まほまほ?
ついに彼女が言葉発してしまった。えっ?”まほまほ”って?
大学受験を2か月後に控える、俺”千乃工口”が学校からの帰宅の為に乗り込んだバスは、何の集会があったのか、いつになく老人達で超満員であった。
俺はひしめく老体を奥へと押しやり、やっとの思いでその超満員のバスの中に体を押し込むと、辛うじて乗車に成功を納めることが出来た。
だが、ホッとしたのも束の間、さらに俺の後から超満員のバスを目掛けて飛び込んで来た、濃紺の制服の奴がいた。
外を向いてバスに乗り込んだ俺は、なんとそいつと向い合わせで、全身が密着状態。
もちろん、その瞬間は、不快な気持ちに襲われたのであったが、そいつが発する芳しい香りから、俺はそいつが女子高生であることに気付いてしまった。(・・・ごちそうさま)
俺の心理的状況は一転し、俺は全身で幸運を勝ち取る喜びに震え、若き血潮が一点に収束するのを感じたのは当然のことである。
だが、そんな状態が長く続く訳もなく、微妙な距離が彼女との間に出来てしまったのだ。
俺はその隙間と欲望の狭間で心理戦を繰り広げていたのだったが、そこで新たな事象が勃発してしまったのだ。
バスの右折である。
それをきっかけに・・・、再び・・・。
☆★ 第 3 話 ♂ ☆★
★☆ ♀ まほまほ? ★☆
人に存在する相対する二つの心、正義と悪。道理と無理。真実と虚偽。常識と非常識・・・。
今、俺の心身は道徳と背徳の狭間で、部分的な偏りを見せていた。
だが、所詮、体は一繋がりであるのだ。
バスが右折する。
それにより、働いた遠心力が俺の体を彼女の方へと引き寄せていく。
ここで、俺の煩悩を彼女に触れさせる訳にはいかない。
俺は、道徳心に忠実な左手と両足に力を込め、彼女との距離を必死に保とうと頑張った。
だが、この手足に込めた力が、当然そこだけに収まる訳がない。
それに繋がる部位にも力が入ってしまうのは当たり前の話だ。
そうだ、握った拳の薬指を伸ばすと、小指も一緒に伸びてしまう様にである。
その力は、目の前の彼女と小康状態を保っていた、俺の最も背徳の部位にも力が入ってしまったのである。
18年と言う人生の経験値からは、気付いて然るべしなのだが、今はそんな冷静な状況でない。
やばい!
と思うが、バスはそのまま右折を続ける。
込めた力が、俺の全身に何とも言えない心地良さを与えて行く。
め、目覚めてしまう。
も、もう・・・だめだ。
走り出したこの現象は、理性が届く範囲のものではない。
ついに、俺の”僕”が”覚醒”の時を迎えた。
バスは、そのまま俺の状態を知ってか知らずか、容赦なく右折と言う大きな遠心力を乗客に与えて行った。
俺の後ろに居たご老体達は、それに同調して俺の背中に物凄い圧力を加えていく。
俺と彼女の距離が、次第に縮まっていく。
よし!
いや、違う、拙いだった・・・
ついに、願望が成就して、ではなかった。図らずも、俺は覚醒を始めた状態で彼女に惹きつけられる様に、再び全接触(密着)してしまった。
彼女の右足は、図らずも覚醒を迎えた俺の”僕”との押し相撲になる。
そして、俺の右足は彼女の間にすっぽりとジグソーパズルの様に吸い込まれていく。
覚醒をしてしまった”僕”は、小康状態の間に備蓄してしまっていた栄養によって、瞬時に50%の状態にまで成長を成し遂げていた。
そして、更に今の密着で出力は70%に達してしまった。
70%・・・、それは所謂 ”解・放!” である。
ついに、俺は1回目の能力解放の時を迎えたのである。
”解放”状態の俺は、同時に複数箇所の快楽も貪るマルチ機能が可能となり、瞬時に身体の隅々の神経の活躍が、俺の頭に伝達されていった。
最も刺激を吸収する解放された”僕”を初め、彼女の隙間に紛れ込んだ俺の右大腿部。それに、彼女の柔らか胸の膨らみも右胸に熱く伝わってきた。
ちょっと待て、これは、夢にまで見た三所攻めではないか。
んっ?違う一箇所は俺が攻められているのか。
この際そんな理屈はどうでもいい。
いかん!叫ばれてしまっても、しかたのない状況だ・・・。
背筋には熱い汗と冷たい汗が交差する。
まずい・・・。
拙いが、今の俺には”解放”を抑止するだけの要素が足りない・・・。
完全に彼女の魅惑に溺れてしまっている。
”僕”の”解放”が、彼女の右太腿へ過剰な圧力を加えている。
その感触が、反作用として手に取る様に伝わって来る。
そして、”僕”の支点が、その反作用の感触を当然の様に楽しんでいる。
”僕”よ、やめてくれ。それを俺の大脳に伝えてくるな。俺が完全支配されてしまう・・・。
事故とは言え、俺と彼女の間の相対性理論から言えば、俺からのアクションが原因と言うことになってしまうであろう。
この70%の状態を知られては、いつ叫ばれても弁解のしようがない。
いかん・・・!
このままでは・・・ただの好色高校生だ。
なす術が無い・・・。
俺は、ただ彼女のご好意を願うしかなかった。
だが、そんな状況下で、追い打ちを掛ける様な事件が、更に起こってしまったのである。
バスのブレーキと共に俺の右足が図らずも動いてしまったのである。
図らずも?
多分、図らずもだ
図らずもであってくれ・・・頼む。
・・・maybe
これは、非常にまずい!
し、しまった!痴漢扱いされてしまったら・・・
背中に冷たい汗が流れる。
俺の体の表裏の温度差は、恐らく耐熱住宅並の差違があるかもしれない。
心臓が、ドキドキと高鳴る。
もしかすると、この心音を彼女に感じられてしまっただろうか。
興奮と取られてしまったかもしれない・・・やばい。
今は、ただ、彼女の過剰な言動が無いことを祈るしかない。
俺は自分の未来を彼女の言動に乗せた・・・。
長い時間が祈り続けた様に感じられた。しかし、ほんの数秒であったかもしれない。
俺の願望に反して、ついに彼女が唇を動かしてしまったのだ。
まずい、うわぁぁぁ~!
俺は心の中で叫んだ。
一瞬にして、体全身が凍てついた。
密着バスと言う宇宙空間に”耐熱住宅”は無意味であった。
俺の未来の灯火が消えて行く。
だが、その瞬間、彼女の発した声は、囁く程度の小さいものだった。
「ま、まほまほ」
んっ?
今なんて言ったんだろう?
た、多分”まほまほ”?
何だ?
聞き間違いだろうか?
俺は耳を疑った。
少女は、先程よりも息を荒めて、頬を染めている。
んっ、これで終わりだろうか?
終わりであってくれ、頼む!
俺は心の中で彼女に手を合わせた。
通じたのだろうか?
俺は幸いにも、彼女に叫ばれる様な事態には陥らなかった。
良かった!
本当に良かった。しかし、先程の言葉は何だったのだろうか?
いや、何て言ったかなど、この際どうでもいいではないか。
そんなことよりも、良かった・・・。
ホント、本当に良かった!!
暗くなりかけた俺の未来が再び点灯を始め、安心した俺はもう一度脚を動かしてみたい衝動にかられた。
が、故意に行ってはいけない。
それだけは、絶対に行ってはならないのだ!
何を考えているのだ!
工口よ、今、安心したばかりではないか。
と、戒めながらも、バスよ・・・再び左折を・・・。
完全に、願っている俺がいる。全く懲りない・・・。
そんな、よこしまな俺の心を見透かしてか、前方の降り口が開き、数人の乗客が降りて行く。
今のブレーキは、バスが停止する為のものであった。
すっかり彼女に気を取られていた俺は、”降りますボタン”の音に全く気付いていなかった。
喉元を過ぎた俺は、すっかり落胆の気持ちに支配されていた。
気持ち的には、結構な人数が降りてしまった気がする。
失望の溜息が出そうになるのを、辛うじて飲み込んだ。
次に起こる事象は当然・・・決まっている。
バスの中は次第にゆとりが出来てしまった。
このまま向い合っている分にはいかない・・・。
俺の脳裏に客観的に移る映像が、俺にそう語りかけてくる。
出力70%の解放如きでは、俺を完全に支配等することは出来はしないのだ。
この映像は、僕の”解放”を抑える為の充分な、”抑制力”となった。
当然、俺は、倫理心溢れる好青年として離れるべきである。
そう、今までのことが不可抗力であるかのように。
ちょっと、待とう。
俺は何を言ってるんだ。不可抗力ではないか。至って俺は・・・。
多分・・・perhaps。
俺は、無念を噛み締めながら、彼女とのに距離を取ろうとしたのだが、安易に離れられない訳が別にあることに気付いた。
身体の表面が、通常のほぼ、なだらかな直線ではないのである。
例え、彼女の大腿部が”僕”の押し圧を感じていたとしても、彼女を直接の目撃者にする分にはいかないのだ!
どうする、工口!
なんて、未練がましい言い訳を考えている自分が、せつない。
簡単であるのだ。対策は一つである。
こんな時の基本である。
俺は止む無く体を離すや否や、鞄を前方中央部に当てると、彼女に横を向けた。
これだけのことだ。
背を向けなかったのは俺のみれんであることは、認めるしかない。
これ位は問題ないだろう。
今まで近すぎて良く見えなかったが、少し離れて見ると、彼女の顔立ちがはっきりと分った。
俺は、その映像をそれをインプットしていく。
これは、家に帰ってからのイマジネーションには大切なのだ。
横目で見た彼女は、大きな黒い瞳に、白い透きとおる様な肌、全体的には細面にも関らず、少しだけふっくらとした頬。
か、可愛い・・・。
つい先程までの出来事に、俺はうっすらピンクのエロの花を満開に咲かせてしまった。
先程までのドキュメントが走馬灯の様に蘇る。
離れたことが返って、記憶の美化により出力状態を上げてしまった。
自分の得たものの大きさに気がついてしまった。
もはや95%だ。
俺は、若干のエネルギーの垂れ流しに冷たい感触を覚えた。
余剰の栄養が出ているのだ。これは危険信号である。
これ以上の出力上昇は、二回目の解放を行ってしまう。
もし、”○○砲”の乱射と言う事態になれば、民間人への被害が出てしまう。
俺の今後もだいなしだ。
思考の制御をしなければ、バス内紛争にもなりかねない。
どうする、工口!
俺はそれに備える必要に迫られた。
<つづく>