すごいじゃないか
やっぱり、ここは異世界。そして俺は・・・。
俺、千乃工口は、 大学受験を間近に迎えた高校三年生。
そんな大切な身でありながら、学校帰りのバス中で、まんまと”ララカー・ミラミ・アポストロ ”と名乗る女の子(俺は”まほまほ”と呼んでいるが彼女は”ラミア”と呼べと言う)のエロ仕掛けに乗ってしまい、AV界へのスカウトを受け入れてしまった。
そして、俺は彼女のなされるがままに、AV界へと連れて行かれてしまうのだ。
だが、俺はすんなりとAV界には辿りつけなかった。移動途中に、ちょっとした行き違いで気を失ってしまったのである。
俺が目を覚ますと、「先に行って待つれす」と、微笑んで言った彼女の姿は何処にもなかった。
それどころか、俺の目の覚めたところは見知らぬ雑踏の中なのだ。
そこは、俺が予想していた人並み程度に知っているAV界(=アダルトビデオ界)と言う世界ではなく、どうやら未知の世界、恐らくは異世界と言うことろの様である。
俺はたった一人で、見ず知らずの世界に来てしまったのだ。
この先、俺はどうしたら良いのだろうか?
今夜泊まる所もなければ、食べるものもない。
せめて、空腹だけでも何んとかしたい。
途方に暮れていたそんな時だった。
目の前を石焼き芋屋のリヤカーを引いた兄ちゃんが通り掛かり、
「どうしたんかね~少年、そんなとこ座って」
と、俺に話しかけてきた。
それに、俺は
「はい、腹の底まで染み渡ります」
意味が食い違っているが、俺の今の気持ちを全面に出してみた・・・。
★☆ 第 3 話 ★☆
☆★ すごいじゃ♂ ☆★
★☆ ♀ ないか ★☆
「そうかい、いい匂いだろう。この匂いの素晴らしさが分るとは嬉しいね」
と言いながら、石焼き芋屋のおっさん兄ちゃんは、俺の顔をしげしげと覗きこんで来た。
そして、少し目を細めたかと思うと、何かに気づい様な顔で俺に向って、更に好意的な眼差しを向けてきた。
「そうか~、君も”あいかた”を見つけれなかったんだね」
そう言って来る言葉には仲間意識が感じられる。
”あいかた”?
”あいかた”とはどう言うことだろうか。
俺にはさっぱり意味が分らないのだが、彼が好意的なのは間違いなさそうである。
取り敢えず俺は立ち上がり、道路の反対側に存在する焼き芋に近づいた。違った、焼き芋屋のおっさんぽい兄ちゃんに近づいた。
この空腹な中、食べ物を豊富に持った人が好意的に屋って来た訳だ。このチャンスを逃す訳にはいかない。
後、一歩で焼き芋に手が届く距離である。
「えっ、”あいかた”ですか?」
「あれ?君はさっき、競技中に”お見合い大通り広場”で、倒れていた少年じゃないのかい?」
んっ、競技中に”お見合い大通り広場”で、”倒れていた少年”?
その人物に俺が該当するのだろうか。
ここは該当した方が、俺にとっては幸福なのは間違いない。
俺は好意的にその質問の答えに自分を当てはめてみた。
”倒れていた少年”と言う部分は、確かに俺はこの世界に来た時に石畳の広い通りで倒れていたのだ。
と、言うことは”倒れていた少年”と言うのは該当する。
それに、もしあの石畳の通りが”大通り広場”と言うところであれば、これも該当する。
確かに、広い通りであった。
あの通りには”お見合い”と言う冠が付くのだろうか?
そう言えば、男女がペアになって掃けて行った。
後は”競技中”と言う部分だが、あの血眼の形相で走り回っていた人達は競技中だったと言うことなのだろうか?
確かに、戦争やバーゲンよりも意味は通じそうだ。
そこで、俺は焼き芋屋の兄ちゃんに訪ねてみた。
「あの~、”大通り広場”の人ゴミは何かの競技だったのですか?」
「あれ~っ、君は競技の参加者じゃなかったんだ?
てっきり僕と一緒で、相方が見つからなくて、一人で気落ちしてるのかと思ったんだがな~、違ってたかな?」
「競技に参加するも何も、目が覚めると人ゴミの中で寝ていて、僕にもどう言うことなのかさっぱり分らないんです」
・・・さっぱりと言うのは、ウソになるが、この際この人にすがってみるしかない。途方に暮れている状況を最大限伝えてみよう。
俺はそう思った。
「それは、どう言うことなんだい?」
おっさんに兄ちゃんは、そう聞いて来た。
いい展開だ。
「実は・・・」
俺は今まで起こったこと、下校中から今現在に至るまで、一部不都合な行為の部分を包み隠して話して見た。
もちろん、何かの手掛りが掴める様に、まほまほのことは本名いや、本名は覚えていないので略称の”ラミア”と告げた。
そして、そのついでに今空腹状態で、今日、泊まるところがないことも、もちろん告げた。
すると、
「すごいじゃないかー、君!!」
いきなり、焼き芋屋のおっさん兄ちゃんは、感動を言葉にして、俺の肩を両手で掴んだ。
そして、慌てて後ろを振り向くと、ホカホカの特大の焼き芋を1個取り出した。
「お近づきのしるし」
そう言って、新聞と思われる紙にくるんで俺に差し出して来たのである。
この散々な状況のどこが凄いのか全く意味が分からなかったが、取り敢えず俺の願望は超短編の最寄の自伝を伝えただけで、簡単に叶ってしまった。結果オーライだ。
「ありがとうございます」
俺は、彼が何で驚いたのかは非常に気になるのだが、そんなことよりも気の変わらない内にと思い、慌てて焼き芋の皮をむいて食べ始めた。
すると、
「そんなに、慌てると喉が詰まるよ。大丈夫さ、気が変わって返せなんて言わないから」
そんな事を言って来た。
「んっぐ、ゴホン」
俺の気持ちを読んでいるかの様な発言に、思わず喉を詰まらせるところであった。
そのせいもあるのかもしれないが、彼はちょっと不思議な感じがする人である。
ただ、”僕”と言う言葉を、”私”の謙譲語と信じている俺にとっては、自分のことを”僕”と言う彼に親しみを感じたのは事実である。
俺が咳払いしながらも焼き芋を頬張っている姿を、焼き芋屋のにいちゃんはニコニコとしながら、見つめていたが、俺が一息ついたのを見ると、焼き芋屋のにいちゃんはこの世界について、語り始めた。
「君は、間違い無くこの世界の”スカウター”によって、男優にスカウトされたんだよ。ラミアと言ったよね。
彼女は、”ララカー・ミラミ・アポストロ ”と言う名で、4人の内最高のスカウターと言われているんだ。
特殊な世界、恐らく君たちの世界を指すと思うのだが、唯一未だ知られていない世界にも行って、男優のスカウトを行っているスカウターなんだ」
”最高の・・・?”それには、いとも簡単に騙された俺でも疑問に思うところであった。
とっても、まほまほがそんなに優秀とは思えない。
と言うことは騙された俺はもっと程度が低いことになってしまうのだが・・・でも事実だ。
しかし、さすがは”まほまほ”。やっぱり落ちはあった。
「ただ、僕の記憶では、まだ君達の世界での成果は上がっていないようだったのだが・・・、
そうか!と言うことは、君が、彼女が君の世界から連れて来た一人目の男優になるのか・・・」
焼き芋の屋のおっさん兄ちゃんはそう声を上げた。
彼とまほまほがグルであるとは思えない。偶然過ぎる。
と、言うことは、
や、やっぱり本当だったんだ。彼女の言っていたことは・・・。
俺はそう思った。
彼女がウソ付きで無かったことには何故かホッとしたのだが、それとは裏腹に、目の前に事実を突き付けられたことは、全く嬉しくは無い。
微かにこれが何かの間違いであれば・・・。
と言う望みが、完全ではないが、ほとんど断たれた気がする。
さらに、俺が一人目と言うことは、俺と同じ世界から来ているのは俺意外には誰もいないことになってしまう。不安は一気に増して行く。
ただ、おっさん兄ちゃんの次の言葉が俺の心に期待の灯火となった。
「ああ、そうだ。契約金はもらってないのかい?」
と言ってきたのだ。
「契約金?」
その意味は、俺には全く分らなかった。
すると、おっさん兄ちゃんは、思い出した様に、
「ああ、そうか。
君は食べ物にも困っている無一文だって言ってたんだったね。
でも、君が気付いていないだけで、何処かに契約金があるかもしれないよ。恐らく貰っているはずなんだが・・・。
もしかして、ポッケトの中にでも入ってないかい」
そう言ってきた。
「いや、入っていないと・・・」
そんな訳がない、そんな感触が体の何処からもしてはいない、だいたい貰った記憶もない。
そう思いながらも、恩人の言うことは無碍に出来ない。俺は一応、ズボンのポケットに手を入れて見た。
すると・・・。
右のポケットに紙切れの束の感触がある。
俺はそれを引き出してみた。
ポケットから、100枚はあろうかと言う、いや100枚であろう。帯が付いている。
「いつの間に・・・」
俺も驚いたが、俺以上の驚きをおっさん兄ちゃんは見せて来た。
「すごいじゃないか!! 100万ペンスあるじゃないか」
どうやら、ここのお金の単位はペンスと言うらしい。
彼の驚き方からいくと、きっとそこそこの期間の生活が出来そうな金額の様な気がする。
僅かな光が俺の明日を照らしている。
俺は慌てて聞いてみた。
「す、すみません。このお金はどれ位なんですか!」
「そうか、君の世界のお金とは違うんだね」
「はい」
「それも当然と言うことか。そうだな~」
おっさん兄ちゃんは、少し考えて分り易い回答を俺に示してくれた。
「さっき君の食べた石焼芋1個が100ペンスだよ。
あっ、決してお金を請求している訳じゃないんだ。本当にお近づきの記しだから。ハハハ」
「ハハハ、ありがとうございます」
ここは笑って流すのが無難だ。
「そうか、いきなり中央にスカウトで、100万ペンスの契約金か。きっと、君は凄く期待されているんだね。男優としてうだつの上がらない俺なんかは、焼き芋屋との掛け持ちさ」
そう言って、恥ずかしそうに笑って言った。
良く見ると、俺よりもいい男の様な気もする。こんないい男で男優として駄目なら、俺なんかがとってやっていけそうな気がしない。
このお金の存在は、飛びあがる位に嬉しかった。
しかし、取りあえずまほまほを見つけるまでは、このお金を極力減らさない様にしなければならない。
これが契約金であるならば、元の世界に戻る為には、恐らく返す必要があるだろう。
それに、本当に自分のお金なのかの疑いもある。
そこで、
「焼き芋屋さん、もう少し、ここの世界のことを教えて下さい!」
俺は、すがる様に言った。本当にすがっていた。
まず、その男優の意味が俺の想像通りであるかが知りたいところだ。
すると、彼は焼き芋を指さし、
「ほら、俺もこれを売らないと生活ができないから」
そう、言って来た。
しかし、ここで彼を逃す訳にはいかない。
いつまでになるかは分からないが、ここで暮す為には彼の力が必要だ。
そこで、俺はこの焼き芋全部買って、暫くの間彼を拘束しようと考えた。
「幾つあるんですか?」
「今日は、30個位かな」
「だったら、俺が全部買います」
そうだ、3,000ペンスでご教授願えるのであれば安いものだ。ここで、3,000ペンスを惜しんでは、後で返って高くつく。俺には、返すつもりのお金とは言え、100万ペンスと言う大金があるのだ。
「いや、それは申し訳ないな。どうだろう、一緒にリヤカーを押して手伝ってくれないか。道すがら話すと言うのでは」
「本当ですか、有難うございます」
この世界も満更、悪い人ばかりではなさそうだ。
俺はそう思いながら、生まれて初めてリヤカーと言う二輪車を後ろから押すことになった。
<つづく>