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萬のエロはしその香り   作者: 工口郷(こうこうごう)
第2章 初演
21/73

第1位 柔軟体操部

”へ高”での部活を決めることになったのだが、何か妙な部ばかりなのである・・・。

 俺、千乃工口ちのくぐちが、うっかりAV界なる世界に来てしまって、今日で2日目である。


 今日は、朝早くから最大の支援者である一持握いちもつにぎる兄さんと異世界からの移転届を提出に役場に向ったのであった。


 心配していた手続きも無事に終えホッとひと安心した俺に待っていたのは、思いもよらぬ吉報であった。

 それは、なんとこの俺もこのAV界の高校に通えると言うのである。


 役場で紹介してくれた高校はAV科のある三校。

 そこから俺が選んだのは、AV界の名門”併性へノ路学園高等学校へいせいへのじがくえんこうとうがっこう、”通称”へ高”である。


 何もすることのない俺の足は、役場を出ると自然とその”へ高”に向っていた。


 そこで難なく”へ高”の校長と面会した俺が聞かされたのは、超特待生の俺には、特別に担任を選ばさせてくれると言うのだ。


 へ高AV科3年の担任は、マネキン(宝家たからいえ先生)、雛あられ(太棒たぼう先生)に、アルパカ(塩南しおな先生)の3人である。


 新たな世界での一歩を確実に自分のものにする為には、まず、この世界で初めて知り合った女子高生、千逗家の孫娘”千逗里緒”との関係の二の舞を踏まないことである。


 俺には、慎重なチョイスが要求されるのだ・・・。


★☆ 第 13 話 ★☆

☆★ ♂第1位♀ ☆★

★☆ 柔軟体操部 ★☆


 元は金色こんじきだったであろうメッキの剥がれたボタンが、取れかけてぶら下がっているヨレヨレの紺のブレザー。

 その中には、手洗いで糊の効いてないブラウスが縦じまの様に影を作る。

 そして、シワと折り目の境が定かでなくなってしまった白のギャザースカート。


 彼女はこの3点セットを何の気にも掛けずに着こなしている。


 こう言っては何だが、汚れてこそいないのだがこの世界に来て以来、彼女程身なりに気を使っていない人を見たことがない。


 それでもアルパカ、いや、塩南間子しおなまこ先生は唯一教師の中では現役で大会に参加するG2女優なのだ。

 ブレザーの襟には、金ピカの星2つのバッチが輝いている。


 俺の所属するクラスは3年アルパカ組に決まった。

 アルパカ組の担任は今俺の前をふわふわと進む、この塩南先生なのである。


 この塩南先生が担任を務めるクラスは、何と冗談抜きで、”アルパカ組”と言うのである。


 何故そんな名前であるかと言うと、クラスの名前は毎年受け持った担任の先生が付けることになっているらしいのだ。

 彼女は自分自身の見た目を知ってか知らずか、自ら”アルパカ組”と付けたと言うのだ。


 因みに、あと二つのクラスは俺の直感は見事に外れ、マネキン組と雛あられ組では無かった。


 宝家棒薔薇たからいえばーばら先生のクラスが”頂組いただきぐみ”で、太棒御先たぽうみさき先生のクラスが、”盛組もりぐみ”である。

 見た目と好みが違うどころか、意味が不明なところがAV界らしいところだ。


 この個性的な3人が受け持つAV科3クラス。

 この3クラスから、何故俺がこのアルパカ、いや塩南先生のクラスに決めたかを、そして、それが正解であったかを反省も含めて振り返って見るとする・・・。



 ・・・今回、俺は生まれて初めて女性からの取り合いと言う境遇に恵まれたのだ。

 と言っても、俺の持ち物が魅力的だからと言う訳では無い。


 それは、「謎の飛行少女スカウター”ラミア様”によって異世界からスカウトされた」と言う事実一点のみに魅力がある。と言うのは言うまでもない。


 この事が、何かの間違いと気づかれた時の対応を考えると、腹の調子が悪くなりそうなので、極力考えない様にしようと思う。


 ともあれ、今、目の前では俺の取り合いでは、宝家先生と太棒先生が火花を散らしているのだ。

 理由は何にせよ、今まで味わったことのない気持ちが俺を興奮させているのは事実である。


 何やらごそごそと二人が足を動かしているので、視線のみを動かして覗いてみると、見掛けに因らずテーブルの下でフリル一杯のスカートから陰険に足を出す太棒先生の攻撃を、これまた見掛けに因らず宝家先生が受身一方で、巧みに交わしているのだ。


 しかし、そんな攻防も何処吹く風。俺の向い側に座っている塩南先生はと言うと、相変わらずふわふわとした笑顔を校長室の空間に向って無意味に振り撒いている。


 そんな姿も当たり前の姿であるかの様に”へ校長”改め校長は気にもかけず、話を進めるのである。


「さて、それでは、工口君の所属ですが、まずは部活動から決めましょうか」

 まずは、クラスよりも先に俺の部活から決めると言うのだ。


 ・・・後で分ったことなのだが、何故ゆえ、部活が優先されるかと言うと、実際このAV科では授業よりも部活の方が重要らしいのである。

 意味まではわからないのだが、その影響は先生の配属にも関係しているとのことなのだ。


 まず、AV科の担任は部活の成績で決まると言うのである。

 そして、特に3年AV科の担任は部活のトップ3の顧問の先生が受け持つことに決まっているのである。


 このAV科3年生の担任を持つことは非常に名誉なことであり、校外に出た一般世間の間でもステータスの高さは認められているらしいのである。


 因みに、昨年の部活トップ3が、


 1位 柔軟体操部

 2位 マッサージ部

 3位 畳部


 なのだそうだ。


 流石はAV界である。訳の分からない部活が人気である。

 当然、俺の希望としては、出来ればこの3つは避けたいところである。


 だが、この3つこそが目の前の3人の受け持つ部活と言うことになるのだ。


 最初に校長から全部活の成績について紹介があったのだが、それを聞いただけでも、どの部も若干俺の世界とはずれている気がする。


 現在活動しているのは、次の通りである。


 体操部、シンクロ部、美術部、背景部、陸上部、水上部、科学部、百人一頭部、球技部、社会部、こたつ部、手芸部、指人形部、自動車部、看護部、寝技部、強くて丈部、ロックンロープ部、それに、畳部、マッサージ部、柔軟体操部の全21部である。


 この部の活動が、”AV撮影大会”に出ることを目的とした”AV科”にどの様に繋がるのかは意味不明なのだが、それはそう言うものとしてエロの郷、いやAV世界の郷に従う以外になさそうである。


 校長は、部活の一覧表を俺の前に差し出し、


工口くぐち君は、今まで何部に所属していたのですか?」

 と、聞いてきた。


 俺は元の世界では、2か月前まで陸上部に在籍していた。

 成績は平均的と余りパッとしなかったが、3年間の青春をそれなりにトラック競技に掛けて来た自負はある。


「一応、陸上部でした」

 控え目に応えてみた。


 陸上部は校長が見せてくれた部活の一覧表にもる。やはり、”走る”、”飛ぶ”、”投げる”はスポーツの基本なのだ。だが、


「えっ、陸上部に?!」


 太棒先生は大きな口を開けて驚いている。


 一見クールそうにな宝家先生の右手が膝の上から滑り落ちる。

 コケテいるのだろうか?


 何だろう、えらい驚かれ様である。

 そんな時も塩南先生は相変わらず微笑んで、いや、微かに苦笑いに変わっている気がする。


 そんな雰囲気を気に掛けてくれた校長が2つ程咳払いをすると、3人の先生も、”しまった”とばかりに表情を元に戻す。塩南先生だけは戻した気がするだけだが・・・。


「まあ、陸上部も我が校の立派な正式な部ですが・・・、陸上部は汚れるから、嫌う人も多いんだけど、工口君は気にならないんですか」

 校長が、そう言う。


 汚れる?

 確かに、雨に降られることもあれば、風で砂埃を被ることもある、しかし、毛嫌いする程汚れる訳では無いし、外で行うスポーツとしては、当然のことである。


「特に気になったことはありませんが・・・」


「まあ、外の・・・だから~しょうが無いと言えばしょうがないのですが、

 その~、工口くぐち君は土の上でどんなプレーをしていたのですか」


 校長の口ごもった言いずらそう言い方が妙であるが・・・。

 陸上部に可笑しな所はないはずだ。


「400mを専門にしていました」

 俺は事実を、普通に応えて見た。他に期待に沿える回答も見つからない。何を期待しているかも分らない。


「ほ~、一つのプレーを専門に・・・。それは、マニアックだー。

 で、”ヨンヒャクメートル”とはどんなプレーなのですか?」


 確かに、あまり好まれない競技ではある。が、ごく一般の競技である。異世界とは言え、陸上部があるのだ。知らないと言うのは解せない。

 しかし、本当にAV界には無いと言うことなのだろうか?


「どんなって、400mを走るのですが」

 これまた、普通に応えて見た。他に期待に沿える回答も見つからない。


「走って、どんなことをするんですか」


 ”どんなこと”とは?と聞かれても・・・。

 走るだけである。


「どんなことって、一所懸命走るんですけど・・・」


 何か、おかしい気がする。期待されていることと、回答にずれを感じてしまう・・・。


「走るだけ?」

 校長の頭の上には”?”の吹き出しが見えてくる様だ。


「走って、速さを競うのですけ・・・ど・・・」


「走って速さを競う・・・・それって、楽しいのですか?」


「走ること自体は楽しくは無いですが、充実感はありますけど・・・」


 何か怪しい。俺の言葉の語尾も自然とぼかすしかない。


「ほ~、充実感か。走るだけで・・・。ほ~、さすが異世界からスカウトされたことだけはある。観点が違う」


 そう、校長は首を傾げながらも一応持ち上げてはくれるのだが、無理がある。

 ・・・俺はその時、直感的に陸上部の話が拙い気がした。


「ですが、もっと人気の部はどうですか・・・」


 やはり、校長も陸上部から俺の気持ちを逸らそうとしている。

 そうだ、ここは、校長に話を合わせる方が得策だ。

 ・・・そう思った。


「・・・ねえ、太棒先生」

 

 校長のフリに、


「えぇー、えー。そ~です。我が畳部は、最近ぽよ~んと人気が出て来てますです。はい。きっと工口君も気に入ってくると」

 太棒先生が”畳部”を進める。どうやら、太棒先生は3位の”畳部”の顧問らしい。


 ここは、陸上部の話題から反れた方が良さそうである。

 このまま続けていると、間違ってスカウトされてしまったことがバレないとも限らない。


 仮に間違いでも、この非常に厚遇な対応はこのまま続けてもらいたいのだ。

 いや、もしかすると俺には本当に才能があるかもしれない・・・。この厚遇に値する人間かもしれないのだ。

 下手にここで評価を下げる必要はないのである。


 人間不思議なもので、ここまで持ち上げられると、そんな気になって来る。


「そ、そうですね。僕の世界では、陸上部が大人気だったのですが、せっかく違う世界に来たのですから、こちらの世界の人気の部に入ってみたいと思います。畳部について聞かせて頂けないでしょうか」


 この位言った方がいいだろう・・・。 


 すると校長は、まず、”へ高”ランク第3位の顧問、太棒先生に畳部の説明をするように促してくれた。

 この際、畳部でも良い気がしてきた。


 太棒先生の話を要訳すると、畳部とは1畳から20畳以上の畳を敷き詰めたスペースでどんなことが出来るかを創造する部の様なのだが、太棒先生の説明は抽象過ぎて今一具体的なことが分らない。

 しかし、ここは俺も大人になり理解した振りをして、大きく頷く。


 と言うよりも、聞き返したところで、理解出来るとは思えないのだ。


 そして、次は宝家先生の説明である。

 彼女の率いるマッサージ部は、活動はその名の通りなのだろうが、衣装からマッサージの体位までにこだわりを持つらしい。


 マッサージ部はこの世界で彼女が初めて部活動に取り入れたと言うことで、歴史はまだ4年目と非常に浅い。しかし、それにも関らず現在第2位の成績なのである。

 そのせいもあるのかどうか分らないが、華麗な見掛けで男っぽい口調の彼女も、部のことを語り出すと止まらない。説明は熱く長く、終わりが見えてこない。


 俺もさすがにこの説明には飽きてきたのだが、俺以上に我慢に弱い人がいた。


 向いに座っている塩南先生は、しきりに欠伸をしたり背骨を鳴らしたりで落ち着きがない。それを、横眼で宝家先生は睨むのだが、等の塩南先生は全くきにしていない。


 それどころか、業を煮やした塩南先生は俺に手を出すように促して来た。

 ただ、そんな目を向けて来ただけであるのだが・・・何故か、間違いなくそうだと言いきれる自信が俺にはある。


 かと言ってその眼は、相変わらず眠そうでおっとりとした目なのである。だが、俺に対しての強制力を持っている様に、何か”従わざるを得ない”と言うより、従いたい気持ちになっていく。


 俺は熱く語る宝家先生には申し訳なかったのだが、塩南先生のプレッサッシャーに負け、そっと効き手を塩南先生に差し出してしまった。

 

 俺の差し出す手にタイミングに合わせ、塩南先生もゆらゆらと両手を出す。

 そして、テーブル上で撫でる様に微かに触れる手は、何んとも云えない柔らかさと温かさが伝わって来る。その感触が俺の心臓を活発にさせる。


 その光景を雲に隠れていた太陽までもが覗くものだから、校長室は急にパッと明るく照らし出しされ、窓から入り込む陽光が彼女を眩しく包見込んだ。


 不思議にも、まるで彼女が世界の中心であるかの様に見えてくる・・・。


 彼女の差し出した手は、温かい陽光を反射させ、その眩しさが俺の目にしゃをかける。


 目の前に居る塩南先生の眠たそうな眼が妙に色っぽく感じる。

 そして、先ほどまでは服装で気付かなかったのだが、くびれたウエストからヒップに掛けての曲線、それに、座っていることからくっきりと分る、腰から太腿に掛けて描く円弧がたまらなく美味しそうに見えてくるのだ。

 さらに、彼女のバストの位置は重力に逆らい、俺好みに高い位置をキープしている。


 先程までの、地味な野暮ったさが嘘の様に輝いている。

 もちろん、俺の若き血潮は急激に一点に収束を初める。


 そして、目の前の彼女は俺の効き手に触れていた手を擽る様に滑らせた。


 駄目だ、俺の体は震えている!

 

 塩南先生は俺の目を見つめ、


「工口君は、柔軟体操部に入部で良いかしらん?」

 優しい言葉を俺ごときに掛けて来くれた。


 もちろん俺は、


「はい・・・」

 そう、応えた。


 ・・・その時、俺は純粋に塩南先生の部活で楽しみたい、いや頑張りたい。そんな気持ちになったのである・・・。


 <つづく>

 

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