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萬のエロはしその香り   作者: 工口郷(こうこうごう)
第2章 初演
15/73

空を斬る夢花

千乃工口ちのくぐちのAV界初日の締めは、千逗里緒の家での宿泊となった。

 俺、千乃工口ちのくぐちは、大学受験を間近に迎えた高校三年生。


 今日、俺の前に突然AV界からやって来たと言う”ラミア”(今、俺は”まほまほ”と呼んでいる)と名乗る女の子が現れたのである。

 そして、俺はまんまとその子に淡い男心をもてあそばれてしまい、半同意の元に誘拐されてしまった。


 彼女の誘拐目的は、この俺をAV界に就職させることであった。


 俺はてっきり、一般に言う単なるアダルトビデオ界と言う”AV業界”だと思っていたのだが、彼女の言うAV界とは、”AV界”言う名前の”異世界”であった。

 

 あっさりとAV界に連れて行かれ、一人戸惑う俺を救ってくれたのは、一持握いちもつにぎると言う超美形の焼き芋屋の男性であった。

 そして、彼のお陰でこの俺も何とかこのAV界でやっていけそうな雰囲気になりつつあった。


 まずはちょっとしたトラブルのあった、一夜の宿をお世話になりそうな”G3食道ジーサンショクドウ”。その娘、”千逗里緒せんずりお”とは、穏便に行きたいものである。


 それでは本編へ・・・。


★☆  第 7 話  ★☆

☆★  空を斬る♂ ☆★

★☆  ♀夢 花  ☆★


 結局俺は”G3食道”の二階、千逗里緒の隣の部屋で、今宵一晩お世話になることになってしまった。


 見知らぬ世界のホテルと言う宿泊施設に一人泊まることも緊張するのだが、幾ら人が良いご主人様とはいえ、孫娘の千逗里緒との経緯いきさつが経緯なだけに、彼女の隣の部屋に泊まることだけは出来れば避けた方が良いような気がした。


 しかし、一方ならぬお世話になった一持兄さんの勧めを無視する訳にはいかない。


 それに、千逗里緒が思った程の抵抗を見せなかったことは、俺に確かな手応えを与えた。

 もっとも、手応えと言っても今番が無難に過ごせると言う手応えであり、残念ながら色恋ごとのことではない。


 一持兄さんとは、明日この世界に住む為の手続きをしに、一緒に役場に行ってもらえると言う約束を取り交わし、安心して今宵の別れを告げるに至った。


 兄さん曰く、まほまほ(ラミア)が”スカウト届書”と言う書類を提出しているはずとのことである。


 しかし、本当に大丈夫なのだろうか?


 逸れてしまったことに対しては俺にも責任の一端はあるのだが、それを差し引いてもお世辞にもしっかりしているとは言えない。


 もし、届け出が済んでいなかった場合、俺はどうなるのだろうか。

 元の世界に返してもらえるならばいいが、抹殺でもされてしまったらどうしよう・・・。


 安全を考えるならば、窓の外で燦然と輝く一等星に向かい届け出が無事済んでいることを願うことだ。


 但し、願えば叶う世界であることが前提だが・・・。


 まあ、色々考えても何の対策を取ることも出来ないのが現状だ。

 取り敢えず、全ては明日だ。

 そう。自分を納得させるしかない・・・。

 

 何て思っても俺の緊張は解れはしない。


 こんな時はどうするか?

 気を紛らす為にテレビでも観ることだ。幸い目の前にテレビらしきモニタがある。


 本当にテレビなのだろうか?


 まさか、電源を入れても爆発すること等はあるまい。

 俺は部屋にあるモニターのリモコンらしき物に手を伸ばした。


 「電源」と書かれたボタンを取り敢えず押して見た。

 すると、どうだろう。


 確かに映像が映し出され、それに合わせて音声も流れてくるのだが・・・。


 んっ?


 俺はいきなり映し出された映像に俺は思わず生唾を飲み込んだ。


 取りあえず音量を絞り、条件反射で部屋の扉に視線を向けた。


 誰もいない・・・。


 大丈夫だ。今、この部屋はプライベート空間だ。


 俺はモニタの至近距離に位置を移動した。モニタまでの距離は1m余り。


 今、俺の為に映し出されている映像は一対の男女である。


 そして、その姿はこの世界に思う存分マッチしている。

 本当にギンギラギンにマッチしている。


 思わず俺はモニタの中の男女の動作に目を細めて注視してしまう。


 部分的にファジーな映像を観る時の癖ではない。

 むしろ、イケない位に各部位がはっきりと映っている。


 そうだ、裸体なのだ。

 だが、それだけでは無い。

  

 何故か?


 と言えば見るからに、我々の知っている裸の行動とは、ちょっとばかし違っているのである。


 どう違うかというと、確かに振幅運動は行っている。しかも、かなりの高速運動だ。そうではあるのだが、その動作が”組み体操”っぽいのである。


 俺は、その異様さに返ってマニアックな企画物の様相を感じ取ってしまう。

 だが、それはそれで見様によっては良いものだ。新鮮で変にグッと感じるものがある。

 俺の必要十分条件は過不足なく満たしている。


「いけてる・・・」

 俺は呟いていた。


 これは一体何と言う番組何だろうか?

 何とかこの番組の名前を調べなくては・・・。


 しかし、知る手段がない。

 取り敢えず、曜日と時間は記憶しておこう。今日は何曜日なのだろうか?

 これから当面の間、毎週お世話になることになりそうだ。


 そんなことを考えて独り思考を慌ただしくいると、トントンと小気味良い階段を昇る音が聞こえて来た。

 誰かが階段を上って来る音だ。


 大概、こう言う時に限って邪魔が入るものである。

 俺の家でもそうだ。

 そんな時に限ってお袋や、妹の少毛しょうもがやってくるのだ。


 今、階段を上って来ているのが誰かは、俺にも判っている。千逗里緒だ。

 既に音だけで判別がついてしまう。まあ、俺の他には二人しかいないので、50%の確率と非常に高くはある。


 彼女にこの状況を見られるのは、非常に不味い。

 やっと友好?いや、通常関係に近付いているところなのだ。


 といってもいきなり扉が開くことはないだろう。

 だが、音が漏れて聞かれるのは拙い。今のところ不思議と、らしくない声ではあるが、いつ”行くだの行かない”だのと叫ばれるか分らない。


 そう思い、俺は取りあえず音声は一時消すこととした。

 これで安心だ!


 だが、俺の甘い考えはこの世界では通用しなかった。

 いきなり扉が開く。


 どうやらこの世界はそう言う世界らしい。或いは、この千逗里緒に常識がないかである。


「お風呂入るでしょ」


 千逗里緒はいきなりそう言いながら部屋の中に、俺のプライベートに土足で、いや裸足で侵入して来た。

 フランクな女だ・・・。

 

 俺は見事な条件反射で、下方に伸ばし掛けていた右手をさっと無難な位置に戻すが、電源を切る余裕までは無かった。


 しかし、せめてもの救いは、何の行為もしていなかったことだ。人の家で迂闊にやっては行けない。それが原則だ。きっと、この世界にも法律はなくても、それくらいの道徳はあることだろう。

 

 だが、どこかの国の老人顔の総理も似たようなことを言ったかもしれないが、情況的にWORSTではないが、確実にWORSEではある。


 俺は恥ずかしさで、怒に似た感情が込み上げて来る。

 怒りと恥ずかしさで、顔が熱い。熱いのに冷汗まで出てくる。


 ところが・・・。


「ああ、見てたの。あれ、音出てないわね」

 千逗里緒は、こんな、この程度の矮小な俺に対して感心した様な顔を見せ、俺の手にしているリモコンに彼女の手の重みが加わると、音声が耳に伝わった。


 マラソンでもしている様な息遣いがスピーカーから聞こえてくる。



 どういうことなんだ?


 てっきり、また怒鳴られるとばかり思っていた。

 それなのに・・・さらに、


「でもそれ、昔のよ。無料チャンネルは昔の名作しかやらないのよ。だから、あんまり参考にならないわよ」

 と、解説まで付けてきた。


 俺の怒りと冷汗は、いつの間にか好意と安らぎに変わっている。

 

 どうやら、黙って部屋に入るのが当たり前であれば、この手のビデオを観ることも当たり前に感心される事のようだ。


 AV界恐るべし!


 俺はホッとすると同時に、ある事が頭を過っていった。

 と、言うことは・・・。


 これがその大会と言うことになるのだ。


 こ、これが大会なのか・・・。

 俺はこんな大会に出場するのか、それも真っで。

 

 しかし、ここで恥ずかしがっては、俺が勉強の為にビデオを観たことにはならない。

 咄嗟に、


「そーか、これは、昔のなんだ・・・・」

 適当に思いついた言葉を吐いてみる。


 それに彼女は、俺の弁解も聞かずに、


「ああ、でもこれ懐かしい、10年前のG1ねぇ~」

 と、懐かしがっている。


 ちらっと見ただけで、分るとは相当の競馬通?ではない、絡み通だ。


 それに、

「G1って、これが最高の絡みなんだ・・・」

 俺は素朴な独り言を言ったつもりであったのだが、千逗里緒は親切に解説をしてくれた。


「そうよ、10年前ではね、今じゃこの程度では全然話にならないのよ」


 何か誇らしげだ。

 外国人に理解の出来ない日本のお国自慢をしているのと同じ様に俺には聞こえてくる。


「ちょっと貸して」

 そう言って、俺が手にしているリモコンを取ろうと、俺の背中越しに手を伸ばして来た。

 彼女の洗いざらしの髪が俺の頬を掠めた。微かに体が触れ合う。


 甘く、心を潤わす香りが俺の鼻から「股間《五感》」に伝わる。

 湯上りの彼女の体はジューシーだ。


 たちまちの内に俺の全神経が彼女に支配される。


 千逗里緒はジャージ姿で、格好事態には何の色香もないのだが、なんだろう、この感じ・・・。


 今まで味わったことのない心臓の鼓動。


 まほまほとの接触でも感じなかった、このドキドキ感。



 彼女はそんな俺にも気付かずに、俺の前に出て自分の一番感動したと言うところにビデオを早送りする。

 どうやら、これは無料配信ビデオで、ダウンロードしたものをセーブすることが出来る仕組みらしい。 その場面を探しだすと、

 

「ここ、凄いでしょ。10年前のビデオとはとっても思えないわよね」

 そう、自慢げに言って来た。


 彼女の見せてくれた演技は、不思議にも”事”を済ませた、いやあれはフェイクだから、済ませた演技の後の他愛もない男が女の頬を撫でた動作であった。


 男にとっては、何の感情も入っていないただの女性へのサービス行為である。


 そんなとこに感動するのかぁ・・・。

 とも思ったが、それよりも俺は彼女から漂う香りの方に心は奪われてしまっている。


 彼女の後姿が美しい。例えジャージ姿でも・・・。俺の目にはジャージがシースルーに見える。

 上着のウエストの生地の余り方で、その締まった腰が認識出来る。


 すると、その腰を目掛けて俺の両手が自動運転の様に動き出す。 


 出来れば、できれば彼女の体をこの両の手で抱きしめたい。

 もしかしたら、このAV界であれば、そんな行動は普通の事かもしれない。


 しかし、もしその行為が、俺の世界と同じ解釈であれば俺の未来は、この場で消えて無くなることだろう。

 

 ここは、ここは我慢だ。

 

 無難に生きるのが俺の信条なのだ!


 俺は、伸ばし掛けた両手を渾身の力でゆっくりと戻そうとした。

 その時であった。彼女が振り向いたのだ。


 俺は慌てて両手を自分の陣地へと引き戻した。

 きっと、俺は驚の余り大きな口を開けていたに違いない。


「どうしたの、そんな顔して?G1が凄くてビックリしちゃった?10年前ので驚いてたら駄目ね。それより、先にお風呂入っちゃってよ」


 彼女は異世界から来た俺に対して、またしてもお国自慢である。

 良かった・・・。


「は、はい」


 ホント良かった。バレなかった・・・・。

 俺はまたしても冷汗を背中に流し、上ずった返事を返した。


 この後、俺は彼女に案内されて、この世界初のお風呂で冷汗を流すのであった。

 ちょっと期待したのだが、流石のAV界でも彼女が背中を流してくれることは無かった。


 <つづく>

お粗末でした。

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