新撰組~油小路事件/親友との最期~(台本形式)
[登場人物]
瀬尾 漣:架空、新選組平隊士。藤堂平助の同い年の親友。
藤堂 平助:元新選組幹部。現在は「御陵衛士」の隊士。
三浦 一誠:架空、新選組平隊士。掟を狂信する若手。
土方 歳三:新選組副長。冷徹な組織の指揮官。
【状況:西本願寺・新選組屯所】
新選組の平隊士である瀬尾漣と三浦一誠が、向かい合って木刀を構えている。
漣
くっ、相変わらず鋭い突きやな、三浦くん!
三浦
瀬尾先輩こそ、よく僕の攻撃を防ぎますね!
けど、もう手加減はしませんよ、ここまでです!
漣
うっ…
三浦
相変わらず泥臭い、不格好な剣術ですね。
漣
不格好で結構。
暗闇の戦場では、綺麗な型より、泥にまみれてでも生き残った方が勝ちや。
三浦
ふん。武士のプライドがない言葉だ。
僕たちが背負っているのは「誠」の二文字。
正々堂々と美しく戦い、裏切り者は容赦なく斬る。それが新選組でしょう。
漣
…裏切り者、って誰のことや?
三浦
決まっているでしょう。
新選組を捨てて「御陵衛士」へ行った、藤堂平助のことですよ。
万死に値する大罪人だ。
漣
平助を悪く言うな!
あいつは裏切ったわけやない!
自分の信じる正しい道を進むために、悩んで、苦しんで、屯所を出ていったんや!
三浦
どんな理由があろうと、組織を抜けた者は敵だ。
今夜、近藤局長が伊東を酒宴に招いている。
ただの飲み会なわけがない。
いよいよ今夜、裏切り者どもを粛清する時が来る。
僕は自分の手で、あの藤堂平助の首をはねてみせますよ。
漣
お前、本気でそんなことを…!
土方
そこまでにしろ。屯所内での私闘は士道不覚悟、切腹だぞ。
三浦
土方副長!申し訳ありません!
けして、新選組の掟を破るつもりはありません!
土方
分かっている…
しかし、三浦の言う通りだ、瀬尾。
新選組のルールは絶対だ。
今夜、伊東甲子太郎を暗殺する。
そして、その遺体を引き取りに来た御陵衛士の生き残りも、油小路で一網打尽にする。
漣
副長!お願いです!
平助、藤堂平助だけは、助けてやってください!
あいつは、近藤さんや副長のことも、ずっと兄のように慕っていました!
土方
なら、なぜ組織を捨てた?
一度でも背を向けた者は、たとえ身内であっても容赦はせん。それが俺の作った鉄の掟だ。
三浦、お前は本隊に入り、油小路を完全に封鎖しろ。
三浦
はっ!裏切り者の一人も逃がしません!
土方
よし、行け。
…さて、瀬尾。お前には、裏の任務を与える。
漣
裏の、任務?僕に、平助を斬れと言うんですか!?
土方
逆だ。
永倉や原田には、すでに話してある。
乱戦の最中、あいつらは藤堂の前にわざと逃げ道を作る。
瀬尾、お前はその逃げ道の先に立て。
漣
え?
土方
あいつは頑固だ。仲間を置いて一人で逃げるような男じゃない。
だから、お前が無理矢理にでもあいつの腕を引っ張って、戦場から連れ出せ。
これは副長としての命令ではない。
近藤さんと、俺からの我がままだ。
漣
副長、ありがとうございます!
必ず、平助を逃がします!
【状況:御陵衛士の拠点】
平助
伊東先生が近藤さんのところからまだ戻らない。嫌な予感がする。
みんなを連れて、油小路へ向かわないと
【状況:夜・油小路の街頭】
新選組に暗殺された伊東甲子太郎の遺体が置かれている。
三浦
土方副長、伊東の暗殺、見事に成功しましたね。
あとは遺体を引き取りに来る裏切り者どもを、ここで待ち伏せするだけです。
土方
ぬかるな、ここからが本番だ。
御陵衛士の生き残りが、そろそろこの場所へ罠とも知らずにやってくる。
全員、死角に隠れろ。一人も生かして帰すな。
漣
はい。
土方
…瀬尾。分かっているな。お前の役割を果たすんだ。
漣
分かっています。
三浦
瀬尾先輩、まさか足がすくんでいるわけじゃないでしょうね?
漣
自分の心配をしといた方がええで、三浦くん。
真剣の戦場は、屯所の稽古みたいに甘うないからな。
土方
静かにしろ、奴らが来たぞ!散れ!
平助
伊東先生!…嘘だろ、こんなところで。
しっかりしてください!伊東先生!
三浦
かかったな、裏切り者ども!新選組だ!出会え、出会え!
平助
くっ、待ち伏せか!みんな、罠だ!
先生の遺体を守りながら、一度引くんだ!
三浦
逃がすか、藤堂平助!お前の首は、この僕がもらう!
平助
三浦!
どけ!俺はお前たちと戦いに来たわけじゃない!
三浦
黙れ裏切り者!新選組の掟に従い、ここで命を捨てろ!
土方
包囲を狭めろ!逃がすな!
頼んだぞ、瀬尾。
平助
あっちの路地だけ、新選組の囲いが薄い?
いや、仲間を置いて俺だけ逃げるわけには。
漣
平助ーーー!こっちや!早く来い!
平助
漣!?お前、なんでここに!
漣
つべこべ言わんと、僕の言う通りにするんや!
お前を戦場から連れ出す。これが、僕の今夜の任務や!
平助
離せ、漣!みんなが戦っているんだ!
俺だけ生きて帰れるわけがないだろう!
漣
アホ言うな!二人で生き残るって、鴨川で約束したやろ!
お前を死なせるくらいなら、僕は新選組を裏切ったって構わへん!
三浦
見つけたぞ。瀬尾先輩、やっぱり、藤堂を逃がす気ですか!?
漣
三浦!?
三浦
どいてください。瀬尾先輩。
漣
くっ…
三浦
そこをどけと言っているんだ!
新選組の邪魔をするというのなら、先輩であっても容赦なく叩き斬る!
裏切り者をかばう奴は、同じように裏切り者だ!
漣
どくわけがあるか!
三浦くん、お前の相手は僕や!
平助には一本の指も触れさせへん!
平助
漣!
お前、何をしているんだ!
新選組の隊士が、新選組の仲間に向けて刀を抜くなんて、正気か!
刀を引け、漣!
これ以上やったら、本当にお前まで反逆者になってしまうぞ!
漣
うるさいわ、アホ!
新選組の掟なんて知るか!
局長がどうだの、副長がどうだの、今の僕には関係ない!
お前がおらへん世界なんて、僕には価値がないんや!
お前をここで生きて逃がすためなら、僕はいくらでも泥を被ってやるわ!
三浦
狂ったんですか、瀬尾先輩!
新選組の誇りを忘れたのですか!
それなら、あんたら二人まとめて、粛清する!
漣
お前の言う「誇り」は、昨日までの仲間を切りつけることなんか?
そんな冷たい正義なら、僕には必要あらへん!
お前は侍のプライドに縛られすぎなんや!
三浦
うるさい、うるさい!
裏切り者の屁理屈は聞き飽きた!
平助
やめろ、三浦!
お前が戦うべき相手は俺だ!
漣と争うな!
俺はここにいるぞ!
三浦
死ね!裏切り者!
平助
漣!!危なっ…
がはっ!
漣
平助ーーーっ!
お前、何をしてくれたんや、三浦!
許さん、絶対に許さへんぞ!
三浦
黙れ、裏切り者!
【状況:静まり返った油小路の路上】
平助
はは、本当にバカだな、漣。
巻き込まれるなって、あれほど何度も言ったのに。
お前はいつも俺の言うことを聞かないな。
漣
何がバカや…
誰のせいでこんなに血を流していると思ってるんや。
お前がいつも無茶ばっかりするからやろ。
平助
バカだよ…
新撰組に刀向けたら、お前まで悪者になってしまうだろう。
俺は自分の信じる道を進んだから後悔はないけれど、お前を巻き込んだことだけが、胸が痛いよ。
漣
アホなことを言うな。
僕が自分で決めたことや。
新選組の平隊士として死ぬんじゃない。
僕は、藤堂平助の親友として、ここで死ぬんや。
だから、そんな顔をするな。
平助
なぁ、覚えているか?
三年前の春、あの狭くて汚い居酒屋で、俺たちが出会った夜のことを。
あの時、お前は本当に冷めた目をしていて、声をかけるなというオーラを出していたな。
漣
覚えとるよ。
お前が急に隣にドカリと座ってきて、勝手に酒を注いできたんや。
あの時は、なんて図々しい幹部様やろうと思ったわ。
平助
へへ、そうだったな。
でも、俺はお前と同い年だと知ったとき、本当に嬉しかったんだ。
新選組の中は上ばかりで、毎日張り詰めていたから。
お前と鴨川の河原で将来の夢を語り合っているときだけが、俺の本当の休息だったんだ。
漣
僕も同じやで。
生きるためだけに刀を握って、毎日に意味なんてなかった。
でも、お前が僕の小太刀をカッコいいと言ってくれたから、僕は自分の居場所を見つけられたんや。
お前がいたから、寂しくなかった。
平助
鴨川での約束、何があっても二人で生き残ろうって言ったのに、守れなくてごめんな。
新しい時代、誰もが笑って暮らせる国を、一緒に見たかったな。
漣
謝るな。約束は破れてへん。
僕たちの約束は、これからや。
お前が新しい時代に行けないなら、僕もそんな場所には行かへん。
地獄に行くのも、一緒やで、平助。
だから、その手を離さんといてくれ。
平助
あぁ、お前の手、すごくあったかいな。
京都の冬はこんなに冷たいのに、お前の手の温かさだけは、ちゃんとわかるよ。
漣、俺はもう、眠くなってきちゃったな。
漣
平助?
おい、平助!
土方
藤堂、瀬尾。
見事な散り際だ。
お前たちの戦い、最初から最後まで、この俺の目でしかと見届けさせてもらった。
漣
副、長。
すんません…
平助を連れ出すことができなかった。
ここで僕の首をはねてください。
土方
いや、その必要はない。
お前の命の灯火は、もうすぐ消えかけている。
俺が手を下すまでもない。
瀬尾、お前は最後の最後まで、藤堂のために刀を振るったな。
漣
はい。
後悔は、ありません。
新選組の隊士としては失格でも、平助の親友としては、満点の生き方ができたと思っています。
土方
あぁ、分かっている。
漣
そろ、そろ、逝きますわ。
待たせてごめんな、平助。
土方
新選組の掟は絶対だ。
組織を守るためには、誰であろうと例外は作れない。
冷酷だと言われようが、俺は鬼にならねばならなかった。
だがな、瀬尾。
お前たちのその泥臭い絆だけは、俺の作った鉄の掟でも、決して引き裂くことはできなかった。
お前たちの勝ちだ。




