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萬のエロはしその香り   作者: 工口郷(こうこうごう)
第2章 初演
10/73

つままれて、つままれたのか

俺は騙されたのか?

取り敢えず何か・・・。

 高校から帰宅中、バスの中で仮初めの出会いと思っていた極上の少女は、実はこの俺、千乃工口ちのくぐちをAV界に勧誘することを目的に接近して来た”ララカー・ミラミ・アポストロ (ラミア)”と言うスカウトであった。

 ただ、俺は勝手に”まほまほ”と呼んでいる。


 俺は自分の弱さと若き血潮の後押しにより、思わず彼女の勧誘に乗ってしまい、いきなり天へ向かって昇る破目になってしまった。


 そして、その途中であった。

 俺とまほまほの間で、ちょっとした事故いきちがいが起こってしまうのだ。


 ”その結果?”なのか”騙された?”のかは不明であるが、俺は一人で見ず知らずの世界に来てしまったのだ。


 どうしよう・・・。


★☆  第 2 話  ★☆

☆★♂つままれて♀☆★

★☆つままれたのか★☆


 静まり返る街、空気、石畳。

 つわものどもが夢の跡...

 仙谷の世は去った。いや、戦国の世は去った。


 一体、あの騒ぎは何であったのか?

 いや、そんなこと今となってはどうでもいい。これからどうするかだ。


 この何とも言えない静けさが、俺の後悔を後押しする。


 って言うか、そもそも此処は何処だ?

 俺が何で此処に居るんだ?


 ・?

 その答えは1秒で出た。


 そうだ、まほまほだ!

 まほまほを探さねばだ!


 彼女は確かに先に行って、俺を待ってると言ったのだ。

 ついでに、信じれとも言っていた。


 説明は殆ど聞けなかったにせよ、俺は言われた通り「AVと言う扉」を開けたんだ。

 

 違う扉を開けなかったか?


 いや、そんなことは無い。

 それ位のことが出来ないで、マークシートの試験に対応が出来るか!


 と、言うことはだ。

 ここがAV界と考えるのが素直と言うものだ、と俺は思う。


 しかし、どう考えてもこのAV界が、アダルトビデオ界とは思えない。

 AV界=アダルトビデオ界と言うのは、俺の勝手な思い込みなのだろうか?


 確かに、まほまほに連れて行かれる時に幽体離脱の様な体験を俺はしている。


 アダルトビデオ界で活躍するのに、幽体離脱は必要ない。

 むしろ、実体がなければ活躍が出来ない。


 いや、だが今の俺には実体がある。


 俺は自分の頬をあり来たりにつねってみた。

 痛い・・・。


 つねってから気付いた。


 俺は既に、扉を開ける前に一度頬をつねっていた。

 つねるだけでは信用が出来ない。

 

 次に俺は、道路標識らしき三角看板にチョップをかましてみた。


 ・・・手が痺れる位に痛い。


 次に電柱らしきものにぶつかってみた。


 ・・・額をぶつけるべきではなかった。

  

 間違いない。ふらふらする。

 俺は物理的に存在している。


 と言うことは幽体離脱は気のせいで、ここは本当に俺が先月の誕生日で18歳になった”R18記念”で、お世話になろうとしていたアダルトビデオ界の撮影現場の可能性も・・・?

 いや、今までのいきさつと、この広大な景色から、それは残念ながらなさそうだ。


 と言うことは・・・?

 幽体であった俺が実態を持っているのはどう言うことだ?

 俺は天を見上げた。特に意味はない。


 これが異世界と言うやつなのだろうか!

 理屈で納得いかないことは、そう考えた方が納得し易い。


 この場所が、何の範疇に属するかは分らないが、最低でもこの世界は俺の住んでいた世界とは違うのは間違いなさそうだ。


 そうであれば、とにかくまほまほを探して、一旦、元の世界に戻してもらおう。

 そして、もう一度、まほまほと話し合おう。

 一時の気の迷いだったと謝ろう。きっと分ってくれる・・・?

 そう、信じよう・・・。


 そうだ、最低でも大学卒業までは待ってくれと嘘をついてうやむやにすると言う、大人的な解決策もある。

 


 それから、俺はまほまほを探してこの奇妙な街中を歩き回った。

 此処が本当にAV界と言う何処かの世界なのだろうか?と思いながら・・・。


 まだ、日は高い。南中を少し越えたところである。

 夜になるまでには時間がある。


 そう言えば、俺が自分の部屋から宙に浮いたのは日が暮れる寸前であったのだが・・・。

 やはり、異世界と言うところなのか?

 もしかすると、地球を60度位西移動したのかもしれない。

 それはそれで、同じ位奇妙なことで恐ろしい。


 俺は暫くまほまほを探して歩いていると、この世界が街のデザインが古めかしいこと以外はそんなに、俺の住んでいた世界と大差ない様に思えてきた。


 出だしが悪かっただけに、イメージが悪かったのだが、冷静に見ると奇麗な街並だ。

 普通に人間の俺が住めそうな世界である。


 ただ、ひしめき合って建てられている建物の数の割には、何故か人通りが少ない。

 それに、通り過ぎる人が年配の人が多いところも気になるところだ。


 行き交う人々は、肌の色は日本人そのものなのだが、目と髪の色がアニメチックと言う、オタクには堪らない容姿であるのも目を奪われる。


 オタク系ではない俺には、初め多少違和感もあったのだが、見慣れると意外と爽やかに見えて好感が持てる。


 それに、数は少ないが若い女の子は、みんなキュートだ。可愛い。

 それこそ、アニメのキャラクターそのものと言っても過言ではない。

 俺もアニメオタクの気持ちが、かなり勢いで理解し始めていた。


 しかし、そんなことを考えられたのも、陽の明るい内であった。

 陽の明るい内は俺も希望を持って、街の様子を多少は眺める余裕もあったのだが、さすがに陽が陰ってくると次第に焦りが出てくる。


 このままでは、食事をとれる見込みもなければ、今夜寝る所もないのだ。

 そう、俺にはお金が一円も無いのである。

 しかし、仮に百万円あったせよ、ここで日本円が使えるとはとっても思えない。


 どうすればいいんだ・・・。

 

 ・・・どうにもならない。


 頼みのまほまほは此処にもいないのだ。


 最悪だ・・・。  


 キツネにつままれたのだろうか?

 いや、俺はキツネよりたちの悪い”まほまほ”に、つままれたのだ。

 きっと・・・。


 つままれて気持ち良くなってしまったせいで、つままれたのだ。

 気持ち良くなって、前後の見境が付かなくなってしまった愚か者だ・・・。


 この訳の分らないところで、一体どうすればいいのか・・・。


 俺は襲って来る恐怖を飲み込み、一生懸命この場を凌ぐ事に気持ちを集中させようとするのだが、この世界に閉じ込められた感はそう簡単に拭い去ることは出来ない。


 夕暮れが漬物石の様に重く俺に圧し掛かる。

 このまま、この世界に漬かってしまうのか・・・。

 漬かれるのなら、まだしもだ。

 

 俺は微かな望みになってしまったが、それでも尚、まほまほを探し続けた。

 そして、疲れと空腹感が俺を襲って行った。


 人間こんな切羽詰った時でも腹は減るのだ。

 しかし、この空腹が恐怖から気持ちを逸らすのに一役買うことになった。

 お腹を満たして、今を凌ぐ事に気持ちが移り変わって行った。


 何んとか、食べ物を・・・。


 俺はこう言う場面で力を発揮する人々を地下歩道や川っぷちで見たことがある。


 真似てみようか?


 俺は新入りとして同朋を探してみた。

 しかし、辺りを見回しても浮浪様ぷーさまは見当たらない。

 俺はこの世界で”初”の浮浪様かもしれない。この世界で浮浪様は成り立つのだろうか・・・。


 取り敢えず俺は、無暗に歩きまわることを止め、小川に掛かられた石橋にある歩道に腰を掛けることにした。

 そして、疲れた脚を休ませながら、空腹を満たすことに思考を巡らせた。


 何か食事を取る方法はないか?


 大道芸をやってみるか?

 いや無芸大食だ。


 弾き語り?

 楽器が無い。あっても出来る楽器もリコーダー位のものだ。


 通り掛かりの人に恵んでもらうか?

 そんな度胸はない。


 交番みたいなところを探すか?

 そもそも此処のシステムも分らないのに、大丈夫か?


 では、食い逃げか、盗人になるか・・・。

 まだ、そこまでは追い詰められていない・・・。

  

 そんな、全ての可能性を否定した、絶望を感じている時だった・・・。

 

「い~しや~きいも~、いも。ほっかほかだよ~」

 と、言う声がいきなり俺の耳に届いた。


 普通、遠くの方から徐々に聞こえてくるだろう、って言うか石焼き芋屋が存在するんだ・・・。

 思いもよらぬ存在に俺はその声のする方に目を奪われた。


 声と共に匂いも空気を媒介に伝達されて来る。


 堪らない香りだ・・・。


 そして、香りと共に、石焼き芋屋は小川の前の集合住宅らしき建物に挟まれた細い道から姿を現した。

 

 その姿は時代を思わせる手引きの二輪車に煙突付きの鉄窯。

 俺は初めて見るリヤカーとか言う荷物車子式の焼き芋屋にホンの少しの感動と、香ばしい匂いに大きく誘惑されながら目が釘付けになっていた。LOCK ON!


 石焼芋屋は、次第に俺の方に近づいて来る。

 口の中は唾液の洪水で、唇と言う防波堤から溢れ出そうである。


 俺はその横に並ぶ二輪車の速度に合わせて、滑らかに首を動かした。

 すると、その姿を見られてしまったのかどうかは分らないが、石焼芋リヤカーの動力源は俺の前で停止したのだ。


 それで、初めて俺は石焼き芋屋のリヤカーは、人が引いていることに気が付いた。

 石焼き芋屋は、ヨレヨレの綿のパンツに、紺の毛糸のカーデガンで、白いタオルで頭から被り顎の下で結んでいる。

 てっきりおっさんだと思っていたが、以外にも俺の予想を裏切って身のこなしが若い。

 少しだけ見える髪の毛は街灯に照らされて、青みがかって見える。


 そのおっさん兄ちゃんが、俺に向ってうつむいていた顔を披露した。

 俺の次に良い男である。


「どうしたんかね~少年、そんなとこ座って」


 と、笑顔を見せて来た。

 これを俺は「敵意が無いですよ~」と言う、意志表示と受け止めた。


「はい、腹の底まで染み渡ります」

 意味が食い違っていることは重々分っているのだが、俺の今の気持ちが全面に出てしまっていた。


◆その頃◆

 まほまほは? と言えば・・・。

 

 工口くぐちと約束をしたはずの役場の前を、泣きそうな顔で一人うろうろしとしていた。


「来ないれす。

 どうしてなのれすか。

 約束したれす・・・」


 役場の入口の扉は既に閉まっている。

 まほまほは仕方なく外で待つ破目になってしまったのだ。


「やっと、27人目で初めてスカウト出来たのに・・・。

 良い人だと思ったのに・・・

 もしかして、

 AVの扉を開けずに、RTの扉を開けて帰っちゃたのれすかぁ~」


 と叫ぶが帰る度胸もなく、この後もまほまほはずっと、工口くぐちを待ち続けるのであった。

 

 <つづく>


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