”へ高”へ歩行
AV界は役場も楽しい処。
俺、千乃工口がAV界なる世界に来て、今日で2日目。
この世界、ネーミングからして妙な世界なのだが、その仕組みも妙である。
黙って座っていても何かが起こる。そんな世界だ。
もちろん、初日から盛り沢山の出来事が俺を待っていたのだったが、それも何とか消化することが出来た。と思う。
そして、二日目。
今日も穏やかな時間が淡々と過ぎていくとは、とっても思えない。
既に、それなりに事は起こっているのである。
この後どうなるのかは全く予想がつかない。
こうなれば、後はナスがままに・・・。
★☆ 第 11 話 ★☆
☆★ ”へ高”へ ☆★
★☆ ♂ 歩 行 ♀ ★☆
なんだ?
何か拙いのか?
やっぱりか!
時折、住民課のお役人二人が俺の顔に視線向けてくる。
その目が冷ややかで、その度毎に俺の体は、冷や汗の気化熱で冷たくなって行く。
やはり、”まほまほ”は”スカウト届書”を出していないのではないのだろうか?
いや、その前に”まほまほ”自体が怪しい。あやし過ぎる!
俺はこのまま不審者で捕まってしまうのではないのか?
つま先まで冷たくなっている俺の御御足は、靴下に苔が生えそうな位に適度に湿っている。
冷や汗とは、足の裏からも出るものなのか・・・。
いかん!またしても・・・思考が逃げてしまった。
この思考の逃避愚は直さなければ。
感心している場合ではないのだ。
次の一手が俺のこの先を大きく左右するかもしれないのだ。
逃げようか?
それとも戦うか?
俺のミラクルビームは、まだ未完成だぞ・・・。
そ、その前に・・・、は、腹の調子が悪い。きっと、緊張のせいだ。
ここに来た時から様子がおかしかったのだ。
俺は子供の頃からそうだ。良きにすれ、悪しきにせれここ一番と言う時になると、穴門が広く世間に開放しようとする。便秘の時以外に良きことはないか・・・。
だめだ・・・。
この状況では何の手も打てない。
世界は違えど、世の中で何より優先するのがこの便意からの腹痛の解決だ・・・。
それを止められるのは、勇者や魔王、それに精霊にだって不可能に違いない。
先ずは戦いの前にトイレで腹痛を戒めるしのが定石と言うものだ・・・。
俺は当然それに従うことにした。
「一持さん、ちょっとお腹の調子が悪いので、トイレに行って来ます。呼ばれたらお願いします」
俺が危機的状況を悟られまいと、極力平静を装ってそう言うと、俺の緊張とは裏腹に兄さんはニタニタと笑いながら、
「昨日つまみ食いしたんじゃないだろうね」
意味深なジョークを飛ばしてくる。
いや、本当にジョークだろうか?
もしかして、本音ではないだろうか?
昨日摘み食いをしていたら、本当にお腹を壊したのではないか?
壊してもおかしくない気もする。何せ、あの千逗里緒なのだから・・・。
どっちにしても、俺の運命はここで腹痛に悩むということになっているのだろう。
と言うか、冷静に分析している場合では無い。
俺はおもいっきり、穴門から空気を吸うかの様に、大腸出口最端で真空を作り、トイレに一時撤退を余儀なくする。きっと顔面蒼白に違いない。
余裕は無かったのだが、トイレの扉を開ける前に俺の慣性の法則が働いた。
俺独自の自然の法則では、無意識に気になっていた方に力が流れるのだ。
俺の首は自然と、住民課窓口の方に向きを変えて行く。
「あれ?」
一持兄さんが、窓口の中に入って窓口の女性の肩を抱いている様に見える?
まさか、役場で軟派か?
それとも、見間違いだろうか?
少しだけ偉そうな中年の男性が、少しも偉そうに見えなかったのも気のせいだろうか?
そう思いながらも腰から下に急かされ、俺はそのまま個室に入り用を足す。
足しながらも、もう5秒見ておくのだったと悔やまれる。
しかし、この5秒が微妙であることは言うまでもない。
間に合わなかった時のことを考える・・・のは止そう。
俺の内部的事情は、パステルアイボリー色(色番:#SC1)の陶器への容赦のない開放により一気に解決へと進み、今まで冷汗いを掻いていた外部的事情も何処へやら。
気分爽快にトイレから出てみると、一持兄さんは窓口の外で、頭を下げながらお歳暮程の白い箱を一つ受け取っている。
そうだった。思い出した。一持兄さんの不思議な行動・・・。
しかし、先ほどの奇妙な光景は腹痛からくる幻覚だったのかもしれない。
先程の光景と今の光景が繋がらない。
そうだ!どう考えても、勤務中の役人相手に軟派など行うはずがない。
そんな非常識な訳がない。
一持兄さんは、窓口の外で受付の女性に礼儀正しく接している。
中年の男性も黙々と書類を片付けている。
「やっぱり、気のせいか・・・」
そう思いながら窓口に近づくと、窓口の女性に違和感を覚える。
トイレに行く前まで不振そうに見開いていた目つきが、今では半分の細さになっている。
その細さは、絹の様に優しい。
そうだ、もう一つあったのだ。重大な問題が・・・。
そういえば、俺の腹痛は住民課からのプレッシャーだったのだ。
俺は目の前に迫らんとるす、有事のに対する対策中だったのだ。
俺はこの状況が正確に読めず、“半分マン”となり、どっちつかずの顔をしていると、一持兄さんが俺に微笑みながら俺にお歳暮の様な白い箱を渡して来た。
「手続きが終わったよ」
何事も無かったかの如く当然の面持ちだ。
そんな、落ち着いて言い放てるような雰囲気では無かった気がするのだが、これも俺の気のせいだったのだろうか?
若干の疑問もあるのだが、無事に越したことはない。俺はその箱を丁重に受け取った。
箱の蓋にはのし紙の様な紙が添えられている。
俺はその文字に軽く驚き、思わずそこに書かれた文字を音読してしまった。
「”贈呈 AV界必需7つ道具”・・・?」 なんだこれは・・・。
この不思議な白箱に対する疑問には、窓口の住民課の女性がとても親しげに説明をしてくれた。
因みに中に入っていたものは、
1:「身分証明書」 俳優名を決めて、3cm×4cmの写真と合わせて役場まで持ってくる様に言われた。
2:「首から掛ける名詞ホルダー」、千逗里緒が昨日、”お願いいます”で首から掛けていたものと同じである。
3:「スマートフォンのような携帯電話」、一持兄さんの持っていたものと色違いだ。
4:「キャッシュカードのようなもの」、契約金を銀行で入金すようにとのことだ。
5:アパートの鍵の引換券、3日後に鍵を取りに来るようにとのことだ。それまでは、ホテル住まいになる。
6:「AVの書」日常必要なことが書かれているハンドブックだ。
それに、
7:そこそこの厚みのある2冊の本”生活の心得”と”JRAV会大会規約”だ。 これは熟読する様に言われた。
この贈呈された”AV界必需7つ道具”の他にも色々と聞かされたが、一つを除くと大したことでなかった。様な気がする。
どちらにしても後で2冊の本を読めば分ることだ。
その一つとは・・・。
なんと、俺が希望すればこの世界、AV界の高校に通えると言うことだ。
住民課の彼女によると、この世界は9月から新学期が始まるらしい。
と言うことは、この世界も今は11月らしいので、この世界で受験をしない俺は、この世界の高校3年生をほとんどフルに楽しめることになる。
いやいや、誤解のないように。
決して、元の世界に戻ることを諦めた訳ではない。
その為にも勉強はしておくべきなのだ。
何れにせよ、この世界の高校には通うべきである。
正直言うと、ちょっとドキドキである。
それは、余り同年代の人は見掛けないのだが、見かけた女性全てのクオリティーが高いのだ。
しかし、あくまで目的は勉学だ。
彼女の話では、高校は次の3校から選択が出来るとのことだ。
AV科のある高校は、この27部では3校だというのだ。スカウトされた身とそては、AV科に通うのが当然のことらしい。
紹介されたのは、「腹部下皮高等学校(通称:皮高)」。それに、「精オイスター第一高等学校(通称:SOD校)」。何か聞いたことがある気がする。
そして、最後に紹介されたのが「併性へノ路学園高等学校(通称:へ高)」。”へ高”?
以上の3校である。
どの高校も妙な名前ばかりであるが、簡単に学校紹介を聞いて俺は迷わず”へ高”に決めた。
決め手は、5年前まで女子高だったと言うことである。
当然の決定であろうかと思う。
そんなこんなで無事手続きを終え、俺はこのAV界に来て初めての”夢”を抱き役場を退場することとなった。ああ、そう言えば余り思い出したくはないが、昨夜”悪夢”ならばあったが・・・。
帰り際に、
「分らないことがあったら、いつでもいらっしゃいねん〜」
と甘い言葉を掛けられてしまった。
明らかにここに来とは違う対応。
これもスカウトされた人間への待遇と言うものだろうか?
対応が良いと、俺の見方も変わってくる。
人間容姿だけでは無いことが良く分ると思うのだが、良く見ると彼女は、流石AV界と言わざるを得ない容姿であった。
一見お堅く見えるべっ甲のクロブチメガネにアンバランスな、腰のくびれ。
そして、ヒップへと流れる曲線が柔らかく万人に語りかける。
心なしか住民課の彼女の喋りの間に漏れる吐息が、妙に色っぽく感じる。
人間、心の余裕は大切である。見逃すところであった。
反射的に、俺はその息を僅かでも吸い込もうと、深呼吸をしたのだが、少しか補給出来ただろうか。
この時俺は、”メガネっ子”がナンボのものか始めて知った。
そう言えば、AV撮影で業績を残すと世界を動かすことが出来ると、一持兄さん言っていたが、役場の職員もきっとそれなりの成績を修めた人たちなかもしれない。
視野を広く取れる余裕のある今であれば良く分る。みんな粒が揃っている。
AV界、楽しい処かもしれない!
何だかんだとあったが、俺は次回役場に来ることも楽しみとなり、目一杯両手を振る住民課のお姉たまにも好意的に手を振ることが出来、役場を後にしたのだった。
その後、俺は一持兄さんと別れ、真直ぐに帰ろうと思ったのだが、この世界の俺には帰る先が無かった。
何気なく歩いていると、俺は自然に”併性へノ路学園高等学校”通称”へ高”へと向っていたのだ。
40~50分は歩いていたと思う。
そして今、校長室のソファーに座っているのだが・・・。
<つづく>
なかなか話が進みませんが、頑張って書きます。