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萬のエロはしその香り   作者: 工口郷(こうこうごう)
第2章 初演
16/73

糠(ナイ)喜び↗

千逗里緒せんずりおとの関係も修復してきた。

よし!

 俺、千乃工口ちのくぐちは、大学受験を間近に迎えた高校三年生。


 最近、俺の頭の中には大脳をも凌ぐ、煩悩と言う名の脳(悩)みそが何処かで育っているらしいのだ。


 と言うのも、俺の座右の銘「無難な人生」を掲げた俺の大脳が、呆気なく煩悩によって支配されてしまうことが多いのだ。

 あげくの果てに、ついに今日”AV界”と言う世界に身を置くはめになってしまったのである。


 さらに、このAV界とは一般に言う単なるアダルトビデオ界と言う”AV業界”ではなく、”AV界”言う名前の本物の異世界であったのだ。


 さあ大変だ!俺の希望に満ちた将来が窮地に追い込まれてしまった。それも目先のだ。


 だが、そこでこの俺に救いの手を差し伸べる人物がいた。

 救世主、一持握いちもつにぎると言う焼き芋屋の兄様である。


 彼はこの俺に、絶品美味の”焼き芋”と、有り難い”AV界のお導き”を与てくれ、更に今夜の宿までも紹介してくれたのである。


 お陰で、俺は何とかこの世界でやって行けそうな希望を感じるに至った。


 だが、慣れない世界だ。

 これから何が待ち受けているかわからない。


 まずは、慎重に行動する事を心がけよう・・・。


★☆  第 8 話  ★☆

☆★ 糠[ナイ]♂ ☆★

★☆  ♀喜び↗   ★☆


「この世界の人達も湯船に浸かるんだ・・・」


 千逗里緒に案内された、千逗家のお風呂は、0.75坪タイプのユニットバスだ。


 我が家のお風呂と同じ大きさであれば、色も形も良く似ている。

 家は古いが風呂は新しい。


「改築したんだ・・・」


 何て思っていると、3年前の我が家の水回りの改装を思い出す。

 ここ数年の千乃家の一番のイベントであった。


「お袋、心配してるだろうな~。少毛しょうも、勝手に俺の部屋の中いじってないだろうな・・・」

 (因みに、少毛とは中学1年生の妹である)


 こんな時、親父に対して何の気持ちも出て来ないのは、俺だけではないだろう。


「親父って、寂しいもんだなぁ・・・」

 そう思う。

 

 しかし、こんなノスタルジックな思考も直ぐに吹き飛んだ。

 もし、彼女達二人に部屋に入られたなら、いや確実に入るはずだ。部屋から俺が出て来ないのだから。


 その時、”イベント”の途中で残して来てしまった”無実のティシュー”に対する彼女達の反応を考えると、俺に家に戻る勇気が湧いて来ない。

 即座のいい訳すらしようがないのだ。


 そんな気持ちが返って、この場所で生きて行く力となるのは皮肉なものだ。

 

「よし、当面はここで生きて行こう!」


 これも、逃避の一つかもしれない。

 だが、発生源は何であれ、これも生きて行く為には必要な合理的思考である。


 それにしても、生きて行く為には、まずは”あの大会”に出場して安定した生活をしなければならない。

 収入が必要なのだ。


 そうか!

 ここに来て、やっと親父の存在意義が分っ来た気がする。親父のありがたみが・・・。

 

 とにかく、全ては明日、一持いちもつ兄さんと役場に行って、この世界で生活する手続きをしてからである。


 俺はこの世界のスカウターと言う存在、”まほまほ”によって、スカウトされたのだ。

 と、言うことは俺は学校で言えば特待生みたいなもので、プロ野球で言えば助っ人外国人みたいなものである。


「凄い待遇が待っているのだろうか・・・?」


 いや、止めよう。

 期待に裏切られた時の落ち込みが大きいだけだ。

 それ以前に”まほまほ”が、滞りなく手続きをしたのかが心配である。


 取り敢えず今は、明日、無事手続きが住むことだけを祈ろう。


 それさえ済めば、少なくても契約金はあるんだ。当面は何とかなる。その間に、大会に出てお金を稼ぐ方法を研究すればいいんだ!


 俺はなんと言っても助っ人外国人なんだ!

 きっといい仕事が出来るに違いない!


 俺は”まほまほ”を早く見つけ、契約金を変換して元の世界に戻ろうと思っていた気持ちから、可也気持ちが大きく成って来ている。

 これも合理的思考の影響かもしれない。それに、千逗里緒の態度の変わり様だ。


 それとも俺の若さだろうか?


 大きな不安に対して結論が出てしまうと、ぽっかりと無思考の空間が出来てしまう。

 すると、そこに第三にして今や俺の体内で一番能力の高い煩悩と言う脳(悩)が活発にその空間を埋めようと進出を始めて来た。


 そうだ! 明日への結論が「出ても」、本日未だ「出ていない」”もの”があるのだ。


 その要求(欲求)が、湧水の様に下から湧き上がって来るのである。


 そうなのだ。今日の収支が合っていない。

 沢山のモノを得たにも関わらず、全く利用が出来ていない。今や俺の”うんたら袋”は億マン長者である。


 始まりは”まほまほ”の肉体的感触。

 そして、直近で言えば、あの、俺の心を掴んで放さない千逗里緒の香りと、頬に触れた時の彼女の髪の感触。


 それらが、エナジーとなって俺の中でたっぷりと貯蓄されているのである。そして、今や高利率で運用されている。

 このまま放っておいて、俺の愛すべき道徳的行動が取れるのか?


「そうだろう?」


 俺がこうべを下げると、しもではこうべを上げている。

 もしかすると”悩ミソ”が詰まっている頭は・・・なのかもしれない。



 暫し俺は、風呂から上がることを躊躇い、生まれたままの姿で思考を廻らせてみる。


 ここは他人の家だ。だが、この0.75坪の空間は何なのだ?

 俺はまっではないか。

 と言うことは完全なるプライベート空間とは違うのか?

 

 そうだ、お風呂とトイレの個室は完全なプライベート空間なのだ。

 他人の家にも関わらず、あらぬものを出すことが出来るのだ。


 と言うことはだ。ここで事を起こしても問題がないのではないのだろうか?


 道徳に反することはなのでは無いか?  


 しかもだ。ここであれば、紙屑一つ残さないで済むのだ。

 何せ、あの排水口に全て流れ去ってしまうのである。完璧だ!


 するか、しないか?

 やるか、やらないか?

やったら、すっきりするぞ!

 

 でも、やったら、流れるぞ?


 俺の俯く視線の先”煩悩くん”のその先には、暗い排水口が見える。


「こ、ここに流して、人として正しい道なのか・・・」


 そうだ。こんな暗い所に一瞬の、”かげろう”よりも儚い生(精)を流してしまって、本当にいいのだろうか。

 儚い人生とは言え、俺の”半息子”たちだ。娘かもしれない。


 空しい、何か空しく感じられる。


 そうだ。きっと、すっきりしないに違いない。

 俺は、俺は・・・。

 

 端的に言って、俺は内面から溢れるパワーもそのままに浴室から出てきた。


 それなのに、何故か清々しい。

 心地良い気持ちに包まれる。


 森の”朝の目覚め”と言うのだろうか。

 浴室の湿気を含んだ空気が”森の吐息”に感じられ、脱衣場の照明が”木漏れ日”の様に俺の体を優しく包み込む。

  

 俺は人として正しい事をした喜びに満足しながら、着替えを始めていた。


 すると、その時を待っていたかの様に、タイミング良く声がした。


 俺に語りかけて来たその声は、50%の確率と高確率であるにも関らず、期待に反して、この家のご主人の声だった。

 脱衣場の扉の向こうで足音がする。


 言い方が悪かったが、誤解しないでほしい。

 期待はしていなかったが、心から”有り難く”思っている。本当だ!


「お風呂から上ったかい?」

 ご主人の声は温かい。


「あっ、はい。今、出ました」

 そう答えながらもご主人の温かい声を聞くと、しつこいが本当に浴室を”森”に例えることが出来て良かったと思う。


「飲み物を置いとくから、部屋で飲むといいよ」

 そう、温かいおもてなしの言葉をくれた。


 そして、独り言の様に、

「おやっ里緒も工口くぐち君に刺激されて、やってるな・・・」

 そう、満足そうに囁くと足音が去っていく。


 俺は取り敢えず、

「ありがとうございます」

 ご主人に聞こえる様に、爽やかに少し大きめの声を出した。


 それにしても、ご主人の言った”刺激”に”やってる”と、言う二語がちょっと気になるところではある。


 脱衣場を出ると、オレンジジュース色をした、小瓶が2本置いてある。

 多分、この世界にもオレンジジュースがあるのだろう。何せ、焼き芋がある位だから。


 しかし、2本?

 ちょっと、不思議な数だ。気前がいいだけだろうか?


 そう思っていると、

「ハァー、ハァー、ンッ、クッ、ハァー、ハァー・・・」

 今度は2階から声がする。

 声と言うよりも。荒い息遣いだ。


 そして、ご主人の言うとおり、ドタバタと言う震動が2階から伝わってくる。


「何をしてるんだろう?」

 

 そう言えば、確か俺をお風呂場に案内する時に、確か、これから自主練をするとか言っていた。


「これが自主練の音なのか?」


 その時は気にしなかったが、そもそも、自主練って何の練習何だろうか?


 まあ、確かに彼女の絞まった身体であれば、学校の体育系の部活に所属しているのは間違いなさそうだ。

 筋トレでもしているのかもしれない。

 

「そうか、このジュースを一本持って行ってくれと言うことか・・・」


 それで、やっと俺にもご主人の気持ちが理解出来た。

 つまり、ご主人は遠まわしに、孫の”千逗里緒”と仲良くやってくれと言っているのだ。

 きっと、ご主人の心遣いなのだ。


 そうと分かれば、俺も彼女の自主練にも興味がある。

 本当は自主練はどうでもいいのだが・・・。


 きっと、風呂上りの寝巻き姿と言うすべすべ感溢れる姿で、いや、既に薄っすらと汗をかいているかもしれない。


 が、どちらでも俺には問題ない。


 ついに、俺にも来るべき時が来たのかもしれない・・・。

 ここに来て、彼女と俺の関係はかなり接近を始めてるのだ。


 俺は2本のジュースと、”ドキドキ、ワクワク”を持って2階への階段を上り始めた。


<つづく>

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