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新撰組~油小路事件/親友との最期~(台本形式)

作者: サンケー
掲載日:2026/05/30

[登場人物]


瀬尾せお れん:架空、新選組平隊士。藤堂平助の同い年の親友。


藤堂とうどう 平助へいすけ:元新選組幹部。現在は「御陵衛士」の隊士。


三浦みうら 一誠いっせい:架空、新選組平隊士。掟を狂信する若手。


土方ひじかた 歳三としぞう:新選組副長。冷徹な組織の指揮官。



【状況:西本願寺・新選組屯所】

新選組の平隊士である瀬尾漣と三浦一誠が、向かい合って木刀を構えている。



くっ、相変わらず鋭い突きやな、三浦くん!


三浦

瀬尾先輩こそ、よく僕の攻撃を防ぎますね!

けど、もう手加減はしませんよ、ここまでです!


うっ…


三浦

相変わらず泥臭い、不格好な剣術ですね。


不格好で結構。

暗闇の戦場では、綺麗な型より、泥にまみれてでも生き残った方が勝ちや。


三浦

ふん。武士のプライドがない言葉だ。

僕たちが背負っているのは「誠」の二文字。

正々堂々と美しく戦い、裏切り者は容赦なく斬る。それが新選組でしょう。


…裏切り者、って誰のことや?


三浦

決まっているでしょう。

新選組を捨てて「御陵衛士ごりょうえじ」へ行った、藤堂平助とうどう へいすけのことですよ。

万死ばんしに値する大罪人だ。


平助を悪く言うな!

あいつは裏切ったわけやない!

自分の信じる正しい道を進むために、悩んで、苦しんで、屯所とんしょを出ていったんや!


三浦

どんな理由があろうと、組織を抜けた者は敵だ。

今夜、近藤局長が伊東を酒宴しゅえんに招いている。

ただの飲み会なわけがない。

いよいよ今夜、裏切り者どもを粛清しゅくせいする時が来る。

僕は自分の手で、あの藤堂平助の首をはねてみせますよ。


お前、本気でそんなことを…!


土方

そこまでにしろ。屯所とんしょ内での私闘しとう士道不覚悟しどうふかくご、切腹だぞ。


三浦

土方副長!申し訳ありません!

けして、新選組のおきてを破るつもりはありません!


土方

分かっている…

しかし、三浦の言う通りだ、瀬尾。

新選組のルールは絶対だ。

今夜、伊東甲子太郎(いとう かしたろう)を暗殺する。

そして、その遺体を引き取りに来た御陵衛士ごりょうえじの生き残りも、油小路あぶらのこうじ一網打尽いちもうだじんにする。


副長!お願いです!

平助、藤堂平助(とうどう へいすけ)だけは、助けてやってください!

あいつは、近藤さんや副長のことも、ずっと兄のようにしたっていました!


土方

なら、なぜ組織を捨てた?

一度でも背を向けた者は、たとえ身内であっても容赦はせん。それが俺の作った鉄のおきてだ。

三浦、お前は本隊に入り、油小路あぶらのこうじを完全に封鎖しろ。


三浦

はっ!裏切り者の一人も逃がしません!


土方

よし、行け。


…さて、瀬尾。お前には、裏の任務を与える。


裏の、任務?僕に、平助を斬れと言うんですか!?


土方

逆だ。

永倉や原田には、すでに話してある。

乱戦の最中さなか、あいつらは藤堂の前にわざと逃げ道を作る。

瀬尾、お前はその逃げ道の先に立て。


え?


土方

あいつは頑固だ。仲間を置いて一人で逃げるような男じゃない。

だから、お前が無理矢理にでもあいつの腕を引っ張って、戦場から連れ出せ。

これは副長としての命令ではない。

近藤さんと、俺からの我がままだ。


副長、ありがとうございます!

必ず、平助を逃がします!



【状況:御陵衛士の拠点】


平助

伊東先生が近藤さんのところからまだ戻らない。嫌な予感がする。

みんなを連れて、油小路あぶらのこうじへ向かわないと



【状況:夜・油小路あぶらのこうじの街頭】

新選組に暗殺された伊東甲子太郎の遺体が置かれている。



三浦

土方副長、伊東の暗殺、見事に成功しましたね。

あとは遺体を引き取りに来る裏切り者どもを、ここで待ち伏せするだけです。


土方

ぬかるな、ここからが本番だ。

御陵衛士ごりょうえじの生き残りが、そろそろこの場所へ罠とも知らずにやってくる。

全員、死角に隠れろ。一人も生かして帰すな。


はい。


土方

…瀬尾。分かっているな。お前の役割を果たすんだ。


分かっています。


三浦

瀬尾先輩、まさか足がすくんでいるわけじゃないでしょうね?


自分の心配をしといた方がええで、三浦くん。

真剣の戦場は、屯所とんしょの稽古みたいに甘うないからな。


土方

静かにしろ、奴らが来たぞ!散れ!


平助

伊東先生!…嘘だろ、こんなところで。

しっかりしてください!伊東先生!


三浦

かかったな、裏切り者ども!新選組だ!出会え、出会え!


平助

くっ、待ち伏せか!みんな、罠だ!

先生の遺体を守りながら、一度引くんだ!


三浦

逃がすか、藤堂平助とうどう へいすけ!お前の首は、この僕がもらう!


平助

三浦!

どけ!俺はお前たちと戦いに来たわけじゃない!


三浦

黙れ裏切り者!新選組の掟に従い、ここで命を捨てろ!


土方

包囲を狭めろ!逃がすな!


頼んだぞ、瀬尾。


平助

あっちの路地だけ、新選組の囲いが薄い?

いや、仲間を置いて俺だけ逃げるわけには。


平助ーーー!こっちや!早く来い!


平助

漣!?お前、なんでここに!


つべこべ言わんと、僕の言う通りにするんや!

お前を戦場から連れ出す。これが、僕の今夜の任務や!


平助

離せ、漣!みんなが戦っているんだ!

俺だけ生きて帰れるわけがないだろう!


アホ言うな!二人で生き残るって、鴨川で約束したやろ!

お前を死なせるくらいなら、僕は新選組を裏切ったって構わへん!


三浦

見つけたぞ。瀬尾先輩、やっぱり、藤堂(とうどう)を逃がす気ですか!?


三浦!?


三浦

どいてください。瀬尾先輩。


くっ…


三浦

そこをどけと言っているんだ!

新選組の邪魔をするというのなら、先輩であっても容赦なく叩き斬る!

裏切り者をかばう奴は、同じように裏切り者だ!


どくわけがあるか!

三浦くん、お前の相手は僕や!

平助には一本の指も触れさせへん!


平助

漣!

お前、何をしているんだ!

新選組の隊士が、新選組の仲間に向けて刀を抜くなんて、正気か!

刀を引け、漣!

これ以上やったら、本当にお前まで反逆者になってしまうぞ!


うるさいわ、アホ!

新選組の掟なんて知るか!

局長がどうだの、副長がどうだの、今の僕には関係ない!

お前がおらへん世界なんて、僕には価値がないんや!

お前をここで生きて逃がすためなら、僕はいくらでも泥を被ってやるわ!


三浦

狂ったんですか、瀬尾先輩!

新選組の誇りを忘れたのですか!

それなら、あんたら二人まとめて、粛清する!


お前の言う「誇り」は、昨日までの仲間を切りつけることなんか?

そんな冷たい正義なら、僕には必要あらへん!

お前は侍のプライドに縛られすぎなんや!


三浦

うるさい、うるさい!

裏切り者の屁理屈は聞き飽きた!


平助

やめろ、三浦!

お前が戦うべき相手は俺だ!

漣と争うな!

俺はここにいるぞ!


三浦

死ね!裏切り者!


平助

漣!!危なっ…


がはっ!


平助ーーーっ!

お前、何をしてくれたんや、三浦!

許さん、絶対に許さへんぞ!


三浦

黙れ、裏切り者!



【状況:静まり返った油小路の路上】



平助

はは、本当にバカだな、漣。

巻き込まれるなって、あれほど何度も言ったのに。

お前はいつも俺の言うことを聞かないな。


何がバカや…

誰のせいでこんなに血を流していると思ってるんや。

お前がいつも無茶ばっかりするからやろ。


平助

バカだよ…


新撰組に刀向けたら、お前まで悪者になってしまうだろう。

俺は自分の信じる道を進んだから後悔はないけれど、お前を巻き込んだことだけが、胸が痛いよ。


アホなことを言うな。

僕が自分で決めたことや。

新選組の平隊士として死ぬんじゃない。

僕は、藤堂平助の親友として、ここで死ぬんや。

だから、そんな顔をするな。


平助

なぁ、覚えているか?

三年前の春、あの狭くて汚い居酒屋で、俺たちが出会った夜のことを。

あの時、お前は本当に冷めた目をしていて、声をかけるなというオーラを出していたな。


覚えとるよ。

お前が急に隣にドカリと座ってきて、勝手に酒を注いできたんや。

あの時は、なんて図々しい幹部様やろうと思ったわ。


平助

へへ、そうだったな。

でも、俺はお前と同い年だと知ったとき、本当に嬉しかったんだ。

新選組の中は上ばかりで、毎日張り詰めていたから。

お前と鴨川の河原で将来の夢を語り合っているときだけが、俺の本当の休息だったんだ。


僕も同じやで。

生きるためだけに刀を握って、毎日に意味なんてなかった。

でも、お前が僕の小太刀(こだち)をカッコいいと言ってくれたから、僕は自分の居場所を見つけられたんや。

お前がいたから、寂しくなかった。


平助

鴨川での約束、何があっても二人で生き残ろうって言ったのに、守れなくてごめんな。

新しい時代、誰もが笑って暮らせる国を、一緒に見たかったな。


謝るな。約束は破れてへん。

僕たちの約束は、これからや。

お前が新しい時代に行けないなら、僕もそんな場所には行かへん。

地獄に行くのも、一緒やで、平助。

だから、その手を離さんといてくれ。


平助

あぁ、お前の手、すごくあったかいな。

京都の冬はこんなに冷たいのに、お前の手の温かさだけは、ちゃんとわかるよ。

漣、俺はもう、眠くなってきちゃったな。


平助?

おい、平助!


土方

藤堂、瀬尾。

見事な散り際だ。

お前たちの戦い、最初から最後まで、この俺の目でしかと見届けさせてもらった。


副、長。

すんません…

平助を連れ出すことができなかった。

ここで僕の首をはねてください。


土方

いや、その必要はない。

お前の命の灯火は、もうすぐ消えかけている。

俺が手を下すまでもない。

瀬尾、お前は最後の最後まで、藤堂のために刀を振るったな。


はい。

後悔は、ありません。

新選組の隊士としては失格でも、平助の親友としては、満点の生き方ができたと思っています。


土方

あぁ、分かっている。


そろ、そろ、逝きますわ。


待たせてごめんな、平助。


土方

新選組の掟は絶対だ。

組織を守るためには、誰であろうと例外は作れない。

冷酷だと言われようが、俺は鬼にならねばならなかった。

だがな、瀬尾。

お前たちのその泥臭い絆だけは、俺の作った鉄の掟でも、決して引き裂くことはできなかった。

お前たちの勝ちだ。


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