互い呼び捨てにしましょうよ。何か固くて変。言い直して!」

 俺に要求えおする。


 バカ、それはそれで、

「急に、そんなこと・・・。緊張するだろ」

 そう言うと、


「いいから言ってみて」

 頑固だ。そう言いながらも、里緒の顔は恐らく俺以上に赤い。


「じゃあ、り、里緒は、その~、何歳から大会を見てるんだ」

 い、言い易い!何か大接近した感じがする。


 その流れで俺は少し”じりケツ”で、里緒に近づいてみた。その距離は”されど2cm”・・・。

 横を見れば里緒の顔がそこにある。脚を広げれば膝が触れそうな距離になった。”されど2cm”。

 処々の理由で広げられはしないが・・・。


 しかし、そんな俺の興奮も、応えた里緒の言葉に打ち消されてしまった。


「いつって・・・、生まれたときからよ」


 なにっ!生まれたときー?


 何を言われても、さり気無くしていようと思ったのだが、流石にそれには俺の顔も驚きで固まった。

 すると、それを察して里緒は言い直した。


「あ~ごめん、ごめん。ちょっと大げさだったわ。物心付いた頃からって言うのが正解よね」


 何も変わってないじゃないか。そこじゃないだろ。


 しかしだ。と言うことは、それは里緒だけではないだろう。恐らく、AV界全ての人がそうのだろう。


 柔軟体操部のあの食い込み”立位体前屈”の時も、今考えるとそうである。

 余り見てはいなかったのだが二人の男子部員の視線には、煩悩があまり感じられなかった気がする。

 それに、当の女子部員もそうである。俺に見られることに対して平然としていたのだ。


 かと言って、塩南先生は、食い込みを”美”と言った後に、違う表現を欲していた。と言うことは何も感じていない訳ではないのかもしれない。


 そうだ。何かが違うからAV大会が存在するのに違いない!


 俺はそう仮定を立ててみた。


 そこに、

「ねえ、また柔軟体操でいい?さっきのは、技術が無かったわよね」

 里緒がそう言った。


 んっ? 技術・・・。


 里緒は柔軟体操の技術を見ていたのか?


 それならば、別に裸になる必要もなければ、体を擦り合わせる必要もないはずだ。

 それとも擦り方にも技術が必要なのか、ゴマでさえ擦るのに技術はいらないぞ・・・。


「技術が・・・?」

 俺は思わず口にした。すると、 


「ん~技術もそうだけど、技術以外に感じる物があれば、もっといいんだけど」


 それだ!

 その感じるものとは何だ?


 塩南先生の言っていた”美”とは違う何かのことか?

 俺の言い替えた”エロ”とは違うのか?


 こうなったら、納得いくまで大会を見てみよう。

 俺はそんな気になった。


 里緒は直ぐに次の作品を選択した。

 今度の題名は”脱いだ後には服着るたる”だ。


 だが、これも10分間観ると更新はしなかった。これも感じるものが無いと言う。


 依然として、俺にはその”感じるもの”と言うのが分らない。


「次~ん~、違うジャンルにするわね~」

 次に選んだジャンルは”学園”。作品名は「学校の階段」だ。

 

 里緒の生唾を飲む音が聞こえる。ちょっとそわそわしているのか?

 観る前からである。偶々か?


「ごめん、これなら大丈夫だから。多分、この女性G3戦士だから・・・」

 と言う。初めからある程度の内容が期待出来る言い方だ。


 その作品はやたらと狭い学校の階段で始まった・・・。


 これは里緒も何かを感じたらしい。いい顔をしている。

 里緒は最初の10分が終わると、俺の意見も聞かずに更新をしていた。

 それは、もう10分間、観る価値があるということだ。


 このビデオも最初の10分間が終わる前には、既に”すっぽんぽん”だ。撮影場所の違いさえあれ、擦れ合う事には今までの作品と変わりは無い。


 でも、今までの2つの作品よりは、確かに短くはあったがシツエーションから訴え掛けてくるものは感じ取れる。ただ、欠点は学園ものにしては俳優の年齢が不自然なことである。


 それでも俺には、制服から始まったせいなのか一層、隣の里緒が気になってしまう。

 モニタ上の女優の裸を里緒に置き換えている自分がいる。

 

 いつの間にか、いや俺は知っている。この作品が始まってからだ。里緒と俺の距離は肩を並べる程近くなっていた。

 俺が近づいたのではない。里緒から近づいて来ているのだ。


 偶に里緒の肩が俺の肩にふれ、里緒の手が俺の膝に触れる。モニタの中と現実がオーバーラップしていく。

 静寂の中、言葉が無くても体が引き寄せられているのだ。意識をすると、気まずい気持ちになってくる。


 脚を広げれば・・・、誤解しないでほしい。通常の肩幅強だ。そこまで広げれば、里緒と俺脚は触れ合うことが出来る。


 だが、今の俺には広げられない理由がある・・・。  

 幾ら里緒がビデオで見慣れていたとしても、実況中継が同じとは言いきれない。

 それに、何より俺の心理の現れをどう受け止めてくれるかは不明なのだ。

 

 ドクン、ドクンと言う心臓の音が俺の頭にまで響いて来る。

 里緒との会話もないこの静寂の中では当然このとだ。


 静寂?

 なぜ静寂だ?

 

 そう言えば、さっきから消音のままである。気になることが多すぎてすっかり忘れていた。

 静寂からの緊張を解しがてらに、ちょっと聞いてみよう。そう思った。

 

「大会って、音が出ないんだ?」

 俺がそう聞くと、


「そんなことないけど・・・」

 真剣にビデオを見ていたにも関わらず、里緒の反応は意外にも早かった。意識の在り場が俺にもあったと言うことだろうか?

 いや、深読みはするまい。


「音、出さないの?」

 昨日里緒は、ノックもせずに俺の部屋に入って来ると、俺がこっそり見ていた10年前のG1ビデオの音量を、自ら大きくしていたのだ。


「出す?」

 里緒の確認に俺が頷くと、里緒はリモコンの操作を始めた。

 里緒はモニタ上で問い合わせて来る暗証番号を入れるが、あまり気が進まないようだ・・・。


 里緒が暗証番号を入力すると、音声が出てきた。


「暗証番号?」

 俺は聞いてみた。確か昨日はそんな番号は必要無かったなずだ。


「そう」

 そう応える声が、少しおどおどしている。


「昨日は入れなくても聞こえたけど」

 そう聞くと、


「お祖父ちゃんが入れっ放しなの。解除しないと、聞こえちゃうのよ」

 そう応える。


 暗証番号が必要なんだ・・・。一体どう言う意味なんだろうか?

 それに、”聞こえちゃう”と言う言い方はなんだろうか? 


 この演技は、今までの作品と違って、多少の感情が汲み取ることが出来る。

 今までの作品は全くの無機質なものであったが、これは人間味がある。

 

 それにしても、里緒の”音”に対する反応はちょっとだけ気になるところだ。

 もしかすると、俺との会話がし易い様にと言うのも考えられる。もしかしてAV界とはそう言う考え方なのかもしれない。

 或いは、里緒が俺に対して・・・なんてことも・・・。

 

 俺は糠喜びをしないように心がけ、その事には触れずにビデオを観ていた。


 すると、モニタの中では次第に刺激的な絡みになってきた。女優さんの激しい息づかいも聞こえてくる。

 昨日のG1ビデオのマラソンの様な息遣いとは明らかに違う。本物に近い。いや本物の息遣いだ!


 里緒もそんな気持ちになってくれないだろうかと思うが、この手のビデオを見慣れた里緒には期待薄である。

 そう思いながら、横目で里緒を見ると、何と里緒の顔が真っ赤である。


 あれ?

 里緒、どうしたんだろう?


 今までのビデオもこれ程ではないにせよ、それなりの絡みはあったはずだ。

 なのに、何故だ?


 その時である。

 女優がある言葉を発した。


「ま、まほまほ・・・」


「んっ?」 


 ”まほまほ”って言った。

 確かにだ。”まほまほ”と言った。


 ”まほまほ”のことか?いや、あいつの名前は”ラミア”だ。”まほまほ”はあいつがバスの中で発した言葉なのだ。そこから取って俺が付けた愛称だ。


 ”まほまほ”?

 どう言う意味だ?


 そう思った俺は、無謀にも真っ赤な顔の里緒に聞いてしまった。


「まほまほって、な~に?」


 その途端である。


 里緒の顔が急激に強張って行った。

 呆気に取られる俺の前には、あっと言う間に”鬼の形相”が出来あがっていた。


 まずい!

 俺は身の危険を感じるのであった・・・。


 <つづく>



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