虐げられ令嬢ですがあなた方のことは別に……
私、アンジェリカ・フローンの人生ってなんなの? と言われれば、こう答えるしかないだろう。
――何もない。
何の意味も、意義もない人生である、と。
私は侯爵家の長女に生まれたが、生後二日目に母は死んだ。産褥熱だとも、毒殺だとも言われる。父は母が死んだそのとき、愛人の温かいベッドの中にいたという。
父は愛人と再婚して我が世の春を謳歌した。
やがて生まれた二人の最愛の娘、『本物の』フローンの娘であるスピカは美しい娘だった。
私は使用人用の屋根裏部屋に住み、育った。使用人たちはよくしてくれる者もいたが、大概は父と継母の方の味方だった。
五歳の頃のことだ。
「アンジェリカ、何してるの?」
とクロが言ったとき、私は裏庭で雑巾を洗っていたと思う。その状況に何かを思うこともなければ、辛いとか悲しいとか感じることもなかった。私にとってフローンの屋敷があり、そこに私がいるということが必要で、自然なことであり、それ以上は望まなかった。
「洗い物」
「ふうん。遊ぼうよ」
「夜が来る前にすませちゃわないと、お夕飯ぬきなの」
「台所からくすねてきてあげる」
「やだよ。なくなってるのバレたら怒られるの私じゃん」
クロはくすくす笑った。銀の髪と青い目。彼は不思議でかわいい少年だった。
私が成長して娘と呼ばれる年になっても彼は少年のままだった。
ときどき、とんと地面を蹴ってひといきに木の枝の上まで昇り、楽し気にしていた。風が吹いて銀の髪が舞いそれはきれいだった。
あなたは誰なの? なんなの? あなたの本当の名前は?
思っても、口にしたことはない。
十二歳になったとき、ラキが現れた。フローン家の最初の当主の妻だったと名乗った。
「ほんとは見てるだけにしようと思ったんだけど」
とため息つきながら私の前髪をかき上げる。
異母妹スピカが燃える炭を目の前に押し付けてきたせいで髪は焦げ、瞼から頬にかけてやけど跡が残った。目が無事だったのが唯一の救いだった。
「あたしの好きな人の子孫がこういう目にあってるの、見てらんない」
「父上もスピカもフローンの血統だよ」
「そういう問題じゃない。跡取り娘は、あんた」
クロはくすくす笑っていた。悲しそうに。
ラキとクロはそれからもちょくちょく、私が一人でいるときに現れて、いろいろ助けてくれたり食べ物をくれたりした。
飢え死にしなかったのはそのおかげだと思う。
十八歳になったとき、縁談がきた。とんでもなくひどいお話で、お相手は有名なセリーヌ公爵である。何で有名かというと、いわゆる真実の愛を貫く人だからである。
元平民の女性と運命の出会いをして、長年の愛人関係にあり、領地も家もほっぽって彼女のために買った家に全部注いでいるという。子供も何人かいるそうだ。
セリーヌ公爵領についた私を彼は大笑いして、ぼろ小屋に閉じ込めた。先々代の庭師の家だったということだった。
古い暖炉にどうにか火をともしたとき、ふと影が差した。
そうしてアポロに出会った。腰まであるまっすぐな黒髪を垂らした女の子で、フローンにもクロにもラキにも思い入れはないという。
「ただ、あなたの行く先を見守る義務があるの。フローンの血統はここで終わるのか、どうか」
「終わるとどうなるの?」
アポロはにいっと笑った。
「この世が滅びるの」
それからちょくちょく、三人がやってきては帰っていく日々が始まった。
やってみると意外と楽しかった。ぼろ小屋のかたわらには全焼したお屋敷がある。セリーヌ公爵様が不注意で燃やしてしまったのだという。彼はいつも王都にいて、領地にはほとんど来ない。領民たちもここを恐れて近寄らず、使用人もいない。
私だけだ。私と三人だけ。
どれほどの幸福か余人には計り知れまい。
小さな畑をつくって、小屋のかたすみに眠っていた種を撒く。水は壊れた井戸があり、沸かせば飲める。
雨風はしのげた。半年もしないうちに、雨漏りくらいなら自力で直せるようになった。
困ったのは着るものがないことである。私の持ってきたスピカのお下がりのしみの浮いたドレスは、そもそもサイズが合わない。
着てきた使用人用の黒い服はあっという間に擦り切れてしまった。私が困っていると、三人は顔を見合わせて笑った。
そうして糸紡ぎと機織りと裁縫を習うことになった。
三人は間違いなく、その名手だった。
セリーヌ公爵領は標高が高く、羊で有名な土地である。羊飼いのところへ出向き、少ない現金を渡して羊毛を譲ってもらった。
クロが糸紡ぎを、ラキがそれを計り正確に長さを揃える方法を、そしてアポロがまっすぐに断ち切る方法を教えてくれた。
出来た糸を、焼けた屋敷から探し出してきた織り機で布にした。ぎっこん、ばったん。
それはなめらかな布ができた。
型を取って服にしたり、布地を売りにいったりしていくうちに、私は領民たちから機織り女と呼ばれるようになった。
貧しい土地であるからには、私が貴族であるかなど関係なく、ただ働けるか否かが重要である。
私以外にももっと機織りが上手な女はいただろうが、ともかく、平民たちが私を受け入れてくれたことが嬉しかった。
村祭りに交ぜてもらった。家畜の屠殺を見学させてもらった。収穫の手伝いをさせてもらった。
それらは私に集団の中で一体になって働く喜びと、労働の報酬という得難い体験をくれた。
三人は私が人々といるときは出てこなくて、ぼろ小屋に戻ると出てきた。もらったパンやハムやチーズを見せびらかすと、手を叩いて喜んでくれる。
「よかったじゃん。我々も嬉しいよ」
なんていうクロの、肩のところでそろえられたまっすぐな銀髪が揺れる。
私、ずっと勘違いしていたんだけれどクロは少年ではなく少女だった。しかも三人のうちでは一番年上だというのだから、わからないものだ。
「ふう」
とぼろ小屋に取り付けたひさしの下、夕涼みをしながら私は呟く。
「ずうっとここにいられたらいいなあ」
フローンもセリーヌも知らない。私は私、アンジェリカ。このままここで朽ちて死んでいきたい。そう思った。
「そうなったらいいね」
三人は優しく笑う。そうならないことを知っているような笑顔だった。
そして消えた。
それから何か月も姿を現さなかった。
私はてっきり、彼らはあまりに寂しすぎる私が自分を慰めるため作り出したまぼろしか何かだと思っていたので、あまり驚かない。ただ、寂しかった。
長年の友達がいなくなってしまったのだから……。
それから、一年が過ぎ、二年が過ぎた。
我が国と隣国の間で戦争が勃発した。平民にとって戦争は嵐や地割れや、その他多くの自然災害と変わりない。自分たちのあずかり知らぬところで起こり、家族の命が刈り取られていく。私にとってもそれは同じことである。
セリーヌ公爵、つまり私の夫である人が戻ってきた。
「軍団を編成し国王陛下をお助けする!」
という。
そして無謀にも、無邪気にも、無慈悲にも、領民たちのうち若い男たちを無理やり徴収して騎士団に入れていく。
あんまりだ。
働き手を取られて人々はどうすればいい? 畑は? 家畜は? 女子供は、老人は?
「おやめください……」
と前に立ちふさがった私に彼は首を傾げた。
思えば強引な結婚の日以来、一度も会ったことはない。あの日の私に比べて今の私は肉もついた。同一人物と思えなくても無理はない。
「なんだ、お前」
「あなたの妻のアンジェリカです。ここの領民たちにそんな余裕はありません、どうかお考え直しください」
「ああ、お前かよ。――消えろ! 邪魔するな!」
籠手をつけた手で殴られたところまでは覚えている。
目を覚ましたときには男たちは軒並み連れ去られたあとだった。介抱してくれた女たちによると、私は夫に殴られ、頬骨を骨折しているということだった。
でもそんなことはどうでもいい。
私にとっては、男たちが砲弾の弾除けに一列に並べられ、後ろからやってくる味方のはずの騎士たちの突進に踏み潰され、軍馬に磨り潰されて死んでいく、その光景の方が恐ろしかった。
有り金全部はたいて乗合馬車に乗り、故郷フローン領へ向かった。
私の言うことは聞いてもらえなくとも、父上ならあるいは、と思ったのだった。
彼が私などのために動かないのはわかっていた。だがわずかな希望に縋るしかなかった。
当然、父には殴られた。異母妹スピカの婚姻が目前なのだという。
「この子の幸せを壊すつもりか!? そうはいかんぞ! このクサレ外道があああ!!」
というわけで、ぼっこぼこである。
フローン領も出立の準備をしていた。その前夜、せめてかわいいかわいいスピカの花嫁姿を見たくて、婚姻を急がせたのだ、という。
「やーんおとうさまあ、そんなにしちゃカワイソよっ。んふふふ」
とスピカは笑い転げ、その横で彼女の夫になるのだという美青年が困った様子で笑っていた。
大理石の床に伏せながら、父の拳をあびる。
「せめて、増援を……」
蹴られた。
はうう。
私は絶望する。
それはあまりに透明な薄い氷の層のようなものだ。私の傍に、いつもあるもの。
だり、口からこぼれた血がダラダラ床に届いて、つうーっと意志を持つかのように這っていった。
客人を迎える玄関ホールには、先祖の系譜を編み込んだタペストリーがある。フローン家の長い長い歴史を示す古い古い織物。何百年も前のもの。
(そういえば、ラキはフローン家最初の当主夫人だったって)
本当なのだろうか?
彼女たちは実在しているのだろうか?
それでも、私が布をつくって服を縫えるようになったことは事実である。
(それならあの、一番上の女性の名前はラキなの?)
と、思ったときだった。
だららららっと走っていった血の筋が、ぴた、とタペストリーの裾についた。
瞬間。
光の爆発が起きる。
気づくと空中に浮かんでいた。目の前には綺麗な、それはそれは綺麗な空があった。
私の背中で力強く羽が羽ばたいた。私の身体は屋敷の石づくりの壁と天井を吹き飛ばし、玄関ホールをこなごなにし、父を押し潰した。
私は上空へ飛翔する。後ろ脚でフローン家の見張り塔を蹴り壊し、その反動で加速する。
額に軽い重さが加わった。ラキだった。
「こんなになる前になんとかしてあげたかったんだけど。どうにもならなかったよ。生きてる人間にあたしたちができることは少ない」
「ううん。だって、もしあなたたちに助けてって言ったらさ……言ったらさあ……私以外の全部を壊してしまったことでしょう。そういうのはいやだったの」
もう、いやだったの。
言いながら私は鱗の首をめぐらせた。クロとアポロは頭のすぐ横を飛んでいた。楽しそうに。
何もかもをすんなりと納得していた。私はけっこう前からこの世界に存在する生命体であること。ドラゴンと、三人の女神たち。四人で完結している。そこに他者が介入する余裕はない。
ずいぶん昔、ドラゴンでありすぎて世界を壊してしまった。
三女神はそれを憐れんで糸を紡ぎ機を織り、世界を再構築してくれた。
それ以来、私は彼女たちに頭が上がらないのだ。
「じゃあ行こうか。とりあえず戦争を止めないと」
と言い、私は空を飛んだ。
隣国は魔族の国である。
魔王が復活したのだった。
魔族と人間は相いれない。
私は――人間の味方じゃないけれど。人間はかつてラキを愛してくれた。
セリーヌ公爵の領地の人々が私を受け入れてくれたように、明らかに異質なラキをお館様の愛妻として手厚く遇してくれたのだ。
ラキは最初のフローンの死体とともに石の墓に生きたまま埋葬され、身体が腐り果てるまでそこにいて、そしてまた姉と妹の元へ戻り三人になった。
恩はあった。確かに。
私が戦おうと思うくらいには。
だから、戦う。
そうして私は国境に飛び、黒い翼と赤い目をもつ魔族たちを焼き払い薙ぎ払い蹂躙した。
***
というわけでセリーヌ公爵領に帰ってきた。
人々はまだいた。ドラゴンの姿から私は私に戻り、そんなところを遠巻きにしている彼らに手を振って、屋敷へ。
小屋の寝藁に倒れ込んでこんこんと眠った。
起きると頭のところに素朴なケーキが置いてあった。粘土と煉瓦で小さなかまどがつくられ、小さな火が燃えていた。その上には湯気を立てるポット。かわいい花模様の。ふちの欠けたティーセット。揃っていない銀食器が保管箱ごと。潰したての牛の心臓と肝臓をじっくり焼いたの。あひるの羽入りの新しい枕。
人々が持っているうち、もっともいいものをくれたのだ、とわかった。
私は歓声を上げてそれらに飛びつき、堪能した。
魔族の斥候部隊がこの土地にまで浸透していたらしく、燃やされた納屋や攫われた女性、壊された柵や家があった。私はそれらの復興を手伝っていたのだが、ひと月もしないうちに邪魔がはいった。
国王がやってきたのだった。一応の夫であるセリーヌ公爵も一緒だった。
「竜よ……いや、アンジェリカよ」
王は両手を広げた。必死に威厳を保とうとしているものの、震える声が台無しにしている。
「我が国を救った功績、誠に見事であった」
「なんで私だったって知ってるんです?」
「そ、そなたはフローン侯爵家の上空に現れ、我が軍の味方をしたではないか。まさしく伝説のドラゴン、ノルンそのものだ」
「ノルン?」
首を傾げていると、見かねたらしいラキがそっと耳元に囁いてくれた。
「前の名前よ。忘れたの?」
「そうだったっけ……?」
王はぶるぶると人差し指で私を示した。
「褒美を与えよう。城に召してやろう。我が国の守護竜となり、この世が続く限り得られうる最大の名誉をくれてやろう! なんでも望むものを申せ」
太った王の後ろでセリーヌ公爵が口をぱくぱくさせていた。早くうんと言え、言え。
私は首を横に振る。
「欲しいもの、ないよ」
王の笑顔がひきつって固まった。
「……は?」
「いらない」
王に従ってきた貴族や侍従たちから、ざわめきが起きる。セリーヌ公爵が憤怒の表情をする。
「領地でも、爵位でも、財でもよい。あるいは――」
「いらないって言ったでしょ」
言葉を遮ると、空気がぴたりと凍る。
「私、もう全部あるから」
王は理解できない顔をした。
当然だと思う。
「空があるもの。翼も。欲しいものは全部あるの。これ以上いらない」
クロがくすくす笑った。
ラキが肩をすくめる。
アポロは無言で頷いた。
彼女たちのさざなみのような声を誰か聞き取れないのだろうか? こんなに明瞭なのに?
私は困ってしまう。
彼らはいったん帰っていって、また来た。
次来たとき国王はいなくて、セリーヌ公爵はスピカを連れていた。
異母妹は、かわいそうに、猿ぐつわを噛まされ、後手に縛られ、私の前に膝をつかされた。ガタガタ彼女は震えながら、それでも媚びた笑顔を作って私を上目遣いに見る。
「旦那様、これは?」
私が彼をそう呼んだのは便宜上それ以外の呼び方を知らなかったからであるが、公爵はなぜかほっとした顔をして胸を張る。
「復讐したかったのだろう? なんなりと恨みを晴らすがよいぞ」
スピカの猿ぐつわを取って、彼女の尻を蹴った。
顔面から泥に倒れ込んだスピカは、愛らしい小づくりな顔をへらへら歪ませて笑う。怯え切った匂いが全身から立ち込める。
「お姉さまァ……あのお、あたしい……」
「さあ、これで王国に尽くすと誓うな?」
「え? いえ、別に」
私はぽかんとするし、公爵も同じくらい驚愕するのだった。
「別にほしくないし……いらないし……」
昔はまあ、国のため、フローン家のため、働いたこともあったけれどそれは別の私だし。ラキも満足してるし。
今の私はただの通りすがりの災害である。
わからないものだろうか?
わからないなら、仕方ないのかもなあ。
立ち尽くすうちに公爵は怒り始め、帰ってしまった。スピカを残して。
なにかごにょごにょ言ってる異母妹を残し、私は小屋に戻る。
翌日、村々を周りながら言った。
「ここにいる意味もなくなったから、もうちょっと肥沃なところに移るわね」
私が空を飛び、人々がその下をぞろぞろと付き従った行進のことは、のちの世で仰々しい名前がつくそうな――と、クロが言っていた。
たどり着いたのは荒野だったが、息吹で土を掘り返し、氷河まで行って身体を洗い戻って身震いすると河と森ができた。もとから種が落ちていたのだろう、瞬く間に木々は伸びてどんぐりが成り、連れて来た家畜たちは飢えずに太った。
土は豊穣の色をして極上の畑となり、河には雪解け水が流れ込みごうごうと絶えることはない。
私の噂を聞いた新しい人々が合流し、この土地に根付いた。
彼らは木を切り倒し、岩棚を削り、私のための住処を整えてくれた。
中に入ってちょっとうとうとすると、十年が経っていた。人間の姿になって収穫祭や結婚式に交じるのが楽しく、また彼らも私が参加していることに気づいても何も言わない。
クリームがたっぷりついたにんじんのケーキと木の実のお酒、色とりどりの上着、娘たちの踊り、子供たちの笑い声、それから牛と豚が私に捧げられた。
私は満足すると岩と木でできた寝床に戻り、眠る。クロとラキとアポロも同様にする。時折、彼女たちは彼女たちだけで連れ立って遊びに出かけるらしい。
今となっては遠い故郷で戦乱が起こったらしかった。魔族を撃退したことで国庫を使い果たし、重税が課され、魔族の血は毒になるので疫病が流行り、もうしっちゃかめっちゃからしい。
セリーヌ公爵は民を食べさせることができなかった。何度目かの飢饉の冬、民衆に追い回されて杭を打たれ、豚のように血抜きされて死んだそうだ。
その最愛の妻であった平民出の美女とその子供たちも、魔女と謗られ火炙りにされた。
異母妹スピカは行く当てもなかったので路傍に立つ娼婦になり、重たい足の間の病気になり死んだそうだ。
なぜ父は彼女を助けなかったのだろう? と私は眠たい中考えたものの、そういえば彼は
私がドラゴンになったときに潰れて死んでいたのだった。
ついでにスピカの母親も巻き添えを食らって死んでいたようである。
――そのような事情を、私はアポロに夢として見せてもらった。
「ふうん、大変ねえ」
「うふふ、ノルン、嬉しい?」
「いや別に」
「アハハ。それでいいのよ。あんたはこの世界に必要とされるまで寝てればいいの」
「うん……」
というわけで、私は永遠の幸福のまどろみの中にいる。
たまに寝返りをうつとき岩棚を壊してしまって、麓にある村に土砂崩れがいくのが目下の悩みである。まったく申し訳ないことだ。
あ、機織りができなくなったことは、ちょっぴり寂しい。
それ以外は、とくになにも。
私を慕ってくれる人たちがいて、ラキとクロとアポロが退屈しのぎの夢を見せてくれ、話し相手になってくれて。
とても幸福である。
ただそれだけの時間が続いている。
この世界が終わるまで、束の間の夢。




