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【全年齢版】幼馴染はヤドクガエルの王子様~「1000回契れ」って…これなんの呪いですか!?~  作者: 黒燿
第1章:その美しさは、まるでアルカロイド系の猛毒。

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第5話:すべてを失った日。

「お、お父さま!? これは一体…」


冷たく光る、自分に向けられた無数の槍。

その中心で指揮をとっているのは、…… ――実の父親。


わたしの背筋が絶望に凍りつく。

全身の血がサァッと下りてゆき、血の気のない頭がクラクラとして、思わずよろめいてしまった。


そんなわたしの姿を見ても、お父さまは眉一つ動かさず、冷たく言い放った。


「カエルよ。 約束を守ることで我々はお前との義理は果たした。」

「そのため、これよりお前を人語を話す魔物のカエルとして、討伐対象とさせてもらう」


なんということでしょう……。

普段は温厚な――というよりいつものほほんとしておとぼけな――お父さまが、こんな恐ろしく野蛮なことを言い出すだなんて。

まるで、お父さまこそ魔物に心を乗っ取られてしまったのかと疑うほどに、人が変わってしまったかのようだった。


それに――


このカエルは、もしかしたら「ルカ」かもしれないのに!


「お父さまっ! お待ち下さい!」

わたしは、このままではルカ(仮)が殺されてしまうのではと思い、咄嗟に槍をも顧みず、一歩前に踏み出る。


「このカエルは…… このカエルは……」

実の父親からの見下ろすような冷徹な眼差しに、涙が溢れ、声は震える。

しかしわたしはキッと睨み返し、必死に訴えを続ける。


「……そのカエルが、なんだというのだ?」


「このカエルは…… 魔女の呪いをかけられてしまった「ルカ」なのです!!」


ザワっとなりどよめく兵士たち。


そこでざわめく声を一蹴するように、甲高くよく通る声で、義妹のエミリアが声高々に笑い声を上げた。


「ぷーーーーー!! くすくすくす……!!」


エミリアはお気に入りの羽根のついたピンクの扇子をサッと振り、兵士たちを払いのけ道を作る。

そしてツカツカとわたしの前に歩み寄った。


「お姉様ったら! カエルを肩にお乗せになって…… 隋分と仲睦まじいこと!!」

「まるで夫婦のように……」


そこで大袈裟に両手を大きく動かし口の前に当て、目を細めながらこちらを見てこう言った。


「もしかして……」

「昨晩はその薄汚いカエルと『同衾』をして、お契りなられまして『本当の夫婦』になってしまったのかしらぁ!?」


エミリアはキャー!と黄色い声を上げながら、顔を覆った。


昨晩……。

その言葉を聞き、わたしの脳裏には昨晩の、『本物のルカ』との、熱い抱擁やキスがもわんと浮かんでしまった……。


あの、脳天からつま先まで電流が走ったかのような、唇から伝わる情熱的な愛。

かつて味わったことのない、全身が粟立ち、痺れるような、体の芯が熱くなったあの不思議な感覚。


あの夢のようなひとときが、鮮やかにブワッと脳裏に蘇り、わたしの顔が一気にカーーーッと熱くなる。

わたしの顔が火のように赤くなった。


「……………」


気がつくと、そんなわたしの様子を見たお父さま、兵士たち、そして話題を振ったエミリアさえも、なにかを妄想したようで。

ドン引いて固まっていた。


「こ…… こ…… こ……」

お父さまの声は裏返り、目は泳ぎ、肩を震わせていた。


「こここここのカエルを…… このカエルをぉお…… 殺せぇえーーーーーっ!!!!!」


兵士たちが声を上げ一斉にカエルに向かって走り出した。

しかし必死に取り押さえようとしても、カエルの体を覆う湿った粘液でヌルリツルリと滑ってしまい、なかなか捕まらない。


上手くかわしてはいるが、この人数…… 時間の問題だろう。

この状況を治めるには、どうしたら――。


「待って! 殺さないで! わたしがカエルとこの城を出ていきますから……!!」


もうこれしかないと思った。

わたしは再びカエルを肩に乗せると、兵士に詰め寄ってこう言い放った。


「近寄らないで! 彼は『アイゾメヤドクガエル『アズレウス』』なのよ!」

「旧称『コバルトヤドクガエル』…… 強力なアルカロイド系の神経毒を持ち、1匹で大人10人以上の殺傷能力があるわ!」


兵士たちが一斉にどよめき始めた。明らかに動揺して、怯んでいるのが見て取れた。


「貴方一人お塩の結晶一粒で殺してしまえるのよ!」

「詳しくは図鑑を調べてみなさいな! 嘘は言ってないわ!」


すると、蜘蛛の子を散らすようにすうっと周囲から人が引いていった。

わたしは城の出口に向かって、涙を堪えながら颯爽と歩いた。


「カ、カリン……」

ルカ(仮)が心配そうな小声で、わたしの名を呼んだ。

「大丈夫。 いきましょう……」


強がってはみたものの、わたしの声は震えていた。

悲しかったのもあるが、お父さまへの怒りのほうが強かったかもしれない。


お父さまは、わたしを信じてはくれなかった――。


城の出口の扉を開き、わたしは振り向いてこう言った。

「さようなら、お父さま」


お父さまも、エミリアも、兵士たちも、誰ひとり言葉を発さず微動だに動かず、その場に固まってしまったかのようだった。


ギィィィィィイ…… バタン……


重く厚い石の扉が閉じられた。



わたしは絶望を抱きながらも、どこか清々しさも感じていた。

なぜなら、この青いカエルが城に棲み着いてから、わたしは城の外に出ることを禁じられていたからだ。


10年ぶりの城の外――。

しばらく歩き続けると、城が少し小さくなり、『禁忌の森』の入口に差し掛かった。


先程の緊張感をほぐすように、わたしは大きく深呼吸をした。

懐かしい、思い出の薔薇の香りが、鼻の奥から脳のすべてを侵食した。

思い出の中の、薔薇に囲まれたルカの微笑みが浮かんだ。


胸がキュッとなった。

わたしはもう、このカエル以外、すべてを失ってしまったのだ――。


ちらりと、ルカを名乗るカエルに目をやる。

「あの時あなたは…… ルカはわたしを助けるために、カエルの姿になることを魔女に祈ったというのね?」

「その時のことを、詳しく話してくださる?」

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