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萬のエロはしその香り   作者: 工口郷(こうこうごう)
第2章 初演
29/73

ペアシート DE ビデオ観賞

工口くぐち里緒りおとAVビデオを観ることになった・・・。

 今、俺(千乃工口ちのくぐち)は自分の世界に戻りたいと言う、強かった気持ちが薄らいでいくのを感じている。

 もしかすると、AV界と言う異世界に惹き付けられているのかもしれない。


 それは、見知らぬ世界からやって来たこの俺を、温かく受け入れてくれる人達に出会ったこと、特に今、俺の横に座っている里緒(千逗里緒せんずりお)と出会ったことが大きいのだと思う。

 いや全てかもしれない。


 俺はこのまま元の世界に戻れなくても、いいかもしれない・・・。そう、思っている。


 ただし、条件がある。

 今、彼女が醸し出す湯上りの香りを、一生嗅ぐことが出来るのであればだ・・・。

 

★☆ 第 21 話 ★☆

☆★ ペアシート ☆★

★☆ ♀ DE ♀ ★☆

☆★ ビデオ観賞 ☆★


 先ほどご馳走になった晩御飯は、里緒が1時間以上もかけて作ってくれた稲荷寿司改め”金袋寿司”は、間違い無く俺のお袋と同じ味であった。


 稲荷寿司など、それ程味の違いなんて無いのかもしれない。だが、ひじきに、たけのこ、それに、ゴマの入った酢飯は間違いなく稲荷寿司ではない。お袋の”金袋寿司”である。


 偶然だろうか?

 それとも、俺の世界と、このAV界とは何かの繋がりがあるのだろうか? 


 つい5分程前までは凄く気になっていたのだが、それよりも今は、隣から漂うシャンプーの香りと、女性フェロモンと言う”魔性のエッセンス”との化学変化に酔い潰れそうである。


 と言うのは、俺は二夜連続で里緒の部屋にお邪魔すると言う、一大事件に恵まれたのである。

 決して昨夜の再放送ではない。今日は正式に里緒に招かれたのである。


 その事件は、30分程前から始まった・・・。


 食事を先に済ませた里緒は「お風呂に入る」と言って、店から家の中へと入って行ったのである。


 それから、暫くの間、俺と一持兄さんは談笑しながらの食事を楽しんでいたのであったが、今日の”AV大会”のビデオを見るということで、一持兄さんは慌てて店を引き上げてしまったのである。 


 店内に取り残された俺は、まさか、ずうずうしく”家の中に入ってもいいですか”とも聞けず、行き場の無い思考は店内の隅々を彷徨さまよっていた。


 そこに、千逗宅の店と自宅の境となる扉が開く。

 

 飛び出したのは、洗いざらしの髪にタオルをあてた意外とセクシーな幼顔。

 その人物、他でもない。女を一段上げた里緒であった。

 もちろん、里緒以外いないのだが・・・。


 里緒が開けた扉からは、気圧の違いでもあるのだろうか。店内に心地良い風が入り込み、それに乗って食べ物以外の美味しそうな香りが俺の鼻をくすぐった。

 食べ物であれば、直ぐにオーダーするところである。


 その香りの発信源は、


「お風呂に入っちゃって」

 そう一言いうと、扉を閉めて戻って行ってしまった。


 多分俺に言ったのだと思う。ここに来るまでの流れから言って、ほぼ、ほぼそれは間違いない。

 だが、昨日の今日である。勘違いはしたくはない・・・。


 そう思っていると、俺の微妙な間を察してくれたのだろうか、大人の気遣いが俺をヘルプしてくれた。

 

「だ、そうだよ」

 ご主人が、俺に合図をくれる。ご主人も里緒の言葉を待っていたのだろうか、苦笑いをしている。


「ありがとうございます」

 俺は今夜も千逗家のご厚意に預かることが正式に決まった。


 他人の家とはいえ、連泊となれば勝手も分っている。 

 俺は、お風呂場へ直行する、そこには昨日と同じようにタオルが用意されていた。


 今度、俺の為の物と自信を持って行動が出来る。

 経験値とは大きいものだ・・・。

 

 俺が遠慮なくお風呂を堪能していると、お風呂場に近づく足音が聞こえてきた。

 足音の持ち主は、二択だ。ご主人か、里緒だ。50%の確立で当たりである。

 ほぼ、足音の感じで想像がついている。


 俺は極力頭部ではマイナス思考でいるのであるが、どこかの部位にプラス思考の奴がいる。

 俺のハートはドキドキだ。


 すると、間もなく足音が止まった。恐らくお風呂の扉のもう一つ向こう、脱衣場の扉の向こうからだと思う。里緒の声がした。

 ちょっと、声の掛かる位置が遠い。


 「まさか、一緒にお風呂にとか・・・」と言う展開はこの時点で、ほぼ”あり得ない”。

 それはそうであろう。彼女は既にお風呂が済んでいるのだ。


 しかし、この展開に俺が肩を落としていると、別のあり得ないことが起こったのだ。


「お風呂から上がったら、私の部屋に来て!今日の大会のビデオ見たいでしょ」

 

 そう言い残すと、階段を駆け上がる物凄いダッシュ音が風呂の中まで響いて来た。 


 それに俺は、


「は、はい」

 一応小さく意志を返したが、聞こえてはいないだろう・・・。


 それからの俺の行動は、早かった。

 物凄い勢いで隅々まで綺麗に洗い上げると、お風呂場を飛び出した。

 そして、平常心を心がけて、流行る心とは裏腹にゆるりと階段を昇る。目指すは里緒の部屋である。

 今日は何の勘違いもない。俺はすんなりと里緒の部屋に入ることが出来た。


 と言うことで、俺は千逗里緒殿の部屋にお呼ばれすると言う、幸運な事件に巻き込まれたのである。



 俺の目の前のテーブルには、昨夜のいわくつきオレンジジュースが2本並んでいる。

 今日は里緒の用意したものである。もちろん昨夜とは違い2本共、俺が飲むわけでは無い。

 1本は里緒の為のものである。


 このジュースが2本並んでいると言う状況。

 その意味することろが何かは言うまでも無い。それが今の俺と里緒の位置関係である。


 そうなのだ。俺と里緒は、今、AVビデオを観る為のモニタを前にして、二人掛けシートに並んで座っているのである。


 昨日の彼女のルームウエアはジャージ姿であったのだが、今日はちょっと可愛い。

 それに露出も多いのだ。


 里緒の姿はまるで、”どらネコちゃん”なのである。

 上はパイル地の半袖のパーカーで、黄色と黒の縞々模様。小さな耳の付いたフードがとても愛らしい。そして、下は小さな尻尾にリボンが付いているショートパンツだ。

 脚丈が短くちょっと悪戯っぽくセクシーである。


 それに加え、しっとり感が残るこの世界には珍しい黒髪が、彼女が動く度に巨大な香りの渦を巻き起こす。


 俺はその度毎に吸い込まれそうになり、必死に肘掛を掴み耐えるのみだ。

 そんな俺の状態を知ってか知らずか、知らないのだろう。里緒は鼻歌交じりで楽しそうにモニタのリモコンをいじっている。


 そんな里緒を見ていると、撮影大会に進めなかったことの無念に、踏ん切りが付いた様にみえる。


 それであれば、それに越したことは無い。里緒の辛そうな顔は、俺も見たくは無い。

 いつも、こんな風に楽しそうで、好意的な里緒でいて欲しい。そう願う。


 しかし、こうも好意的であると、この関係を崩さないようにと守りに入ってしまうのが、”無難”が信条の俺である。 

 

 一応、自問自答してみる。


 失敗を恐れずに、それ以上の”あ~”とか、”こ~”とかを望む度胸がお前にはあるのか?

 いや、ある訳がない。


 強引と言う意味を知っているのか?

 聞いたことが無いぞ。


 お前は、彼女に触れたいのか?

 手でも構いません・・・。 


 俺はとにかく、”エロ念”を封印する事に勢力を注ごうではないか!

 そうだ! 最低限、楽しく一時を過ごせれば良いではないか。


 ただ、後は里緒から近づいて来るように念力だけは使ってみよう。

 頼みます。一時、俺に能力を下さい・・・。

 

 そんな雑念と戦ってい間に、


「ねえ、聞いてる?」

 知らない間に、里緒は俺に話し掛けていた様だ。


「ごめん、ちょっと考え事してて」

 必死に真面目な顔を創作してみたが。


「そうよね、異世界ってこの世界と違うんでしょ。大変よね」

 里緒が俺に労いの言葉を掛けてくれている。


「でも、みんな助けてくれるから」

 ちょっと言ってみたりした。

 もちろん、嘘ではない事実そう思ってはいる。


 それに、里緒の顔だけではない。露わになっている手足もピンク色に染まる。

 ピンクのウサギが”どらネコ”の気ぐるみを着ている。


 だめだ、可愛すぎる!


 里緒は赤い顔を無造作に俺に近づけて、


「まだ、カード持ってないでしょ。カードが無いと大会のビデオは見られないのよ。知ってた?」

 里緒はカードを俺に見せて来る。

 

 近い!吐息が俺に届きそうだ。

 よし、俺はちょとだけ口で息をしてみようと思う。

 しかし、気が小さい俺は、ばれない様に顔を直ぐにそらし、その辻褄合わせにパンツのポケットから、思いつきで


「カードって、これ?」

 俺は財布の中から、今日役場でもらった”AV界必需7つ道具”の中にあったキャッシュカードを取り出して里緒に見せた。

 因みに、既に契約金の殆どは、このキャッシュカードで預金済みである。


 だが、この取って付けた行動が、不幸にも大当たりであった。


「な~んだ、もう持ってたのね」

 里緒はがっかりした顔でそう言った。


 なに!ビデオを見るのも同じカードを使うのか?

 もしかして、部屋に呼んだのは俺がカードを持っていないからだったのだか?


 拙い。俺はこれで隣の部屋に戻らなければならないのか?

 何とかしなくては・・・。


 咄嗟に俺は、


「このカードって、どう使うの?」

 そう聞いていた。


 そうだ。いいぞ俺!

 この状況を継続するには疑問系だ! 

 事実、俺はまだ今日役場から貰った説明書を何も読んではいない。本当に知らないのは事実だ。後ろめたくは無い。


 すると、里緒は、


「そうよね、大会のビデオの見方は知らないわよね・・・」

 嬉しそうにそう言いながら、モニタの横に立てて置いているCS放送チューナの様な装置にカードを差し込んだ。


「うん・・・」

 頷いたが、昨日10年前のG1大会のビデオを隣の部屋で見た時は。特別な操作はいらなかったような気がするのだが・・・。


「私が教えてあげる・・・」

 因みにこの言葉の響きは大好きである。一から教えて欲しい。出来るならば・・・。


「・・・大会のビデオはね・・・」

 里緒は、詳しく説明をしてくれた。


 里緒の話では、3年以上前の大会でアップロードされた作品は”無料チャンネル”から、もちろん無料ダウンロードが可能とのことだ。但し、それはG1大会のみで、自由に大会の選択までは出来ないとのことだ。

 昨日は、恐らく10年前の大会をダウンロード出来たのだろうと思う。


 3年以内の大会でアップロードされた作品は有料で、チューナーに差し込んだカードから自動で引き落とされていくらしいのだ。

 課金方法は、一律10分毎に50ペンス。因みに、今日の「無差オープン大会」は30分撮影なので、最後まで見ると、150ペンスが自動で引き落とされることになる。

 さらに、出演者が”LIVEアップロード”を選択していると、その作品を視聴者は生放送を見れるのだが、それは10分で60ペンスと20%程割高なのだそうだ。


 因みに、今日は里緒のおごりだそうだ。


 なる程、聞いてみると俺の知らないことばかりである。里緒教えてくれて有難う・・・出来ればAV的なことも教えてくれないだろうか・・・。


 いかんエロ念は封印だったのだ・・・。


 まず、里緒はメニュー画面から今日の「無差オープン大会」を選択した。そして、 


「ジャンルは何にする?」

 そう聞いて来た。


 モニタには、あいうえお順で今日の作品のジャンルが並んでいる。


 1.アットホーム、2.うさぎ(バニー)と始まり、5.学園、6.看護、・・・26ベロベロべろんちょ・・・31.ヤンデレ、32.湯上りと並ぶ。


 リモコンを借りて一通りジャンルを確認したのだが、閃くジャンルが見つからない。

 個人的に覗いて観たいジャンルは結構あるのだが、今は里緒と二人である。

 おかしなものを選訳する訳にはいかない。


 女の子に無難な路線で、”恋愛”にしようと思ったのだが、奇妙な事に一番ありそうな”恋愛”と言うジャンルが見つからない。

 よく考えてみれば、全てが恋愛ものと言えないこともないので、敢えてジャンルがないのかもしれない。


 そこで、もう一度画面を戻して見直すと”柔軟体操”と言うのがあった。まだ、頭に馴染んでいなくて見逃してしまったようだ。ここは、無難に我が”柔軟体操部”に因むのが一番だ。


「やっぱ、柔軟体操かな」

 そう言ってみると、


「そ~よね。私も他のジャンルも参考に見るけど、やっぱり、柔軟体操部が一番好きよ」

 里緒の好みに合っていたようだ。

 良かった・・・。


 さらに、作品名、演者名(俳優名では無く、作品毎に付ける名前)、キーワード(作品の紹介文の中から文字検索)から1本の作品を選択するのであるが、ここから先は里緒に任せることにした。


 何も決めないのは”煮え切らない男”と思われるが、少なくてもジャンルは決めたので、後は勝手を知っている里緒に任せるのがベストである。俺はそう判断した。


 今回の大会でアップロード登録された作品は、無差別と言うことで数が多くいらしく、1,200本と言う数であった。

 そこから里緒が選んだのは、「体上開脚前転二分の一ひねり」である。


「あっ、これにしましょうよ。これ、何か凄そう!

 本当は、私が”お気に入り登録”している俳優さんが出てれば、工口くぐち君にも見て欲しかったんだけど、今回は出て無いの。”木林森きはやししん”って言う女優さんなんだけど、凄いのよ」


 一応、それに、


「へ~そうなんだ。今度教えてよ。見てみたいから」

 よし、次につながる良い回答だ。そう思いながらも、俺は固くなっていた。


 俺は初めて里緒から名前で呼ばれた気がするのだ。恐らく間違いない。

 名前を呼ばれて俺の諸々が固くなりだした。


 危険だ!リラックスしなければ・・・。

 酸素だ。酸素を補充しろ。如何、補充した酸素にたっぷりのフェロモンが・・・。


 しかし、これは二人の距離が可也接近したと言うことではないのか?

 今、ソファーの上で、30cmは開いている距離を5cm位詰めても大丈夫だろうか・・・。


 俺は何気なく里緒の方に”ずり足”ならぬ、”ずりケツ”で近づいてみた。

 これは念力だ。決して真の俺の行為では無い・・・。


 予定の5cmは近づいただろうか。里緒の脚に近づくにつれ、その無毛で小さい毛穴の御御脚おみあしが反射させる蛍光灯の光が俺の眼を眩ませる。

 目が、目が・・・。俺は目を閉じるが瞼の裏にも雑念が・・・。


 既にビデオ鑑賞は俺にとってどうでも良いのだが、大義名分はそこにある。

 それが無ければ今も無い。


 と言うことで、俺と里緒は、彼女が選んだ「体上開脚前転二分の一ひねり」と言うビデオを見ることになたのである。

  

 しかし、これは里緒の趣味なのか?

 そう思ったが、ここはAV界だ。俺の尺度は通用しない。


 間もなく、ビデオが静かに始まった。


 しかし、俺はビデオを見て30秒で絶句した。


 いきなり、そう来るか・・・。 


 <つづく>



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