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萬のエロはしその香り   作者: 工口郷(こうこうごう)
第1章 昇天
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攻防も筆を誤る

工口くぐちが乗った満員バスに飛び乗って来たのは・・・。

 匂いが違う!!


 その香りは、バスの扉が閉まると同時に、俺の嗅覚を刺激した。


        

☆★ ♂ 第 2 話 ♀ ☆★

★☆ 攻防も筆を誤る ★☆

 

 密室に漂う、シャンプーとフェロモンのコラボレーション。

 図らずも顔を埋めたくなるような芳しい香りの発信源が、俺の左肩に埋もれている。


 ちょっと待て!

 と、言うことは・・・?


 その瞬間、ドキ、ドキ、ドキ・・・・土器。


 俺のハートは急激に鼓動を増して行った。


 触覚の感度を上げなくてもその心地良さは、衣服を通して伝わってくる。

 

 当りが柔らかい・・・。


 体が吸い寄せられる様な未体験のフィット感の中にも、適度な歯ごたえのありそうな反発力。


 今、俺に密着、密着、密着、みっちゃく♫しているのは考えるまでもく、女性である。少なくても新半々《ニューハーフ》位であることは間違いない。

 俺の”僕=触手”が更なる密着を深めようと、前方上方に進路を向けようと、早々な決意表明を示しているのだから。


 一瞬の出来事で冷静に状況を理解出来なかった俺であったが、視覚、嗅覚、触覚からの正確な情報が、”触手”の反応に遅ればせながらも、次々に俺の頭脳にも集約されて行き、この出来事への歓喜度の分析を開始した。


 今、目の前に、いや目の下にへばり付いている黒い塊は、洗い呼吸を俺の胸に吐きかけている。

 身長は俺よりも20cm位低い152~3cm程度。

 濃紺の制服に、俺の脚に当たる感覚で行けば、かなり短めなスカートだ。

 それに、耳が隠れる程度の黒髪で、少し厚めのショートヘアー。

 使用しているシャンプーは、恐らく、3m離れても香りの虜にしてしまうと言う、某メーカーのフィットレスシャンプーに違いない。

 匂いフェチとしては当然の知識だ。


 もう既にお解りのことと思うが、どう捕らえても今、俺に密着している黒い塊は紛れもない、女子高生である。

 顔までは確認出来ないが、既に現時点で俺の必要十分条件は満たされている。

  

 充分な分析の済んだ俺は、”僕”に遅れること約5秒。流木に脳天を打たれた位の衝撃を受けた。


 これは、空想の世界か・・・


 健全な男子高校生であれば、夜な夜な、いや時々昼でさえも想像に溺れてしまう状況が、今、現実に起こっているのである。


 こんな時、もったいないことだが、ビギナーな俺には敏速に全ての感覚を味わえるような器用な真似が出来る訳がない。


 俺の神経系統が、まず最も刺激を有する一点に集中していくのは、自然の道理。

 神経の電位は粗間に食い込む柔肌に思わず集中発生し、若き血潮は”男の神秘”と言う法則に従い、収束を始めて行った。


 拙い!


 喜んでばかりはいられない事態が、急激に俺を襲って来た。

 俺の”僕”の決意表明は、何処かの政治家様とは違うのだ。


 ”僕”は瞬時に、表明の実行を開始し、急激に勢力をズボンの外へと向けようとしているであった。

  

 いくら栄養を急激にいただいたとはいえ、こんなところで事を起こしては拙いのだ。

 人として、彼女の柔肌を押し返す行為があってはならないのだ。


 そうだ、この状況は奇跡がもたらした”ごちそうさま現象”であって、決して、お互いの意志が通じ合った結果に起こった、同意による行為ではないのである。


 きっと、押し返した、つまり作用と反作用の均衡がくずれた時点で、違う力が働いていることがばれてしまうのは必至だ。

 最悪は”お叫び”を上げられてしまう可能性だってあるわけだ。


 俺の頭は幸いなことに、まだ冷静な判断が可能であったが、”僕”の頭の制御が思う様に行かない。

 ”僕”の頭は彼女を抱きしめて、思う存分押し返すことを望んでいるのだ。


 俺の二重構造に働く上下の頭脳が、今世紀最大に葛藤していた。

 内乱である。


 工口くぐちよ、どうする!

 叫ばれる行為を回避しつつも、悦楽の継続を得るにはどうすればいいんだ・・・。


 いや、ちょっと待て。


 この状況は俺が選んだのではない。行きがかり上、止むを得なかったんだ。彼女が自ら選んだ体制なのだ。


 至って俺は何もしていない。神にだって誓える。


 今だって、彼女はこの状態を変えようと何一つ体を動かそうとはしていないではないか。

 扉が閉まった今は、彼女の後ろには支えがある。強引にでも足を抜いてしまうことは可能なはずだ。


 今俺にとって大切なことは何だ?


 的確な行動を選択するのだ。良く考えろ工口くぐち


 俺はなにひとつとして、自分の意思でこの状況を手に入れた、いや、陥った訳ではない。後ろめたいことは何もしていないんだ。


 考えろ!

 いやいや、俺よりも先に”僕”の頭が答えを出している。

 重んずるのは”この状況の継続だ!”


 行動を選択する必要はない。行動をしないことだ。

 とにかく俺は自ら動かず、僕も押し返さず。平然と立っていればいいんだ。いや、立ってはならない。


 平然?


 工口くぐちよ、お前にそれが出来るのか・・・?


 ここで、出来ずして・・・ 


 と決意しようとしたのも束の間、それは、やりばのない余計な思考に終わってしまった。

 何と、俺を周囲を取り巻いていたご老体のアシスト、いや押し圧が緩み、若干の隙間が出来てしまったのだ。


 ここで、このまま密着していることの不自然さは、俺の脳裏の監視カメラが客観的に移し出している。

 

 俺はその不本意にも出来てしまった隙間を、前後に均等になるように自分の位置をとった。

 その上、鞄を持っていない自由になった左手を彼女が持たれているバスの扉につき、彼女との間隔を保持する行為で、我が身の安全さをアピールしてしまった。


 これが、道徳心溢れる青少年に身に付いている、一連の流れの動作である。


 残念だが、これが人として取るべき姿なのである。


 儚い夢であった・・・。


 良く考えると、俺は周りのお婆さんとも密着していたことになるのだ。

 だが、だから、どうのと語ることは、文字数の関係で差し控えたい。


 ただ、彼女との間に僅かに出来たその隙間は、物理的以上に、心理的には一歩も二歩も後退した状態であったのだが、その後、かえって俺の心を強く刺激していくことになって行った。


 バス外では、行き交う人々が晩秋の寒空に、肩に力を入れて歩いている。

 それに比べこの俺は、今、いただいた栄養を持て余すかの様に体の芯から火照っている。

 これだけでも幸せと感じざるを得まい。

 

 そう、自分を納得させながら、扉に付いている左手に力を込める。

 何か、この姿勢は反省ザルの様?にも見える。


 ちょっと待て、反省する様なことは至っていない・・はずだ。


 この時、過剰な程に滑らかな舗装道路上を安定走行していたバスが、車線変更を行った。


 それに伴いバスが揺れ、俺のズボンの布地と彼女のスカートの布地の衣擦れが起こる。

 さらに、右折。


 この程度の触れではあるが、一旦、大人しくなった神経を意外にも逆撫でる。

 俺の若き血潮が到る所で眠りから覚め始めた。


 さらに、初めは、余りに意識が下部に偏っていた為、重視していなかったのだが、柔らかさを感じた一番の要因が、今一番俺との距離が近い。


 バスの右折は彼女を俺に近づけ、胸が制服越しとは言え、俺の胸にその柔らかい肉感を掠める様にお披露させた。

 

 いかん、この程度のことで・・・。


 と思うのだが、意識すればするほど、微妙な衣ずれと微かな肉感が”僕”に不可解な刺激を与えてくる。


 俺は変態だろうか?


 いや、そんなことはないはずだ。この18年誰からも指摘されたことはない。

 想像力大勢なだけだ。


 彼女の髪が、頬を撫でる。芳しい・・・。

 衣擦れが・・・。

 そして、胸が・・・。

 

 だめ、だめだ!

 静まれ、俺の若き血潮よ!


 工口くぐちよ、力を抜くのだ。局部的に距離を縮めてしまうではないか。

 リラックスしろ。現況を悟られてはならぬのだ。


 恐らくは、俺と彼女の現況は、上から下まで距離にしてアベレージで30mm程度であろうか。

 俺の触覚はそう判断した。


 自分との戦い、”僕”の小康状態。

 30mmの攻防がバスの中で続けられる。


 俺は不本意にも左手で、彼女との接触を妨げようとする。 


 だが、その後細い道に入ったバスは、揺れる、曲がる、止まる、ひねる。捻りはしない。

 戦いはいつ再発してもおかしくないのだ。


 俺は必死に姿勢を整えていたが、この姿勢に疲れた俺は、僕からの神経伝達も相まって、新たな思考を巡らした。


 ちょっと待て、ここまで拒絶したかのような頑張りが必要なのだろうか?


 もしも、もしも相手が男だったらここまで踏ん張るだろうか?


 いや、そんなことはない。はずだ。


 であれば、そこまでは・・・。


 このちょっとの心の迷いが、約30ミリの静かな攻防を埋めて余りがあった。


 ムニュ。

 あからさまの感覚。


 いかん・・・手の力を緩めてしまった!


 彼女に叫ばれたら! どうしよう・・・。


 一瞬の恐怖が俺を襲ったが、彼女は何も行動を起こさなかった。


 良かった~。

 俺は心の中で叫んだ。


 色んな汗が背中をミックスする。


 俺は慌てて、疲れた左手で距離の確保に努めると、再びの小康状態が続いた。


 これでいいんだ、これで・・・。

 俺は自分に言い聞かせる。

 

 ところがだ。

 大きな事件が起こってしまった。バスが右折したのである。これは大事件だ。


 遠心力と言う慣性の力が働き、その瞬間、俺が世間体で扉に付いていた左手では、到底支えきれない大きなパワーが、俺の後ろのご老体から与えられてしまった。


 <つづく>

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